ワンダーワールド誕生までの道のりを開発陣が大いに語る!『バランワンダーワールド』インタビュー
スクウェア・エニックスから3月26日に発売された『バランワンダーワールド』(以下、本作)のインタビューを、ニンテンドードリーム5月号(3月19日発売)との連動企画でお送りします。
本誌のみに掲載している情報もありますので、あわせて手にとっていただければと思います。
(NDW×ニンテンドードリーム5月号 連動企画)
プロデューサー 藤本則義さん
2001年4月、株式会社エニックス(現:株式会社スクウェア・エニックス)入社。「ドラゴンクエスト」シリーズのナンバリングタイトルのリメイクや移植のほか、『ドラゴンクエストビルダーズ』、『スライムもりもりドラゴンクエスト』など、数多くの「ドラゴンクエスト」シリーズ作品のプロデューサーを担当。
Twitter:Rucachan
デベロップメントプロデューサー兼キャラクターデザイナー 大島直人さん
株式会社アーゼスト取締役副社長。株式会社セガ在籍時代に『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』や『ナイツ』などのキャラクターデザインを担当。アーゼストとしての代表作は、3DS『ヨッシー New アイランド』『Hey!ピクミン』、スマホアプリ『テラバトル』など。
Twitter:NaotoOhshima
『バランワンダーワールド』とは?
本作は舞台ミュージカルをモチーフにしたワンダーアクションゲームです。
プレイヤーは心に悩みを持つレオ・クレイグ(男の子主人公)またはエマ・コール(女の子主人公)となって、バランに導かれてたどり着いた不思議な心象世界「ワンダーワールド」を冒険していきます。
12人のキャストによる12の心象世界を冒険し、すべてを踏破することで物語は核心に迫っていきます。
詳しくは、ショータイムトレーラーをご覧ください!
それでは、本作を生み出した、スクエニの藤本さん&アーゼストの大島さんによる開発者インタビューをお楽しみください!
スクエニが新規IPでアクションゲームを作ること
―― 本作を制作することになった経緯を教えてください。
藤本 3年ぐらい前にゲームクリエイターの中裕司さんが弊社に入社しまして。そこで会社側から「オリジナルのゲームを作ってほしい」とオーダーが出たんです。その際、中さんが大島さんと話し合って「自分たちの強みを生かしたほうがいい」とゲームの方向性を決めました。
―― 中さんは数々のアクションゲームを世に送り出してきたベテランですよね。
藤本 そうです。弊社ではプラットフォーム・アクションゲームというジャンルはあまり制作していなかったのですが、そこに新しく挑戦する形になりました。そこで、プラットフォーム・ゲームをこれまでたくさん作ってきて、力のある開発会社に制作をお願いできるならいいものができるだろうと思い、本作のプロジェクトが立ち上がりました。
―― 大島さんはスクウェア・エニックスと初めて一緒に仕事をしてみて、いかがでしたか?
大島 今までいろんなゲーム会社さんとお仕事をさせていただきましたが、 あらゆること全部を考えられていて、すごい会社だなと思いました(笑)。サウンドの山﨑良(本作のサウンドコンポーザー)さんやヴィジュアルワークスさん(※1)とも一緒にお仕事をさせていただいたのですが、ビジュアルワークスさんの仕事がまた素晴らしくて。
※1 「ファイナルファンタジー」シリーズ作品や「ドラゴンクエスト」シリーズ作品などのハイエンドなフルCG映像を専門に手掛ける、スクウェア・エニックスの映像制作チーム。
―― オープニングムービーはすごいクオリティですね。
大島 はい。最初に「イメージを絵コンテで簡単に描いてください」とお願いされたので、ちゃちゃっと描いた絵コンテを出したら、それがオープニングムービーとなって仕上がりまして。想像以上で、もうびっくりでしたね。キャラクターも、私たちが作ったそのままではなく、より素晴らしくなっていて。こっちも負けないように改良したりして。ものすごく刺激をもらった感じがしました。
藤本 お互いに影響を受けて作られていましたね。
―― 藤本さんは「ドラゴンクエスト」シリーズのプロデューサーとして知られますが、オリジナルゲームではどういった作品を手掛けてこられたのでしょうか?
藤本 僕はエニックス(現:株式会社スクウェア・エニックス)に2001年に新卒で入社しまして、これまで40タイトルくらいをプロデュースしました。そのうちの1/4ぐらいはオリジナルタイトルですね。入社後は「ドラクエ課」(※2)ではなく、オリジナルゲームのプロデュースをする部署に在籍していたので、オリジナルタイトルが多かったです。
※2 エニックス時代にあった「ドラゴンクエスト」シリーズを専門に手掛ける部署の名称。
―― どんなタイトルを手掛けたのでしょうか?
藤本 『オンラインストライカー』や『コスモぐらし ~オンライン的野菜生活~』など、オンライン系タイトルのプロデュースが多かったですね。家庭用ではファミリーや赤ちゃんに向けてWiiで作った『おやこ で あそぼ ミッフィーの おもちゃばこ』も担当しました。
―― オンラインゲームから親子向けタイトルまで、幅広くプロデュースされてきたんですね。今回新たなオリジナルタイトルをプロデュースすることになった経緯は、どういったものだったのでしょうか?
藤本 実は本作の担当になったのは、企画初期からではなく途中からでした。担当後はプロジェクトの成り立ちをまず確認し、コンセプトなどを引き継いでいきました。本作をプロデュースする上で大事なポイントは、オリジナルタイトルだというところです。まずはお客様に認知してもらうことが一番大事だし、苦労する点だなと思い、そこをどうプロデュースするかを一番に考えました。そして本作ならではの特徴というのを前面に出す、つまりとんがった部分を特に前面に出してプロデュースするべきだなと思いました。
―― 具体的には?
藤本 最初の発表をマイクロソフトさんの配信イベント(※3)で行いました。日本だけじゃなくて全世界に向けて、グローバルにたくさんの人が見ている場所でスタートさせたんです。また、本作の特徴は、「すべてのアクションがここにある」というところです。80種類以上のアクションが楽しめるのがこのゲームならではの部分ですね。あとはミュージカル調の不思議な心象世界のデザインも特徴的だと思います。
※3 2020年7月23日に行われたXbox Gamesショウケースのこと。
↑初公開時に公開された開発メッセージ映像
―― ミュージカルをテーマにしたゲームって、珍しいですね。
藤本 はい。そこを前面に出させていただきました。世界観を表現したミュージック部分も、本作をしっかりアピールしていく上でとても大事だと思ったので、ピアニストのまらしぃさん(※4)にピアノアレンジをしてもらうなど、音楽部分のプロモーションにも力を注いでいます。
※4 ニコニコ動画やYouTubeなどを中心に活躍されている愛知県在住のピアニスト。3月15日より本作と「まらしぃ」さんによるコラボ企画『#バラン演奏してみた』を実施中。
https://youtu.be/5Qudg9nmRnc
―― 本作は次世代機のPS5やXbox Series X|Sも含めたマルチプラットフォームでの発売ですが、開発を終えた率直な感想を聞かせてください。
大島 とにかく大変でした(笑)。次世代機は開発環境がまだ完全に整っていないのもあって。
藤本 次世代機の発売後近辺のタイミングで発売するというのは、ゲーム開発においてものすごく大変なんですよ。
大島 例えば、ゲーム内で動かない部分があるとして、それがソフト側に原因があるのか、ハード側に原因があるのか、わからなくて。あと、マルチプラットフォームだとゲームのデータ容量もとんでもなく大きくなってしまって、データの転送も大変でした。
―― 現在はコロナ禍で、両社共にリモートワークでの開発だったのでしょうか?
大島 はい。弊社は2020年4月に行われた最初の緊急事態宣言の際、テレワークに切り替えたのですが、データのやりとりがとにかく大変でした。昼間は仕事をして、夜になったらデータを送るようにして、仕事をしていました。
キャラクターボイスは「バラン語」にローカライズ
―― オープニングムービーなどで喋るキャラクターボイスを架空の言語にした理由は?
藤本 これは「世界中の人に同一条件でプレイしてもらいたい」というのが意図ですね。そこで24言語をすべて同じようにするために、我々が「バラニーズ(バラン語)」と呼んでいる共通言語でしゃべらせました。
大島 特にすごいと思ったのが歌です。実は歌も架空の言語であるバラニーズで歌っているんですよ。ちなみにゲーム中にある条件を満たすと、それが英語に変わるんです。それで歌詞がわかるようになっています。
藤本 各章をクリアした時などに、ムービーでダンスをしながら歌っているんですけど、そこが英語ボイスに変わります。
大島 字幕が出ますので、日本の方も楽しめるようになっていますよ。
藤本 各章のバランスタチューをすべてコンプリートすることが条件です。全部揃えるのは大変ですが、頑張って集めてみてください!
―― 本作は24言語対応で、主要キャラクターの名称は日本と海外で同じようですが、ボスだけ名前が異なっているんですね。差異や名称の調整などについて伺わせてください。
大島 衣装の名前については、日本語名と英語名、どっちが通じるかという話し合いをして統一していったんですけど、ボスの名前に関してはゲーム中に表示されなかったので、開発中の呼び名がそのままボスの名前になりました(笑)。
―― ああっ、確かに!
大島 日本と海外でやり取りをしていく中で、共通名称にしようという意識がありませんでした(笑)。
藤本 日本語では日本人がわかりやすいものをつけていますし、英語圏だと海外の人がわかりやすいボス名に変えていますね。
↑ハウリングウルフ、ジェリードルフィン、ブリリアントワーム
(英語名:BARKTHOLOMEW、ANJELLICA、WORMSWORTH)
↑ライオットプレーン、クレイジーバード、ファットキャット
(英語名:WORVILLE WRIGHT、CUCKOO、PURRLA)
↑キングフォートレス、テラーリーパー、ナイトメアプリンセス
(英語名:FORTSTOPHER IV、THE GRIM CREEPER、PRINCESS MAREY)
↑ペインクラーケン、ドラゴンハイドランド、インビジブルフーバー
(英語名:INKABELLE、THE HYDRAC、HOOVERTON)
12の心象世界と80種以上の衣装能力
―― 12の心象世界はどのように開発されていったのですか?
大島 まず「時間」というテーマがあったので、全12章というのがマストでした。テキストがないサイレントな物語展開を最初から目指していたということもあって、12章分のストーリーや世界観を表現するのは非常に難しかったです。各章の12人のキャラクターのショートストーリーを1つずつ繋げていき、それを大きな1本の物語に繋げることができれば、テキストのないサイレントな演出でも大きな物語が作れるのではないかと考え、12の物語を作っていきました。
↑12章の物語を彩る12人のキャストたち。左から…、ホセ・ガリアルド、フィオナ・ディミトリア、ユリ・ブランド、チャン・ハオユー、サナ・ハドソン、キャス・ミリガン、カル・スレッシュ、イーベン・ビア、アッティリオ・カッチーニ、ルーシー・ウォン、アイス・グローヴァー、ブルース・ストーン
―― 各章のアクト1とアクト2を最初から自由に選べるようにしたのは?
大島 それが普通だと思っていました(笑)。
―― アクト1→アクト2→ボスっていう順番が普通ですよね?
大島 例えばアクト1をプレイした際、何らかの障害があって先に進めないことってありますよね? そういう時に、もうひとつのアクト2をプレイすることで、プレイヤーのテクニックが上達することがあると思います。そして、またアクト1に戻って、クリアできたら嬉しいですよね。
藤本 それに、別のステージで新しい衣装をゲットして、その衣装だったらこれまで行けなかった場所にも行けるかもしれないという、プレイヤーに対して「気付きを与えたい」とも考えました。そういう意味で、自由に2つのアクトを選べるようにしています。
―― 本作はプラットフォーム・ゲームということもあり、スクウェア・エニックスのゲームとしては珍しくテキストが少ない印象を受けました。その辺は意図的なのですか?
藤本 そうですね。演出などを重視して、テキストは全部なしでもいいというくらいの気持ちで作っていました。言葉や説明ではなく、それを観たプレイヤーがどう感じるかに委ねようと。わかりやすいところでいくと、各章のメインキャストの悩みをビジュアルワークスのCGムービーのみで表現しているんですけど、そのほうがプレイヤーの受け止め方の幅が広がるかなと。できるだけ言葉がなくても成立するゲームにしたいという意図がありました。あえてテキストを見せないことで、親近感がわくというか、イメージしやすいようにしたかったんです。
大島 もちろん会話ができるものがダメというわけではありません。本作は会話がない、サイレント映像的なものにすることで、プレイヤーが深読みできる余地を残したかったというのは、私も藤本さんと同じ意見ですね。そういう意味では、ムービーを作るのは難しかったと思います。本当にヴィジュアルワークスさんには無理難題だったと思いますが、いいものを仕上げてくれたと思います。
―― つぎに80種類を超えるさまざまな衣装の能力はどうやって生まれていったのか聞かせてください。
大島 今までにない、とにかく多い数を目指すという事で、実際は120種類くらいまでアイデア出していました。そこから実際に作ってみて、ゲームになりそうだなというものを80種類選んだという形です。
―― それでも80種類という数の多さにビックリです。
大島 普通だと80種類も考えられませんよね(笑)。開発するアーゼストにとってもチャレンジでした。デバッグもとんでもなく大変で…(苦笑)。この辺はスクウェア・エニックスさんの器のデカさに助けてもらいました。
藤本 「すべてのアクションがここにある」というコンセプトが開発の大きな柱にあったので、これを減らしたらコンセプトがずれますし。アクションゲームを数多く作られてきたアーゼストさんだからこそ、これだけの数ができたのかなと思います。ここはこだわりを捨てずに維持できたかなと。
↑レオとエマはステージ中にある衣装を着替えることで、専用アクションを1つだけ使うことが出来ます。上記の2つは、いわゆる「ふんばりジャンプ」と「ヒップドロップ」
―― 1つの衣装に対して専用アクションを1つだけにしたのは?
大島 …大変ですよね(苦笑)。いろんな意味でいい点と悪い点があると思うんです。ガッチリしたものにしてしまうと、ただのめんどくさいゲームになってしまいます。例えば「僕はこの衣装でクリアできた」とか「私はこんな衣装を使って簡単にクリアができた」とか、1つの答えに対していくつもの手段でクリアができるような工夫をできるだけ心掛けました。
―― ある意味、しばりプレイにも応用できますね。
大島 あと、2人プレイで遊んだ時は、また別の遊び方も出来るかなと思います。なんていうか、スルメみたいな噛めば噛むほど奥がある、そんなアクションゲームを目指して作りました。
―― 本作の開発で特にこだわったところは?
大島 アクションゲームですので、やはり一番こだわったのは80種類以上のアクションです。正直言うと、そのせいでマップ作りもすごく大変で、通常の何倍も苦労をしました。具体的には、「向こうにバランスタチューが見えるんだけど、あれはどうやって取るんだろう」と思わせる設計などですね。どんな衣装で取れるのかや、プレイヤーのテクニックだけで取れるのかなど、そのあたりのバランスを取るのが非常に難しかったです。
↑プレイヤーはステージのいろんな場所にあるバランスタチューを集めていきます
―― 本作はプラットフォーム・アクションゲームですが、ライフやゲームオーバーの概念がないですね。ワンダーワールドな心象世界だからでしょうか?
大島 とにかくトライ&エラーを早くスムーズにさせたいというのが一番大きいかと思います。
藤本 そうですね。プレイヤーにミスをさせることに重きをおいているのではなくて、謎を解いてもらいたいという考えからです。「バランスタチューを取るためにはどうやって取るんだ?」という謎をしっかり解いてもらいたいというところに重きを置いています。
―― プラットフォーム・アクションゲームとして本作はバランスタチューを集めていくことが目的だからですかね?
藤本 あとは12章を全部クリアして、最終的に大きなお話に繋がっていくところまで、全プレイヤー、老若男女、全世界の人にちゃんとゴールしていただきたいという気持ちもあります。難易度の高い、いわゆる「死にゲー」みたいな形ではなく、できるだけたくさんの方に最後までプレイしていただいて、『バランワンダーワールド』というゲームは何を言いたかったのかというところを感じ取っていただきたいです。
―― 本作は謎解き的な仕掛けが多いなと感じました。
大島 パズル要素ということですかね? アクションゲームというのは「エネミーを倒す要素」「アスレチック要素」「パズル要素」、大きく3つの要素を散りばめて作ります。その中でも「パズル要素」が多く感じるというのは、80種類以上ある衣装の数が影響しているのかなと思います。
藤本 「この衣装の力ならあのパズルが解けるかもしれない」という衣装をゲットした時の喜びや、「これで先に進めるかもしれない!」という気付きが本作の楽しい部分でもあります。
↑第6章アクト1。ここでは歯車が攻略のポイントになっています
―― 本作はミュージカルをモチーフにしたゲームということで、ステージ中には踊っているキャストがあちこちにいますね。プレイヤーが近づくと消えてしまうのですが、どうしてでしょうか?
↑扉の先に待っているキャストたち。もう少し近づくと…消えてしまいます
大島 これは、ちゃんと説明しないと誰もわからないかもしれないですね。各章の心象世界というのは、心のバランスを壊した人が自分の殻に閉じこもった状態の世界なんです。その一番奥で、自分自身がボスになってしまっています。その手前である、アクト1とアクト2の範囲は、まだその人のポジティブな気持ちがわずかに残っている状況なんです。
↑キャストはいろんなステージのいろんなところにいます
―― そういうことだったんですか!
大島 心のバランスを壊してしまった人の中のどこかに「空を飛んでみたい」とか、「絵を描きたい」とか、いろんなポジティブな気持ちが残っていて、そのポジティブな気持ちが具現化したものがあの近くに行くと消えてしまうキャストたちなんです。本作はキャストの持つ能力を衣装として借りて、心を解放していくような形になっているのですけど、プラットフォーム・アクションゲームなのでキャストたちが敵に見えてしまって(苦笑)。第1章で言うと、農夫のホセというおじさんがデカデカと登場します。初めてプレイする方の中には「すげー敵がいる」って思う方がいると思うんですが、近づいたらふわっと消すことによって、彼らは敵じゃないよというのを伝えたかったのです。
↑こちらが第1章アクト1冒頭です。デカっ! 近づくと消えてしまいますが、ステージを進むといろんな場所に姿を現し、プレイヤーを導いてくれます
『バランワンダーワールド』の物語の作り方
―― 本作に登場する12の物語はどのように作られていったのでしょうか?
大島 まず、いろんな人々の悩みみたいなものを全部洗いだしていきました。推理作家の川崎草志(※5)さんという方と一緒に、ストーリーとなるエピソードをどんどん挙げていくんです。だけど、悩みによってはあまりにも内容が重すぎて、ゲームでせっかく気持ちよく遊ぼうと思っているのに辛くなってしまったり、同じ経験をしてしまった人にとっては遊べないということにもなりかねなくて。
※5 過去にセガ・エンタープライゼス(現:セガ)に在籍していたことがある推理作家。代表作は「長い腕」(2001年)、「呪い唄 長い腕II」(2012年)など。
―― リアリティを出し過ぎないようにしていったんですね。
大島 はい。そういったことも踏まえながら、テーマを練っていきました。その中から、あまり重すぎない悩みを選んでいき、それに肉付けするように川崎さんに物語を考えてもらいました。それをいただいて、今度はそれをビジュアルでどう伝えるかの検討などを私のほうでやっていきました。だから、イラストレーターのようにまず絵を描いて「この子はこんな性格の子だから物語はこうしよう」という作り方ではないんですよ。描きたいテーマから人物像を先に作るので、人物像の制作にかなり時間を割いた感じです。
―― 12の物語を12人に落とし込む過程はどんなふうにやっていったんですか?
大島 もうこれでいけそうと思った時点で決めていく感じです(笑)。一体一体作るうえで何案か出して、その中から選ぶ感じですね。ところで、体験版をプレイしてみて、第1章のおじさんってどう思いましたか?本作の最初に登場させたキャストをおじさんにしたの、実は私なんですよ。彼は最初からおじさんだったんですが、それを第1章にすることに社内のスタッフから反対されたんですよ。でも、第1章からおじさんキャラを登場させると、ゲームの第一印象としておじさんが強く残るじゃないですか。カッコいいお兄さんでもキレイなお姉さんでもなくて、どこにでもいるおじさんにすることで、お客さんを選ばず間口を広げられると思って、あえておじさんでいくことにしました。
―― 第2章の「イルカとダイバー」も、生き物と人間の距離感がよく現れていますね。
大島 女性が病院で寝ていて、ゴミ箱にイルカと一緒に撮った写真が捨てられているというシチュエーションがまず浮かんだんです。これだったら彼女に何が起きたのか、そしてその心情を言葉なしでも伝えられるかも、と。それを膨らませていきました。
―― このポスターアートはどなたが描かれているのですか?
藤本 アーゼストさんのスタッフの遠藤(悠乃)さんが描かれています。
大島 遠藤は弊社所属のデザイナーなんですけど、彼女はすごくジャパンな感じの絵を描くんですよ。この各章のポスターアートも、遠藤が描いています。
―― 大島さんはご自身の描く絵をどう思われているんですか?
大島 私は、どちらかというと日本人には「ちょっと外国人っぽいね」と言われて、海外の方には「日本人ぽいね」と言われる絵を描きますね(笑)。本作ではよりジャパンな要素を強く入れたかったので、イラストのフィニッシュ作業はほとんど遠藤にやってもらっています。そうすることで、より遠藤の良さや彼女の力を使い切りたいと思ったんです。なので、私が描いたラフはすごい雑に描いています。
―― そこから膨らませるのがデザイナーの仕事だと思いますし、ラフ画はとても大事だと思います。
大島 いつもそんな感じなのですが、誰かに任せたくなるんです。可能性のある人に育ってほしいと思うし、その人の良さでまた新しいキャラクターが生まれるんじゃないかって思って。全部自分でやりたいというよりは、いろんな人と協力しながら作っていくというのが私の理想の作り方になっています。
↑大島さんが描いた本作の初期デザイン案。ニンテンドードリーム5月号に掲載している連載「キャラかみ」(P44)では、他にも多数のラフイラストと大島さんによる解説コメントを掲載しています。ぜひあわせてご覧ください!
藤本さん&大島さんに一問一答!
編集部から藤本さん&大島さんに気になることを聞いちゃいました!
―― 好きなキャラクターは誰ですか?
藤本 僕はもう断然バランです。いい人なのか悪い人なのかわからないミステリアスさや、掴みどころのない感じがすごく惹かれますね。
大島 藤本さんがバランって言っちゃった(笑)。
藤本 僕、変えましょうか? バランの帽子を被ったティムでもいいですよ(笑)。
大島 ではランスで(笑)。ランスは見るからに美形&悪そうなキャラで、きっと「過去にひどいことがあったのかなぁ」って思うはずです。そんな風に思ってもらえたら嬉しいなぁ。
―― 本作の12章の中から好きな章を1つ選ぶとしたら?
藤本 僕は第4章の「風になりたい少年」ですね。そこに出てくる衣装を使って、浮きながらマップの遠いところまで行けたりして、マップ全体が本当に上手いことデザインされているので、プレイしていてすごく楽しかったです。
↑動画は編集部によるもの。第4章の心象世界は気持ちいいアクションがいっぱいあります
大島 私は第1章ですね。冒頭に普通の農場が「ばばば」っと牢屋的な城壁に変わり、お前たちは入らせないぞと言わんばかりに変化するところとかが好きです。一番最初のステージという事で、どうやってこのゲームの特徴を出すかというところで試行錯誤もたくさんしたので、そういうのを含めて、第1章は思い入れが強いですね。
↑第1章の冒頭ムービー。本作の冒険はここからはじまります!
―― 80種類以上ある衣装の中で一番好きな衣装はどれですか?
大島 「ラッキーエッグ」という、タマゴの殻をかぶっている衣装ですかね。ジャンプしたり、段差にぶつかると、タマゴが割れて、衣装が脱げちゃうんですよ。要はちょっとでも変なことをすると衣装を失っちゃうんです。だけどちょっと遠いところにあるドロップを全部吸い寄せる力があるんです。なんとか衣装を壊さずにクリアしようという、そういう気持ちで遊べるというところがいいです。ただ…これはゲットするのが難しくて、なかなか見つけにくいです。あともう1つあるのですが、それは楽しみを損ねてしまうのが嫌なので衣装名は伏せますが、入手することがとても難しい衣装の1つです。その代わり、凄く自由度が高くて気持ちの良い衣装ですので、ぜひ探して体験して欲しいですね。
藤本 僕は「アイアンアポロ」ですね。最近話題になっている火星に無人機が到着した話があるじゃないですか。「アイアンアポロ」はその名の通り、宇宙飛行士的な衣装なんです。ロケット型の宇宙飛行士の衣装になっていて、歩くときは月の上を歩いているような重力を感じさせるスピードで、ボタンを押すとロケット噴射でゴオーっとゆっくり上昇するんです。地球からロケットが発射されるときのあのスピード感が再現されて、ゴゴゴゴって足元から炎が出てゆっくり上がっていくんですよ。その重力の感じと、ロケットの感じが両方合わさった衣装です。ただ、操作としてはすごくやりにくい…かもしれません。この衣装も、なかなか入手が難しい類です(笑)。
―― 追加コンテンツなどの予定はありますか?
藤本 ないですね。ただ、ソフトと同日に小説「GAME NOVELS バランワンダーワールド ~謎のマエストロと不思議な劇場~」が弊社から発売されます。日本では紙媒体、海外では電子書籍ですね。ゲーム内で細かく語られていない部分などが描かれていますので、そちらが追加コンテンツに近い立ち位置かもしれませんね。本作で伝えたかったことがいろいろな角度から見られると思いますので、ぜひ小説も読んでいただければと思います。
GAME NOVELS バランワンダーワールド
~謎のマエストロと不思議な劇場~
ジャンル:小説
メーカー:スクウェア・エニックス
発売日:2021年3月26日
販売価格:1000円(税込)
サイズ:小B6判
(口絵16ページ+本文264ページ)
https://store.jp.square-enix.com/item/9784757569232.html
『バランワンダーワールド』開発者インタビュー、いかがだったでしょうか?
製品版では、本日よりアップデートパッチが配信されています。
体験版のフィードバックを受けて、移動の操作性やカメラ追尾の調整、そのほか難易度に関する調整が行われているとのこと。
製品版を遊ばれる方は、パッチを当てて遊んでみてはいかがでしょうか?
謎のマエストロ・バランが、あなたのお越しをお待ちしています!!
バランワンダーワールド
ジャンル:ワンダーアクション
メーカー:スクウェア・エニックス
発売日:2021年3月26日
価格:7678円(税込)
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』インタビュー
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』2Dモード開発者インタビュー(2020年2月号より)
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』2Dモード開発者インタビューSPECIAL(2019年12月21日掲載)
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』開発者インタビュー(2019年11月号より)
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』3DS版開発スタッフインタビュー(2017年9月号より)
『ドラゴンクエストⅩ オンライン』インタビュー
Ver.4.4の物語はこうして作られた!青山さん&安西さんインタビュー
青山さん&齊藤さんプロデューサーバトンタッチインタビュー
[NDW特別企画]
『ドラゴンクエストXI』内川毅 ×『モンスターハンター:ワールド』徳田優也 同世代ディレクターが語る「モノづくりの原点」
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