『マリオ&ルイージRPGブラザーシップ!』音楽インタビュー ノイジークローク坂本英城さんに聞く制作秘話

これまでのシリーズからグラフィックもサウンドも変化した『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』。新しくなった世界の楽曲制作は、どのように行われたのでしょうか。その誕生秘話をお尋ねしたインタビューをお届けします!
目次
- 名曲誕生の裏側に迫る!新たな冒険を彩るサウンドが生まれるまで
- Q.1 作曲の依頼がきたときの坂本さんの気持ちを教えてください
- Q.2 長く続いているシリーズの音楽として意識したところはどこでしょうか?
- Q.3 異世界が舞台のマリオらしい楽曲はどのようなイメージで生まれたのでしょうか?
- Q.4 任天堂さん・アクワイアさんとはどのように曲作りを進めていったのでしょうか?
- Q.5 最初に作曲を始めたのはどの場所の曲でしたか?
- Q.6 BGMはどのような流れで今の形になったのでしょう?
- Q7. 最終的に何曲ぐらい作曲されましたか?
- Q.8 テンポがよいバトル関連の曲のコダワリはどこでしょう?
- Q.9 坂本さんお気に入りの曲やプレイヤーの評判をよく聞く楽曲はどれでしょう?
- Q.10 『スーパーマリオブラザーズ3』などの曲をアレンジしたときの心境は?
- Q.11 ラスボス戦について意識した点や苦労したところはどこでしょうか?
- ニンテンドードリーム4月号にはマリオ&ルイージRPG ブラザーシップやりこみ企画を掲載!
名曲誕生の裏側に迫る!新たな冒険を彩るサウンドが生まれるまで
Nintendo Switch『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』の楽曲を担当したのは、ゲームサウンド専門の制作会社ノイジークローク。その代表取締役であり、ゲーム中に流れる曲を全て手がけた坂本英城さんに、曲にまつわるお話をうかがいました。
(ニンテンドードリーム2025年4月号掲載)
プロフィール

坂本英城さん
2004年に設立されたゲームサウンド専門の制作会社ノイジークロークの代表取締役。作曲家。現在までに多数のゲーム作品にサウンドプロデューサーおよびクリエイターとして携わる。総合的な視点で ゲームサウンドのあり方を追究し続けている。『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』では全楽曲を手がける。
Q.1 作曲の依頼がきたときの坂本さんの気持ちを教えてください
マリオ、ルイージという、私も子供のころから大好きだったキャラクターたちの作品に、まさか作曲家として参加させていただけるとは思っておりませんでしたので、まずはシンプルにびっくりしました。そして、じわじわと喜びの気持ちが湧いてきました。同時に、果たして自分に務まるのだろうか?という不安も少しだけありました。

坂本さんがBGMの収録を行ったスタジオのコントロールルーム。小窓の向こう側にある部屋で奏者たちが楽器を演奏。それを録音したり、演奏について指示を出していきます
Q.2 長く続いているシリーズの音楽として意識したところはどこでしょうか?
今回は開発会社がアクワイア様へと変わりフル3Dの作品になるということだったので、最初の企画説明の段階から音楽もまったく新しいアプローチが求められていると感じました。ですので、下村陽子さんへのリスペクトやファンの方々が愛してこられたサウンドへの想いはしっかりと忘れないようにしながらも、あえてこれまで下村さんが作られたシリーズの音楽を参考にすることはしませんでした。似せて制作することは下村さんにも失礼ですし、そもそも下村さんを真似ることのできるような技量はとても私にはありません。
Q.3 異世界が舞台のマリオらしい楽曲はどのようなイメージで生まれたのでしょうか?
マリオたちが暮らす世界ではない場所での冒険ということで、不思議なニュアンスや、マリオシリーズの中でも少し雰囲気の異なる音楽を目指そう、という気持ちがあり、転調や変拍子なども積極的に取り入れました。ただ、どの楽曲もしっかりメロディが立っていて、聞きやすい、口ずさみやすい、という点は強く意識しました。個性的な島ばかりなので、ビジュアル資料を拝見した段階で音楽のイメージがむくむくと湧いてきました。


Q.4 任天堂さん・アクワイアさんとはどのように曲作りを進めていったのでしょうか?
楽曲の制作開始時はコロナ禍のまっただなかで、オンラインにて任天堂の大谷さんやアクワイアの大橋さんとご挨拶するところからスタートしました。音楽に関して大枠の方針をヒアリングして制作に取りかかってからは、週に一度のオンライン定例会議で大橋さんと顔をつきあわせながら、大橋さんの頭の中で流れている音楽を汲み取って、それを形にして聞いていただき、フィードバック(ご要望)をもらって修正したものをまた聞いていただく、ということを繰り返していました。ある程度楽曲の数がまとまったら、それを大谷さんにも聞いていただき任天堂様のご意見をうかがいました。

▼開発者インタビューはこちら

Q.5 最初に作曲を始めたのはどの場所の曲でしたか?
最初に着手したのは船島の楽曲でした。プレイヤーがもっとも滞在することになる、つまりプレイヤーの皆さんにもっとも聞いていただける、本作品を象徴する音楽になると考えたからです。スタート直後のステージということで、元気のいい、前へ前へとぐいぐい進むようなアップテンポで勢いのある楽曲をご提案したのですが、大橋さんに聞いてもらうと残念ながら「なんか違う」とのこと。理由は「『マリルイ』らしくない」とのことで、なるほど、作曲をするにあたりちょっと我が道を行きすぎていたかもしれない、と思い直しました。
これは作曲家としてはさじ加減の難しいところで、自分が担当させていただく以上、自分の作風だったりカラーだったりをはっきり出さなければいけないだろうと考えているのですが、かといって個性を押し売りしすぎて作品の演出バランスが崩れるようなことがあってはならないので、どうしたらご満足いただける正解に辿り着けるのか、もがく日々がスタートしました。

Q.6 BGMはどのような流れで今の形になったのでしょう?
作曲に着手したころは、まずどの楽曲もキャッチーであること、そしてバリエーションに富んだ楽曲が揃っていることを強く意識していましたので、1曲の中でピアノのほかにシンセサイザーなどのエレクトリックな楽器や、エレキギター、弦楽器、管楽器などをふんだんに使用していました。
しかし、この方法では音楽面から本作のカラーを明確に打ち出すことが難しく、ほかの作品となにが違うんだ、という問いにお答えできないということに気がつきました。
そこで、もっとも本作らしいステージはどこかを模索し、そのステージの楽曲を最初に作って、それをリファレンス(参考)にしてほかの楽曲を作っていったらどうか、ということになり、船島の楽曲はいったん保留してゼニアレバー島の楽曲に着手することになりました。


ここで大橋さんと相談して決めた方針が「楽器の種類を絞ることで独自の世界観を構築する」ということでした。ゲームミュージック以外のいろいろな音楽をいっしょに聴いて、これは『マリルイ』っぽい、これは『マリルイ』っぽくないという選別を延々と繰り返し、選ばれた楽曲を並べて、ではなぜこれらの楽曲に『マリルイ』っぽさを感じるのだろう?という議題を定例会議のたびに話し合っていました。
その結果、ブラスセクション、アコーディオン、マリンバ、スティールパン、コンガ、ボンゴなどの楽器がチョイスされ、楽曲制作の中核をなす楽器となりました。
こういったプロセスに加えて、『マリルイ』の音楽には「躍動感」や「南国の雰囲気」が必須のエッセンスであるということも改めて確認をし、少しずつ音楽制作の柱ができあがっていきました。
Q7. 最終的に何曲ぐらい作曲されましたか?
いま改めてカウントしてみたら100曲ちょっとありますね。我ながらたくさん作らせていただいたなぁと(笑)。これまで述べたように最初の柱ができるまでに時間を要しましたが、その後は比較的スムーズに作曲を進めることができました。
ただ、特に重要な楽曲には大橋さんはもちろん、大谷さんのご意見も多くいただくので、完成までじっくりと取り組みました。また、今回はほとんどのカットシーンに個別の楽曲をアサインして(割り当てて)いるので、キャラクターたちの動きやシーンの展開にあわせて作曲をする必要があり、映像の修正と連動して楽曲にも手を入れる必要があったため、かなり力が入りました。
作曲のお話でほかに工夫した点といえば、ゲームを起動してから、実際にマリオとルイージをコントロールできるようになるまでの流れを何度も確認して、どのような順序で楽曲が再生されるのか、は注意を払いました。


特にエンディングはとても長い楽曲だったので、クリアの達成感を感じてもらうということを軸に、プレイヤーが本作を通じて体験したさまざまな感情を象徴するような楽曲に仕上げるぞ!という使命感に勝手に駆られて(笑)、制作にとても時間が掛かりました。また、ほぼ全曲を生演奏でレコーディングしておりますが、この曲のこの楽器はこの方に演奏をお願いしたい、という気持ちが私のなかで強くあり、ミュージシャンの皆様の予定を1年近く前から確保して本番の収録に臨みました。
たとえば金管楽器のセクションは、バトルシーンとカットシーンで別のミュージシャンの方々に演奏をいただいておりますし、打楽器もドラム、ティンパニ、コンガでそれぞれ別の演奏家の方にご担当いただいています。もちろん、曲数分の楽譜も必要になるので、最終的に見たことのないような厚さの楽譜ができあがり、いまでもそれは私の宝物として仕事部屋に飾っています。

Q.8 テンポがよいバトル関連の曲のコダワリはどこでしょう?
バトルは本作品の肝の部分でもあるので、楽曲はかなり念入りに制作しました。通常戦闘曲、中ボス曲、大ボス曲とあり、いずれもじっくりと時間を掛けて作った楽曲たちです。
どこか憎めなくてかわいらしい敵キャラばかりなので、マリオ&ルイージらしく楽しさがベースにあり、シリアスになりすぎず、でも緊張感が漂っている、という相反する要素が絶妙なウェイトで入り交じるため作曲のし甲斐がありましたね。


バトル終了の楽曲のイントロは、気持ちが高揚するように上昇するメロディとし、スネアの音が一発だけ鳴るブレイクを経て短いループ楽曲に移行する構成で、長く聞いていても飽きない、もしくは長く聞いていたいと思ってもらえるような音楽を目指しました。
逆にバトル敗北の楽曲は、残念だったり、悔しいという感情ではなく、また次もがんばろうね、と穏やかに気持ちをリセットさせられるような、静かに深呼吸するようなイメージで作曲しました。

Q.9 坂本さんお気に入りの曲やプレイヤーの評判をよく聞く楽曲はどれでしょう?
バラエティに富んだステージばかりなので、島ごとに別の楽曲が割り当てられることでそれぞれの雰囲気をお伝えできればとがんばりました。私がもっとも気に入っているのは、ゲーム中にほとんど聞くことのないマメメ島という小さな島の楽曲です(笑)。
かなり力を入れて作ったんですけど、ゲームをプレイしてみたらここともうひとつの島でしか流れておらず、しかも音階を集めるミニゲームをする島なのでほとんど楽曲が聞こえないという…(笑)。もしよろしければ足を止めて音楽に耳を傾けていただけるとうれしいです。

ステージ曲だとほかにはイキイキ島、ゼニアレバー島、クラゲ島にあるディスコステージの楽曲が気に入っています。プレイヤーの方からよく話題に挙がるのは60年代ダンスミュージック風のツイス島、アラビアンな雰囲気のサビレッタ島、カラクリの音の入ったメリーゴ島などでしょうか。どれも気持ちを込めて作った楽曲なのでとてもうれしいです。


ちなみにカンダーン島の楽曲の後半部分は、フレイーム島とツルンベール島のモチーフがミックスされています。あとエンディング直前のフィールド曲の後半部分には、実はこっそり船島の楽曲モチーフが使われていたりしています。いずれも大橋さんの遊び心による素敵なオーダーでした。
Q.10 『スーパーマリオブラザーズ3』などの曲をアレンジしたときの心境は?
今回、マリオシリーズの既存曲をアレンジしなおして本作に使用させていただいた楽曲が全部で4曲あるんですが、これまでプレイヤーとして接してきた名曲たちを、公認でアレンジをさせていただけるという役得に震えながらも、作曲者の方や原曲のファンの皆様に失礼があってはならないと慎重に制作しました。
生演奏でのレコーディングに参加してくださったミュージシャンの皆様も演奏の際にとてもテンションが上がっていました(笑)。

Q.11 ラスボス戦について意識した点や苦労したところはどこでしょうか?
ラスボス戦に関しては、それまでのバトル曲とは一線を画し、楽しさやリズミカルな雰囲気は封印し、生演奏で迫力のある純然たるオーケストラを採用し、強大で邪悪な存在を示すことのできる音楽として制作しました。
ある意味、ラスボス曲の構想が先にあって、その対比としてほかのバトル曲をライトな雰囲気にしておこう、と考えたくらいです。このラスボスの楽曲も人気が高いようで、とてもうれしく思っています。
ニンテンドードリーム4月号にはマリオ&ルイージRPG ブラザーシップやりこみ企画を掲載!
まだまだやり込み要素たっぷり! 本作を遊び尽くすヒントを紹介。ぜひこちらもチェックしてください。

<商品概要>

発売日:2024年11月7日(木)
対応ハード:Nintendo Switch
価格:パッケージ版 7,128円(税込)/ ダウンロード版 7,100円(税込)
ジャンル:アクションRPG
CERO:全年齢
プレイ人数:1人
▶︎公式サイト
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