革命の、その先の冒険。『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』 開発者インタビュー
「ゼルダのアタリマエを見直す」がテーマだった『ブレス オブ ザ ワイルド』の続編である『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下『ティアーズ』)。続編としてどのように次の高みに挑戦していったのか……。圧倒的な「驚き」と「遊び」に挑戦し続ける本作の魅力を開発陣に訊いてきました。すでにゲームをクリアしている人も、これからの人も、じっくりとお楽しみください。
※本インタビューはニンテンドードリーム2023年11月号に掲載されたものです。
「横へ広がっていく遊び」から「縦の遊び」への意識
登壇者プロフィール
本インタビューは、物語後半の内容に触れる部分があります。
ネタバレが気になる方は、クリアしてから読んでください。
※インタビュー中、『ゼルダの伝説』シリーズの正式名称は、以下のように略称表記しています。
『ゼルダの伝説 時のオカリナ』→『時のオカリナ』/『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』→『ムジュラの仮面』/『ゼルダの伝説 ふしぎの木の実』2作品→『ふしぎの木の実 大地の章/時空の章』/『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』→『トワイライトプリンセス』/『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』→『スカイウォードソード』
「縦の遊び」をおもしろくする空と地底
―― 本作『ティアーズ』では前作からフィールドが3倍くらい広がった印象を受けました。
藤林 前作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(以下『ブレス』)では、横に広がっていく遊びでしたが、本作の遊びのテーマとして「縦の遊び」を意識しています。そのために、空、洞窟、そして地底といったフィールドが新しく増えたのが大きいですね。
青沼 空、といいながらリンクは飛んでいないんですよ。「落ちる」遊びなんですね。
―― たしかに。最初の空島から落ちていきますね。
藤林 空島や地上から「落ちる」遊びを体験していただきたいので、ゲームの冒頭でもそれが伝わるように設計しています。
―― 「縦の遊び」を楽しんでもらうための工夫についてお聞かせください。
藤林 空と地上、地上と地底が背中合わせになるように工夫しています。空と地上との関係でいうと、たとえば前作『ブレス』のころからゾナウ関連の遺跡がたくさん集まっている場所の上には、必ず空島があるようにしています。あと、これはなかなか気付いていただけないのですが、雨が降ると空島から水が落ちて滝ができるので、その上に空島があるとわかりますし、 滝を昇るアイテムを持っていればそこに昇って行けます。
一方、地上と地底については、地上にある特徴的なランドマークの下には、必ず何かがあるようにしています。ゼルダ姫が作った慰霊碑が各地にありますが、その下にも必ず何かがあったりします。「破魔の祠」と「破魔の根」の関係もそのひとつですね。『ゼルダ』らしい謎解き要素として、「ひょっとしてこれが空や地底と連動しているんじゃないか?」とひらめく形にもなっているので、意識して探していただけると、おもしろいと思います。
―― 地底の探索については、どんな工夫をしたのでしょうか。
藤林 「ゲームのサイクル」を考えて、空と地上と地底をそれぞれ能動的に回っていただけるように意識して作っています。まず、地底には回復要素がありませんよね。だから洞窟や空にあるアイテムを集めて準備してから潜ると思います。準備が万端であればあるほど長く潜っていられます。そこまでしてなぜ地底に潜るのかというと、そこにしかないちょっとイイものが見つけられるからです。
―― では、空の探索はいかがでしょうか。
藤林 地底はちょっと怖くて手ごわいところなので、空は滑空などのアクションが気持ちのいいところ、爽快感があるところにしています。景色もキレイだろうし、それに空島から空島に渡るための乗り物もたくさん生まれるだろうと想定しました。それらが快適に気持ちよく遊べるアクションフィールドを狙っています。
―― 確かに空は「どうやって上に行こうかな」と頭を使うので、地底とは異なる乗り物の発見がありますね。
藤林 空のフィールドは立体的にできているので、下から覗いてみたり側面を見たりすることができます。だから、地上や地底とはまた違った謎解きのしくみができるんですね。
リンクの右腕に備わった新たな能力
―― リンクの新たな能力の中でも、とくに「ウルトラハンド」が遊びの自由さを広げていると感じました。どのようにアイデアを組み立てていったのでしょうか。
藤林 まず、『ゼルダ』の遊びとしてなにが楽しいか、ということを考える中で、『ブレス』と同じ世界で、まだまだいろいろなことができる可能性を感じていました。これはまずはやって見せたほうが早いと思い、『ブレス』ですでにあったしくみだけを使った乗り物を作って、「今あるしくみだけで、こんなにおもしろいものが作れますよ」とプレゼンテーションをしたんです。「それをやると破綻するんじゃないか」とか、「ハードルが高いのではないか」などの声も上がりましたが、そこは前作での経験を生かして、プログラマーがアドバイスをしてくれました。やりたいことがあるときにどこに注意して作っておくといいのか、というルール作りを早い段階から共有しながら、みんなで作っていけましたね。
青沼 今回いろいろなもの同士をくっつけて作れるようになっていますけど、そういうクリエイティブを要求されるといやだなと思う人もいるじゃないですか。そこにあるのは「面倒くささ」なんです。だからなるべく面倒くさくないものにしよう、というのが命題としてありました。最後まで快適にすることを磨いていき、時間をかけて操作の感覚を調整していきました。
―― 斜めになっちゃったものが、ピタッとまっすぐにくっつくのもその調整の一環でしょうか。
青沼 そうですね。自由にできても、自分が思った通りにいかないのでは本末転倒じゃないですか。何かを見たときにその形に収まってくれたほうが、やっぱり気持ちがいいですよね。なので、ある程度のガイドは用意しています。