『Eastward(イーストワード)』ドット絵インタビュー

2021年9月16日に発売され、その完成度から大きな話題となったドット絵アクションRPG『Eastward(イーストワード)』。

Eastward(イーストワード)
「タタリ」という瘴気の謎を解き明かすため、主人公である無口で心優しい男ジョンと不思議な力を秘めた少女の珊(サン)が、電車に乗ってさまざまな世界を旅するアクションアドベンチャー。

プログラミングを駆使した光と影・動きの美

同じマップの表情を大きく変化させる光と影から滑らかなアニメーションまで、本作の芸術的なドット絵の秘密を探るべく、リードアーティストのHong Moranさんにお話を伺いました。

※本インタビューは、ニンテンドードリーム2021年12月号に掲載された内容を一部修正したものです。


Hong Moranさん
インディーゲーム制作会社「Pixpil」に所属する上海在住のピクセルアーティスト。
『Eastward(イーストワード)』ではリードアーティストを務める。

ドット絵を描くきっかけ
子どもの頃からゲームと絵を描くことが趣味でした。
特にゲームは毎日のようにプレイしていたんです。
大人になった今、子ども時代にドット絵のゲームからもらった感動や懐かしさを再現したくて、自然とドット絵を描くようになったのがきっかけです。

好きなドット絵作品
『スーパーマリオランド3 ワリオランド』
『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』
『MOTHER2』
『MOTHER3』
『ストリートファイター』
『軒轅剣参外伝 天之痕』(※)

使用しているソフトウェア
デザイン:Adobe Photoshop
アニメーション:Aseprite

ドット絵歴
10年以上

※『軒轅剣』シリーズは、台湾(中国語圏)で有名なRPGのこと。

中国のドット事情を聞いてみる

—— まず始めに、中国でのドット絵の印象についてお聞かせください。

Moran 中国の人口は13億人もいて、プレイヤーひとりひとりの意見を聞くことはできないというのが正直なところです。ただ、今回ゲーム発売後にユーザーのみなさんからいただいたフィードバックによると、「ドット絵の作品を久しぶりにプレイできて感動した」「懐かしい」と感じてくださっているようです。

—— 懐かしい作品と聞いて思い出す具体的なタイトルはなんでしょうか?

Moran 『スーパーマリオ』シリーズですね。あと『ストリートファイター』も知名度が高いと思います。中国語圏の作品だと『軒轅剣』シリーズです。

滑らかさはリアリティと怒涛の描き込みから

—— ここからはアニメーションについて伺わせてください。まず魅力的だった、珊が喜んでいるアニメーションのモチーフはありますか?

Moran 制作チームのTommoの娘さんが作業中いつもみんなの周りを動きまわってまして…。その娘が珊のモデルなんですよ。珊のジタバタするアニメーションも、現実の女の子の動きからです。関係ない話ですが、ゲーム開発中にチーム内に3人の子どもが産まれて、全員女の子だったりします。

—— とても滑らかに動いていて、思わず見惚れてしまいました。

Moran 多くのコマ数を描き込みましたが、多ければ多いほどいいというわけではありません。もっとも意識していたのは、プレイ中のビジュアルの「滑らかさ」です。おもしろさと日常感にも力を入れつつ、ストーリー中の感情がちゃんと伝わっているかどうかをとても気にしていました。

—— 他にも、カギを取ったときのアニメーションも印象的でした。

Moran これは『ルイージマンション』を参考にしました。一般的にはゲームには普通サイズのカギが出てくると思うのですが、『ルイージマンション』ではどでかいカギが出てきてとてもビックリしたんです。そのビックリした瞬間というのがずっと心に残っていて、大人になって自分のゲームを作るときにも同じようにしたいと思って取り入れました。ちなみに、珊はテンションが上がって「やった!」という動きをしていますが、ジョンはクールな男に見えつつ中身は熱くて中二病という面もあるので「取った!」というアニメーションをしているんです。

—— 草や水面の揺れ動きはどのように実現されましたか?

Moran 動きのパターンを複数描いているわけではなく、プログラミングの物理演算で実現しています。例えば草のグラフィックは1パターンしか描いていません。

プログラミングで操る多彩な情景

—— 光や影の表現でこだわった部分をお聞かせください。

Moran 今作は普通のドット絵ゲームではなく、今どきのプログラミング技術を最大限に活用して作ったゲームです。中でも光の表現は特に意識していて、プレイヤーに臨場感をもたらすため、ストーリーの状況とキャラクターの心情をマッチさせるように調整しました。例えば、霧の中にいる表現や地下水道にいるときの光と影などです。

—— 時間帯や状況によって同じマップでも印象が変わりますね。

Moran 雰囲気の変更はほとんどプログラミングによって実現しています。例えば、夜になると窓から光が漏れ出るといった部分はプログラミングによるものです。ただ、夜になると違うバージョンになる看板など、一部描き直している場所もあります。

徹底的に描き込まれた独特なグラフィックのモチーフに迫る

—— グリーンバーグの住民が船を住居としている理由をお聞かせください。

Moran 自分の思い出から着想を得ています。故郷に川があって、その埠頭に行くと船で商売をする人たちがいました。その人たちは家庭用品も洋服もすべて船の中にあって、本当に船で生活していたんです。それをモチーフに船で生活するキャラクターを作りました。また、グリーンバーグは元々港町です。駅に巨大なクジラがいることもそれを表しています。

—— 船が陸地にあるのはなぜでしょうか?

Moran 昔は港町だったんですが、今は水がなくなってしまった。なので船を改造して自分の家にしている感じです。

—— マップ上にたくさんの数字が見られたのですが、これは何か意味があるのでしょうか?

Moran これは絵を描くときの癖ですね。数字は世界共通の文字ということで絵に入れ込むことが多いです。中には意味のある数字もあって、例えばキャラクターたちの乗る電車に描かれた「2000」という数字。1990年代から2000年代に入る時に未来感があったこと。今から考えると2000年はもう過去ということ。「2000」という数字はレトロ感と未来感の両方を持っていると思ったので、ゲーム内の電車の雰囲気にも合うと思って描いています。

—— 他にはありますか?

Moran 個人的な要素も入っています。ダム城の隊員服に「9」という数字が入っていますが、これはプロデューサーの好きなサッカー選手のユニフォーム番号だったりします。

—— ダム城の看板のデザインについて教えてください。

Moran 今住んでいる上海はとてもグローバルな街です。散歩に出ると、中国語・韓国語・日本語といったさまざまな言語の入り混じる看板がたくさん配置されているんです。そういったグローバルで平和な雰囲気をゲームに再現してみました。

—— デザインが衝撃的だった風船豚というモンスターについて教えてください。

Moran 中国の黄河地方に「羊皮いかだ」という乗り物があります。空気で膨らんだ豚のような見た目です。それをモチーフにして風船豚をデザインしました。

今風の進化を望む

—— 今後、ドット絵がどのように発展していってほしいと望みますか?

Moran 現在の主流はドット絵ではなく3Dです。なので、ドット絵は時代の変化に合わせて進化してほしいと望んでいます。例えば技術のアップデートとか、今どきの要素を入れたコンセプト開発をしていってほしい、という個人的な思いを持っています。今作でプログラミングを導入して表現を変えたのもその信念に基づいています。


My Nintendo Store『Eastward(イーストワード)』
『Eastward(イーストワード)』公式サイト

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