『大逆転裁判』“巧ディレクターの出会いのコラム” 最終回「巧さんと逆転裁判 その2」(2016年2月号より)
『逆転裁判』『大逆転裁判』シリーズの生みの親であるカプコンの巧舟さんが、『大逆転裁判』発売時にニンテンドードリーム誌上で連載していたコラム「タクミさんのササヤカな冒險」を再掲載。
巧ディレクターの“出会い”をテーマにした全6回、どうぞお楽しみください。
第1回 巧さんと“物語”
第2回 巧さんと“ホームズ氏”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
第5回 巧さんと“逆転裁判”
最終回 巧さんと“逆転裁判 その2”
こんにちは。これまで5回にわたって、ぼくの“ゲーム作り”のササヤカなルーツを語ってきたこのコーナーも、今回が最終回。最後のお題は、やはり『逆転裁判』…その後編ということで。
前回、どこまでお話ししたか、振り返ってみると…《実力主義》というコンセプトから出発して“犯人と対決してムジュンを暴く”というゲームシステムのアイデアが生まれ、そこから“ムジュンを暴くプロ=弁護士”という発想から「主人公、弁護士にしよう!」…となったところまで。
さて。いったん“弁護士”というアイデアを思いついてみると…いろいろな要素が一瞬にして収まるべきところへ収まったような気がしました。「ミステリーの面白さをゲームで表現するなら、法廷こそが最適な舞台」…と、これが当時、ぼくの結論だったのですが、その考えは今も変わりません。法廷は、ゲームの舞台として、まさにピッタリだったのです。冒頭陳述から始まり、証人尋問、反対尋問、判決…と、すべては法律という“ルール”によって進行する“試合”のよう。審判としての“裁判長”がいて、選手としての“検事”“弁護士”がいて、場を盛り上げる観客としての“傍聴人”がいて…まさにスポーツ。…もしかしたら、人類が生みだした《裁判》という偉大な司法のシステムは、2001年、『逆転裁判』が誕生するために用意された壮大な伏線だったのではないのか! …と当時、思ったか思わなかったかはともかく…“コレは、ちゃんと作れば絶対面白くなる!”と確信しました…まあ、たいていのゲームは、ちゃんと作ればだいたい面白くなるものですが。
しかし。《裁判》という題材は“よいところ”ばかりではなく、“不利なところ”も多々ありました。最も不利だったのは、そのイメージ。「難しそう」「堅苦しそう」…最初に作った企画書に対する周囲のリアクションは、おおむねそんな感じ。そこで、登場するキャラクターを徹底的にキョーレツにして、法律の知識は一切いらない…ムカつくアイツを言い負かしヘコませる、あのサワヤカなキモチだけお届けする…という明確な方向性が見えてきたのです。
そんなわけで、『逆転裁判』が完成したときの、自分自身の正直な所感としては…“これは、広く100万本売れるゲームではないかもしれないけど、好きなヒトには、深く愛してもらえるのではないかしら”…という感じでした。そして、『逆転裁判4』から6年の月日を経て、新しい“逆転”を作ることに…言うまでもなく、それが今回の『大逆転裁判』ですね。
じつは、『逆転裁判』の企画を考えていた頃、“裁判”のほかにもうひとつ、準備していたアイデアがありました。それは…「シャーロック・ホームズの相棒になる」というゲーム。ホームズさんの相棒といえば、ご存じの方も多いかと思いますが、“ワトソンさん”。実は、本当のホームズさんは、事件現場で好きなコトを好きなときに好きなように放言するだけで、当たるワケがない。それをうまいぐあいに“名推理”に仕立てあげて、なんとか事件を解決に導き、いい感じに《ホームズさん=名探偵》というイメージを成立させていたのは、なんと裏方のワトソンさんでした…という設定のゲーム。じつはこれ、《名探偵の推理》=《証人の証言》の《マチガイを指摘して真相に導く》=《ムジュンを指摘して追いつめる》…ということで、見た目は違うけど、その本質的な図式は同じなんですね。あえて主人公は《名探偵》ではなく、《助手》でなければならないのがミソです。…ここだけの話、実は『ゴースト トリック』のゲーム部分も、《登場人物の4分間の行動を修正して運命を変える》という、これまた『逆転裁判』と同じ図式で構成されており…どうやらこれは、ミステリーのゲームにおける黄金パターンのようです。個人的に、大きな発見だったな…と思ってみたり。
ともあれ。『逆転裁判』第一作を作ってから10年以上経って、新しい“逆転”を…というお題をもらったとき、この《ホームズさんの助手》というキーワードが、ひさしぶりに頭を横切ったのです。いつの日か、このアイデアでゲームが作れたら…と思っていたのですが、この機会に、ついでに実現してしまおう! ということで、企画書を作り…実はこの時点では、「ホームズさん本人に登場してもらうのはムリかな」とも思っていたのですが…なんだかカプコン的に“やってみよう!”ということになり…ミステリーの神様にひとしきり感謝して、大探偵に“降臨”していただいたという…
ゲーム面では、ホームズさんの推理や英国式法廷…陪審員といった新しい要素、またシナリオ面でも、これまで自分が“逆転”でやらなかったことをやってみようと、とにかく『大逆転裁判』では、さまざまな挑戦をしました。カプコンに入社してから数えて20年、“逆転”を作り始めてから数えても15年…長いながい年月、ゲームを作ってきましたが…わかったのは、「こういう時はこうすればよい」という“スマートなやりかた”など存在しないということ。過去の自分が全力で作ったゲーム群は常に“脅威”として背後から追いすがり、それに恥じないものにするためには…なりふり構わず、あらゆる手段を使って作りきるしかない…そんな毎日です。そんなとき、たまに振り返り、自分を支えてくれているのが…いわゆる“ルーツ”なのかな…などと、最後に“それらしい”まとめをしたところで、この連載もオシマイです。
近い将来、みなさんによいカタチでご挨拶できる日が来ることを願って。それでは、おつきあいありがとうございました!
第1回 巧さんと“物語”
第2回 巧さんと“ホームズ氏”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
第5回 巧さんと“逆転裁判”
関連リンク
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險- 公式サイト
大逆転裁判2-成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式サイト
逆転裁判シリーズ 公式サイト
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