バディミッション BOND 開発者インタビュー #2 誌面上のランデブー
唯一無二。尖った個性で互いに研磨されてゆくキャラクターたち
BONDメンバーたち 4人の造形のヒミツ
—— 改めて見ても本当に個性バラバラな4人ですが、BOND4人としてなにかデザイン上でイメージするものなどがあったのでしょうか?
杉原 弊社ではキャラクターデザインを発注する際、テーマカラーやモチーフを設定するのが常なのですが、任天堂さんから「BOND4人は、シルエットでもしっかり差別化できるようにしたい」とのお話をいただきましたね。
中山 ルーク、アーロンに限らず、キャラクターを覚えやすくすること。見間違えたりしないよう、一目見て絶対に区別できることを、任天堂としてはデザイン上、大切にしました。真っ黒なシルエットに塗りつぶしても誰だかは必ず判別できる、そういうものを目指していましたね。手前味噌で大変恐縮なんですけども…コーエーテクモ(以下KT)さんと村田雄介先生にも、マリオ、ルイージ、ワリオ、ワルイージを見せて「例えばこんな風に差別化してほしい」と言っていた気がします(笑)。
—— 確かに…言われてみれば色合いもなんだか似てるような感じがしますね。
中山 そうですね。今思うと、案外共通点になっちゃう(笑)。モクマとチェズレイのテーマカラーについては、気づかないうちにワリオとワルイージからの影響を受けたかもしれないですね。黄色と紫にこだわっていたわけではないし、色指定のオーダーを任天堂からだしたわけでもないんですが(笑)。完全に別の世界線で生きているキャラクターたちですけど、ワリオ・ワルイージとモクマ・チェズレイが出会ったらどうなるだろう…と想像するとちょっと面白いですね。
杉原 これは村田先生からうかがったお話なのですが、少年漫画に出てくるキャラクターは、子供が見ても覚えられるよう、造形や個性が強調されていることが多いそうです。『BOND』のキャラクターたちにも、そういったわかりやすい特徴を出していきたいとおっしゃり、とても魅力的なデザインをご制作くださいました。たとえば、アーロンのファーの尖り具合や服の破け方などは、すごく特徴的ですよね。アーロンの名前を出さなくても、「トゲトゲで、ビリビリの人」といえば、誰のことかすぐわかると思います。
—— それぞれ2人組のバディが並んだことを意識しながら、キャラクターの方も造形をされていたのでしょうか。
中山 セットで見た時の凸凹感は出るように意識しました。ルークはネクタイで襟元を締めていて少し堅い、真面目な感じであるのに対し、アーロンは服もズタズタで粗野な印象を一目でわかるようにして、ルークと対比したり。ファーのトゲトゲしさも、彼のキャラクターを引き立たせるためですね。モクマは小柄でだぼっとした形をデザイン上持たせ、少し丸さが出るような、ゆるい印象を目指しました。それに対し、チェズレイは直線的かつ、潔癖さが出るようにジャストサイズの服装にして、チェズレイの全体の印象としては長細くなるようにしてモクマと対比させています。
杉原 弊社のCGディレクターによると、『BOND』の4人は、突き詰めた時「単純な記号」で表現できるようにデザインされているそうです。ルークは安心感のある「丸」、アーロンは攻撃性の高い「トゲ」、モクマはゆるくてつかみどころのない「曲線」、チェズレイはすらっとした「直線」。ルーク&アーロン、モクマ&チェズレイのバディは、記号も対照的ですね。この対比は、デザインだけでなく3Dのモーションなどにも活かされています。ルークが真面目で優等生らしい動きをするのに対し、アーロンのアクションは荒々しく、大振りです。モクマは立ち姿から曲線的ですが、チェズレイは直線的な動きを崩さないよう、足をあまり開かないなどの工夫がされています。
実は見逃しがちかも!? ちょっと珍しいセリフ
—— 特定の条件でしか見られない、あるいは見逃しがちなセリフや仕掛けがあれば教えてください。
杉原 そうですね…。いわゆる「隠し要素」はあまりないゲームですが、捜査・潜入時の失敗セリフは網羅しづらいのではと思います。例えば捜査パートには、「正解キャラクターの不在による失敗」と、「クイズで間違えた場合の失敗」があります。初めての失敗か、2回目以降の失敗かでセリフが分岐する場合もあり、そこにキャラクターまたは、バディごとの分岐が掛け合わさるので、単純にパターン数が多いんですよね。潜入パートは、ギミックでの失敗に加え、「開放していない方のルートを進む」という条件で出るセリフもあります。AルートとBルートがあったとして、Aルートしか開放していない状態で潜入したけど、Bルートの情報もいくつか持っている。そういう場合、Bルートの途中までは進めるので、手詰まりとなったところで「これ以上は進めない。なんで僕らこっちに来たんだろう…」みたいなセリフが出たりします。狙わないかぎり、なかなか見ない場面ではないかと思います。
フルボイス作品ならではの 声優へのこだわり
—— キャラクターたちの声優さんを起用するにあたっての工夫や、こだわりの点があれば教えていただきたいです。
襟川 まずは開発チームの中で、声のイメージを膨らませました。「きっとこのキャラの声はこうだよね」、「そうそうそう」って感じで。どのキャラクターも、スタッフの間ではイメージがほぼ一致していましたね。その後、音響制作の会社にイメージをお伝えして、声優さんの候補をあげていただいたんですが、全キャラクター、本当にぴったりで。「え、ちょっと違わない?」と思うことがまったくなかったんです。ですから、キャスティングはスッと決まりました。特に確定が早かったのはたしか…。
杉原 スイとナデシコだったと思います。上坂すみれさんの透き通ったお声であったり、田中敦子さんの凛々しくも艶のあるお声が、各キャラクターのイメージにぴったりでした。
襟川 満場一致でお願いします、となったよね。ほかにも、フウガやアッカルドといった、サブキャラクターの確定が早かった印象ですね。
—— 配役には、さまざまなファン層にも向けた粋なところも感じました。
杉原 そこは音響監督の伊東久美子さんがとてもこだわってくださったところなので、ぜひご紹介させてください。まず子安武人さんと子安光樹さんが親子で出演され、それぞれフウガとフウガの少年時代を演じてくださっています。コズエ役の井上喜久子さんは、娘のイズミ役も演じてくださいました。CA役の東内マリ子さんは、あるキャラクターの血縁も演じてくださっています。
襟川 いずれも、キャラクターの関係性にそった、エモーショナルなキャスティングですよね。ちなみにシバコとサルコは、ルークとアーロンの子供時代の役者さんである、佐藤美由希さんと武田華さんが演じてくださっているんですよ。
あなたもミカグラ民に!? 就活お役立ち情報
—— 人気投票の中で「ナデシコさんの部下になりたい」というお便りが届きました。なるにはどのような能力・性格が必要でしょうか?
杉原 このご質問には、ぜひ上司に答えてもらえないだろうかと…(笑)。
宮内 はい(苦笑)。ナデシコの部下になりたい方にはですね、時にはナデシコに意見できるような胆力が必要です。それから、ナデシコよりも広く、高い視点を持てる人が理想ですね。でないとナデシコに認めてもらえないので、部下として出世は望めないでしょう(笑)。
襟川 ナデシコの部下には、彼女の切れ味鋭い判断力を上手にサポートしてくれる分析力、かつ無茶ぶりやゴリ押しにもついていけるタフさがあると良いですね。そして実を言うとナデシコは数字に弱いらしいので、理数系に強いとポイント高いと思います!
設定も人物もグローバル ミカグラとマイカへの思い
—— 舞台ミカグラ島についてはどのように作られていったのでしょうか。イメージした場所やロケ地等はありますか?
中山 最初はラスベガスとか、ニューヨークをイメージしていたんです。ショービズの街で、島っていうのが決まっていたかな? ひとまず、西洋の街をイメージしていたのですが、企画のビジュアルイメージなどの途中段階をKTさんの襟川会長(株式会社コーエーテクモホールディングス代表取締役会長。同社『アンジェリーク』シリーズなどの制作を指揮し、女性ゲームのジャンルを開拓したことでも知られている)にプレゼンする機会がありまして、その時に「自分たちが慣れ親しんでいない街をコンセプトにするのでなく、良さを十分に理解して精通している場所を元にした方が、魅力的な世界を描くうえで勝負できるものになるんじゃないのかしら?」と。そんなお言葉をいただいたんです。
—— アジアのイメージがまったくない世界の可能性もあったのですね…!
中山 そうですね。会長からのご指摘を受けて思い直し、日本をはじめとするアジアの要素を感じさせるような、いろんな文化が融合している国にしようと杉原さんたちとも話し合って、決めました。その方向性に舵をきったからマイカの里が生まれたと思うし、『BOND』のシナリオが伝えたかったメッセージのひとつ、違う個性が集合しているからより一層輝けるんだ、というテーマに合致する島の在り方になったかなとは思っています。
—— マイカ城の探索はすごくワクワクしますよね!
中山 私はマイカ城の潜入のBGMがこのゲームの中で一番好きなんです。お客さんにも一番オススメしたいです! アジアベースにしなかったらきっとこの曲も生まれていなかったと思います。襟川会長に感謝しています。
—— ミカグラのアジアの要素について、『無双』シリーズなどをはじめ、歴史もの作品を数多く手掛けるKTさんならではのこだわりがたくさんあったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
襟川 そうですね。弊社では、『無双』シリーズ等で培ってきた「歴史のリアリティ」を素地として、そこにファンタジー要素をミックスした『仁王』や『討鬼伝』等のタイトルも制作しています。本作『BOND』でも、リアルとファンタジーが融合した、オリジナルな和の世界観を追求していますので、得意分野を大いに活かせた印象ですね。
宮内 弊社には、全社員利用可能な資料が大量にあります。特に、戦国時代や三國志関連の文献がかなり充実しています。情報の蓄積というのは大きなアドバンテージですよね。マイカ城の設定やグラフィック制作においては、そういった資料を利用しつつ、『BOND』の世界観に合ったテイストを追求しました。結果、リアリティと個性が両立できたのではないでしょうか。
もっと知りたいマイカ! 里と長の秘奥話
—— マイカの里は、一年中紅葉ですが、なにか意味があるのしょうか?
杉原 和と不変の象徴として、「常紅樹」という架空の種を設定しました。「不変」には、ポジティブとネガティブ、どちらのニュアンスも持たせています。
—— ちなみにマイカと言いますと…人気投票の時に、フウガにも熱烈なコメントが届きました。
中山 なるほど、フウガを愛していただきありがとうございます。私も個人的にフウガはお気に入りなので嬉しいです。積年の矛盾した思いを募らせているのがとても人間臭いですよね。
杉原 フウガは、歪んだ矜持の裏に自己肯定感の低さがあるキャラクターなので、皆さまに気にかけていただいていることを知ったら、救いを感じるかと思います。
中山 フウガのキャラクターデザインとしては、歌舞伎役者さんからインスピレーションを受けています。本心が読めないようなデザインにしてほしいと村田先生にはお願いしたと思います。また、BONDメンバーにはチェズレイという仮面の詐欺師がいる一方、フウガも「仮面」をかぶるキャラクターです。フウガの仮面姿は潜入時にしか見ることができませんが、あの般若の仮面の赤黒い顔色と表情が、フウガの中に蓄積された、重く濁った感情の一部を象徴的に表しているのではないでしょうか。フウガが憎しみに満ちた般若の面をかぶり、物理的には彼の表情が隠されるとき、逆に彼の本当の心の有様が般若面によって露呈します。モクマも、物理的な仮面ではありませんが、その心に仮面をかぶったキャラクターなので、フウガ・モクマ・チェズレイの3名は「仮面」というモチーフを通じて対比されていると思います。3人の共通項といえば杉原さん、「肩」もありますよね。
杉原 そうですね。実はモクマ、チェズレイ、フウガの3人において、肩へのアプローチは「相手との正対」を暗示しています。そう思ってストーリーを追っていただくと、フウガへの思いをより深めていただけるかもしれません。
—— そういえば「将来の夢はフウガ様の側近」というお便りもありました。こちらはいかがでしょうか?
宮内 フウガの部下になりたい方は、絶対ウソをついてはいけません。調子のいいことを言っておいて、顔に出るなんていうのはもってのほかです。恐らく後ろからバサッとやられるのでお気をつけください(笑)。
襟川 フウガの部下になりたい方への助言はまったく同じです。絶対にウソをつかないこと。そして冷徹なフウガもタジタジになるような、暑苦しいくらいの従順さと忠誠心があるとさらに良いのではないでしょうか(笑)。