FE無双 風花雪月 キーマンインタビュー 〜もうひとつのフォドラ戦記を尋ねて 前編〜
開発コンセプトは、「1000通りの一騎当千」
戦記物感を重視し生み出された新たなキャラクターデザイン
── 本作の主人公(デフォルト名:シェズ)はどのようなコンセプトで作られたのでしょうか。
鈴木 『FE 風花雪月』ではベレト・ベレスは先生で学級のみんなは生徒という、いわゆる師匠と弟子の関係なのですが、本作のシェズはそれとは違う路線で、クラスメイトたちと同じぐらいのポジションにいる人になってほしいと思っていました。対等な立場という関係性だからこそ見えてくる各キャラクターたちの魅力もあるはずなので、先生とは違う立場で、というのは当初から想定していました。
岩田 シェズは原作のベレト・ベレスと違ってものすごく喋るんです。「プレイヤー自身」ではあるんですが、自我を持っているというか。なので、「シェズ」というひとりのキャラクターとして見た時に、好きになってもらえるようなキャラ作りには力を入れました。
早矢仕 ベレス・ベレトは自分の分身としてのキャラクターを突き詰めた形なので、同じ描き方をしても彼らには勝てない。感情を出すけど、プレイヤーの皆さんにもちゃんと感情移入していただける人物になるよう、チャレンジしました。
── 『FE無双 風花雪月』の舞台を2年後にしたのはなぜですか?
岩田 初めから明確に2年後に設定していたわけではないのですが、今回は戦記ものにしましょう、とストーリーを組んでいくにあたり、自然と2年後という時代設定ができあがりました。原作と描く期間が異なるためキャラクターデザインや衣装も本作オリジナルにしています。元々生徒キャラクターには新規コスチュームを、と考えていたので、その必然性も生まれてうまくハマった形になります。
── 新しいキャラクターデザインはどなたが担当されたのですか?
鈴木 主人公のシェズとラルヴァ、級長3人は倉花千夏さん(イラストレーター、キャラクターデザイナー。『FE 風花雪月』のキャラクターデザインを担当。ほか代表作に「うたの☆プリンスさまっ♪」シリーズなど)に、そのほかのキャラクター関しては草木原俊行さん(インテリジェントシステムズ所属。『FE 風花雪月』にてディレクターを担当。3DS『ファイアーエムブレム 覚醒』『ファイアーエムブレムif』ではアートディレクターを務めた。田中芳樹先生との対談記事はこちら)にお願いしました。
岩田 シナリオライターにキャラクター設定を新たに起こしてもらい、それをもとにデザインを作成していただきました。今回は新主人公の存在によって『FE 風花雪月』とはキャラクターを取り巻く環境なども変わっています。その辺りを草木原さんの方でうまく咀嚼しながらデザインに落とし込んでいただけました。弊社側から見ていると、非常に早いペースでデザインを共有いただいていたので、そんなにご負担はかけなかったのだと思いたいです(笑)。
鈴木 ありがたいことに、すごいペースでデザイン案が上がってくるんですよ!
岩田 もうこんなに!? みたいなペースでしたね! こちらのライターもキャラクターにすごく思い入れがありますので、上がってきたものに関する指摘も多かったと思うんですが…。
早矢仕 ありましたよね。「この部分はこれでいいんでしょうか?」みたいな。
岩田 そうですね。そういう指摘にも細かく対応していただいていて、結果どのキャラもとても魅力あるデザインになったと思います。デザインに関してちょっと苦労させてしまったかなと思う点をあげるなら、シェズの髪の色でしょうか。既に登場しているキャラの髪色とは被らない色にしようと検討した結果紫となったのですが、紫の髪って結構奇抜なので、倉花さんは苦労されたかもしれません。
鈴木 紫の濃さなど、色味に関しては調整が難しかったかと思います。
── 2年後のキャラクターデザインに関して、苦労した人物はいますか?
鈴木 上がってきたデザインに対してシナリオ担当から「今回の設定はこうだから、ここの部分は調整してほしい」とか、細かい部分への指摘はあったんですが、大枠として「これは違うな」というものはなかったと記憶しています。
── 細かいやり取りはあったけれども、コンセプトからは外れていなかったと。
岩田 初球が外れてくるということはまったくなかったですね。強いてあげるのであれば、ベルナデッタは髪型が上がってきた時に少し戸惑いはありましたけど(笑)。もちろん可愛いのですが、プレイヤーの皆さんはどう受け止めるかなという点が。
鈴木 ちょっと攻めたデザインだと思うんですけど、ただあれにも理由があった上であの髪型になっているんです。ベレト・ベレスに会わなかったから、こういう経緯で…という前提があってのデザインなので、そこも含めて納得できたかなと思っています。
岩田 今となってはあの髪型しかなかったかなと思います(笑)。
── 全体的に『無双』になるにあたり「武人」っぽさは意識されていましたか?
鈴木 そうですね、そこも草木原さんの方で汲んでいただいたのかなと思います。例えばヒューベルトも『FE 風花雪月』の5年後は大臣というか、かなり偉い立場の人、といった感じの服ですが、今回のデザインは少し軍服寄りというか。そのあたりご理解されたうえで、デザインに取り込んでいただけたのかなと思っています。
── ホルストなど学級の生徒以外のキャラクターのデザインも、草木原さんが担当されたのですか?
岩田 そうですね。ホルストは、原作に名前だけは登場したキャラです。草木原さんのなかにはもともとイメージが存在していたとは思いますが、それを本作のために描き起こしていただいています。
── そういった原作で登場していなかったキャラクターたちを今作で出そうというのは、コーエーテクモさんからご提案されたのでしょうか?
鈴木 個別に提案したわけではなく、ストーリーを作っていくうえで自然に出てきた形ですね。今回は戦場や戦乱を中心に描く以上、戦場には学生たちよりも大人の、上の世代が必ず関わってくるはずじゃないですか。だとすると、そういう人たちを登場させて学生たちとの関わり方を描いていくのは必然となるのではないかと考えたわけです。上の世代と学生とが、時には反目して対立したり協力し合って戦いながら成長していくというのが、今回の物語の裏テーマでもあるのかなと思います。
── たしかに、物語上でも大人たちがかなり活躍してるなと感じました。
早矢仕 士官学校の中でのやり取りをやめる代わりに、他に魅力を出していこうと考えたわけです。新しいキャラクターを出したのもその一環ですね。
キャラそれぞれの個性を彩るアクションスキルの制作秘話
── 本作の大きな特徴として、どのキャラクターもほぼすべての兵種に就けるというのがありますよね。その分、キャラごとの個性は個人スキルで付けているのかな、と感じたのですが…。
岩田 おっしゃる通りです。基本のアクションは兵種ごとの差別化です。そうなると、全キャラクターがあらゆる兵種に就けるので、アクションゲームとしては各キャラの個性が弱まってしまいます。『FE 風花雪月』ではキャラの個性がストーリー的にも非常に立っていて魅力的ですので、やはりアクションにおいてもキャラの違いや個性をちゃんと感じてほしい、という思いを個人スキルという形で表現しました。制作にあたっては、キャラの性格や設定、背景といった枠組みから大きく外れないものにしようというのを第一のルールとして設けていました。そのうえで開発チームの有志で、キャラごとにああでもないこうでもない、とアイデアを出しながら形を作っていきました。
鈴木 時にはスタッフ間で解釈違いとかが起きることもあって(笑)。
岩田 「私の考えるこのキャラはこんなことしない」とか異論があがることもあったのですが、そこは非常にやりがいがあって、かつ面白い作業でしたね。
── キャラクター数も多いですし、兵種も加わって、全体のバランスを取るのは非常に大変だったのでは?
岩田 キャラごとに個性があり、さらに兵種ごとにも特徴があるので、兵種×キャラクター分のバリエーションが生まれます。そこは初めからアクションゲームとしての面白さを出すコアな部分として狙っていたところでもあり覚悟はしていたのですが、バランス調整は確かに難しくて、一番時間をかけた部分です。ブレストを重ねていくとみんなタガが外れていくんですよね(笑)。スキルの内容がどんどんインフレしていくんです。
── バリエーションをだそうとして、あとから考えたキャラの方が、どんどん強くなってしまったわけですね(笑)。
岩田 そうです。「これで全部決まった」と思って全体を振り返ってみると、「このキャラのスキルちょっと地味だよね」という話になったり…というループは何回かありましたね(笑)。すごく大変な作業でしたが、同時にやりがいもありました。苦労した分アクションの手触りとしてもキャラクター1人1人の個性を感じられる形にできたと思ってますので、そこはぜひ実際にユーザーの皆様に、自分の好きなキャラクターはこうなったのか、というのを体感していただきたいです。
鈴木 本作の開発内でのコンセプトは、「1000通りの一騎当千」なんです。いろんなキャラクターでいろんな兵種になれるけど、それぞれで操作感やスキルによって差が出るとか、そういう変化を楽しんでもらうというのが裏のコンセプトであったので、実現に向けて頑張りました。
── かなり尖った個性のキャラもいますよね。ローレンツは周囲に薔薇の花びらが舞っていてすごいなと(笑)。
鈴木 あれはぜひやらねばと思いまして(笑)。性能的にも強いんですよね。
岩田 あとはベルナデッタですかね。引き篭もるためのエリアを展開するというのも彼女らしいですよね。
── 早矢仕さんは途中でキャラごとの手触りって、確かめていたんですか?
早矢仕 触りはしてましたが、さっき言った通り、どんどん変わっちゃうんですよね。あの時はこうだったのに最初に見たバージョンのエーデルガルトはどこへ…って(笑)。なので、私も製品版をプレイするのが楽しみです(笑)。
鈴木 ループさせないと全体のバランスが取れなかったんですよ(苦笑)。ここはこういう風にしたほうが、とか、確かに面白くないかもってぐるぐるループしたことで、最終的には個性豊かになりました。
早矢仕 さっき言った「1000通りの一騎当千」といいますか、『FE 風花雪月』の魅力は自分の好きなようにキャラを育てられることだと思うので、そこは削っちゃいけないよね、ということで、育成における自由度の高さみたいな部分は絶対に担保しよう、という前提で作ってました。
岩田 『FE 風花雪月』の最大の魅力のひとつが育成の自由度の高さなので、やはりそこからは逃げちゃいけないというか。
── 本作が発表された時から、プレイアブルキャラの数は大変なことになるんだろうな、とは容易に想像できました(笑)。クラスメイトは全員参戦させてほしいし…と。そのあたり開発陣はどう思っていたのでしょうか。
早矢仕 そこも逃げないようにしよう、と(笑)。そういう話は最初からしてました。
鈴木 どう作るかという話をしていたので、削るという選択肢はなかったです。
早矢仕 クラスメイトごとの動画を出してよかったな〜って思ってるんです。皆さん、「誰がリストラされるか」ってハラハラされていたと思うので。
鈴木 SNSとかを見て、思ったより信用されてないんだなって感じました(笑)。
三すくみを導入したワケは『無双』としての楽しさのため
── 原作である『FE 風花雪月』には、じつは武器の三すくみ(相性)はないですよね。本作では武器相性が採用されたのはなぜでしょうか?
岩田 『FE無双』の戦闘において、マップを開いて戦況を見て、仲間に指示を出す、ということがひとつの大きな遊びの核として存在していたので、本作ではその部分をよりパワーアップした形にしようというコンセプトがありました。行動指示する時に重要なファクターとして働いてくれるのが、三すくみなんですよね。敵が斧だから、剣を使うこのキャラを向かわせようとか、単純明快な判断材料になるのが武器同士の相性で、これがないとゲームとして成り立たないよね、という流れで、原作にはないけど相性の概念は入れよう、となりました。三すくみ自体は前作の『FE無双』にもありましたし、『FE』シリーズでもおなじみの概念なので、すんなり受け入れてもらえるだろうという目算もありました。
── 弓・魔道書・籠手にも同じように三すくみが新しく導入されていますよね。
岩田 今回は兵種と武器種とが1対1で紐づいている形なので、弓・魔道書・籠手を相性から外してしまうと有利不利にまったく影響を与えられない兵種が出てきてしまいます。それは行動指示する際の指針を失ってしまうことになるため、新たな相性関係を追加しました。
早矢仕 相性システムについては、たしかに最初は入れてなかったよね。でもそれだとやっぱり『無双』として面白くなかったので、ないからってやめるんじゃなくて、『FE無双』で好評だったシステムは『FE 風花雪月』らしさを加味したうえで入れよう、とまとまりました。今回、前作『FE無双』に比べて、シミュレーション的な遊び方、タクティカル的な遊び方をより重視しています。いろいろ思考しながら指示する遊びに昇華できたと思います。
岩田 『FE無双』はキャラと武器が1対1の関係だったので、おのずと武器の相性=キャラ同士の相性になってしまっていました。戦闘によって出せるキャラがある意味制限されていたんです。でも今回は、自分の好きなキャラを有利な兵種に変えて自由に出撃させられるので、自由度という点でも拡張はうまくいっているかなと思います。
── 今作では騎士団も「武器相性を有利にする」効果がメインですよね。
岩田 そうですね。相性を、戦闘に入る前に戦略を考えてもらう要素の核にしたかったので、自然と騎士団も相性に影響する要素となりました。また、本作は先にお話ししたとおり武器=兵種同士の相性なので、出撃できる兵種が狭まってしまうという捉え方もできなくはないです。なのでそこに対して騎士団をつけて相性を調整することで、不利な兵種であっても出したい戦場に出撃させられるよ…という自由度を担保する役割も担っています。
── 確かに、回復役を入れたいけど魔道書が不利な敵が多いな…という時は騎士団を付けて調整していました。
岩田 そういう、ある意味で抜け道的なカスタマイズ要素にもなっています。