『UNDERTALE』コンサートインタビュー! 仕掛け人が語る演出とそのウラ側
4年ぶりの開催となった、『UNDERTALE』公認コンサート。
好評を博した本公演を成功に導いたキーマンにお話をうかがいました。
※この記事はニンテンドードリーム2024年9月号に掲載した内容を再編集したものです
どんなコンサート?
世界中で愛され続けている『UNDERTALE』の音楽を、ビッグバンドを伴ったフルオーケストラによる大編成で演奏!
全編に大スクリーンでの映像投影を行い、視覚と聴覚の双方からゲームの世界に没入できるような大迫力の演出でお届けしています。
さらに、A〜Dの4つのプログラムが用意されており、公演回ごとに上演内容が大きく異なるという仕掛けが楽しめます。
※チケットは現在完売しています
仕掛け人が語る演出とそのウラ側
仕掛け人・山本和哉さんに本公演の構成や演出などについてお話をうかがいました。各プログラムの解説のほか、映像と音が完全にシンクロしている秘密が明らかに!
山本和哉さん 株式会社Metroberry代表。武蔵野音楽大学器楽科打楽器専攻卒。これまで手がけた企画演出に「シンフォニックゲーマーズ」「ゲームセンターCXシンフォニー」など。
一発目に、驚きある「序曲」を
―― 全国公演の手応えはいかがでしたか?
山本 自分自身も『UNDERTALE』はリリースされて間もないころから何周も遊んでいて、ファンの熱量が高いゲームなのを知っていたので、時間をかけて準備をしたんです。生半可なものはつくれないな、「会場の中で自分が一番詳しいぞ!」という意気込みで臨まないとなと。しかも僕、本番中は裏にいるので、出来上がったものを生で聞くことができないんですよ。でも休憩中とかにお客さんの反応をみて、よかったなと感じられました。
―― 本番の鑑賞ができないんですか!
山本 あとでお話しすると思いますが、本番中にやることがあるんですよ。でも、モニター越しに少しお客さんの顔が見えて。
とくに一発目の曲で衝撃を与えたかったので、「序曲」をつくりました。予想どおりの反応がもらえたので、やってよかったなと思います。
―― 付録のCDに収録されているのが、まさに「序曲」ですね。しかもプログラムがA〜Dの4種類あって、すべて違うメドレーからスタートすることに驚きました。
山本 『UNDERTALE』のコンサートなので、まずオープニング曲から始めると思うじゃないですか。でも「Once Upon a Time/むかしむかし…」から始まるコンサートにしたくなかったんですよ。それが一番初めの構成のとっかかりでした。
―― それも、最初からクライマックス感があって。
山本 各プログラムを象徴するようなメドレーになっているんです。なので、ラストバトルの曲や映像も含めて予告ダイジェストのような作りになっています。「Overture(序曲)」という曲名であれば内容のネタバレにもならないですしね(笑)。だから、お客さんには非常に驚いてもらえたと思います。
キャラクターを掘り下げる
―― そもそも、4種類のプログラムを用意したのはどのような経緯から?
山本 収まらないからです(笑)。
―― (笑)
山本 曲の数がとにかく多いので、とても1〜2プログラムには収まらないですよね。もちろんふつうであれば、「今回はこういうところを突き詰めよう」と抜粋して、昼夜公演で少し変えるくらいなんですけれど。
―― 演出、映像までそれぞれ異なるというボリュームに驚きました。A〜Dプログラムは、プレイヤーのルートそれぞれを表現しているのでしょうか。
山本 ストーリーで編成しているわけではないんです。というのも、『UNDERTALE』コンサートのセットリストってルート分岐を意識して組むのが定番かと思うんですけど、今回は趣向を変えたいなと思って。それで今回のコンサートは、“キャラクターを紐解くメドレー”がコンセプトになっています。
―― 作中の登場キャラクターたち?
山本 はい。『UNDERTALE』ってキャラクターがすごく多くて、それぞれの心情をすごく丁寧に描いている作品だと思うんです。なので、たとえばAプログラムなら“メタトン”を深堀りする内容になっていたりします。
―― そうだったんですか。てっきり、周回ごとのプログラムになっているのだと。
山本 結果的にはそういうふうに見えると思います。映像もありますし、平和ルートと殺戮ルートが混ざってしまうとお客さんが混乱してしまうので、そこは混ぜないようにしました。
―― キャラクターを深掘りできるのは、やはり何周も遊んでいるからこそですね。
山本 僕、メタトンが好きなんですよ。ゲームをプレイした思い出を振り返ったときに尺が長かったのもメタトンだなぁと。後半ずっと出てくるじゃないですか。曲数も多いですし、歌の曲もありますよね。それでAプログラムは“メタトン”にフィーチャーしているんですが、よりライブ感のようなものを出したくて…。
オペラでは、ソリストが自由なリズムで感情を表現するようなレチタティーヴォという印象的な形式があるんですけど、そういうのを足してみたり。ラテンから始まって、クラシカル、バンドなど、いろんな音楽を楽しんでもらいたいというのがAプログラムです。
―― メタトンというキャラクター性が、ライブにうってつけだったわけですね。
山本 そうですね、あとトリエルとアズゴアが軸になっています。あの世界のさまざまなキャラクターにかかわるのが、彼らの過去ですから。反対に、Aプログラムにはパピルスとサンズが一切出てこないんですよ。彼らが登場しないのは不完全な印象が残るかなと思ったのですが、あえて排除しました。でも、そこに突っ込んでいる人はそんなにいないんでよかったかなと。
―― 言われてみれば…。映像的には、“初回プレイ”のような印象を受けましたが。
山本 そうなんです。映像は実際にプレイしてキャプチャーしているんですけど、なにも知らない体でプレイしているんですよ。あえて少しもたついたり、謎解きがうまくできないとか。トリエルとの戦いも、どうにかしようとするけど、やむを得ず攻撃して、倒しちゃうとか。同じ曲でも、Cプログラムでは見逃しているんです。Dプログラムではためらいなく倒しちゃう。
―― そういう差になっていたんですね。
こだわりが詰まった映像演出
―― 演奏と映像がバッチリ合っていましたが、映像に音楽が合わせる「クリック」ではなく、音楽に映像が合わせる「スイッチ」でやっているとお聞きしました。
山本 はい、これはもう意地みたいなものなんですけど…。オーケストラのコンサートに来てもらっている以上、クリックで合わせた演奏よりも、ちょっとテンポを上げようとか、ちょっと揺らいだりとか、ある程度の自由度をもたせて演奏してほしくて。わかりやすいところでいえばテミーの曲なんか、原曲でも揺れているわけですよ。なのでクリックでは逆に演奏できないという(笑)。
―― たしかに。
山本 だから演奏にあわせて映像を変えないといけないんですけど、シーンをよく知ってないと合わせられないんですよね。音と映像がずれるのが嫌だったんで、映像を細かく区切って用意しています。
たとえば最初の8小節でサンズ、次の8小節でパピルスを出したいとなったときに、次にこういうセリフがくるから、今の演奏のテンポならこのセリフのあとがちょうどいいだろう、とか。
―― セリフのつなぎレベルでタイミングを調整されているんですか!?
山本 もちろん、見た目は違和感ないように、映像を止めておいたりとか、映像をループさせたりとかしているところもあります。ただ、そういう細かい判断が必要になるんで、ほかの人にお任せすることができなくて。
―― そういったことを、客席側ではなく裏でみずからやっていると。
山本 そうなんです。自分でつくって自分でやれば、合うんですよね、これが。だから最初の公演でのAプログラムは、本当に緊張しました。生音を聴きながら合わせようとすると反響などでずれてしまうんで、音響卓から聞こえる音と指揮者の映像を見ながら合わせています。
―― それ自体がゲームみたいな…。
山本 僕、音大の打楽器科にいたんです。だから打楽器パートをやっているような気分ですよね。トライアングルと変わらない(笑)。奏者のひとりとして緊張してましたね。
―― ゲーム映像そのものもご自身で用意していますしね。
山本 そうですね。もちろん、はじめはデモ音源にあわせて1本の動画を作るんですけど、そこからが大変で。この映像を出すために、どれだけ切り刻もう…という作業になります。動画ファイルは全部で1500くらい用意しています。1曲で50とか、多いと100とか…。
―― なるほど。その膨大なきっかけの数だと、人に委ねられないですね…。
山本 指示も出せないですからね。「もしこのセリフまで流れたら次はこの映像に進む」のようなチャートはつくっているんですけど、そのときになってみないとわからないので。だから、お客さんもどうして合ってるのかわからないわけですよ。ちょっと詳しいと「クリックで合わせてると思うんだけど、ヘッドホンしてない…」とか不思議に思ったりするわけです。
―― (笑)
山本 最終的には、指揮者が合わせてくれるところもあって。スコアに「このセリフがここまでいったらこのテンポでいく」とか書いてくれたりしてました。
―― それは頼もしいですね。
山本 指揮は全公演同じ方にお願いしたくて、松村秀明さんには幸いスケジュールを空けてもらうことができました。しかもゲームを3周分やってくださっているんです。リハーサルのときに奏者の方に曲の説明をしてくれるので、すばらしかったですね。
―― ゲーム音楽のコンサートとして理想的ですね。
山本 曲目のバックグラウンドを解説してくださるところは、オペラのリハーサルを見ているようでした。『UNDERTALE』の曲って、同じフレーズが出てくることが多いじゃないですか。そういうなかで、「さっきと同じフレーズだけど、このシーンではこういうことだから!」のように指示してくださって。それで、原曲よりテンポを上げようとか、アレンジャーとも連携をとりながら詰めていきました。
―― バックグラウンドを理解してもらいつつ、仕上がりも調整していく、と。
山本 はい。オーケストラの仕事は基本、楽譜に忠実な演奏をすることなんですが、奏者の方からも「ここのキャラクターの部分は、こういうふうにしたほうが…」のように尋ねてくれることも多かったんです。指揮者、アレンジャー、奏者と、ディスカッションしながら進めました。
A〜Dプログラムと付録CD収録楽曲のウラ話
会場限定で、ピアノアレンジ1・2、序曲集のCDが販売されています。
ニンドリCD付録でもお試し版が収録されているので、詳しくお話をうかがいました。
演目のネタバレにご注意いただきつつ、買おうかどうしようか迷っている方はぜひ参考にしてくださいね。
また、序曲と合わせてA〜Dプログラムの特徴についても語っていただきました。
Piano Solo Collection
―― 付録は、「ピアノアレンジCD」の楽曲も収録されています。「ピアノアレンジ楽譜集」も販売されていましたね。
山本 そうなんですが、正直、弾ける人いないんじゃないかと思います。そのなかでも難易度が低いほうと高いほうの代表ということで、「むかしむかし…」と「アズゴア」がチョイスされています。
―― そんな難しい楽譜を販売していたんですか(笑)。
山本 プロも苦戦するほどです。難易度が低いほうとはいえ、「むかしむかし…」も十分難しいと思います。CDを聴きながら楽しんでもらえれば…。
A Program -It’s Showtime!
(序曲:The Sleeping King)
山本 序曲タイトルの「The Sleeping King」というのは、原作まわりには出てこない文言なのですが。アズゴア戦の前にイントロ的に流れる曲「Bergentrückung」というのが、ドイツ語で神話に出てくる英雄を形容するような言葉なんですよ。英語に直すと「眠れる英雄」みたいに言われることが多くて、そこから付けました。このネーミングについて言及しているお客さんもいなかったですが、英雄譚、吟遊詩人みたいなテーマはクラシックにも多くて、そういうのを明確に意識して編曲してもらいました。
アズゴアとトリエルのフレーズが出てきては沈む、つかみどころがない、そんなオーダーをしてアレンジしてもらい、うまくまとまったと思います。
―― 映像を見たら、プレイヤー視点というよりはこの世界の出来事を過去から追っているのかな、と感じました。
山本 そうですね。最後のほうで限定的に出てくるアズゴアたちのシーンなんですが、あえてそこから始めていて。トリエルとアズゴアの昔の話から、なんでこうなってしまったのか…みたいなところで止めているかんじです。キャラフォーカスなので(笑)。
たとえば「ナプスタブルーク変奏曲」だと、これから始まるのはナプスタブルークの楽曲ではあるのだけど、ナプスタだけではなくて、ほかにもマネキンとか、“こいつらみんな”の昔と今までを描く、というイメージですね。
B Program -Your Best Friend-
(序曲:Your Best Friend)
山本 Bプログラムはサンズとパピルスとアンダインをフィーチャーしていて、音合わせがやりやすいキャッチーな曲が多いです。
ただ、サンズのテーマ曲をなににするかすごく悩んだんですよね。当然「サンズ」という曲があるのですが、サンズって二面性があるじゃないですか。なので、ひょうきんな面を感じさせるほうは表のイメージとして、別のものを中核に持ってこようと思いました。そこで印象的だったのが、ホテルでサンズとディナーをするシーンで。そちらの曲を据えました。
―― おちゃらけたふうのサンズが、真剣に話してくるようなシーンですね。
山本 原曲がしっとりとビブラフォンとかでジャジーな感じなので、ビッグバンドサウンドで盛り上げていきたいと。
後半、トロンボーンのソロが長く続くのは、サンズが作中でもトロンボーンを吹くので、必要な流れですよね。オーケストラではふつう、こんなにトランボーンを吹かされることないんですけど、『UNDERTALE』ならではですね。そしてようやくアズリエルが出てくるかなという流れになっています。
―― 序曲は、「Hopes and Dreams / 夢と希望」から始まるんですね。
山本 そうなんです。クライマックス的な曲ですが、そこからもう始めちゃうものになっています。指揮者のすぐうしろのお客さんの顔は僕もモニタで見えるんですけど、ハッと驚いた顔をされていたのがとても印象的でしたね。
C Program -Once Upon a Time-
(序曲:Hopes and Dreams)
山本 ひとつのプログラムで平和なほうを全部網羅する、みたいなイメージですね。周回プレイでたどりついたクライマックス、みたいな。
なので最後は、アズリエルにフォーカスして…。一番ライトに『UNDERTALE』感を楽しめるのがCプログラムになります。
D Program -Dear True Hero-
(序曲:True Hero)
山本 覚悟を決めて聴きにきてほしいなというか、ひどいんですよ。曲名だけ見たらほかのプログラムとそんなに変わらないんですが、アプローチがまったく違うんです。トリエルの曲が5小節くらいで終わったりとか。
―― 「MEGALOVANIA」は人気曲ですけど、聴けるのはDプログラムだけですよね。
山本 はい。ほかのプログラムではできないですからね。映像はほかの通常ルートのシーンを挟み込んだりしていて、より悲惨な感じが強調されています。
ゲームオーバーの音楽を“キャラ”のテーマと見立てているので、序曲は「ケツイ」から始まって、サンズのテーマとキャラのテーマが入り乱れているような構成になります。
―― 付録の収録では、「MEGALOVANIA」のイントロがすごいところで途切れて終わっていますが…。
山本 そういう曲なんです。あのフレーズを切り刻んで入れていて、そのときに「あと◯体」といった映像をあわせて入れているんです。サンズの会話シーンで暗転を入れたりして、だんだんと違う世界線にいっているのを感じてもらえる演出になっています。サブリミナル効果です(笑)。
プログラムの最後は、「最後の審判」から「むかしむかし…」は、音楽的にいう“アタッカ”でつながっています。間髪入れずに、恐怖を与えるような。
最後の映像が平和そうに見えるのは、周回を意識しました。
ナプスタブルーク変奏曲
山本 おしゃれジャズな感じですよね。表に出てくるメロディやリズムはもちろん原曲を生かしているんですが、たとえば弦楽器のかけ上がるフレーズなんかは、すごくおしゃれな感じにアレンジしてもらって、そういう方向でアプローチしました。サックスってふつうオーケストラには出てこなくて、出てきたとしてもひとりピンポイントに出てくるというのが多いんです。
今回はビッグバンドという編成を入れたかったので、サックスは豪華に5人起用し、さらにトロンボーンとトランペットも4本ずつ入れて、豪華なサウンドになりました。
―― 公演後の評判もとてもよかったですね。
山本 お客さんにとってもそんなに違和感を覚えないアレンジになっていたようでよかったです。結果、一番人気の曲目になったと思います。映像や演出も、最後の最後で全部ちょっとずつ変えたんですよ。
―― それが一部分とはいえ、CDで聴けるのはうれしいですね。ありがとうございました!
コンサートのチケットは完売しており、CDや楽譜集は会場限定販売となります。
行ける方は、ぜひあわせて楽しんでください!
行けなかった方は、ニンドリ9月号の付録CDでその雰囲気をちょぴっとだけ楽しんでもらえれば幸いです!
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