やればやるほど ディスクシステム インタビュー(2004年9月6日号、9月21号より)
夜に1人で「頭から血を流した少女が…」と書いてたら、突然電気が切れて真っ暗になったんです(坂本)
『ファミ探』開発中に怪奇現象が続発!?
大澤 『うしろに立つ少女』をつくってるときは、坂本と山本と僕の3人がずーっといっしょにいて、ずーっとサウンドの話をしてたよね。というのも、とにかく坂本は『うしろに立つ少女』は音がポイントやと、『消えた後継者』でやりのこしたことのかなり重要なファクターとして音をやりたかったと言ってたんです。だから、音を出すタイミングにもめちゃくちゃ時間をかけましたもんね。
坂本 このくらいのタイミングで音を出すとちょうどええようになるとか。
大澤 当時の効果音はプログラムではなく、テキストで制御してたんです。だから、ある文字が表示されたところで効果音を出すようにして、それでも「わ、ちょっと早い」とかなったりして。だから、文章のなかに、ベストなタイミングを求めて、何度も調整をくり返していたんですよ。それはもう、1文字単位で。
坂本 あと、シビアだったのが、音を止めるタイミングとかね。
── 山本さんにとって、当時はFM音源が使えるということで、いろんな新しいことができたんでしょうね。
山本 『うしろに立つ少女』でFM音源を使ったのはピアノの音ですね。あと、効果音で、恐い話になったときは、メッセージ表示音をザザザザザザッって使ってみたりとか、いろいろと効果を狙った工夫をしました。
── その意味で、サウンド担当としてもいろんな遊びができたハードだったわけですね。
山本 そうですね…、というか僕がファミコンのサウンドを担当したのは『うしろに立つ少女』が初めてだったんです。
大澤 違いますよ。『ファミコンウォーズ』(1988年)をやってます。
── じゃあ、2作目ということですね。
山本 はい。
坂本 『パンチアウト』(1987年)やってなかったっけ?
山本 『パンチアウト』もやりました。
坂本 3作目やん(笑)。
一同 (爆笑)
大澤 でも、僕が坂本と仕事をしてきたなかで、サウンドがゲームデザインに大きく食い込んできたものとしては、『うしろに立つ少女』が最初だったと思いますね。すごく打ち合わせもしましたし、もともと坂本は音楽に造詣の深い人間なので…。
── レゲエが専門なんですよね?
大澤 人間そのものがレゲエですから(笑)。そういうコダワリがあったと思いますね。
── ほかにも『ファミ探』に関するエピソードがあれば教えてください。
坂本 (まじめな表情で)けっこうケガ人が出たりしましたね。
── ケガ人というのは?
大澤 呪われてるんです…。
坂本 頭をケガした人とか多かったりしたんですよ。
── ええっ!? 棚から突然モノが落ちてきたりとか?
坂本 落ちたと言えば、会社の電源が突然落ちたことがありまして…。シナリオを書いてるときに1人で会社に残ってたんです。それで「もう10時になったし、帰りたいなあ」と思いながらも、これだけはやって帰ろうというので「頭から血を流した少女が…」って書いたら、バサッと電気が切れて会社が真っ暗になってしまったんですよ。
── うわあ。
坂本 そしたら、暗闇のなかから変な足音が「コツッ、コツッ、コツッ…」と聞こえてきて、「オレ、これで死ぬかもしれん」と思ったんです。
── …………。
坂本 それで振り返って見たら、同期のヤツで(笑)。アートワークのデザイナーをやってたヤツなんですけど、「あ〜あ、また切れた」なんて言うんですよ。当時、開発棟を引っ越したばかりで、何かがうまく機能しなくて、「この時間になると、電気がよく切れる」って言うから「それ言うといてや!」って逆切れしたりして(笑)。
一同 (爆笑)
大澤 守衛のおじさんが突然電源を切ったこともありましたね(笑)。
坂本 そんなこともあったけな。でも、あのときは正直、血の気がひきました。ホンマに恐かった。
── 怪奇現象じゃなくってよかったですね。
坂本 助かりました。って、何が助かったかわからないけど(笑)。
大澤 でも、頭をケガしたのは深刻でしたね。開発スタッフの1人が、橋桁にガーンと頭をぶつけて。旧本社のそばに線路の下をくぐるような狭い通路があったんです。
── 旧本社の入り口の右手にそんな通路がありましたね。
大澤 そこを普通は頭をかがめたりして歩くんですけど…。
清武 そこで彼を見たら「何?」って感じで…。
坂本 血がピューっと吹き出ていたんですよ。それで、「オマエ、血が吹き出てるで」と言われて初めて本人も気づいたという(笑)。
清武 ホント、ダラーッと血を流していたんです。それで、みんな「血がかかる!」とか言って避けたくらいで。呪われてましたねえ(笑)。
大澤 その血を流したヤツの話なんですが、『ファミ探』のどこでひっかかるのかをチェックするために、実際にプレイしてもらったんです。それで、彼がでっかいモニターの前でプレイしてるのを、坂本と2人でずっと見てまして。そうしたら、ある場所でゲームがまったく進まなくなってしまって…。「ありゃ、ずいぶん迷ってるなあ。でも、難しい場所じゃないし、どうしてこんなところで悩むんだろうなあ」と思って、それで「そんなに難しいか?」って聞いたら、まったく反応がないんですよ。
── ……。
大澤 そしたら、寝てやんの(笑)。
一同 (爆笑)
大澤 そりゃあ、ゲームは進みませんよね(笑)。
坂本 当時は徹夜でデバッグとかしてましたから、疲れてたんですよね。
大澤 でも、僕らもみんな徹夜してたから「寝るなー!」って(笑)。
坂本 これ、上司の話なんですけど、同じようにチェックするためにプレイしてたら、やっぱり途中で眠ってしまったらしいんですよ。それで、パッと目がさめて「ああ、やらなあかん」と思って、Aボタンを押したら、画面に「はやくしてくれよ。いそいでるんだ」というメッセージが出てきて、「このゲーム、ようできてるなあ」って言うから、「違う、違う」って。そんなこともありましたね(笑)。
作り手と遊び手のいい関係も感じてほしい
── さて、「ディスクシステムセレクション」で、みなさんがつくったゲームが復活したわけですけど、ユーザーのみなさんへメッセージはありますか?
坂本 まず『メトロイド』…(清武さんに向かって)どうですかね?
清武 いやあ、どうなんでしょう。いまの親切につくられたゲームに慣れきった人たちには歯ごたえがあるかもなあって(笑)。だから、「昔の『メトロイド』はこうだった」という気持ちでプレイしてほしいですね。
坂本 『メトロイド ゼロミッション』に入っている米国版『メトロイド』をやってるんですけど、いまの人には少し難しいかもしれないですね。もちろんたくさんの人に遊んでほしいですけど…。
大澤 もうちょっと、ファミコンミニの売上げに貢献するようなコメントを言わなきゃ(笑)。
坂本 そうやった(笑)。(とても明るい口調で)『メトロイド』はいまやっても遜色のない名作ゲームですね!
一同 (爆笑)
大澤 ついでに『ゼロミッション』も買っていただいて、『メトロイド』のリメイク版との違いもぜひ楽しんでほしいですよね(笑)。
坂本 それはええコメントやなあ(笑)。
── (笑)。『パルテナの鏡』についてはどうですか?
大澤 自分にとってデビュー作でもあるので、何というか、自分の卒業アルバムを見るような気分で、僕もやりたいと思ってるんです。当時の自分のノリというものを再確認してみたいですし、みなさんにも当時はこんなノリでゲームがつくられていたんだということを感じていただきたいですね。ゲームの厳しさもその時代のノリだと思うんですね。
坂本 当時のノリは『パルテナの鏡』をやるとようわかるやろうね。お客さんもやる気満々やったし、つくるほうもやる気満々やったし。つくるほうは「わからへんやろう」って挑戦的なところがあって、それを受けるプレイヤーのほうも「わかった。解いた〜!」というところがすごくいい関係で。そういったことがいまの人たちにどう感じてもらえるか、とても興味がありますよね。
大澤 当時って、作り手と遊び手が互いに競い合っていたような雰囲気がありましたよね。どちらも「負けるか」みたいな。でも最近は、作り手は遊び手のほうに気をつかいすぎて媚びてる感じもするし、まあいい意味で、そのようなことをしなきゃあならないとは思いますけど。
── 当時は、作り手と遊び手がいっしょに成長したようなところがあったんでしょうね。
坂本 そうですね。遊んだことのないものをお互いにやってましたからね。
大澤 その結果、ファミコンで育った人たちがゲーム雑誌の編集者になったり、「小学生のときに遊んでました」という人たちが任天堂に入ってきてゲームをつくったりしてるわけで。そういった、人を育てた当時のゲームが、ファミコンミニというカタチで手軽に遊べるのはいいことですよね。でも、ファミコンミニで遊んでいて、「なんでAボタンを押してスタートできへんの?」って思いますよね(笑)。
坂本 十字ボタンでも上下せえへんとか(笑)。
大澤 「なんで、いちいちセレクトボタンを押さなアカンの」って(笑)。いまだったら、その段階でめげてるよね(笑)。
坂本 「バグってんのと違うか」って思うよね。
── (笑)。山本さんはサウンド面でこんなところを聴いてほしいという部分はありますか?
山本 ファミコン当時は4つの音しか出なかったんです。そういう制限のあるなかで、サウンドプログラマーたちは競いあうように曲をつくっていたわけですね。それで、ディスクシステムではFM音源がのってますので、チープな環境のなかでも、より工夫してサウンドをつくってたわけです。耳を傾けて聴いていただくと、そういった工夫が、きっと聞こえてくると思うんです。当時のゲーム音楽って、容量も少なくおさえるために、同じコードのパターンをくり返したりとかしていて、それがかえって耳に残るフレーズになったんじゃないかと思いますね。そういったところもぜひ聴いて楽しんでほしいですね。
坂本 ちなみに『うしろに立つ少女』はレーティングで15歳以上推奨なんですよ。
── 任天堂ソフトで、「全年齢対象」じゃないものは初めてなんですよね。
坂本 ええ。「ここの表現がマズイ」ということで相談を受けたんですが、それを変えたら『ファミ探』じゃなくなるから、「そんなんやめよう」と。それに、10年以上も前のソフトをそのまま出すことにも意味があることですし、変更せずに出してもらうことにしたんですね。
── どのような表現がひっかかったんですか?
坂本 グロテスクとか残虐だからというのではまったくないんです。タバコを吸うシーンがあって、そこがひっかかったんですが、そこで語られている話はすごくあたたかいものがありますので、「殺人だから」とか思わんとみてほしいなあと思います。
── なるほど。
坂本 あと、『消えた後継者』のアドバイスとして言っておきたいのは、「げんしんじゅうしょく」にあまり伝説のことを聞かないようにと。
大澤 くくくくっ(笑)。
坂本 彼は長いこと、同じことをしゃべりますんで(笑)。とくに前編はかなりきついよね。
大澤 それが当時の反省点でもあったんです(笑)。
坂本 つい聞いてしまうんですよね(笑)。「そうか ききたいのじゃな?」。そしたらバックが赤になって延々にしゃべりだすと(笑)。
一同 (笑)
いかがだったでしょうか。当時の空気感を楽しんでいただけましたか?
このお話で出てきたタイトルは現在、さまざまなプラットフォームで遊べるものも多いですので、ぜひ遊んでみてくださいね。
<関連リンク>
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