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殺し屋が「ゲーム内ゲーム」で大暴れ!? 須田剛一さんに聞く超個性派な世界の造りかた (ニンドリ2017年12月号より)

『トラヴィス ストライクス アゲイン:ノーモア★ヒーローズ』の配信開始を記念して、NDWではニンテンドードリーム2017年12月号掲載の須田剛一さんインタビューを復刻掲載。
 


ディレクター 須田剛一さん
[PROFILE] 株式会社グラスホッパー・マニファクチュアCEO。『ノーモア★ヒーローズ』(Wii他)シリーズをはじめ、『花と太陽と雨と』(PS2、DS)、『killer7』(ゲームキューブ)等でディレクターを務める。

トラヴィス復活のいきさつ

—— 今回は公開されているイラストを解説して頂きつつ、『TSA』並びに『NMH』シリーズについていろいろとお聞きしたいと思います。まず本作ですが、時系列としてはシリーズのどの位置になるのでしょうか?
須田 世界的にはつながっていまして、『NMH2』の7年後の物語ですね。今回は殺し屋同士の戦いではなく、ゲーム機の中に入っていき、ゲーム内ゲームで戦う…という、いつもと違う挑戦をしているタイトルなので、ナンバリングタイトルとはまた別の作品になります。
—— 殺し屋同士の戦いではない、ということは、このバッドマン(イラスト1)も殺し屋ではないと…?
須田 バッドマンに関しては、殺し屋かもしれないですね(笑)。
—— 「トラヴィスに娘を殺された」らしいですが、バットを持ったバッドな女性キャラが『NMH』にもいましたよね。
須田 この女性の写真(イラスト2)はバッドマンの車の横に置いてあったものですが、手にビールを持ってますしね。まあ、そういうことなんじゃないかなぁと思っていただければ(笑)。
—— 『NMH』が復活したということは、まだまだトラヴィスの活躍を見せたいという思いがあったのでしょうか。
須田 ゲームの続編とはまた別に、トラヴィスが今何をしていて、次はどんな戦いに挑むのか、それとも戦いはやめているのか…といったようなことが気になっていましたね。トラヴィスに関しては、キャラクターというよりは自分の分身みたいなところもちょっとあって、共感覚的なものがあるんですよ。
—— 今回のトラヴィスはトレーラーハウスに住んでいるようですが(イラスト3)、須田さんにも「トレーラーハウスで暮らしてみたい!」というような思いが…?
須田 トラヴィスが自分そのものというよりは、彼への「憧れ」ですかね。トレーラーハウス暮らしも1回やってみたくはありますけど、あれも大変みたいですよ(笑)。トラヴィスの場合はセミリタイア後の生活である、ということを匂わせてはいますけど。で、また戦いの渦に巻き込まれるんですけど、それがなぜか殺しの世界じゃなくて、ビデオゲームの世界だったという。この辺りの展開は自然に浮かんできましたね。
 

幻のゲーム機「デスドライブマークⅡ」とは?

—— ビデオゲームの世界ということは、『NMH』のようなオープンワールドの街が舞台ではないのですね。
須田 はい。6本の異なるゲームが舞台で、それぞれのゲームごとに世界・ステージがあるという感じです。
—— そのゲーム機が、このデスドライブマークⅡ(Death Drive MK-Ⅱ)というわけですね(イラスト4)。
須田 これは実際は発売されなかった伝説のゲーム機という設定です。デバイスを付けると、そのままゲームの世界に入ってしまうという。
—— ぱっと見では、とてもゲーム機には見えないですよね(笑)。
須田 ゲーム機としてはやりすぎてしまったハードですね。ドクター・ジュヴナイルというキャラクターがハードを含めてすべての設計思想を組み上げていて、トラヴィスが入っていくゲーム内ゲームも彼女の世界観になっています。
—— いろいろ拡張器具を付け加えていった結果こうなった…みたいな雰囲気もありますね。「スーパー32X」を装着したメガドライブ〈※註1〉のような。
須田 まさにそうですね。このたたずまいは(笑)。この後ろの辺りにも、まだまだ外部拡張で差し込めたりしそうですし。僕、任天堂さんの拡張系も、大好きなんですよ。NINTENDO 64のコントローラも拡張できたじゃないですか。
—— 振動パックのほか、ゲームボーイのカートリッジと連動できたりといろいろありましたね。
須田 あのガジェット感、最高ですよね! ああいうギミックが面白いなぁと思って、取り入れたというのはありますね。
—— このデスグローブ(DeathGlove)(イラスト5)も、外部拡張、ギミックの面白さが如実に表れたデザインをしていますね(笑)。
須田 デスドライブマークⅡの左右にこのコントローラが付いているんですね。これがカチャっと開くと、グローブ状になって、左右の手どちらにも付けられるという。
—— なるほど。ではこちらの黒いデスグローブ(イラスト6)は、ゲームワールド内でのイメージですか?
須田 その通りです。で、これを付けてゲームの世界にフワッと入って行くと、ゲーム内のトラヴィスにはこれが装着されているという感じです。



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

〈※註1〉メガドライブはセガ製のゲームハード。周辺機器スーパー32Xを取り付けることで32ビットマシンとして使用できた。

「ビデオゲームの歴史」をなぞるゲーム内ゲームに

—— 具体的にどのようなゲーム内ゲームが登場するかは、今後明らかになっていくということですね。このボール状のもの(上イラスト7)が、いわゆるカートリッジですか?
須田 そうです。デスボールと言いまして、これをあの壷の中に入れると、キュルキュル回ってゲームの世界に入れるという。
—— 呪術的というか、有機的な…。そういえば、須田さんが手がけた『LET IT DIE』(PS4)にも似たようなゲーム機が登場していましたね。
須田 そうですね。『LET IT DIE』に出ていたデスドライブ128(イチニッパー)の先駆的なものです。デスドライブマークⅡは発売できなかったハードなんですけど、これで行われたいろんな実験が128に活かされているという。ちなみにデスドライブマークⅡは、ベクタースキャン〈※註2〉専用ゲームなんですよ。いろいろチャレンジブルな、「バーチャルボーイ」のような良さも入っているマシンです。
—— ベクタースキャンというと、光速船〈※註3〉のような感じでしょうか?
須田 そうですね、こちらはカラーベクターですけど。
—— ファミコンよりさらに前の、ドット絵ですらなかった時代ですよね。
須田 ブラウン管ではない、専用のモニターを使っていましたからね。今のゲーム機であの映像を再現するのは、逆にすごく大変だと思います。僕らもベクタースキャンの勉強をしたり、UI周りもベクタースキャンマニアのデザイナーさんに「それらしくできないか」と話したりしています。
—— 須田さんの中でも、ベクタースキャンのゲームは思い出深いものだったのでしょうか?
須田 小学生のころでしょうか、『スペースインベーダー』が出る前からあった気がするんですよね。
—— 1980年ごろには『アステロイド』〈※註4〉などが出ていました。
須田 そうですね、あの辺ですよ。あれを見た時は、もう…たまらなかったですよ。もう、脳がおかしくなるくらい、吸い寄せられていって「未来がここにある!」って感じでしたから。子供はビームみたいに発光するものが大好きですから(笑)、もう、ずーっと遊んでましたね。なかなか、かあちゃんから小遣いもらえなくて。当時は100円…いや、1プレイ200円のゲームもありましたっけね。
—— そうしたご自身のゲーム体験も、いろいろと反映されていると。
須田 「ビデオゲームの歴史」みたいな視点は、どこか根っこになければいけないなと考えています。ゲーマーであるトラヴィスの視点というよりは、ドクター・ジュヴナイルがなぜデスドライブマークⅡを作ったのか、という…。マークIIがあるなら、Iもあるわけですし。その辺りの設定も作っているところです。

〈※註2〉描画方式の1つ。ドット絵と比べるとなめらかな線を描画できるなどの特徴があった。〈※註3〉1983年に発売されたベクタースキャン方式のゲーム機。〈※註4〉アタリ社製のモノクロ・ベクタースキャンのシューティングゲーム。

「須田ゲー」の歴史とアクションへの転換

—— 須田さんがこれまでに手掛けられたゲームの歴史を振り返ると、『ファイヤープロレスリング』〈※註5〉に始まり、個性的な世界観のアドベンチャーから『NMH』シリーズのようなアクションまで、本当に幅広いですよね。
須田 『ファイプロ』はデビュー作でヒューマンに入るきっかけにもなった作品ですが、そもそもプロレス自体が好きだったというのがありますね。今プロレスというジャンルがまた海外でも人気になって、『ファイプロ』というブランドも復活しましたが、そういったものにデビューのときに携われたのは、すごくありがたいなと思っています。
—— 近年は特に、アクションゲームを手掛けられていることが多い印象です。
須田 なりゆきや、反動だったりとかもあると思うんですけど…、アドベンチャーからアクションゲームに移っていくときは、自分の中で意識はしていきました。厳密には『killer7』〈※註6〉からです。
—— ゲームキューブで発売されたアクションアドベンチャーですね。
須田 やはりアクションゲームって、企画だけではなくプログラマー、それからデザイナーもそうなんですけど、そうとうノウハウがないと作れないんです。グラスホッパー・マニファクチュアを立ち上げた時は、やはりアドベンチャー経験者のスタッフが多かったものですから、まずアドベンチャーというフォーマットの中で、新しいゲームをどうやって作ろうかと考えました。
—— なるほど。
須田 それが工数やゲームボリューム、各スタッフの実力も自分の測定も含めて、いちばんマネージメントをしやすかったのもあるんですよね。最初に作った『シルバー事件』(PS)から徐々にアクションに近寄ろうとしたのが、「3Dのオープンスペースで遊ぶゲーム」である『killer7』です。スタッフ全体のスキルの底上げを含めて経験を積み、最終的にはアクションゲームを作れるスタジオにしようというイメージは持っていましたね。
—— アクションゲームを作っていこう、と意識されたきっかけは?
須田 まあ、自分がアクションゲームを好きなんですよね、やっぱり(笑)。
—— 任天堂タイトルでも、『マリオ』シリーズをリスペクトされていますし。
須田 『マリオ』シリーズはほぼクリアしてますよ。『スーパーマリオ3Dランド』も、3時間かけても取れなかった1個を除けば、スターメダルはコンプリートしましたし…。『ゼルダ』シリーズは必ず全クリしますね、『ブレス オブ ザワイルド』のコログ族は900、全部集め終わりました。
—— 相当やり込まれてますね! 『TSA』の“ゲーム内ゲーム”も、今まで須田さんが手掛けられてきたいろいろなゲームのジャンルが詰め込まれていると…?
須田 そううまくなればいいなと思っているんですけど、全然違うモノになるかもしれません(笑)。
—— プロレスあり、アクションあり、アドベンチャーあり…のような?
須田 プロレスはないんですよ(笑)。でも、摩訶不思議な世界観は作れていると思います。
—— 逆に、今回のゲーム内ゲームで初挑戦のジャンルもあるのでしょうか?
須田 あると思います。ただ、基本はトラヴィスが敵を倒していくスラッシュアクションゲームです。いろいろなゲームの中にトラヴィスが入っていき、その成分を含んだ何かしらの遊びが用意されているといった感じです。

〈※註5〉かつてヒューマンから発売されていたプロレスゲームシリーズ。現在もスパイク・チュンソフトから新作が展開中。〈※註6〉カプコン発売の多層人格アドベンチャー。殺し屋の主人公、過激かつスタイリッシュな演出など『NMH』シリーズとの共通点も。

トラヴィスは「インディーズゲーム」好き

—— インディーズゲームとのコラボレーションもあるとお聞きしましたが…?
須田 基本はTシャツのコラボですね。トラヴィスはゲーマーですし、インディーズゲームもSteam〈※註7〉でばりばり遊んでいると思うんですよ。で、彼の好きなゲームがTシャツとして登場すると。
—— なるほど、『NMH』でもTシャツのコラボはありましたね。
須田 ただ、前よりはさらに深いコラボをしたいなと思っているので、ゲーム内ゲームの世界になるかはまだわかりませんけど、キャラクター同士のコラボも考えています。こちらはTシャツよりは絞った作品数になるでしょう。
—— ところで、今作で音楽を手掛けているのは?
須田 KAZUHIRO ABOさんとDJ1,2(ワンツー)さんの2人組のDJユニット、「SUPERCOMBO」と組んで音を作ろうと思ってます。スーパーコンボというだけあって、やっぱりゲームが好きな方たちで。
—— 公開されているプロモーションムービーでは、ファンには懐かしい曲も流れていますね。
須田 プロモーションムービーのSEもそうなんですけど、SEに関しては昔グラスホッパーに在籍していた福田淳さん、今回も参加してくれています。内部外部を問わず、当時一緒に『NMH』を作っていたスタッフがけっこう集結していまして、この『TSA』の世界から新しい世界観を作っていこうという現場になっています。

〈※註7〉valve社が運営しているプラットフォーム。インディーズゲームを含む、多数のPCゲームのダウンロード販売を行っている。

操作は「Joy-Con1つ」でOK!?

—— システムについてもう少し詳しくお聞きしたいのですが、Switchならではの機能を活かした仕掛けなどはありますか?
須田 今はJoy-Con1個でプレイできるようにするためのチャレンジをしています。同時に、Joy-Conを2つ使ってなにかできるんじゃないかというのも含めての挑戦なんですけど。
—— Joy-Con1つというのは確かに、意外と見かけないですよね。基本は横持ちでしょうか?
須田 はい。少ないボタン数という制約の中で、どうゲームが作れるのかという挑戦ですね。今作は10人前後の少人数の規模ですけど、その制約の中でものを作りたいなとすると、理想的なサイズ感のチームです。
—— 『NMH』でのWiiリモコンのように、Joy-Conをビーム・カタナに見立てての操作はあるのでしょうか?
須田 そうですね、まずこれ(充電ポーズ。画面参照)は必須ですよね! これはもう、やらないと怒られるんじゃないかという。
—— ぜひ、HD振動で!
須田 リアルな振動を追求していけたらいいですね(笑)。
—— SwitchのJoy-Conですとか、ハードの特性を活かそうというところは、かなり最初の段階で考えられていたのでしょうか。
須田 『NMH』が復活するにあたって、非常に親和性の高いものがたくさんデバイスとしてありましたからね。任天堂さんのハードって、毎回「パンク」だな、と思っているんです。スペックや表現といったPCと同じような正統進化ではなく、遊び自体を進化させていき、誰も体験したことのないような新しい遊びを生みだす。今回も任天堂さんはすごい挑戦をされたなと。

『NMH』のはじまりとWiiリモコンの衝撃

—— そもそも1作目の『NMH』も、Wiiリモコンを活かすというところから始まったのでしょうか?
須田 もともとは、違うプラットホームで開発しましょうという話をマーベラスさんとしていたんですよ。ですが、当時の東京ゲームショウ(TGS)でWiiの発表があって、岩田社長がWiiリモコンを発表されたときに…あれを見た瞬間に、「こっちだ!」って思ったんです。
—— 初めてWiiリモコンが公開された、2005年のTGSでの基調講演ですね。
須田 もう、あのWiiリモコンがビーム・カタナそのものだったんですよ。いやもう、これでやるしかないでしょ! って感じで、他の選択肢も全部ふっとびました。で、すぐに当時マーベラスの社長だった和田さんと会場で会って、「もうWiiで決まりですよね」と、2人で確信めいたかたちでWiiに決めたという…。今でも鮮明に覚えてますよね。
—— これはいち『NMH』ファンとしての願いでもあるのですが、今回の新作を機に『NMH1』『2』をSwitchでも遊べるようにはなりませんか…?
須田 今の20代のゲーマーは、『NMH』を知らない世代かもしれないですね。『TSA』が発売される前に…後でもいいですけど、『NMH1』と『2』というゲームがあったということを、何かしら出せれば嬉しいですね。
—— 10年前は、年齢的に遊べなかった人もいるでしょうし。
須田 『NMH』は、日本では表現を柔らかめにしてCERO:Dで発売したんですけど、次に何かSwitch版が出せるなら、ちゃんとCERO:Z版にしたいですね。『NMH』シリーズはマーベラスさんとグラスホッパーの2社で作り上げたゲームなので、もちろん我々だけで決められることではないんですが、そういったこともできればいいなぁ、とは思っています。
—— 期待しています!
須田 もちろん『NMH』のナンバリングも作りたいですし、今作をヒットさせて『TSA』の2作目も作りたいんですよね。ブランド分けというわけじゃないですけど、『TSA』は『TSA』で展開していければなと。

読者へのメッセージ

—— 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
須田 ニンドリ読者の皆さんには、僕、グラスホッパーもそうですし、『NMH』シリーズも久々の登場になると思うんですけど、今回はSwitchで大暴れをします! これまでの血なまぐさい世界から、1980年代後半から90年代のゲーム機の世界ということで、ビデオゲームの歴史をなんとなく、なぞるような内容にもなっています。ちょっとレーティングがどうなるかわからないので、若い読者の皆さんには、こっそり遊んじゃダメですよ…と言いつつも、まず名前から覚えていただければと。『NMH』シリーズでしか遊べない雰囲気を持った、ちょっと他のゲームとは違うコアなアクションを楽しめると思いますので。
—— 本作以降も、さらなる『NMH』の展開が楽しみです!
須田 トラヴィスの目標の1つは『大乱闘スマッシュブラザーズ』への参戦なので、これが実現したら任天堂ファンの皆さんにももっと彼のことを知ってもらえると思います。桜井政博さんにもプレゼンします! 最近お会いできてないので、誌面を借りて「今度ご飯食べに行きましょう」とお伝えできればと(笑)。
—— (笑)。
須田 冗談半分、本気半分…いや本気80%くらいです! まあ、そのくらいトラヴィスがビデオゲームにおいて“他のヒーローはいらない”ってほどのキャラクターになっていってほしいなと思います。
—— 本日はありがとうございました!

関連情報
2019年1月21日(月)発売のニンドリ3月号では、トラヴィスとバッドマンがゲームの世界で共闘する『トラヴィス ストライクス アゲイン:ノーモア★ヒーローズ』(配信中)の注目ポイントをディレクターの須田剛一さんからのメッセージとともに掲載!

© Marvelous Inc. / Grasshopper Manufacture Inc.
© Marvelous Entertainment inc.
 

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