『ファイアーエムブレム エンゲージ』インタビュー:大きな変化から細かい部分まで、注目ポイントを尋ねる
キャラクターを育成し、バトルマップを進めていく『ファイアーエムブレム』(以下『FE』)シリーズの最新作、『ファイアーエムブレム エンゲージ』。
インタビューを実施し、開発を手掛けた任天堂、インテリジェントシステムズ(以下、イズ)の皆さんにシステム部分から遊び要素まで、気になるポイントをひとつひとつうかがいました! 細かいお話も含め、制作Q&Aをたっぷりお楽しみください。(ニンテンドードリーム23年6月号掲載)
※文中、『ファイアーエムブレム』を『FE』、シリーズの各タイトルをサブタイトルのみに省略している場合があります
▼ 紋章士のシステムや世界設定についてうかがった、インタビュー前半はこちらをご覧ください
プロフィール
よりロールプレイング的な遊びの広がりとマップの妙
気になる新兵種とそのモーション、『FE』シリーズならではの難易度やマップ設計についてなどを尋ねます。
Q 新兵種「ウルフナイト」の開発経緯を教えてください
石井 『FE』シリーズは、いつも開発チームから「新しい何かに乗りたい」という要望が出るんです(笑)。今回はウルフが選ばれました。
鄭 ウルフを選んだ経緯は、これまでにないもの、という点がひとつの基準になっています。短剣を扱える騎兵はこれまでいないので新鮮ですし、動きもまったく変わりますよね。
そしてウルフナイトという兵種からイラストレーターのMika Pikazoさんがインスピレーションを受けて、「メリン」というキャラクターを生み出してくださいました。
―― 兵種もキャラクターも、とても魅力的に映りました。
石井 モーションのスタッフは「テンション上がる動物にしようね」と言ってましたね(笑)。
寺岡 そうですね、新しいものをやりたいように作れるという意味でもテンションを上げられるものになったと思います。ただ『if』には「妖狐」という、人は乗ってはいないんですが狐の兵種がいたので、そのエッセンスは入っていますね。
鄭 演出面もバトル面も、相当がんばって作ってくれていて、動きが映えますね。
―― 反対に、ペガサスやドラゴンは「FEの世界ではこうあるべし」というような決まりがあるのでしょうか?
樋口 そうですね。「ペガサスナイト」などは昔から、設定を統一させている兵種です。一部のタイトルでは「天馬騎士」「天馬武者」といった名称にすることでアレンジしていることもありますが。
―― 天馬に乗ってはいても、由緒ある「ペガサスナイト」とは別だったんですね。
樋口 そういった既存の兵種に短剣を扱わせるよりは、まったく新しい兵種を登場させたほうが、インパクトも大きいし設定を保てます。なので「ウルフナイト」のように新しく挑戦していってほしい部分と、「ペガサスナイト」のように守ってほしい部分とがありますね。
Q 紋章士が仲間になる順番は、どのように決まっていったのでしょうか?
鄭 マルスは初代の主人公ですし、最初に出したかったんです。それ以降の紋章士は、遊びの流れや扱える能力を基にして調整しています。
たとえば2番目に登場するシグルドは3作目『聖戦の系譜』の主人公ですが、騎馬兵なので変化が分かりやすいですし、武器として槍を覚えてほしかったんです。
中西 シグルドは、ストーリー的にも「ルミエルの代わりに導いてくれる存在」という立ち位置が欲しかったというのもあります。原作でも父親としての印象が強いキャラクターですし、子を遺して倒れてしまうという原作のエピソードも重なりますので、序盤の導き手のひとりとして適任だと考えていました。
鄭 セリカは、2作目『外伝』の主人公のひとりであると同時に、「ワープして攻撃する」というわかりやすく強い能力を持たせたので、序盤に見せていきたい狙いがありました。
中西 なので、マルス、シグルド、セリカの登場順は、ほぼ最初から決まっていましたね。
鄭 はい。4章になってマップが広くなり、移動力が高いシグルドやセリカが加入して、マップ遊びがこうやって発展していくんだよということを見せられる存在でもあったんです。
横田 たとえばベレトは、スキルが応用的で、複数の仲間ユニットに恩恵がある能力を持たせたので後半に登場させる形になっています。
鄭 そういったことを考えながら、ストーリー面との兼ね合いをシナリオ制作チーム とも相談しながら作っていきました。
<ネタバレ注意>
※以下は、10章をクリアしてからお読みください
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―― そうして指輪がどんどん集まっていくと思ったら、失う展開もあって…。
中西 あそこは、シナリオ的に山場を作りたかったというのもあるのですが、紋章士の遊びの特徴のひとつである組み換えの遊びを体験してもらうために、指輪を付け替える機会を作りたいという意図もありました。紋章士の指輪は、ゲームに慣れていないころは誰にどの紋章士をつければいいか分からず、仮で決めた組み合わせで遊ぶことが多いと思うのですが、そのままある程度進めてしまうと、組み合わせを見直すことなく進んでしまうのではないかと心配していました。
また、『FE』に慣れている方でもちょうどあのくらいになると、「このキャラにはこの紋章士を付けておけばいいよね」みたいに組み合わせが固定になりがちだと思うんです。そこで一回指輪を失うことで、再度組み合わせを考える機会を作ろうと考えていました。
鄭 紋章士たちを機能的に失うだけでなく、シナリオ上でショックな出来事が起こりますが、紋章士には、能力を強化するための「物」ではなく「仲間」として愛着を持ってもらいたかったからなんです。
中西 指輪がなくなったあとにマルスに代わるかたちで、ルキナが登場するのもバチッとハマりましたね。
Q 難易度ごとの調整など、マップの設計について教えてください
石井 ノーマル、ハード、ルナティックそれぞれに、対象としているプレイスタイルの想定があります。ノーマルは、「性能はあまり気にせずに、キャラクターを好きに組み合わせてもクリアできる」もの。ハードは、「性能を考えて組み合わせないと少し苦しいかな」という加減。ルナティックは、さらに「スキル継承や武器錬成といったものを全部駆使して戦わないと難しい」。そういう方針で調整をしています。
中西 私からもバランス調整について石井さんにお聞きしたいことがあります。今作はボスが普通に動いてきたり、そもそもボスがいっぱいいたりと、マップの遊びとして普段あまりやらないようなことをされている印象がありました。その結果、「敵の移動範囲にアーマーナイトを置いて壁を作りながら安全に進めていく」といった従来から有効な戦術をやってみたら意表を突かれる、ということが多かった印象です。
今作でそれができたのは強力な紋章士がいる結果かとは思うので、そのあたりを調整するうえで意識した点があればお聞きしたいです。
石井 敵がどう動くかということの前に、「紋章士が加わるマップで、その紋章士がきちんと活躍できるようなもの」ということを意識しています。たとえば、4章のセリーヌ&セリカは真ん中のルイとクロエを助けに行けるような構図になっています。カムイ登場のマップは瘴気を消していったり。
今までの『FE』ではなかったようなプレイがそのマップで体験できるように、といった点はかなり意識しています。そういった調整を進めていった結果、ボスについても「紋章士のこの能力を使わないときついよね」と思えるような能力や行動パターンを盛り込むようになっていきましたね。
中西 エンゲージ能力が加わったことで、マップの遊ばせ方もより多彩になったわけですね。
横田 危ない箇所があっても、エンゲージ技を使ってピンチを切り抜ける、といったバランスで面白く遊べますね。エンゲージで強くなるという点を生かして、“手強いシミュレーション”を楽しんでいただければと思います。
Q 戦闘終了後にマップ内を散策できるようにしたのは?
鄭 戦闘パート直後に仲間と交流する場所が欲しかったんです。拠点に戻ると緊張感がリセットされますし、もっと戦場感を味わえるようにしたくて。それで、さっきまで戦っていた情景の中で、仲間や村人と話せるようにしました。
たとえばバトル中に賊が民家を壊しちゃうマップがあるんですけど、壊されてしまうと戦闘後も家が壊れているんですよ。それに対して「守れなかった」って後悔したり、クラシックモードで仲間が倒された場合は、仲間の死を悼むセリフを言ったり、そういうものを用意しています。それから、出撃させていない仲間も…
―― 「たまには連れてって」みたいなことを言う(笑)。
鄭 そういった、感情に訴えかけるものを味わってもらいたくて入れました。もちろん、バトルマップや遠景をじっくり見たりもできますしね。背景も夕日とか、けっこう作り込んでいます。
中西 私は逆にどちらかといえば、戦闘後は早く次のマップに行きたい派なんです。遊ばれる方にもそういう方もいらっしゃると思うので、短く済ませたい人の視点を気にしながら開発していました。散策では話しかけなかった分の「絆のかけら」だけは自動でもらえるようにしたりして、ある程度バランスは取れたかなと思います。
鄭 自由な形で遊んでもらえればと思いますね。
Q 本編と外伝のマップづくりには、どのような違いがありますか?
鄭 本編マップは、メインストーリーで同じ構成が続いたり、同じようなシチュエーションが続くと飽きてしまうので、それが起きないように心がけています。シナリオ側と相談して、最初は草原、次は屋内、その次は城壁戦で、防衛だったり撤退戦だったり、いろいろな舞台や条件を織り交ぜつつ、バリエーション豊かになるようなものを作りました。
中西 イズさんが企画当初から「今作はマップ遊びを拡張したい」といろいろ検証されていたので、それは外伝や終盤のマップに反映されていったのかなと思っています。少しルールが変わるので難しいところでもあるのですが、遊びごたえがありますね。
鄭 セアダス&カムイが登場するマップの、最初は屋根があって開けたら中が見えるというのは、実は過去作で先が見通せない作りになっていたマップへのオマージュだったりします。シナリオ上でもお化けが出てきそうな廃墟を訪れる展開だったので、ビックリハウスのような構成で考えました。
中西 オマージュといえば、各紋章士の外伝マップも「過去マップを再現する」ことに力を入れてますよね。
鄭 はい。シリーズのキャラが登場しますので、過去作のマップを今作のグラフィックで再現したらおもしろそうだなと思い挑戦しました。社内にはシリーズに詳しい者もたくさんおりますので、アンケートのようなものを取って意見を募りました。そのなかで、人気が高かったり、多くの人に思い出深いものであったり、そういうものを選定しました。
さらにレベルデザインでも、原作を想起させるようなキャラを配置したり、隠しアイテムを入れ込んだり。そういったネタ要素も、ノリノリで盛り込んでくれました。
石井 マップのBGMも力を入れて取り組んでもらいましたね。外伝マップではそのタイトルのものに変えていますので。
鄭 本編マップにも各国ごとに別々のテーマ曲があり、さらに外伝マップにも各シリーズごとに『エンゲージ』向けにアレンジされたテーマ曲が用意されていますので、ひとつのタイトルの中に相当な曲数が収録されています。
Q 武器の回数制限がなくなったのは?
横田 武器の使用回数に関しては、毎回、今回はどうするかを議論しています。 制限があると、とっつきづらさを感じたり、毎回の進軍準備で、減っていたら追加しなきゃいけなかったり。それから、回数制限があるとやっぱり高価な武器を温存しがちになります。
石井 しかも強い武器は使用回数が少なかったり重かったりして、結局「鉄の剣」を最後まで手放せなかったり…。
中西 ずっと「鉄の剣」のまま戦ってしまうというのは、本末転倒だよねと。今までにも武器の回数制限を廃止したことはあって、『エンゲージ』だけでは語れない経緯があります。
石井 それで今回は、強い武器を手にいれたら回数を気にせずに使えるほうが嬉しいんじゃないか、 という方向で考えました。
つり合いが取れなくなるのではといった議論もありましたが、3すくみや紋章士との組み合わせ、スキルなど、考えることや管理することが増えているので、武器の回数ぐらいは考えずに遊べたほうがいいだろうというのも理由のひとつです。
RPG寄りの感覚とも相まって、回数制限なしに使えるようにしています。
―― こんなに「銀」の武器を使ったのは、初めてかもしれないです。
石井 銀の武器は「体格」がないと、連続攻撃ができなかったりしますよね。「体格」が入ったおかげで、武器選択の余地もいい塩梅で残すことができたかと思います。
―― 「体格」はプレイヤーによっては新鮮なパラメータですし、けっこう重要ですよね。エーティエがムキムキになりたがっていた理由がわかります(笑)。
鄭 体格が低い、上がりにくいキャラクターには、体格がアップするリーフを付けてカバーしていただければと。
中西 体格を上げる以外にも、たとえばエンゲージ技には一撃が強力なものがあって…。重くてもとにかく威力の高い武器を、その技を撃つときにだけ装備する、といった遊び方もできます。
石井 錬成すると化ける武器もあるので、そういったところでシリーズのファンの方にも楽しんでもらえるような調整もしています。いろいろ試してもらいたいですね。
Q キャラクターユニットを「直接操作」で動かせるようになった経緯を教えてください
鄭 キャラクター自身を直に動かすことによってより感情移入してもらおうと、今作でのチャレンジとして「直接操作」を取り入れました。
中西 従来の『FE』って、カーソルを動かして、目的地を決めたらそこで初めてユニットが動くじゃないですか。でも、シミュレーションゲームをあまり遊ばれたことがない方は、キャラクターを操作したら動いてくれるものに慣れ親しんでいると思うので、「直接操作」のほうが直感的で分かりやすいんじゃないか、と。
―― RPGのキャラみたいに動かせるということですね。
横田 スマホアプリの『ヒーローズ』のタッチ操作が快適なので、これをNintendo Switchに合う形に落とし込めないか…という話もしていたんです。でもすんなりとはいかず、だいぶ議論しましたね。
鄭 実装にあたっても一筋縄ではいかなくて、プランナーやプログラマーには苦労をさせてしまいました。カーソル操作だからできた、ほかのユニットを確認する動作が難しかったりして…。
石井 苦労はしましたね。新しい操作なので、今までと同じことが通用しなかったり…。ベテランのプログラマーと相談しながら進めました。不便になったら元も子もないので、そこは調整しながら、ディレクターが目指すイメージに落とし込んだ、という感じですね。
横田 おかげで、僕は慣れたらもう戻れなくなりました。
中西 直接移動してくれると敵の行動範囲もわかりやすいですしね。「ここに行ったらこの敵の行動範囲に入るんだ」と分かるので、狙われたくないキャラクターをどこに動かせばいいかは分かりやすくなったと思っています。
石井 実は、マリオクラブ※さんでテストプレイをしていただいたときに、この操作に対しての意見が特に出てこなかったんです…。
※マリオクラブ株式会社=開発中のゲームのデバッグ(不具合などを見つけること)をしたり、モニターテストを手がける任天堂グループの会社
―― 不満も好評も、何も声が挙がらなかったと。
石井 はい。でも、むしろ何も出ないのがいいことなのかな、と。 馴染んで不快感なく使ってもらえたという手応えがありました。
―― ずっとシリーズを見てこられた樋口さんは、どのように感じられましたか?
樋口 最初はとても違和感がありました(笑)。長年プレイしてきてその操作に慣れているわけですから、コンフィグでもいいから昔のスタイルを入れてほしい、と。ただ、今では問題なく馴染むことができて、ロールプレイング感が増したなと感じます。
本作は特に、ロールプレイング志向を強くしているので、その狙いをうまく昇華できているんじゃないかと思います。
横田 鄭さんたちが大事にしたかったものが伝わってきましたね。
鄭 「エンゲージ」のコマンドで変身することも「直接操作」と相性が良かったので、今作ならではの体験にもなったと思います。