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【平林久和 コラム】ニンテンドーミュージアムは館長がいない、稀有なミュージアムである

ニンテンドーミュージアムに「何がないのか?」についてお話しします

ニンテンドーミュージアムに行ってきました。
このページをご覧になっている、ディープな任天堂ファンの皆さんにお伝えしたいことをまとめました。

ニンテンドーミュージアムには、1889年創業以来の任天堂製品が展示されています。
テレビゲーム関連製品のみならず、花札、トランプ、玩具や取扱説明書などもあり、その数は膨大です。ニンテンドーミュージアムに「何があるのか?」 というレポートは、ほかの記事にお任せするとして私は「何がないのか?」についてお話しします。

ニンテンドーミュージアムはとにかく文章が少ない

そこに存在するモノが情報を伝えるのは当たり前のことです。
ですが、ないものが重要な情報を発信していることがままあります。オープンカフェや露天風呂は、屋根がないことで「屋外の空気を楽しんでほしい」と利用者に伝えています。コショウを置いていないラーメン屋さんがありますが、そこから店主の「味のバランスを崩したくない」というメッセージを読み解くことができます。

実は、ニンテンドーミュージアムにはないものがたくさんあります。
例を挙げると、会社の歴史=社史をまとめた年表のようなものがありません。展示品と世の中の動向をからめた展示もありません。
一般的なミュージアムでは「明治時代はどんな時代だったのか?」とか「第二次世界大戦はどんな影響があったのか?」とか、その製品が生まれる背景を述べたくなるものですが、それがありません。
外側の背景だけではなく、内側の背景、つまり開発者はどのようなことを考えていたのか? いわゆる開発秘話も積極的に語られていません。
ゲーム機のコントローラーやバランスWiiボードの試作品が何種類も展示されているのですが 、それらはどのような試行錯誤の末、最終的な製品になったのか? その過程を解説する文章もありませんでした。

ニンテンドーミュージアムはとにかく文章が少ない。
皆さんはほかの博物館・美術館・記念館に行ったら、展示品のそばにある解説文を読む習慣があるかと思います。現状のニンテンドーミュージアムには、あの解説文がない、または少ないと思ってください。

任天堂の精神と流儀から生まれたモノたちの記録館

そして、何よりも「ない」と感じたのは人に関する情報です。
創業者、功績のある経営者や開発者のプロフィールなどを紹介するエリアがありません。
どんなミュージアムであれ、場内を歩いているとどこかしらに誰かの顔写真があるものです。ところが、ニンテンドーミュージアムには顔写真が一切ありません。人物の写真といえば、遊戯施設で遊んでいるお客さんの後ろ姿や工場で働いている行員さんたち。つまり、誰かにフォーカスしたものではなく、群衆としての記録写真があるのみです。

これからニンテンドーミュージアムに行く人の中には、モノばかりがあって人が浮かび上がってこない。物足りない、と思われる方がいるかもしれません。
しかし私は、異常なまでにモノの展示にこだわる。人に関する展示を排除した姿勢こそがニンテンドーミュージアム、いや任天堂らしい重要なメッセージであると思いました。

私たちが今までお世話になってきた、 そしてニンテンドーミュージアムに展示されている任天堂製品は、特定の誰かが、その人の思想や思考を反映して作ったモノではない。

まず、任天堂ありき。
その任天堂の精神と流儀が徹底的に叩き込まれた任天堂社員がいる。
その社員の方たちが、時代に応じて任天堂らしいモノを作った。
ニンテンドーミュージアムは、任天堂の精神と流儀から生まれたモノたちの記録館でした。したがって、館内では「製品」「任天堂製品」という言葉をあちこちで見かけましたが、私が見た限り「作品」という言葉はどこにもありませんでした。

このように述べると、まるで任天堂製品は社畜がつくったかのようですが、いやいやまったく逆です。
会社に命令されたからつくったのではありません。任天堂という会社を愛してやまない人たちが、その会社の名誉をさらに高めるための努力の結晶が、任天堂製品であると。ニンテンドーミュージアムはおごそかに伝えているのだと思いました。

人が影に隠れている、きわめて異例なミュージアム

宮本茂さんに共同インタビューする機会をいただきました。
私は「ニンテンドーミュージアムに館長はいますか?」とお尋ねしました。館長はミュージアムにおいて人の象徴だからです。
宮本さんは「いないです」と事実確認に対する公式なお答えと合わせて、「僕、名誉館長になりたいなーと思っていたんですが(笑)」とジョークをおっしゃっていました。

また、この質問について宮本さんは「すごく大事で」と前置きされたあと、横井軍平さんの名前を出すかどうかについて悩まれたこと。しかし、結論として人名は出さずにモノでコミュニケーションをしようと決めたこと。さらには、ニンテンドーミュージアム入口左手にあるMiyamotoのサイン。あれが唯一、個人名が出ているので「すごく心苦しい」ともおっしゃってました。

ニンテンドーミュージアムは創設にあたって、人物を出すか出さないかの議論があり、結論として出さないという方針で開館したということが確認できました。

ニンテンドーミュージアムには圧倒的な数のモノが展示されていますが、ミュージアムとしてはきわめて異例で、人が影に隠れています。人の姿が見えないことが、かえって強烈に「任天堂とはなんぞや」について理解するためのメッセージを放っていました。

ニンテンドーミュージアム、私の感想。
「ニンテンドーミュージアムは館長がいない、稀有なミュージアムである」です。

現地レポを公開中!

ニンテンドーミュージアムについての詳しい情報および数々の現地レポートは、下記からいろいろ見てみてください!


▼こちらの記事もお楽しみください

<施設情報>

◾️ニンテンドーミュージアム
開業日:2024年10月2日(水)
所在地:〒611-0042 京都府宇治市小倉町神楽田56番地
開館時間:10:00~18:00
休館日:毎週火曜日(祝日の場合は営業。翌水曜日が振替で休館)および年末年始(12月30日〜1月3日)
チケット購入方法:抽選販売。来館の3か月前より受付を開始 ▶︎チケット申し込みページ
料金:大人(18歳~)3,300円(税込)
   中学・高校生 2,200円(税込)
   小学生 1,100円(税込)
   未就学児 無料
交通アクセス:近鉄京都線「小倉駅」東口から徒歩5分
       JR奈良線「JR小倉駅」北出口から徒歩8分

<関連リンク>
▶︎ ニンテンドーミュージアム公式X
▶︎ ニンテンドーミュージアム公式サイト


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※一部の画像には公式サイトの引用または映像をキャプチャーしたものが含まれます

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