『ファイアーエムブレム エンゲージ』インタビュー:キーワードから紐解く“エムブレム”の新しい遊び
紋章士がもたらす、“組み換えの遊び”が完成するまで
「エンゲージ」システムが叶えたもの
―― ゲームサイクルは王道でありながら、紋章士の存在と「エンゲージ」は思い切った印象がありますね。
鄭 遊びの面で『FE』に絶対必要な要素は、“ロールプレイングシミュレーションである”ということですが、今回ならではの遊びを入れたかったんです。キャラクターに愛着をもたせつつ、戦術的にもおもしろくなる試みとして、『FE』シリーズには毎回いろんなものを盛り込んでいます。隣同士で戦って支援値を上げていくとか、「ダブル」として組み合わせていっしょに戦わせたりとか。それを今回は「エンゲージ」でやろうと思いました。
中西 そうですね。『FE』はRPG要素があるので、プレイヤーごとに好きなキャラクターや好きな戦い方ができるのが大きな特徴だと思っています。
―― はい。単なる駒ではなく、育成したりと。
中西 それが思い入れや、また遊びたいという思いにつながっている。それをもっと広げるために紋章士を入れています。組み合わせで個性がついていくので、今まで以上にカスタマイズ性が広がりました。…これはどちらかというと玄人向けというか、シリーズファンが好きな要素として大事にした部分です。
―― 確かに。遊んでこそハマっていく部分というか。
中西 いっぽうで、我々がどんなに「RPG要素がある」って主張しても、「シミュレーションゲーム」は硬派で地味な印象をもたれて敬遠されがちな部分があると思っています。そこで「エンゲージ」の派手な演出や必殺技で興味を持ってくださる方がいるのでは、というのも狙いのひとつでした。そういったことがちょうど噛み合ったのが、今回の「エンゲージ」かなと思います。
合体変身エムブレム!? 歴代主人公登場の経緯
―― 紋章士が歴代の主人公たちになったのは?
鄭 過去作に携わったスタッフと話していたなかに、“12の神の力を借りて合体して戦うFE”というアイデアがあって、いいなと思っていたんです。「バトル中に合体して、特別な能力で強くなったりする」「12の偉大な神の力を借りる」というふうな案で。「12か…」と思いまして。12だったら、過去作を見返してみたらちょうど割り振れるなと。そのままシリーズの主人公を使わせてもらえれば、見た目的にも遊び的にも意味を成す企画が作れるんじゃないかと思ったので、そこが発端になっています。
―― 12という数字がきっかけに。
鄭 新しい試みや新しい絵柄にチャレンジするタイトルでもあるので、過去作のファンの方々にもフックとなるものを入れたかったというのも大きいですね。
横田 もちろん、すんなり「そうしましょう」ともいかず、検討を重ねました。過去作のキャラクターを登場させると「そのキャラを知らないと楽しめないのでは」とも捉えられかねないので。なので、「神の力を持った過去の英雄」はオリジナルキャラクターにしようかとか、あるいはマルスを象徴するなにかにしようかとか、そういう検討もしたんです。
中西 ですが、新キャラクターにしてしまうと、通常の仲間キャラと英雄キャラにどういう差があるんだという点で納得感が弱くなってしまいます。その点、過去作のキャラクターであれば、「特別な英雄である」とか「こんな技や能力を持つ」といった納得感も生まれます。また、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズ(以下『スマブラ』)に登場するキャラクターとかであれば『FE』シリーズが初めてのお客様でも知ってくださっている方は多いと思ったことから、紋章士は過去作キャラクターで進めることに決まりました。
異界の英雄・紋章士
横田 『スマブラ』はもちろんスマホアプリの『ヒーローズ』(※5)もあって、本編は遊んだことがないけど主人公は知っている、という方もいらっしゃると思うんです。だから過去作のキャラクターを登場させることによって、そういった方たちがNintendo Switch用タイトルで「主人公たちだけでも触れられるもの」を遊べるようになればおもしろいんじゃないかという考えがありました。
※5:『ファイアーエムブレム ヒーローズ』=スマートデバイス用アプリ/2017年2月リリース。これまでのシリーズのキャラクターを「異界の英雄」として召喚できる
鄭 そうですね。過去の英雄たちを「紋章士」として登場させられることになって、以降はそれを基軸に考えていきました。間口は広げつつも、やはり旧作ファンの方々にも楽しんでもらえるものにしたいので。
中西 とはいえ、シリーズが初めてのお客様にも楽しんでもらいたいので、過去作を知らないと楽しめないというような要素はなくすことも意識はしています。
―― 過去作のキャラクターを扱うことに対して、樋口さんはどのように見ていたのですか?
樋口 鄭には、過去作キャラクターに関して大事に扱うように、ということは何回か言わせてもらったかなと。ただ、この「合体変身」の企画というのは、『覚醒』を作るにあたってとにかくたくさんの企画を作ってはプレゼンして、ということをやっていたうちのひとつだったんです。そのときは形にはなりませんでしたが、2023年にまさか「合体変身エムブレム」がこの世に出るなんて…と、ちょっと感慨深い感じがしました。
―― 過去作に触れるといえば、「ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online」(※6)が『エンゲージ』の今後の追加キャラと同じ頃に発表されましたね。
横田 そうですね。『封印の剣』や『烈火の剣』が遊べるようになったら、加入されている方はぜひそちらも遊んでいただければと思います(笑)。
※6:加入者限定で、ゲームボーイアドバンスソフトを遊べるサービス。2023年2月9日スタート。Nintendo Switch Online + 追加パックに加入すると無料でプレイできる。今後GBアドバンスのラインナップに『FE 封印の剣』『FE 烈火の剣』が予定されているので、紋章士として登場する、ロイやリンの原作を遊ぶことができるようになりそうだ
無茶振りから救った「戦闘スタイル」
―― 主人公や王族だけではなく、すべてのキャラクターがどの紋章士ともエンゲージできるというのは、なかなか衝撃的でした。
中西 初めのころは、1人のキャラクターにいくつか特定の紋章士が付けられるような形で、ある程度組み合わせが決まっていたんです。
―― そうだったんですか。そもそも組み合わせの遊びは、過去作に「結婚システム」があったことが話題のきっかけだったと、公式サイトに掲載されている「開発者に訊きました」で語られていましたね。自分なりの組み合わせで、能力を引き継いだキャラクターを育てていく、という…。
中西 はい。ただ結婚システムは子供が生まれるまでゲームを進める必要があるので、組み合わせによる結果がわかるまで時間がかかってしまいますし、別の組み合わせを試すにはゲームを初めから周回するしかありませんでした。そうじゃなくて今回は、もっと気軽に「このマップではこの組み合わせを試してみたい」といった、“組み換え”ができるという点をテーマとしたんです。
―― それが今の紋章士の形になった、と。
中西 だから、全員が組み換えられるということは、重要なポイントだと考えていました。それで「どうにかして全員につけられませんか」とイズさんに投げかけて。けっこうな無茶振りなんですが、自由度が魅力に直結すると思ったんです。
―― その無茶振りを受けたのが、石井さんたちでしょうか(笑)。
石井 組み合わせの遊びを実現する以上、すべてのキャラクターとの組み換えは検討していましたが、組み合わせ数はかなりのバリエーションになるなと。
中西 わかりやすい例でいえば、「キャラクターによってカムイの竜脈の種類が変わる」とか、そういうことをやりたいよねって言っていたんです。そうじゃないと装備アイテムと変わらないじゃないですか。ただ、どう落とし込むかが難しくて。
石井 兵種と紋章士の組み合わせのパターンで考えたりしたのですが、それでも膨大な数になってしまうんです。そこで、8つの「戦闘スタイル」に分けてそれぞれに特徴を付けて、「戦闘スタイル×紋章士」という形にしました。そこが落としどころでしたね。
中西 だから「戦闘スタイル」って、「すべてのキャラクターに紋章士を付けるようにするには」という課題に対するアンサーとして生まれたものなんです。今はスタイルごとに特徴がありますが、それは後から加わった仕様でした。
―― そうだったんですね!
中西 結果、このキャラに付けたらステータスがより伸びるとか、こういう効果が付与されるとかいった、いろんなパターンが作れました。遊ぶ側に向けても効果をわかりやすく明示できたのでよかったなと思います。
鄭 しかも、主人公の戦闘スタイル「竜族」は全部高い効果を得るという、主人公ならではの特別感を表すことができたのもありがたかったです。竜族は特定のキャラクターしかいませんし、紋章士をうまく扱えるという世界設定とも合っていました。
―― 同時に、ビジュアル的な組み合わせも膨大ですよね。
中西 そうなんです。「どんな姿になるのか」っていう興味から紋章士を付け換えてもらえることもあると思ったので、エンゲージ中の姿もエンゲージの特別感を出しつつもキャラによって差をつけてほしいとお願いしました。それもまた「戦闘スタイル」が難題から救ってくれました。
―― アート班も無茶振りを受けたわけですね、寺岡さん。
寺岡 そうですね。キャラクターの色と戦闘スタイルと武器が組み合わさって、変化をつけることができたと思います。でも、最初は、髪の毛の色を変える仕様はなかったんですよ。現場から「色を変えませんか?」って提案があって…。
鄭 ストーリーやキャラクターの担当スタッフからも、「好きなキャラクターの髪色を変えたいっていう人は絶対いるよね」と。
寺岡 それで試しに紋章士のイメージカラーにしてみたら、たしかに印象がガラッと変わるなと思って、入れていきました。
鄭 金髪のセリーヌにセリカをつけてピンク色にする、とか。有料追加コンテンツの紋章士セネリオは濃い緑なので、落ち着いた大人っぽい印象になったりします。大きな変化が感じられるうえに、紋章士色に染まる、というのもよかったですね。
―― ドット絵のほうまで変わるのにはビックリしました。
寺岡 そう、あれ地味に大変なんです。へたをするとドット絵のほうが大変なんじゃ…。
石井 5000はあると思います。武器の持ち替えや、兵種に加えてエンゲージのパターンがあって。
寺岡 ドット絵の担当者が1人で手掛けているんです。
―― お1人で!
中西 ドット絵を描くのがめちゃくちゃ早くて巧い方なんです。
見た目にも華やかなエンゲージフォーム
―― エンゲージフォームのデザインは、統一感がありつつもそれぞれのキャラのモチーフが取り入れられているのがいいですね。セリカとかわかりやすくて。
寺岡 原作のセリカの衣装をベースにデザインされているので、例えばこれをヴァンドレが着るの? みたいな違和感もあるんですが(笑)、慣れてしまうんですよね。そういう意外な組み合わせも作りやすかったです。
エンゲージフォーム
中西 追加コンテンツの紋章士は黒基調のカラーになっていて、あれも格好いいですよね。実はチキも一応エンゲージフォームの衣装設定があったんです。竜になっちゃうからゲーム中では見られませんが。
寺岡 そうですね。竜化の仕様が特殊過ぎてどうなるかわからなかったので、念の為デザインだけ用意していました。
―― エンゲージフォームについて、ぜひ見てほしい組み合わせはありますか?
寺岡 ユナカとミカヤといった、ナイフが使える兵種とのエンゲージがスタイリッシュでおすすめです。モーションもハチャメチャにやっているのでぜひ見てもらいたいです。「隠密」スタイルならではの長いマフラーみたいなものがなびくのも、動きを組み合わせて綺麗に見えるように作っています。
すべて手作業!? リスペクトが成した戦闘モーション
寺岡 今回、キャラクターの戦闘モーションをすべて手作業で作っています。最近のゲームモーションって、モーションキャプチャーといって人間が実際に動いたものを撮影して使うことが多いんですけど、今回はそれを使っていないんです。
―― そうなんですか! たしかにキャプチャーすると、生々しい動きになりそうですし…。
中西 変にリアルになりすぎても、かっこよくなくなると思っています。特に今回は紋章士の派手めな動きにしたかったですし。
寺岡 はい。エンゲージにふさわしい超人的な動きが必要なので、生身の人間では演技することが難しいんです。モーション担当の皆さんといっしょに、すべて手作業で頑張って作っていきました。
鄭 超人的な動きを見られるっていうのは、ゲームならではでうれしい部分ですよね。分身しながら斬る必殺モーションとか、過去作のオマージュもいっぱいあります。
寺岡 分身するモーションは、もともとソードマスターの必殺として作っていたんですよ。でも、あまりにも他の兵種に比べて超人的すぎるので、それはエンゲージ時の必殺技にして、ソードマスターのほうは少し抑えた別モーションを作りました。
―― たしかに、必殺の上にさらに派手なエンゲージ技が出てきて、差をつけるのは大変だったのではないでしょうか。
寺岡 そうですね。そもそも通常戦闘でも十分強そうに見えるので、どうしようかなと(笑)。
エンゲージ技
必殺の一撃