【インタビュー】都市伝説が生まれたきっかけを特定!『都市伝説解体センター』解体秘話

怪異と都市伝説にまつわる事件を解体していくアドベンチャー『都市伝説解体センター』。本記事では本作を手がけたクリエイター集団「墓場文庫」とパブリッシャーの集英社ゲームズ、それぞれが作品に込めた思いをお届けしていきます。ラストには作り手自身が語る作品解説も!(ニンテンドードリーム2025年4月号掲載)

開発者インタビューで気になるあれこれや作り手の思いを解体
▼登壇者プロフィール

ハフハフ・おでーんさん
墓場文庫所属のグラフィッカー・ゲームデザイナー。墓場文庫初作品は『和階堂真の事件簿』シリーズ(Switchほか)。『World for Two』(Switchほか)にはグラフィッカーとして参加。

林 真理さん
集英社ゲームズ所属のシニアプロデューサー。同社の立ち上げに参画し『シュレディンガーズ・コール』(Steamほか)、『キャプテンベルベットメテオ』(Switchほか)などを手掛けている。
『和階堂真の事件簿』受賞が企画の始まり
―― 最初に『都市伝説解体センター』が生まれたきっかけをお願いします。
林 集英社ゲームズが立ち上がる前に、集英社の新規事業部のひとつとして「ゲームクリエイターズCAMP」というクリエイター支援プロジェクトをはじめたんです。そこでGoogleの「Indie Games Festival 2021」に僕らの賞を出すということになり、賞をお渡ししたのが『和階堂真の事件簿』(以下『和階堂真』※)だったんです。
※『和階堂真の事件簿』:「1時間でクリアできる推理アドベンチャー」をコンセプトに開発されたミステリーアドベンチャー。グラフィックはドット絵テイストで描かれている。
―― 『和階堂真』はいつから作られていたんですか?
おでーん 2020年ですね。墓場文庫は『和階堂真』開発のときに設立した、神戸を中心に活動するインディー開発チームです。1年かけてシリーズを3作リリースしました。それを「Indie Games Festival 2021」に応募したんです。
林 受賞式のときに初めて墓場文庫さんとお会いして、すごくミステリーが好きな方たちと感じたので「ミステリーものをやりませんか?」と提案したのが企画のきっかけですね。
―― ちなみに、墓場文庫というチーム名の由来は?
おでーん もともとは僕とMOCHIKINというプログラマーで『和階堂真』の1作目を作ってたんですが、頓挫しかけた時期があるんです。そのとき、昼間はぐったりしてあまり社会に適合できないけど夜は元気になって集まることから「墓場」と呼ばれるディスコードにいるクリエイターたち、シナリオのきっきゃわーや音楽のあだP、ウラベ・ロシナンテ(当時)といっしょに作ることで『和階堂真』の1作目を完成できたんです。その「墓場」から生まれた小説みたいな文庫のような作品だったので、墓場文庫というチームになりました。
―― じゃあチーム名も『和階堂真』がきっかけなのですね。
おでーん そうですね。
―― 最初からいまのような内容だったのでしょうか?
林 『和階堂真』が1時間で楽しめるミステリーでしたので、1時間で遊べるものをどこかで毎月連載形式で発表しませんか? というのが最初でした。そのときはまだゲームの姿かたちはまったくなく、ウェブでのゲーム連載が可能なのか先に技術的なところを検証してもらったんです。それは厳しいって結論が出たので、じゃあ1作品作って配信・発売しましょう。となった感じですね。
おでーん はい。まっさらな状態から、どういう企画にしていくかというところまで、がっちり林さんといっしょに企画段階から練り上げていきました。
―― どんな企画案があったのか気になります。
林 ボツになったものでいうと、小説家の方といっしょにミステリーを作ろうと考えて小説家の方に当たったりとか、いろんな企画を検討しましたね。その中から僕がこれでやりたい! っていったのが『都市伝説解体センター』だったんです。その時点で既にタイトルロゴもありました。
―― 初期段階のロゴはどんな形だったんですか?
林 ほぼ変わってないですね。
おでーん そうですね。キャラクターとして廻屋もいました。カラーリングは結構違いますがデザインはほとんど変わっていないです。

林 ユーザーがプレイするのが廻屋でした。この案をもとに墓場文庫のメンバー4人でプロットを考えてもらい詰めていきました。
初公開! プレゼンテーション用初期プロット



社内外の意見や漫画作りの技法も参考に
―― 方向性が決まってから開発は順調だったのでしょうか?
林 結構修正はしていますね。もともといまより小さい規模で作ろうと思ってたんです。社内のメンバーからの声や外部の人たちの期待の声に応えようとして、どんどん大規模になっていった傾向があるかもしれないです。
―― 反響はどのように受け取っていったんでしょうか?
林 まず、集英社ゲームズ内のプロデューサーやマーケティングの担当者も全員プレイをしてるので、全員からちゃんとしたレポートが上がってきます。あとは初めて見てくれた方たちがどう思うか、アドベンチャーゲームが好きな人たちとまったくやらない人たちに遊んでもらったりもしました。
―― その意見を林さんはどう作品に反映させていったんですか?
林 レポートにはよいところも悪いところも書いてもらい、それを忖度なしに墓場文庫に伝えています。クライアントと開発チームという関係ではなく僕もおでーんさんのチームの一員みたいな感じで参加していたので、ディレクターが取捨選択するであろう内容を僕も好き勝手に言ってましたし、ダメといわれたらシュンとしてました。
おでーん そのとおりですね。企画の超初期段階ではどんなスタンスがいいのか探り探りだったんですが、一度お互いの主張がぶつかるタイミングがあったんです。そこで詰めて以降はワンチームという感じで作ってこられたのかなと思います。
林 本当に壁がなく冗談を交えながら、いろいろ言いながらやってきたこの3年間はすごい楽しかったですね。
―― 集英社さんらしく、漫画編集のテクニックも取り込んでいると聞いたのですが。
林 集英社ゲームズはゲーム業界の人たちがほとんどなんですけども、集英社で漫画編集を経験してた方も在籍しているんです。そういう人から「話の立ち上げはもっとわかりやすくしたほうがいいよ」とか、ゲーム業界にない漫画視点からのフィードバックがあったので、すごくおもしろいし本当に参考になったと思います。
おでーん そうですね。
林 あとはイベント会場ですね。僕らもいますし墓場文庫の人たちも割とイベントにいるので、直接声をかけてもらえる。体験版をやってどう感じただとか、そういう声は、僕らのものづくりにすごくいいパワーをもらったとは思っています。
おでーん そうですね。ただ集英社ゲームズが2024年の東京ゲームショウは『都市伝説解体センター』でいくって話を聞いたとき、最初は正気を疑いました。
林 あはははは!
おでーん でも、すごくインパクトがあったし。みんなが見に来てくれて集英社ゲームズのほかのタイトルも遊んでもらえるっていう意味では、非常に優れたブースだったのかなという結論になりました。
林 業界関係者からもピラミッド見たよってすごい連絡が来て、タイトルはなかなか認知されなくても迫力のあるブースは影響力があるんだなと痛感しました。

横スクロールアドベンチャーとしての進化
―― 『都市伝説解体センター』は『和階堂真』に続く横スクロールアドベンチャーの第2弾と捉えてもいいんでしょうか。
おでーん ゲームを作るうえで『和階堂真』がベースというイメージですね。ただ、林さんからは単なるガワ替えじゃダメだよっていうのは相当言われておりました。
―― 具体的にどのあたりを指摘されていたのでしょう。
おでーん ビジュアル面やシステム面も含めあらゆる面でアップデートしないとダメですよっていう話をされたんです。いろんな要素を付け加えていきながら、『和階堂真』のアップデート版・上位互換というような、新しいアドベンチャーにできればいいなと思って作っておりました。
―― グラフィックでアップデートされたところはどこでしょうか?
おでーん はっきり変えたのはキャラクターのバストアップです。『和階堂真』ではバストアップがなく、表情や演技が分からないからこそできるトリックもやっていたんですけども、『都市伝説解体センター』ではキャラクターの表情差分をたくさん作って、どんな感情を持ってるのかちゃんと見せられるように作りました。

―― 捜査方法も新しくなりましたね。
おでーん 「SNS調査」が一番大きな要素かなと思います。都市伝説を語るうえで、噂と都市伝説の関係は外せないです。じゃあ、今の現代において噂はどこから発生するのかといったら、多分SNSになるんだと感じたんですね。なので、SNSを調査することによって都市伝説の本質を探る「SNS調査」を入れました。
―― 「念視」は廻屋が主人公だった企画初期からあったのでしょうか?
おでーん 「念視」は初期の形とは全然違いますね。モチーフとしてはありましたが、最初は現場を調査するだけだったんです。それだけではなにかを発見する、そこで起きたことを発見する経験としては物足りないだろう。というところで、スマホアプリでスキャンするバージョンもありました。
林 そうですね。いろいろ試行錯誤はしましたね。企画初期のアイデアはだいぶ捨てたものがあります。

―― ゲームシステムが変わることでシナリオやキャラクター設定なども変化していったんですね。
林 そうですね。逆に最初に検討した企画の名残りもあるんです。各話の最後に次回予告のような、お話が盛り上がる演出とエンディングテーマが流れるんです。これは連載形式というか連続ドラマのイメージで作りました。続きが気になる終わり方になるようこだわったところはありますね。
おでーん 演出面でいうと都市伝説の「特定」や「解体」のシーンについては、『和階堂真』よりもケレン味のある気持ちのいい演出を心掛けました。
林 とにかく、墓場文庫の人たちはすごくミステリーが好きでこだわっています。僕はそんなに多くミステリーを読んでいたわけではないんです。彼らの情熱についていくには僕も知っていないとと思って、すごくミステリーを読んだ3年間でした。
おでーん そうですね。特にMOCHIKINがミステリー小説が大好きなんです。僕はどちらかというと映像派で、世代的に横溝正史の金田一耕助シリーズとか江戸川乱歩の美女シリーズなど、昭和のミステリーやサスペンスドラマがめちゃくちゃ好きなんですよ。そういうものも作中にエッセンスとして感じてもらえるとうれしいです。

次のページでは、作り手自身が語る作品解説などをお届け!
