【インタビュー】「賛否両論」の真意から次の展望まですべて訊く!『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』
35年ぶりのシリーズ完全新作『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』。おそらく、皆さんはもう“笑み男”事件を解決し、その驚くべき真相にたどり着いているのではないでしょうか。とはいえ、複雑なこの事件には、知られざる秘密がまだまだ隠されているのかも……!?
そこで、本作をプロデュースしたお2人に、気になったこと、知りたいことを聞いてきました。
(ニンテンドードリーム24年12月号より)
※ネタバレ満載なので未プレイの方はお気をつけください!
目次
任天堂のプロデューサー2人にすべて訊く!
プロデューサー 坂本賀勇さん
ゲーム&ウオッチ時代から多数のゲームソフトの開発に関わり、「メトロイド」「トモダチコレクション」「メイド イン ワリオ」「リズム天国」シリーズ等を手掛ける。
アシスタントプロデューサー 宮地香緒里さん
海外での高評価ぶりは制作陣も驚くほど!
―― 発売後の反響を見て、どのように感じられましたか?
宮地 うれしい気持ちと、触っていただいた方々には「ありがとうございます」という感謝の気持ちがありますし、なんらかの形で心に残るものになれているといいなと思っています。特に海外の方からのリアクションが思ったよりもよくて、なぜそんなに海外でウケているのか、ちょっと予想外なほどです。
—— 制作時には、海外のユーザーにも向けて……という意識はされていなかったのですか?
宮地 特に意識はしていないです。お話の舞台になっている昔の日本の文化とかは、たぶん海外の方にはわかりづらいと思うんですが、不思議と受け入れていただけているなという印象はありますね。今回は「推理する」で、クイズみたいな形でいろいろ答えていくところがあるんですけど、そこも海外の方に楽しんでもらっている感じはあります。
坂本 「もっとゲームプレイ的なことをしたい」という声がうちの海外の現地スタッフからも以前からあったので、もうちょっと手厚くしたほうがいいかなと調整したりはしましたが、海外から要望があったからそうしたというわけではないですね。
—— ゲームプレイ的な、というと?
坂本 選択肢を選ぶだけでなく、文字入力ができたりとか。
—— 本作は推理する場面自体も増えていますね。
宮地 主人公たちが追っている事件には、とある人物の行動とか、また別の人の思惑とか、さらには過去の話だとか、いろんなものが絡み合っています。ちょっとどこかで足を止めて考える時間を作らないと、勘違いしたままお話が進んでしまう可能性があるなと思ったので、それらの情報を細かく整理していく形にしました。
坂本 今回はいろいろ入り組んでいますからね。1個ずつ整理していかないとごちゃごちゃになるかなと。
宮地 海外を意識した点をひとつだけ挙げるなら、海外スタッフから「品のないジョークはやめてくれ」って言われたことですかね。今回はちょっとお上品になったかもしれないです。
坂本 リメイクのときに散々言われましたから(笑)。
—— 海外版ではなくなった表現、みたいなものは……。
宮地 そういうのは全然ないですね。
坂本 どう翻訳されたか、くらいで。
宮地 言葉遊びが変わっているところは言語の都合上もちろんありますが、構成する要素はすべて日本版と同じです。
坂本 これだけご好評いただいて楽しんでもらえているのであれば、本当になにも変えなかったのがよかったなと。向こうの方々に、日本の文化に興味を持ってもらえるきっかけにもなると思いますし。
—— 令和ではなく、戦国時代や江戸時代のようなわかりやすい時代でもない日本が舞台でも、高評価をいただいているというのは心強いですね。
坂本 そうなんです。先入観的なものがなかったのか、国民性に合っているのか、その辺はよくわからないんですが、すごく理解していただいてます。当時の時代考証も正しく反映しているとか、そういうことすらわかってらっしゃる感じで。文字を追うだけでなくて、その行間もしっかり読んでいるということなのかなと。そうじゃないと、ああいう反応は出てこないのではないんじゃないでしょうか。
宮地 今回、音声は日本語しか収録されてないんですけど、海外の方含めて、キャストさんたちの声の力がものすごく刺さっているのを感じます。海外ではなにを言っているかテキストで読む形にはなるんですけれども、「いま目の前にいるこの人はどういう感情なのか」が声だけでしっかり伝わっているなと。
坂本 言葉がわからなくても、抑揚を盛り上げる音響効果的なものになってますよね。
—— 私たちが、字幕版の映画を見ている感覚でしょうか。
宮地 そういう感覚だと思いますね。怒っているかとか、悲しんでいるかとか、すごく複雑な気持ちだとかという、言葉がわからなくても感情は伝わってるようでうれしいです。
坂本 しっかり聞いてしっかり読んでもらっているんだろうなということが、すごくありがたいです。海外の方々にもこれだけ受け入れてもらえるというのがびっくりでもあり、感謝でもあります。
賛否が分かれる? 『笑み男』の物語
―― 発売前のプロモーション映像で坂本さんは「結末は人によっては賛否が分かれるかもしれません」とおっしゃられていました。この賛否両論とは、具体的にどの部分のことだったのでしょうか。
坂本 今回のお話は、いうならばけっこう「キツいめ」のストーリーなんです。このキツいめのお話に込めたメッセージを「いや、これはもう受け入れられない」と拒否されるのか、「悲しいけれども、自分なりの答えを見つけなければいけない」と受け止められるのか……。もともと僕が思っていた「賛否両論」というのは、おもに物語を最後まで見届けたあとの受け止め方に関してのことだったんですけど、蓋を開けてみると、「これまでの『ファミコン探偵倶楽部』(以下『ファミ探』)と違う」という意味でも捉えられていて、そっちの論調のほうが強いというイメージですね。
—— 従来の『ファミ探』と違うものに、という意図はなかったと。
坂本 これは完璧に『ファミ探』なんですよ。
—— 前作までの違い……というわけではないですが、本作はジャンルが「インタラクティブドラマ」となっていますね。一般的に『ファミ探』のようなゲームは推理アドベンチャーや謎解きゲームと呼ばれることが多いと思いますが。
坂本 そうなんですよね。そもそも『ファミ探』って、ディスクシステムのときから映画やドラマの世界にインタラクトして、解き進めていくというスタイルの遊びとしてずっと作ってきたつもりなんです。いわゆる推理ゲームとは全然違うものでして。じゃあどういうものなのかっていうと、プレイヤーが主人公の姿を借りて聞き込みに行って、集めてきた情報をプレイヤー自身の頭の中で推理して、最終的な真相との答え合わせを楽しんでいただくというスタイルなんです。
—— 謎解き自体は、あくまでそれらの体験のなかのひとつだと。
坂本 言ってみれば、映画やドラマと同じなんですね、構造的には。だからそれを我々は「鑑賞型のエンタメ」だなと理解して、インタラクトするドラマ、インタラクティブドラマと表現しました。
—— 今回の『笑み男』はすごく『ファミ探』しているなと思いました。メッセージを読み進めながら頭の中で事件の全貌や、「あの人のセリフの真意は……」って、ずっと想像を巡らせちゃうんです。
坂本 作中にはいろいろな情報がちりばめられていますけど、たとえば「このキャラクターが言っていることをどう捉えるか?」は人それぞれですよね。ここは前2作から考え方としては変わってないんですよ。そこにはミスリードもあるかもしれない。当たり外れも含めて、それらの情報を全体のストーリーとどう結びつけるかを楽しんでいただきたいなと。
—— そういう意味で『笑み男』は間違いなく『ファミ探』なんだと。
坂本 はい、間違いなく。
宮地 リメイク版を坂本といっしょに作っていたときも、「『ファミ探』は巧みなトリックを解いてこの人が犯人だって当てるゲームシステムじゃないんだよ。人間を描くんだよ」っていう話はずっと言われていましたね。やっぱり、そこからはズレないようにしなきゃなっていうのはありました。
—— 今回のキャラクターは本当に「人間」を描いているな、と節々で感じます。
宮地 だいぶその辺りはこだわりました。この人は今までこういう人生を歩んできたから、今自分とこういう形で接しているんだ、っていうのがわかるようなセリフ回しとか。性格だけじゃなく背景もわかるように、人間臭さ……というか実在するような人間らしさを目指しました。
—— そのあたりは宮地さんが担当された感じですか?
宮地 というより、坂本がそれを教えてくれて。「人と会話するってこういうことだよね」というのをいっしょに考えるようになりました。
坂本 完全に理解してくれたので、すごくやりやすかったですね。今回、僕らは担当を決めて手わけするのではなく、お互いにやりとりしながら作り上げていったんです。外からだと、なんか「先生と助手」みたいな印象だったかもしれませんが。
—— イメージとしては、そんな感じもありましたが……。
坂本 でも違うんですよ。同じ目線で、同じ立ち位置で同じものに取り組んできて、僕がこうしたほうがいいと思った場所はそのように、ここは宮地の色が出たほうがよさそうならそうするというふうに、うまくバランスを取りながらやってきたので、そもそも強引に押し切った部分ってないと思うんです。どっちもが納得するものじゃないと入れない、というふうにやってきたので。
—— お2人が同じ立場で作ってきたというわけですね。
坂本 そうしないと、『ファミ探』って僕の枠から絶対出ないと思いましたから。「こういうのは今までなかったけども、入れたほうがええやん」というものは絶対入ったほうがいいと思うし、それによって新しい若いお客さんとかが入ってきてくれるのだったら願ったり叶ったりですし。僕自身も、新しいものができていくのが楽しいです。
—— そうですよね。
坂本 「『ファミ探』ではトリックを使ってこなかった」という話がありましたが、さらに『ファミ探』っぽいところで言うと、考察の余地を残すためあまり細かい描写を入れてないんです。だから、それらはお客さんたちがどう理解するかによって変わってくる。それらを無視するのか、重要視するのかも含めて、お客さんにお任せしようとしてました。
—— ラストを見ると、遊んでいる間に考えていた事件の内容が実際と全然違っていたとわかって、そういうところも含めて思い出深かったです。
坂本 インタラクティブドラマって、僕らはテキストアドベンチャーとビジュアルノベルのハイブリッドのようなデザインだなと思っているんです。要は遊ぶのか鑑賞するのか、でもあるわけですけれど。ビジュアルノベルは基本的にボタンを押すだけでどんどんお話が進んでいくので、お話を楽しむためにはすごく快適な仕組みですよね。『ファミ探』の場合は自分がその世界に入り込んで、能動的になにかをすることで展開を生み出すという手応えが醍醐味なので、やっぱりそれも必要だろうと。快適さと手応えの両方を感じられるようなバランスのものとして作ったのが、インタラクティブドラマのシステムということになります。
—— なるほど。ビジュアルノベルよりもさらに現場に近い雰囲気もありますね。
坂本 そうですね。『ファミ探』ではプレイヤーは限りなく主人公に近いところからものを見ている……というのがポイントなんです。
宮地 「『ファミ探』らしさ」としては、これまでのシリーズを通じて教えてもらった、坂本がずっとテーマにしてきたものもあるんです。
—— シリーズ共通のテーマ、ですか?
宮地 『ファミ探』って「家族愛」、大きく括れば「相手を思いやる気持ち」というものがいちばん根底の部分にあって、それを今回も絶対大事にしようというのがありました。今回は2組の「兄と妹」と、まるで兄妹のように育ってきた子供たち。そこにいろいろな偶然が重なり合って生まれたお話なんですよ。この3組のコントラストをはっきり描くことで、それぞれが考えたことはなんだったのか、というようなものが見えるようになっています。
坂本 人々が噂して、それが伝播して形を変えていく……というような、都市伝説の特徴がうまく背景としてハマるかなっていうのもありました。
30年ぶりの『ファミ探』で目指したものとは?
―― 今回、『ファミ探』シリーズの新作として目指したものはなんでしょうか。
坂本 先にちょっとだけ、『ファミ探』シリーズについて思ってたことを語っていいですか? 実は、ディスクシステム版を作ったあと、世の中で実際に起きている事件の凄惨さや怖さを目にしてるうちに、殺人事件を題材にしたものを発信することに抵抗感を覚えてしまい……「もう書けない」という気持ちになっていたんです。ただ、先のリメイクでのビジュアルやフルボイスの表現力に触れて、これを使って自分が本当に伝えたいテーマに向き合ってみよう、メッセージを伝えてみようと考えました。シリーズファンのみなさんはもちろんなんですけども、新しく触れる人たちにこの物語全体で語っている大きなテーマに向き合ってもらって、それに対してみなさんの答えを出してほしい。そう願って作った、というのが大前提としてあります。劇中で語られたことに敏感に反応して、自分の感性で考察していけばそのテーマにも気づいてもらえるでしょう。このインタラクティブドラマという仕組みを使うということで、自分が求めるものを実現できたのかなと思います。
宮地 遊びの面でいうと、ファミコン時代に作られたものってけっこう理不尽というか、どうしてこのコマンドを選んだら進んだんだろうというようなこともあったと思うんですけど。今回は誰がやっても途中で詰まったりせず最後までたどり着ける、なるべく攻略サイトとかを見なくてもクリアできるっていうのを意識して、次になにをすべきか気づけるように単語のハイライト機能を用意しました。初めてこのシリーズに触れる方、若い方にも遊んでもらいたいっていうのもありましたし。昔のあの歯ごたえがいいんだ、という方のためにはこの機能をオフにできるようにもしています。
坂本 古い話ですが、昔って「商品はできるだけ長く遊べたほうがいい」っていうところもあったんですよね。別に作り手が意地悪で難しくしていたのではなくて。なにを聞いても相手の反応がずっと「……」ばかりでどうしたらいいかわかんない、という場面も昔はあったと思いますが、そういうものは今は絶対に通じないだろうと。
—— 今回は「聞く」「考える」を選ぶ場面が多かった印象です。「取る」などは出てくる場面が少ないですよね。
宮地 やっぱり選択肢が多くなってくると、考えないといけないことも増えてしまいますし。プレイヤーが「こうかな」と考えて選んだコマンドでちゃんと先に進めるようにする、つまり「プレイヤーが考えたこと」と「ゲームが進行するもの」の乖離が大きくならないように、ということを意識しました。
—— 場所移動も極力させないというか、自発的に移動しなくてもいいようになっていますね。
坂本 「もうここはいいからね」というタイミングで場所移動が出てくるんですよね。『ファミ探』の歯ごたえがある部分、言葉を変えれば「こんなのわからへんわ」という部分のいちばん大きいものに場所移動があったと思うんです。いくつかの場所に行って、それぞれで正しい選択肢を選んで……みたいな。ほかにも2人の人間が目の前にいるときに、交互に呼んで話すというのも意外にも大変で(笑)。本作ではそういうのはほぼ入れていないですね。なかなか気づかないようなものを見つけないと進めない、とか。
—— 確かに、今回はストーリーの流れに沿って場所移動する印象で、同じ場所を何回も行き来したりはしないですね。ひょっとして「『ファミ探』らしくない」とおっしゃっている方はその辺りを指しているのかもしれません。
坂本 もちろん、以前の歯ごたえにやりがいを感じている方もいらっしゃるでしょうね。
—— 我々もその時代のアドベンチャーゲームは遊んでいるのでわからなくはないんですけど、今の時代の『ファミ探』を作るとしたらそこははたしてそのままにすべきなのか……? とは思います。
坂本 そう思っていただきたいのはありますね。ちなみに、条件が整って「場所移動していいよ」となったあとも、そこで素直に場所移動せずに続けて話を聞いたら、ふだんとは違うことが聞ける……というような工夫は入れています。
宮地 聞かなくてもいいけど、聞くとより登場人物のことが理解できるものはいろいろ入れちゃいました。
—— ふつうにプレイしているとなかなか気づかない箇所もありそうですね。
宮地 そうですね。ある章では、とあるお店に入ったら話が進むようになっているんですけど、そこでほかのお店に入る……というのは、たぶんいろいろな方がやられたと思うんです。
—— ラーメン屋やカレー屋に入っちゃったり。
宮地 特定のお店に入ったうえで、物語が進むお店に入ると会話がちょっと変わったりするんですけど、それ以外にもその場で空木さんやあゆみちゃんに電話をしてみると、そのタイミングでしか聞けない会話があるのでそれも見てほしいですね。
—— 携帯電話ネタはいろいろ探していたんですが、そこは気づきませんでした。
宮地 実はこういう会話はそこそこご用意しています(笑)。
坂本 ストーリーそのものが変わるとかではないですけどね。こういう遊びも『ファミ探』らしさのひとつですから、がんばっていっぱい入れてくれたのはありがたいことです。ふだんとは違う行動をすることで、ものの見え方とか、キャラクターに向き合ったときの印象が少し変わるということは、物語全体の印象にはかなり影響がある。そういう意味でもインタラクティブドラマらしいなって思います。
宮地 ここでこうしたらどうなるだろう、って思ったら試してみてほしいです。主人公、実は電話で2人の人物から「おやすみ」って言ってもらえます(笑)。
—— おやすみ、ということは夜の時間帯ですね。
宮地 そうですね。誰だと思います?
坂本 ちなみに僕は外しました(笑)。当てられませんでした。
—— そのシーンは見た覚えがないですね……。読者ならわかるかも?
宮地 ぜひ探していただければ!
「第三者の視点」が本作ならではのポイント
―― 『ファミ探』として今回はあえてここを変えた、という部分はあるのでしょうか。
坂本 今回は作り方を変えたというよりは、むしろインタラクティブドラマというものに近づけていった、と僕らは考えています。今までの『ファミ探』は、主人公の姿を借りて、いろんな場所に行って、話を聞いて、情報を集めて、それで自分の考察を頭の中で描く。これは先ほど言った通りなんですけど、本作では主人公以外の第三者視点を入れたじゃないですか。
—— 主人公だけじゃなく、あゆみちゃんや空木探偵で調査する場面もあるのが新鮮でした。
坂本 今まではプレイヤーを主人公と同一化をさせようしていたのを、「事件を俯瞰しているもうひとりの探偵がいる。それがあなたですよ」というイメージで見ていただきたいなと思っていたんです。今回のクライマックスでもやはり、事件の張本人が独白するんですけれども、「姿の見えない探偵」がそこに至るまでずっといろんな視点から見てきて蓄積してきたものを、張本人が語る真実と結びつけていくことになるわけです。真相が語られていくうちにいろんな推理を「これは当たっていた」「これは間違ってたな」とか思いながら核心に迫っていく、というものにしたわけなんです。
—— なるほど。
坂本 要は「情報の蓄積と解放」ですね。情報を溜め込んで溜め込んで、一気にがっと答え合わせしていくというところは『ファミ探』らしさでもあって、だからむしろ「変えていない部分」とも言えるんですけど。過去2作の手法とはちょっと違うんですよ。
—— 第三者の視点を導入したことが大きいと。
坂本 今回はあゆみちゃんや空木さんになって調査したり、主人公の視点ではない回想シーンを入れたり、そういう第三者の視点を採用することで、プレイヤーはより客観的に物事が見られるようになっています。たとえばあゆみちゃんは外部の人とはこう話しているとか、あゆみちゃんと話すときはこの人はこんなしゃべり方するんだということを、属性の違う情報としてプレイヤーにインプットされて、それで考察する幅が広がるのではないかなということを狙いました。
宮地 複数の視点から見られることは、人間らしさを出す意味でも、けっこううまく機能したと思ってます。プレイされているからお気づきだと思うんですけど、あゆみちゃんも自分が調査に赴いて見てきたことや、感じたことをすべて主人公に話しているわけではないんですよね。調査で得た情報自体は共有していますけど。
—— 言われてみれば、そうですね。
宮地 あゆみちゃんの中で「福山先輩は男性である」っていうのは当たり前の情報なので、それを主人公には言わないまま、「先輩と久しぶりに再会して電話番号を交換した」と話すシーンはいい例かもしれません。主人公は「あゆみちゃんが所属していた薙刀部の先輩だから女性だ」と思い込んで話を聞いてしまっていて、話の流れで男子って単語を聞いたときに初めて福山先輩は男性なんだって気づく。お互いに思い込んだまましゃべっちゃうところも人間らしいし、「話はちゃんと聞かないとわからないよね」という場面にもなっていると思います。
坂本 プレイヤー=主人公が見たものしか見せないという縛りを外すことで、インタラクティブドラマとしての表現の幅が広がりました。
—— 空木探偵事務所が一体になって調査している感も出ましたね。
宮地 そうですね。今までみんなが知らなかった、「あゆみちゃんってこんなこと考えてるんだ」みたいなのが見えたりして。
主人公“探偵くん”とあゆみちゃんの関係
―― 主人公もあんなにいろいろ考えている子だったんだっていう驚きがありました。 ひとりでタクシーを待っているときの独り言とかを聞くと、「探偵くん、こんなやつだったんだ」って(笑)。
宮地 記憶を取り戻して本来の明るさを取り戻したんじゃないでしょうか(笑) 。『うしろに立つ少女』のときの探偵くんは15歳で、すごく明るくて純粋な感じだったじゃないですか。『消えた後継者』だと記憶を失っているから少しぼんやりしている感じだったと思うんですけど、この2作を経て今の彼が出てきたと。
—— その辺の、主人公の性格づけも宮地さんと坂本さんでされたのですか?
宮地 お互いにこれ足そう、あれ足そうと書いているうちに今の形になった感じですね。キャラクターごとにはっきり担当が分けられているわけではないんです。
坂本 おもに担当したキャラというのはあって、具体的に言うと神原は宮地が、福山は僕が大部分を担当したりしましたけど、主人公とあゆみちゃんはホンマにいっしょにやってましたね。今までとは違う探偵くんやあゆみちゃんが見えたりするのはそのおかげだと思います。2人で担当したことがしっかり馴染んだ形で出てきて、幅が出たというか。
—— あゆみちゃんは昔からずっとこのシリーズの人気を支えているキャラクターだと思うのですが、お2人が考えるあゆみちゃんの魅力はなんでしょう。
坂本 あゆみちゃんは本作でかなり、いろいろと素が見えてきてると思うんですけども。単純なかわいい、いい子というのではなくて、調査に出たらけっこうマイペースなところがあったりとか、いたずらっぽい面も見えたりする。そういうところが魅力なのかなと思ってます。そして、なんと言っても、皆口裕子さんの声が最強なんじゃないかと(笑)。 皆口さんの声がぴったりですよね。
宮地 優しくて、人に寄り添える芯も強い女の子っていうところがいちばん表に出てくる魅力ではあるんですけども、ずば抜けた行動力を急に見せたり、趣味や特技がわりとギャップがあったり、そういう「女の子してる」だけじゃないところもありますね。『うしろに立つ少女』では主人公に薬を盛ったりもするし(笑)。 ただ優しいだけじゃないところがすごくいいなと思いますね。
—— 今回はだいぶ主人公と、ラブコメっぽい……というか微妙な関係にあるシーンがちょくちょくありましたね。電話をいっしょに聞くときにすごく距離が近かったりしましたが、あれはわざと……?
宮地 あれは絶対無意識。
坂本 無意識。
一同 (笑)
宮地 あそこは「先生から電話!私も聞きたい」くらいの気持ち。
—— 探偵くんくらいの年頃だったら一発ですよね(笑)。
坂本 意識してしまいますよね。あそこのシーンはけっこう好きで、あゆみちゃんの「にじり寄り方」もだいぶ調整しました。
宮地 にじり寄り方は坂本が相当こだわってましたね(笑)。
坂本 「なに、なに?」みたいな感じでお構いなしに寄っていくようにしてもらいました。
—— 「あゆみちゃんがヘビメタ好き」という設定も衝撃でした。
坂本 昔のディスクシステムのころからそうだったんですけども、特に深い意味はなくて。当時僕もよく聴いていたというのと、ギャップのおもしろさ狙いですね。
神原刑事と福山先輩は「二大巨頭」!?
―― 神原刑事と福山さんって「二大ちょっとおもしろキャラ」じゃないですか。今後シリーズのレギュラーになっちゃうんじゃないかってほどのインパクトでした。
坂本 二大巨頭ですね。それぐらい、キツいめのキャラ(笑)。 神原は人気キャラです。好きって人すごく多いよね。
宮地 好きになってくれたらありがたいです。
—— ちょっと乙女ゲームみたいな展開もありますし(笑)。
宮地 車内で会話するシーンですかね。あそこは探偵事務所から警察署までの移動の時間経過を描きたかった部分でもあるんです。ちょっと会話を交わしただけですぐ着いちゃうと探偵事務所と警察署めっちゃ近くない? っていう感じにもなりますし……それはそれとして、主人公と神原刑事が徐々に打ち解けていくシーンとしても機能したかなと思っています。
坂本 あそこは実は事件と直接関係ある話はほとんどないんですけれども、主人公の緊張をほぐそうとするところなど、そうやって深掘りしていくことで見えてくるものもあるだろうし、あとの関係性が変わる部分にも影響すると思いました。そういう部分をじっくり描くというのはすごく大事にしたいなと。
—— 先ほどおっしゃっていた「人を描く」というところですね。
宮地 人って、最初から友だち関係が成立しているわけでは全然なくて……会話を重ねたり、いっしょに過ごしたりして関係性を構築していくものだと思ってるんです。この部分はけっこう意識した点です。あそこがあるから、あとのシーンが活きるっていうところもあったかなと。
—— あのシーンの神原刑事にはびっくりしました。「そんな顔もするんだ」と。
坂本 全体を通して、急ぎ足にならず、じっくり熟成させたほうがあとで活きてきますからね。
宮地 神原刑事、後半になると探偵くんと話すときの一人称が変わってるんです。最初「僕」だったのが途中から「オレ」って言い始めるようになって……。そんな細かいところにもこだわっています。
坂本 たまに間違えて「僕」ってテキストを打ったら「この場面ではもう“オレ”です」って怒られました(笑)。
笑み男の誕生、笑み男の怖さ
―― 本作の重要人物、笑み男はどういう過程で生まれたのでしょうか。
坂本 大昔の話になりますが、 「もし新たに『ファミ探』を作るんだったら、“笑顔が描かれた紙袋”が出てきたらおもしろいかな」とふと頭に浮かんだアイデアが、やっと日の目を見たという感じです。新作で、都市伝説をテーマにすることで自分たちが伝えたいものを描ける……と思ったときに、この“笑顔の紙袋”を結びつけたら都市伝説っぽくなるんじゃないか、と。
—— ざっくりとしたモチーフがあって、今回の企画に合いそうだなと。
坂本 そうです。そのときは「紙袋を被って死んでいる、高校生の男の子」みたいなイメージだけを持っていて。
—— 最初はそこからだったんですね。
坂本 もうそれだけの、単に不気味だろうなというイメージでしたね。「都市伝説に合っている」と言いましたけども、むしろこのアイデアをなんとかするために都市伝説という設定が生まれた感じでしょうか。描こうとしていた背景を“笑顔の紙袋”が少しずつ変質させて、お互いがどんどん繋がっていったように思います。
—— 都市伝説的な肉付けを加えたと。
坂本 そうですね。今回のテーマを描くうえで必須なものになっていったといいますか。
—— “笑顔の紙袋”は、宮地さんが描かれたものだとか。
宮地 そうです。最初に「なにか笑顔を描いて」とだけ言われて。そのときは「笑み男っていうのを考えてんねん」ってところまでしか知らなかったので、なにに使われるのかもわからない状態で、ニコニコマークをいっぱい描いてみました。「小さいころはいっぱい絵描いてたなあ」とちょっと童心に返ってみたり、あえて利き手じゃないほうで描いてみたりとか。そうして複数候補を出した中のパーツを組み合わせてできた顔なんです。
坂本 笑み男の顔、当然ながら不気味じゃないですか。でもこの顔が、ストーリーの全貌を知ったらなんかいい絵だなというか、印象が変わるようにしたかったんです。とりあえず、なにも知らない人に無邪気に描いてもらったらええやろって思って、「適当に顔を描いて」って出したら、今言ったように「ハテナ?」と思いながらいっぱい描いてくれました。そのときに出たパーツを組み合わせたものが原型になっています。それをしばらく使ってて、ちゃんとゲームに入れるときにもうちょっとしっかりしたものを作りました。
宮地 シーンによって使われてる紙袋が異なるので、顔も絶妙に違うんです。同じ人が描いてブレてるみたいな感じの違いを出して。
坂本 上手じゃないねんけどがんばって描いている、というようなタッチがほしかったので。一生懸命描いてくれました(笑)。
—— 本作自身の「怖さ」は、どのようなものを目指されましたか?
坂本 『ファミ探』って必ず怖い要素を取り入れてきたシリーズなんですが、今までのような 呪いとか心霊現象とか、漠然として目に見えないものじゃなくて、実際にいそうな可能性を感じられる、リアリティのあるものにしたいなというのがありました。それが今回のテーマに一致するからなんですけれども。そこで今まで使ってこなかった要素である「都市伝説」で恐怖を表現しました。今回の『ファミ探』は以前より怖くないっていう人と、怖いという人両方いるんですが、心理的な怖さなので、人によって程度が変わってくると思ってます。
宮地 存在しないものだから怖いのではなくて、ひょっとしたら本当にいるかもしれないという、じわじわと近寄ってくるような怖さというか。たとえば「家の近所で不審者が出たらしい」みたいな情報が出回ると、夜遅くなったときに帰り道を警戒したりしますよね。ふだんだったら人がいないところに人影があったりとか、妙に歩くペースがいっしょの人がうしろにいると思ったりするとちょっとビクビクしてしまうというか。
—— 玄関の外から音がするとちょっとビクッとして、覗きたくないなというような(笑)。
宮地 そうですそうです! そういうときのゾワゾワ感というか警戒する感覚というか、そういうものに近いかもしれないです。
キャスティングとキャラクター設定の経緯
―― 先ほど皆口さんのお話がありましたが、声優さんのキャスティングや収録時のエピソードがあれば。
宮地 実際に収録現場で聞いているときにかなり圧倒されたというか。本当にどの登場人物も完全にイメージ通りのお声で命を吹き込んでもらったので、感謝しかないです。声の力ってすごい!と本当に感激しました。
坂本 収録には全部立ち会ったんですよ。去年の夏、やたら東京にいましたね。
宮地 1か月半くらい。
—— そんなに!
宮地 今回は登場人物のイメージに合わせて、私のほうで候補を出しました。もちろんどのキャラクターも複数人の候補がいたんですけど、絶対この人がいいと思うっていう第1希望を出したうえで、坂本にサンプルボイスを聞いてもらいました。ほぼ全員、そのままお引き受けいただけたのはよかったです。
—— リメイク版ではMAGES.さんがキャスティングされていたんですよね。
坂本 緒方恵美さん、皆口裕子さん、各務立基さんはもう不動のキャスティングで、僕らとしても大歓迎でした。ただ今回、僕と同じ目線で、同じレベルでキャラクターを理解している人にキャスティングしてほしいなと思って、全部宮地に一任したんですよ。第1希望のサンプルを聞いて、ああ、これもうそのまんまやでというものばかり出てきて、振ってよかったなと。無茶ぶりはやめられないなと味をしめましたね(笑)。
—— 宮地さんは無茶ぶりだと思ったんですか?
宮地 はい。また来たと思って(笑) 。
—— でもご希望がいい感じに収まったというのは一種の才能ですね。
坂本 キャラ設定の段階で、僕は名前とかもつけるのは苦手だって言ったら、宮地がキャラクターの設定資料のようなものを作ってくれて。
宮地 そこもテンプレートだけあって、坂本が「これ埋めて!」って言ってきたので、ちくちく人物像を作りました。
坂本 「女性刑事」とだけあったのを、「ビジュアルで言えばタレントのこの人、性格はクール」というふうに膨らませて書いてくれたりして。その資料をもとに選んでくれたので、印象がぴったりなのはそりゃそうですよね。
—— 豪華版の「ファミコン探偵倶楽部調査ファイル」のキャラクターページにも詳細な設定が書かれていましたね。
宮地 実はあれも私が全部書いたんです。ほかにもMAGES.さんと協力しながら、あらすじも手帳の中身も書きました。
坂本 今言ったようなところもほとんど「頼むわ」って(笑)。いろいろ頼り過ぎかなとも思ったんですが、ちょっと手が回らへんときがあって、カットシーンの編集や調整って大変なんですよね。それだけに、宮地が本当に自分と同じレベルで見えているのはすごくありがたかったです。主要な部分は思った通りになっていたのでとても助かりました。
「90年代前半」という舞台設定
―― そのほか、ストーリーを描くうえでこだわったポイントは?
宮地 前2作は当時の時代背景をそのまま反映した物語だったんですけど、今回は約30年近く前の日本と、その18年前、さらにそこから30年前の日本を舞台にしています。なのでその年代の日本の法律であるとか、警察のルールであるとか、ゲーム内に出てくる背景とかアイテムとか、当時流行ってたファッションですとか、そういうものの歴史をしっかり調べてなるべく違和感が出ないように反映させました。その時代に生まれた方々に、実際この時代ってどんな感じだったのかというのを聞いたり。
坂本 資料本も買ったりしましたし。
宮地 未解決事件もいろいろ調べたところ、ここまでわかっているのに犯人が捕まっていないケースがあるんだというのもあったりして。ここ数年でいちばん調べ物をしたかもしれません(笑)。たとえば、今は当たり前のようにあるコインパーキングもけっこう歴史が浅くて、1991年に1号ができたくらいの感じなんですよ。
—— 確かに当時はパーキング・メーターくらいしかなかったかもしれませんね。あらゆる方面で時代考証されていると。
坂本 ここはすごくこだわってやりましたね。「この時代にこれがあるのはおかしい」となるのはやめようと。
—— 空木さんから渡される携帯電話もけっこうなサイズでしたよね。
宮地 舞台は90年代前半ぐらいのイメージなので、そこに合わせようと。本当はその時代、日本で流行っていたのはポケベルなんです。でもポケベルって海外でどこまで通じるかわからないし、誰でも使えるようにするにはポケベル自体の使い方がわからないといけないし……そこで、ここはちょっとフィクションを混ぜて誰でもわかる携帯電話にしました。ポケベルだといたずら電話できないし(笑)。
—— 主人公が空木さんにポケベル打つ姿を想像するとちょっとおもしろいですが(笑)、直接話せる携帯電話のほうがゲーム的にはわかりやすいですよね。
宮地 当時、携帯電話自体は存在してたんで、じゃああってもおかしくないと。
坂本 そんな高額なものを渡せるの? っていう意見もありますけど(笑)。
演出とBGMへのこだわり
―― 音楽全般については、坂本さんが大きく関わっているとお聞きしました。
坂本 お任せしたものももちろんありますけど、「どうしてもこういうのがほしい」という主要な曲についてはリファレンス、つまり「この曲にあるような要素を」と聞いていただいて作ってもらったものがたくさんありますね。
—— 『笑み男』の音楽の方向性はどのようなものでしたか?
坂本 今回の音楽に関しては大体、『うしろに立つ少女』路線の延長です。繰り返し音楽を怖い場面で使ったりとか。ただ世界観や登場人物とかも違ってくるので、そこは今までなかったタイプの曲を使っています。おもに決めていったのは僕ですけど、曲によっては宮地とも相談して、それで最終的にコンポーザーの方と直接オンラインで繋いでいただいて、その場でもうちょっとテンポを上げてもらえますかとか、ちょっと低音弱いとか。めんどくさいやつらやって思われそうな(笑)。
—— 細かく詰めて、コンポーザーの方といっしょに作っていったと。
坂本 はい、そうですね。どうしてもあまり一般的な音楽セオリーに沿わない曲とかはやりづらいかなと。笑み男のテーマとかは結構苦戦しました。自分でもよくわからなくなってきて、どっちの音色がいいかな?とか(笑)。おなじみのバッハは宮地に選んでもらったんです。僕、クラシックはよくわからない(笑)。
—— 宮地さんはバッハにお詳しい……?
宮地 というわけではないですけど(笑)、クラシックは聞くほうです。
—— 選曲のポイントは?
宮地 シーンだけではなく、キャラクターの感情なども考えたときにいちばんマッチしそうなものを提案した形です。決め手になったのは曲調や雰囲気ですが、このシーンの空気感の中で大事にしたいものはなにかを考えて選びました。
坂本 意外と難しいんです。山ほどあるバッハの曲の中から、場面を盛り上げられるか、BGMとしてキャラがしゃべっているのを邪魔しないか、曲調がポッと変わったときにうまくハマるかどうか……といったものを選ぶのは、なかなか。一から作るよりも選ぶほうが難しいですね。
宮地 今回は元の曲から、ちょっとテンポを下げてもらったりしています。
—— プラネットコーヒーのBGMもクラシック調だったのでバッハかな? と思ったんですが、オリジナルの曲でしたね。
宮地 あれは坂本のこだわりですね。
坂本 福山のキャラって、変にずれてるじゃないですか。喫茶店で話してるときに、たとえばすごいコミカルな曲をBGMとして当ててしまうと狙いすぎというか、上滑りするやろうな、と。じゃあなにがいいだろうと考えたときに、ちょっと能天気でアホっぽい、昔のピアノ練習曲みたいなものがBGMになってたらいいんじゃないかなと思って。
—— 「アホっぽい」(笑)。
坂本 能天気でアホっぽい曲作ってください、って言ったら作ってもらえたと(笑)。 それにエフェクトをかけて店内BGMぽくしたら、うまいことハマったという感じですね。バージョンがいくつかあって、福山が落ち込んでるとちょっとシリアスになったりとか。
宮地 そうなんですよ。店側が気を利かせてBGM変えてるわけじゃないんですが(笑)。
坂本 同じ曲が雰囲気で違う曲に聞こえているよう違和感なく……と工夫したんですが、たぶんうまくいったと思います。
—— 『ファミ探』は聞き込みなどの音楽も印象深いですね。今回は主人公だけでなくあゆみちゃんの視点もありますが、それぞれの曲はどういう雰囲気で?
宮地 主人公のいわゆる聞き込みBGMは、新しいけれどちょっと懐かしい『ファミ探』っぽいものを目指していました。「成長も感じるけれど、まだ未熟なところもある」っていう、彼自身を表すような曲がほしいねという話もしていて……。そうしたらコンポーザーさんがもう、一発であの曲(聞き込み:主人公)を出してくれて、「これは『ファミ探』だね!」ってみんなで納得しました。
—— さっきおっしゃった、ちょっと大人になった主人公というイメージを伝えたら、あの曲があがってきたと。
宮地 そうですね。ちょっとふんわりした形で伝えたのに、まさかのドンピシャがあがってくるという(笑)。
坂本 あゆみちゃんは本作で初めて調査シーンがあるので、今までなかったものをと。基本的には探偵くんと同じようなタイプの曲でいいかなとも思ったんですけども、やっぱり差別化がほしいので、彼女のはつらつさであるとか、きらびやかさみたいなものを足してもらうような曲がいいな……という感じで言うと、これも一発であがってきた(笑)。すばらしかったですね。
『ファミ探』ならではの演出で大切にしていること
—— 公式サイトで公開中の「開発者に訊きました」では、坂本さんがビデオコンテで演出されているというのを拝見しました。
坂本 僕がこのシリーズをやりだしたのも、「この場面でどんなカットシーンを見せたらみんなドキッとするんだろう」とか、そういうことがしたかったからというのがあります。それをファミコンのころからがんばってきたんですけど、新しいハードになるたびにどんどんやれることが増えていくので、Nintendo Switchではすごく自分の首を絞めながらやりましたけれども(笑) 。
—— イメージを演出として落とし込むうえで、大事にされていることは?
坂本 大切にしているものは、まず構図ですね。それぞれのシーンの構図など画作りの部分、あとカットチェンジのタイミングや間とかいったテンポの部分。それを引き立てるためのBGMのオンオフやSEといった、音の演出にもかなりこだわるほうなんです。さらに、そうして完成したシーンをいちばんいいタイミングでインサートする、っていうところがこだわりのすべてかなと思います。
『ファミ探』の未来はどうなる!?
—— 最後に、今後のことについてお聞きしたいと思います。正直なところ、坂本さんもいずれ定年を迎えられるお歳ですし、そうなると『ファミ探』シリーズの存続はどうなるのか……という思いがありました。ですが、宮地さんのような方が『ファミ探』を引き継いでいってくれるのかな、と。
坂本 確かにおっしゃる通り、僕も永遠にいるわけではないんですけれども。今回インタラクティブドラマというものをかなり望ましい形で、いいものにできたなとは感じています。さらにそれを突き詰めつつ、もちろん至らなかった部分があれば、いろいろな意見を聞きながらより良いものにしていく……ということは宮地と共に考えていきたいなと思ってます。今回、いっしょに作って打ち出したものなだけに、お互いに同じものを見てきて思うところはあるだろうから、まずはそれに対してしっかり答えを出さないと、簡単に「あとはよろしく」というわけにはいかないと思います。
宮地 『ファミ探』にはいろいろな魅力があるキャラクターがいますし、掘り下げられる要素はたくさん残っているなと思います。空木探偵事務所のもとに新たな事件が舞い込んでくる可能性もあると思うので、ネタ探しはずっと続けていきたいですね。まずは、本作をより多くの方にプレイいただければうれしいです。『ファミ探』が気になった方は、3章まで遊べる体験版もありますので、ぜひ手にとってみてほしいです。
メインビジュアルの秘密も聞いた!
坂本 もともと僕、あの標識がすごく好きだったんですよ。笑み男のイメージにも近いし、使いたいなと思って。そのまま使うわけにもいかないので、ああいう袋を被った笑み男のような男の人と女の子にデザインし直してもらいました。
宮地 実際の歩行者専用の道路標識って、これ誘拐してる絵じゃないかとか(笑) 、そういう噂もあったんです。それこそ都市伝説じゃないですけど、これ使えるんじゃないかって採用した形ですね。実際の道路標識としてのデザインや形状の意味もわかるとより「なるほど」となるかもしれません。
ここからはネタバレ注意編
これから先はクリア後の非常に重要なポイントについて語られています。クリア前の方はここでいったん読むのをやめて、クリア後にお楽しみください。
クリア後のもうひとつのエピソードについて
—— 本編クリア後の「もうひとつのエピソード」についてもお聞きしたいです。
宮地 我々の考える「探偵」とは、犯人を当てるのではなく、真実を見つけ出すものだというのがあります。佐々木英介の事件は、主人公たちが介入したことでうやむやにならず真実にたどり着けたけど、この物語をきちんと完結させるには空木が調査していた「さらなる真実」を直視する必要があるよ、ということを伝えたかったんです。都市伝説って、けっこう無責任にいろいろと形を変えて伝わっていきますけど、大元にはこういうことがあったんだよ、という真実を見なければいけない。あと、人によってはだいぶしんどいだろうなという部分もあるので、ここからは覚悟を持って見てください、という形にしました。
—— 冒頭の「心の準備ができたようだね」ってところで、やっぱりやめておく、ってなったのがうちのスタッフでひとりいました。
宮地 いました? やっぱり?
—— 「怖いからちょっと考える」と。
宮地 社内でも「絶対しんどいから見たくない」って言って、佐々木くんの事件だけで終わってる人もいますし。
坂本 「笑み男」ともうひとつのエピソード、僕らはふたつをトータルに語っているつもりで、そこを含めて今回の『ファミコン探偵倶楽部』のストーリーとして描いてます。僕らがあそこでこだわってる部分は、もうひとつのエピソードの主人公は完全にプレイヤーそのもので、すべてプレイヤーに語りかけて教えているんだよということです。これをしっかり見て、自分なりにそれを飲み込んで、どうするかということに繋げていく……ということを意識しているつもりです。
—— これまでの『ファミ探』にはない表現もありましたね。
宮地 あそこは客観視点というか、神の視点というか……誰の視点でもないものとして描こうっていうのはわりと開発の序盤から決まっていました。当然アドベンチャーゲームの形式も考えたんですけど、ずいぶん過去の話を含むので、探偵くんとかあゆみちゃんとか、今の空木探偵事務所が介入できるような話では全然ないんです。
坂本 仮にできたとしても土足でズカズカ入り込んでしまうだけで、悲劇の回避にはならない……そもそもあそこで語られる部分って、空木の調査の結果を形にしたものであって、宮地も言ってますが誰の視点でもない物語なんですよ 。だからずっと最初から通してこの話をプレイし続けてきた人がそれを見て、空木の話を聞いてなにを思ったかとかいうのは、その人の感性によってまったく見え方が変わってくるだろうなと。これはもうえげつない! って思う人もいれば、深く心に刺さる人もいるだろうし、なんだかな……って思う人もいるかもしれない。それはわからないですけども、ただ、それを見ながらいろんなことを考えて、最終的な空木の問いかけに対して自分なりの答えをみなさんに持ってほしいなというふうに思っています。
—— 最後の最後に空木さんが言う、「君はどう思う?」という問いに尽きると。
坂本 そうですね、これはいろんな意味での「どう思う?」だと捉えていただきたいなと。
宮地 その問いへの答えは感性だけでなく、プレイした人のそのときの気持ち、立場、年齢、経験などで毎回変わってくる部分になるかもしれませんね。登場人物のよくも悪くも人間らしいところを綿密に描くことで、真実を知ってから改めて「なぜこうなったのか」、「あの人はなぜこういうことをしたのか」といったことを考えたときに、別の視点から見えてくるものがある……そのとき、「あなた」はどんな答えを出すのか、という。
—— ひとことで言えないところがあるんですよね。クリアした同僚と話をしてたら、「あれってこうなんじゃないか」という感想が微妙に違ったりするんですよ。そういうのが『ファミ探』らしさのひとつなのかなと。
坂本 あの表現のパートにコマンド操作はないんですが、これを僕らは「心でインタラクトしている」と考えているんです。これもインタラクティブドラマの表現のひとつであると。取り返しのつかない過去の出来事と、都市伝説を想起させる今の事件と結びつけるためには、やっぱりこの表現しかなかったんじゃないかなと思っています。
—— 主人公が空木探偵の調査結果を聞くという形ではじまり、そしてすべてを知るというシチュエーションしかないと。
宮地 そうですね。「もうひとつのエピソード」だけでなく「佐々木英介の事件」も含めて、「ゲーム」でしかできない体験を終えて完成なんだという見え方になってくれたらいいなと思います。すべて分かったうえで、もう一度プレイするとまた違う印象になるかもしれません。
福山先生の通信簿でさらなる楽しみかたが
—— クリア後のおまけ「福山先生の通信簿」ですけど、これは高評価を取るコツはあるんでしょうか。毎回「えっちだろ」と言われているんですが(笑)。
宮地 通信簿はかなり細かく判定しています。プレイヤーの探偵度は、「推理する」の答えだけじゃなくて、実はゲームが始まったときからいろんなシーンでずっと測られてるんです。背景をよく見ていたら、さっきとちょっと違うことに気づくかとか、会話を進めていく中で「今この人はこう言ってたから、ちょっと一回「聞くをやめて“考える”を挟んでみよう」とか。そういう行動の仕方で探偵度が変わるようになっています。
—— スピーディに進めるだけじゃ成績は上がらないんですね。
宮地 はい、話はじっくり聞いて進めてほしいですね。新しいコマンドがあっても、今この人がこう言ったのならあえてもう1回同じことを聞いてみよう、とか。どう深掘りするのか、どう背景を見るのか、という部分を見て判定しています。ひとつ例で言うと、序章で初めて警察官と話をするときに「見る・調べる」から「被害者」を選ぶとお話自体は進むんですが、実はそこで「見る・調べる」から「どこ?」を選び、うしろにある自転車を調べるとそれが佐々木くんの自転車であることが分かるんです。
—— そういう場所にも目を配ると。
宮地 判定する場所は各章ちょっとずつ、いろんなところにちりばめられています。お話はわりと誰でも最後までいけるような作りにはしてるんですけど、通信簿で優秀な成績を取ろうとすると、けっこう難易度は高いかもしれないです。
—— おもしろい小説になるような流れでコマンドを作っていく、みたいなノリなんですかね。
坂本 作る側としては仕事が増えるぞと(笑)。
宮地 カレーを食べたかとか、ここに電話したかとかは探偵度の評価にはあまり関係ないんですが、性格診断に影響することはあります。そのときに取った行動や選択肢でなにを選んだかによって、性格診断の結果も変わるんです。
—— 編集部でも性格は全員違いました。
宮地 違いました!? 診断結果、合ってましたか?
—— 言われてみたら確かにこういうことあるかも、とか。けっこう遊んでますね、みたいな(笑)。
以上、ロングインタビューをお届けしました。これからの『ファミコン探偵倶楽部』も楽しみに、期待して待っていましょう!
<関連リンク>
▶︎『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』公式サイト
▶︎開発者に訊きました:『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』
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<製品概要>
発売日:2024年8月29日(木)
価格:パッケージ版:6,578円、ダウンロード版:6,500円
対応ハード:Nintendo Switch
CERO:「C」15歳以上対象
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