『大逆転裁判2』開発スタッフと回想する冒險浪漫談 Vol.3 第2話「吾輩と霧の夜の回想」(2017年10月号より)
『大逆転裁判2』の開発スタッフインタビューの再掲載をお届けします。今回は第2話「吾輩と霧の夜の回想」の物語と登場キャラクターについて、開発スタッフの皆さんと一緒に掘り下げていきます。
『大逆転裁判2』開発スタッフと回想する冒險浪漫談
Vol.1 開発スタッフと回想する冒險浪漫談(全体編)
Vol.2 第1話 回想「弁護少女の覚醒と冒險」
Vol.4 第3話 回想「未来科学と亡霊の帰還」
・ネタバレを含んでいます。
『大逆転裁判』特集企画
巧ディレクターのルーツを探る書き下ろしコラム(全6回)
『大逆転裁判』物語の流れから見るキャラクター誕生秘話
塗さんのデザイン秘話(龍ノ介とホームズについてはこちらへ)
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第2話「吾輩と霧の夜の回想」
時間は夏目漱石が英国留学を終えて帰国する前に戻る——。漱石と同じ下宿の住人であるウイリアム・ペテンシーが何者かに殺害された!? そして第1発見者であり、被害者に最後に会ったという漱石が逮捕されてしまう。「あの下宿は‥‥悪霊に呪われているのです」。漱石は度重なる災難に事件を悪霊の仕業と主張、自分も呪われているのだと語りだした。しかし、ペテンシーは息を吹き返して……。大探偵ホームズとアイリスの協力を得ながら、龍ノ介と寿沙都は「下宿の幽霊事件」の真相に挑む。
第2話 制作秘話
—— 続いて第2話のお話です。
巧 この物語のコンセプトは、19世紀の世界でしか起こり得ない、倫敦の街の典型的な日常の中で起こる事件にしたかったんですね。クラシックミステリーの王道というか。
塗 実は『大逆転裁判』として巧さんがいちばんやりたかった話らしいんですよ。
巧 そうなんです。最初の構想で、2つの事件を1つの物語として構想していたのですが、スケジュールなどの関係もあって、すべてを収録することは無理だとなって。ただ、不幸中の幸いというか、半分に切っても成立する物語だったので、前作はああいう形になりました。
—— 今回の第2話は、前作時にそこまで考えられていたものだったんですね。
巧 それはそうですね。そんなわけで、前作で悔いが残ったのは、最後まで目覚めさせてあげられなかったビリジアンさんでした。
塗 僕もつらかったですね。ペテンシーも出せませんでしたから。デザインやモデルモーションとしては出来ていましたので。
—— たしかに前作の画集などに設定画は載ってましたもんね。
江城 でも当時は謎の人でした。
—— で、ついに満を持して完結したと。事件としても新しかったです。被害者が死んでなかったっていう!
巧 『大逆転』全体でやりたかったのは、“倫敦でしか起こらない”ことともうひとつ、“事件が連鎖している”ということだったんです。例えば第3話も、ひとつひとつの事件のピースがハマっていく感じを出したかった。そんな連鎖の流れで最初に考えていたのが、この1日目の事件と2日目の事件がつながるというものでした。
—— なるほど。それにしても、19世紀の倫敦が寒いということがよく伝わってくるお話でした。
巧 2月の氷点下の世界ですからね。当時のミステリーを読んでいると出てくる世界観ではあるんですよ。
—— 瓦斯灯のネタとかも普通に勉強になりましたし。
江城 最初にあれを見たとき、「こんなの嘘やろ?」って巧に聞きに行きましたからね。
巧 当時、あれも実際に起こっていたことみたいです。あのあたりのネタは、いつか使ってみたいと思っていたので、実現することができて良かったです。
—— あの世界だからこそ実現できたものですよね。
巧 ええ。じつはほかにも、あの世界だからこそ成立するネタがありました。
—— どんなネタなんですか?
巧 当時の倫敦は馬車が多すぎて、道路が馬糞だらけだったらしいんです。だからそれをトリックに使いたかったんですけど……さすがに馬糞はどうなんだって。
江城 それはよくない。
一同 (笑)
巧 使えそうなネタだったんですけどね。当時は、自動車が馬糞公害をなくす夢の発明として登場したんです。今とは意味合いが全然違うので、そのへんも書きたかったんですけど、残念ながらなくなりました。ゲームを遊んで、当時のことをいろいろ調べてみるのもおもしろいですよ。
第2話 登場人物秘話
ウイリアム・ペテンシー
巧 最初にモーションキャプチャーで動きを撮ったキャラクターですね。動きの発想は、ストラヴィンスキーの「春の祭典」のバレエのような、前衛的な動きをイメージしていました。そのほかに、演劇用のモーションを20種類ぐらい用意して、それを組み合わせて「消えろ、消えろ、つかの間の灯火」のようなセリフと合わせてみたら今までにないおもしろい効果が出ました。自分でも動きをつけながら「これはスゴいヤツが出てきたな」って、『大逆転2』として最初に手ごたえのあったキャラですね。
塗 モーションの方向性の指針にもなりました。
巧 うん。新しいことができたっていう感じがありました。ほかにも何人かいるんですけどね。
—— 動きとともに放たれる言葉もすごかったです。ロミオとジュリエットはどちらが強いのかも気になりました(笑)。
巧 ペテンシーさんのセリフは書きやすいんですよね。僕向きなキャラかもしれません。
—— 巧さんは昔、『逆転3』の星威岳哀牙も書きやすいと言ってましたよね。
巧 あきらかに同じ系統ですね。そう考えると、たしかに哀牙さんは倫敦にいてもまったく違和感がない。
一同 (笑)
—— デザインに関してはいかがでしょうか?
塗 キーワードにシェイクスピアがありましたが、やりやすかったですね。というのも、『レイトン教授VS逆転裁判』で弾きながら歌う詩人がいたんですが、そっち系のキャラクターをもっと膨らませていきたいという話もあったので、初めからブレずにいけたんです。豪華っぽいけど変な衣装という、嘘っぽさのある舞台衣装感を意識しました。なんだか時代感はあるけど、この時代においても馴染んでいないという。あと、派手な衣装は着てるけどお金持ちじゃなくて貧乏という設定も先に聞いていましたね。
巧 衣装もやぶけてますから。
塗 張りぼて感ですね。逆に大きな安っぽいアクセサリーをいっぱい付けているのは、そういったイメージに加えてアクション映えを意識した結果です。
巧 裏話としては、通常の状態では手に杖を持っているんですけど、演劇的な動きをするときはなくなるんですよ。
—— 言われてみれば、動いているときは杖が消えています。
巧 いかに違和感なく出したり消したりさせるかというのが、動きをつける者として腕の見せどころでした。
—— これを読んだ人は、次のプレイで確認したくなりますね。
巧 ペテンシーさんは、ぜひ味わってほしいキャラクターですね。
デカーゴ・ミターマン&アルタモント夫人
塗 これは完全に2人一組で考えたキャラですね。
—— アルタモント夫人と?
塗 そうですね。というのも、ミターマンは瓦斯の集金をしている設定なので、いろいろな家に回ってお金を集めるわけですよね。そこから働き蜂としてのミツバチを連想して、アルタモント夫人は女王蜂というふうにイメージしたんです。
—— ゲーム中の2人の関係性ともぴったりでした。
塗 瓦斯会社だったので、会社の制服を着ているイメージもありますから、ほかのキャラクターたちとちょっと異なる、この世界としては強めのハッキリとした原色寄りの強い色味にして違いも出してます。あと設定画にも書いてありますが、ミターマンは顔も見方によって蜂に見えるように造形しています。
ビリジアン・グリーン
塗 僕は前作から気に入っていたキャラだったんですが、前作では結局目覚めず……(笑)。あんなにまんまるなんですけど、僕の中では美形キャラとしてデザインしてるんです。実際、顔の真ん中だけトリミングしてもらえるとかなり美少女なはずなんです(笑)。あと、画学生という設定だったので現代的な目線でもこういう髪型とか雰囲気の人って美大や芸大によくいるよね、みたいなことも意識しました。実際に周りに見せてみたら「いるいる!」みたいな反応も多くて、愛嬌のあるキャラになったかなと思ってます。
巧 彼女はナイフが刺さったまましばらく気絶していたので、体力がある人だろうと、ああいった体型にしたんです。それに体型を目立つようにしないと、あるトリックが成立しなかったりして。
塗 その体力の話は初めて聞きました。最終的になくなったんですけど、最初はチョコをずっと食べているキャラだからあの体型で、という指定だったので、食いしん坊かなと思ってました。設定がなくなって、あれ? 丸い必然性が……って思ってたんですよねぇ。
一同 (笑)
陪審員
—— 陪審員はどんなキャラにするかというイメージがあってから作られていくんですか?
巧 1号に関しては陪審員長なので「紳士にしてほしい」というのはありますが、デザインの注文はあまりありませんね。シナリオ上、職業を指定することはありますけど、塗くんにお任せしています。
—— 職業の発注は、例えば「手品師の男性」みたいな感じでしょうか?
巧 そうですね。シナリオに少しでも関わるようなものだけはそういった設定としてお願いしています。
塗 作り方としては並びのバランスを見て、さっと同時に作っちゃう感じです。画面上に必ず並んだ状態で出てくるキャラクターたちなので、見たときのメリハリであったり凸凹感というのを重要視しています。1号がしっかり役なのはオーダーで決まっていたので、まずはそのイメージでキャラを仕上げてから、残りはバリエーションが出るように、職業も踏まえながら差をつけていくんです。
—— それぞれのイメージはありますか?
塗 2話の陪審員たちは前作とほとんど同じなんですが、それぞれのキャラで当時イメージしていたのは、1号は当時の倫敦で一番ベーシックな佇まいの男性。2号は同じくベーシックな英国淑女風かつ1号とペアで見たときにバランスがいい佇まい。3号はある意味一番個性が薄く、逆に“普通”が特徴の若者。5番は当時の肉体労働者のガテン系といった感じでした。6号はシナリオ面のオーダーで体型指定があったので、そこからサンタのようなおじいさんのイメージ。一通り仕上がってから、各々の見た目に合わせて巧さんがシナリオでキャラ付けをよりハッキリさせて深みを出していくんです。
Vol.1 開発スタッフと回想する冒險浪漫談(全体編)
Vol.2 第1話 回想「弁護少女の覚醒と冒險」
Vol.4 第3話 回想「未来科学と亡霊の帰還」
『大逆転裁判』特集企画
巧ディレクターのルーツを探る書き下ろしコラム(全6回)
『大逆転裁判』物語の流れから見るキャラクター誕生秘話
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関連リンク
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險- 公式サイト
大逆転裁判2-成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式サイト
逆転裁判シリーズ 公式サイト
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