堀井雄二さん×藤澤仁さん×横田賢人さんが語る! 『DQⅣ』の世界観で描く『ドラゴンクエストモンスターズ3』誕生秘話
原作の『DQⅣ』を大切にしたストーリーづくり
配合システムを原点回帰することになった背景
堀井 今回「配合」が割と変わってるんだよね。
横田 「DQM ジョーカー」のときは、配合システムが「位階配合」というものだったんですけど、今回は配合を以前のマトリクス方式に戻そうという話が出ました。
―― 戻すとはどういうことですか?
横田 GB版『DQM1』『DQM2』時代のように、系統×系統みたいになっているシステムを基本に据えるようにしました。堀井さんといっしょにホワイトボードに書き出しながら、「この系統とこの系統を配合するとこうなって、特殊配合はどうしようか?」みたいな話を結構しましたね。配合はこのゲームのおもしろさに直結するので、そこは堀井さんにもしっかりご意見をいただきながら作っていきました。
堀井 そういう意味では、自分だけの強いパーティを作るのは燃えると思いますよ。対戦もありますし。
―― 「配合」という言葉が出てきたので…聞いちゃいます。今回は竜王・シドー・ゾーマ…その4番目の魔王のところはどうなるのでしょうか!?
横田 これはほとんどの人が気にされますよね(笑)。
堀井 確かにね(笑)。
横田 開発会社のスタッフにも「配合どうするんですか?」って開口一番にいわれました(笑)。
『DQⅣ』の世界観を上手に使った物語作り
―― 『DQM3』の物語や世界観が『DQIV』をベースに作られることになったきっかけを教えてください。
堀井 『DQM1』が『ドラゴンクエストⅥ 幻の大地』のテリーとミレーユが幼少期の姿で登場した内容だったじゃないですか。『DQM2』では、次はイルとルカというオリジナルの主人公たちにしました。そのあと『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』(以下『DQMジョーカー1』)ではまったく別物の世界観になっていきました。で、今作を作るときに「誰を主人公にするか?」という話になった際、人気のピサロとロザリーじゃないかなぁ、じゃあやってみようとなって。みんなで話し合って決めたんですよ。
―― ピサロが主人公と聞いて、藤澤さんはどう思いましたか?
藤澤 僕はFC版のオリジナルスタッフではないんですけれど、リメイク作のPS版『DQⅣ』を担当していたんです。なので『DQⅣ』には本当に特別な思い入れがあって、素直に「ピサロとロザリーの新たな物語を描くのなら、それは自分がやるべき仕事だな」という気持ちになれました。なので、どういう物語を作ろうかというのも、最初からイメージが湧いていたという感じでしたね。
横田 実は、PS版『DQⅣ』で追加されたストーリーを藤澤さんが担当されたっていうところを踏まえて、今回お願いしたわけではないんですよ。ピサロとロザリーのお話にすると堀井さんと相談し、決めたあとに藤澤さんに持っていったら「ぜんぶ任せなさい」と言ってくれて(笑)。
藤澤 それぐらいのことを言ったかもしれません(笑)。
―― 2023年の今、ピサロとロザリーがメインで活躍する物語が「DQM」で描かれるって…ファンならやっぱり衝撃的ですね。
横田 堀井さんはどう思われましたか? そんなに「う~ん」って感じでもなかったですよね?
堀井 そうだね(笑)。ピサロとロザリーって、『DQⅣ』本編だとそんなにセリフがなかったんですよね。でも今回はロザリーが結構しゃべるんです。物語を作るうえで気をつけてもらったのは、魔王側から見るとどうしても人間側が悪者になりがちです。「それだけはやめて、勇者も悪者にしないでね」とお願いしました。
藤澤 ディズニーの映画でもヴィラン側の作品ってあるじゃないですか。ダークサイドストーリーなんですけど「誰も下げない」という内容の。そういうのをいくつか観ていて、「こういう物語を自分でも描いてみたいな」という感覚がちょうど溜まっていた時期に『DQM3』の話が来たんです。なので、『DQⅣ』をもともと好きだった人にとっても、誰も下げずに骨太の物語を成立させられるのではないかという感覚は持っていたと思います。
―― それをきちんと『DQⅣ』の世界観で描くというのはすごいですね。
藤澤 ありがとうございます。ですが、『DQM3』は半分ぐらいは魔界が舞台なんですけどね(笑)。『DQⅣ』では登場しなかったエリアが『DQM3』のゲームステージとして大半になります。
―― 魔界といっても「お菓子の世界」があったり、季節の移り変わりがあったりで、不思議な世界が多いですよね。これは物語があって、この四季が変わるシステムになったのでしょうか?
横田 システムのほうが先ですね。過去作の「DQM ジョーカー」シリーズでは、平原や密林、雪山のようなロケーションが多かったですが、今回はフィールドをリニューアルしたかったんです。「もっとフィールドを楽しんでもらうためにはどうしたらいいのだろう?」と考えたときに、今までにないようなステージを作ってみたいということを堀井さんに相談しました。その考えありきな一方でピサロとロザリーの物語にすることも決まっていたので、藤澤さんに「このふたつを組みあわせて物語を書いてください」とお願いしたら…「お菓子の世界は嫌です」と…言われてしまいまして(笑)。
藤澤 僕は「本当にそれでやるんですか?」って、半年くらい反対してましたよね(笑)。
横田 しかも1回や2回じゃなくて結構な回数で。
堀井 ボクは「おもしろければなんでもいいよ」というのが「DQ」なんですね。季節が変わると、行けないところがあったり、変わったことで行けるようになったりして、これはおもしろいなと思いましたね。あと、季節によって出るモンスターが違ったりしてね。
横田 堀井さんが当時、(お菓子の国みたいな)ぶっ飛んだ世界観って「DQ」本編ではできないけど「DQM」だったらできるよね!」…というようなことをおっしゃってくれて。「DQM」シリーズは本編ではないスピンオフタイトルのひとつなんです。「スピンオフでしかできないことってなんだろう?」と考えた際、こういう世界観や、それこそ主人公をピサロにすることって、やっぱり「DQM」でしかできないことだと思いました。それを活用してユーザーさんに楽しんでもらえる楽しい作品を作ろうと、堀井さんとご相談して決めました。
堀井 プレイヤーの意表を突くのが好きなんですよ(笑)。
横田 堀井さんはいい意味で裏切るのが大好きですよね(笑)。「DQM」の新作の主人公予想って、常にSNSで議論されていて。「次は『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』の主人公の息子レックスと娘のタバサじゃない?」とかよくいわれていましたが、堀井さんとも「ピサロとロザリーは、なかなか予想する人いないよね!」と話していて、お客様の意表を突いたところもよかったなと思っています。そういうところが、ピサロを主人公に決定した理由のひとつにもなっています。
藤澤 「DQ」史上、敵役が主人公になったのは初めてなんじゃないかな?
横田 正直、堀井さんに最初は反対されるかなと思っていました。ピサロを主人公として、プレイヤーが操作するキャラとして使うということについて。でも堀井さんは結構柔軟というか、あまり固定観念がない方なので「おもしろければいい」と言ってくれたんです。
堀井 ピサロはキャラクターがとても立っていたので、使いやすいかなと思いましたね。
本作のピサロが出来上がるまで
―― 今回のピサロは青年の姿でまたまた驚きました。
横田 実は時間軸については本編とあまりずれていないんです。ただ、どちらかというと『DQM3』で魔剣士のピサロを出したら…そのまま人とかを斬りそうじゃないですか?(笑) 「DQM」は、モンスターを従えて「モンスターマスター」として戦っていくというゲーム性を踏まえると、もうちょっと少年っぽさや、若さみたいなものが必要だと思ったんです。そのあたりを全部鳥山明先生にお伝えしたうえでイラストを描いていただきました。
―― 藤澤さんがシナリオを書き始めたころ、ピサロのデザインはできていたんですか?
横田 全然決まっていなかったですね。鳥山先生には「今回のピサロはこういう冒険をしています」とシナリオの設定を記載したうえで依頼した感じですね。イラストが出来上がったのは、シナリオが細部まで出来上がったあとぐらいだと思います。
―― ピサロが魔族と人間の間に生まれたという設定は、原作にはなかったですよね?
堀井 はい、そうなんですよ(笑)。
藤澤 設定については堀井さんが任せてくださったので、あらためてピサロというキャラクターを再構築しようと思いました。「ピサロって魔族なのに、なんでひとりだけ人間に近い姿をしているのか」 ということを出発点として、「ピサロはもしかすると人間との間に生まれた子供ではないのか 」という発想が出てきた瞬間、自分の中でワッと世界が広がった感じでしたね。
―― おそらく、ピサロを知る多くのファンが一番驚いたところかと。
藤澤 堀井さんは原作の『DQⅣ』をとても大事にされているので、その想いとすれ違っていないといいなという気持ちは少しあったんです。でも、堀井さんに提案させてもらったら、「いいんじゃない?」と言っていただけたので、勇気を持って進められた感じです。
横田 ピサロって、原作でもはっきりとバックボーンや設定が描かれてこなかったキャラクターなんですよね。ピサロを主人公にするにあたって、人間との間に生まれたという設定を藤澤さんに考えていただいていて、堀井さんと話して進めていく過程は、僕もワクワクしたので、前向きに取り組めましたね。
堀井 「魔族の王子」だし、ある意味「モンスターマスター」ってあってますよね(笑)。「DQM」は必然的に主人公は戦わないゲームシステムなので、ピサロもそういう設定で自分自身では戦えないってところに設定を持っていきました。
藤澤 ピサロが戦えないという理由付けが、物語が動き始める最初の1歩になりましたね。そこはうまく収まったのかなと思っています。