『大逆転裁判』“巧ディレクターの出会いのコラム” 第5回「巧さんと逆転裁判」(2016年1月号より)

『逆転裁判』『大逆転裁判』シリーズの生みの親であるカプコンの巧舟さんが、『大逆転裁判』発売時にニンテンドードリーム誌上で連載していたコラム「タクミさんのササヤカな冒險」を再掲載。
巧ディレクターの“出会い”をテーマにした全6回、どうぞお楽しみください。

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。

第1回 巧さんと“物語”
第2回 巧さんと“ホームズ氏”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
最終回 巧さんと“逆転裁判 その2”


第5回 巧さんと“逆転裁判”

 こんにちは。今回のお題は…いよいよ《逆転裁判》。思えば第一作を作ったのは、なんと今から15年前。当時「10年経っても遊べるゲームにしたい!」と思って制作していたものですが…まさか実際に15年も経った今、こうしてこんな文章を書いていることを考えると…本当に、今まで応援してシリーズを支えてくれたユーザーのみなさんには感謝のほかありません。…とはいえ。最近、イベントなどで若いヒトから「お母さんがファンでした!」なんて言われることもあったりして…いやはや、トシをとったなあ…とも思ってみたり。

  ぼくがカプコンに入社したのは、それよりさらにさかのぼること5年ほど前…理由はもちろん、ミステリーのゲームを作りたかったから。ミステリーの仕事をしたかったのなら、小説やドラマの世界は考えなかったのか、というと…もちろん、考えました。とはいえ「作家になる!」なんて大それたコトは最初から考えもつかず…とりあえず大手出版社とテレビ局を軒並み受けて、軒並み落ちました。そんなおり、前回登場した大学の友人から「ゲーム業界」という道を目の前にひらかれ…ブキミなほどすんなり、カプコンに受かったという…これも運命だったのかしら。とにかく、こうして曲がりなりにも…いや、そこまで曲がっているワケでもなく…ミステリーの仕事をするという夢はかなったので、結果的にはベストな選択だったのかなと思っています。そんなワケで、『逆転裁判』第一作は…ぼくにとって“ルーツ”というより、当時「これを作るために29年生きてきたのカモ!」というレベルの、トテモ思い入れの深いゲームだったりします。

 『逆転裁判』の制作がスタートしたのは、忘れもしない2000年の9月のコト。それまで、学校のコワいウワサのゲームを作ったり、恐竜が襲ってくる恐ろしいゲームを作ったり…ミステリーとは縁のないゲームを作っていたのですが…ある日「次は半年やるから、好きなゲームを作っていいよ」というありがたいコトバとともに、ぼくを含めて7人という、小さなチームを作ってもらったのです。当時、ぼくが所属していた部署では、若手育成の目的で、小さなプロジェクトをたくさん立ち上げてみよう! という空気がありました。今、思えば、半年で7人で完全オリジナルのコンシューマーゲームを作るなんて、殺人的…いやむしろ殺人事件と言ってもいいスケジュールだったような気もするのですが…当時はそんなことよりも、「これは恐らく最初で最後のチャンス!」と燃えていました。仲間となった6人のメンバーも、みんな若手だったので「限界」や「常識」の概念が固まっておらず、特に疑問も抱かず、ものすごいエネルギーと団結力と情熱で作りあげたのでした。(…今となっては、当時の“生き証人”はすでに社内で自分ヒトリになってしまったので、多少の想い出の美化はバレないはず…)

 途中でメンバーがヒトリ抜けちゃったり、『バイオハザード』チームから掛け持ちで助けてもらったり、イロイロあって制作期間は当初の半年から10か月に延長しましたが…全身全霊でがんばったのは間違いなく、あのときの一年が、その後の自分のゲーム作りの基礎になっているのも間違いないと思います。

 さて。前回も書いたとおり、ぼくは小学生のころ“アドベンチャー”というゲームのジャンルの誕生に立ち会い、衝撃を受けた世代。その後しばらくゲームの世界から離れていたのですが…大学生になって戻ってみると、アドベンチャーゲームはずいぶんさま変わりしていました。コトバをひとつひとつキーボードで入力していたのが“コマンド入力”というボタン一発の方式になり、物語を進めるために画面内をくまなく調べて、選択肢から行動を選ぶという、わかりやすいスタイルになっていました。すでにミステリーを題材としたゲームもたくさんあって、“大のミステリー好き”としては、「○○殺人事件」的なタイトルに次々と飛びついてみたのですが…正直なところ、個人的には…出会いが悪かったのか、あまりピンと来ませんでした。いろいろ理由はありましたが、一番の理由は「たしかにヒトが死んでるから“殺人事件”ではあるけど、これは自分の好きな“ミステリー”ではない」(あくまで個人の所感)というもの。ゲームシステム面、ストーリー面の両方に感じた“違和感”こそが、「自分が面白いと思うミステリーゲーム」である《逆転裁判》の出発点だったような気がします。

 ストーリー面はおいといて、当時ぼくが作りたかったのは、「プレイヤーが推理することで物語が展開する」…“実力主義”のゲームでした。そのために必要なのは、自分の推理を、ゲーム機のボタンを使って直感的に入力するシステム。選択肢では選ぶだけだし、一文字ずつ推理を入力するのはメンドウだし正誤判定も難しい…そこでたどりついたのが「ハンニンと対決する」というスタイル。ハンニンの逃げ口上の中にムジュンを探り、それを証拠品を使って暴き、追いつめる…「どこに」ムジュンがあり、「なぜ」ムジュンしているか…選択が立体的になることで、そこには必ず《思考》が発生するはず…とまあ、そんな感じで、ゲームのイメージが固まっていきました。そういえば…ぼくが最初に書いた企画書では、主人公の職業は《探偵》でした。でも、なんだか今までにない新しいゲームが生まれそうなのに、相変わらず《探偵》では、話題にもならず、埋もれてしまうのではないか…そこで、フト浮かんだのが…「相手のウソを暴く、探偵以外の職業はないかしら?」という疑問。そこでヒラめいたのが《弁護士》だった…と。

 や。さすがに、この話題を書くと長くなりますね…ということで、続きはまた、次回。

逆転裁判10周年特集(ニンドリvol.203)の際、巧さんに見せていただいた初代『逆転裁判』の企画書。これがすべてのはじまりにして原点!


 

第1回 巧さんと“物語”
第2回 巧さんと“ホームズ氏”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
最終回 巧さんと“逆転裁判 その2”

 


関連リンク
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險- 公式サイト
大逆転裁判2-成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式サイト
逆転裁判シリーズ 公式サイト


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