FE無双 風花雪月 キーマンインタビュー 〜もうひとつのフォドラ戦記を尋ねて 後編〜
相互にコミュニケーションを取っている感覚に
背景にまでこだわりが詰まった魅惑の交流要素「遠乗り」
── 本作では『FE 風花雪月』にあったシステムが進化した形で踏襲されていますが、なかでも「お茶会」を踏襲した「遠乗り」がかなり印象的です。本来アクションである『無双』で、遠乗りを取り入れることになった経緯を教えてください。
鈴木 実は私、今回はこの話をするためにこの場に来たといってもいいくらいで…(笑)。やはり『FE 風花雪月』においてお茶会はものすごく魅力的だったので、やりたいねと話をしていたんです。
── インテリジェントシステムズ(以下、IS)さんは、お茶会をモチーフにしたリアルな茶葉や茶器セットを制作・販売されていましたし、プレイヤーとしても「お茶会」は強く印象に残っています。
早矢仕 そうですね。『おすそわける メイド イン ワリオ』でも、『FE 風花雪月』モチーフのミニゲームでお茶会のシーンが切り取られていましたし…(笑)。
鈴木 とはいえ戦場で戦っているんだから、のんびりお茶をしている場合ではないよね、ともなりまして…。
早矢仕 本作ではお茶会はそのままでは入れられないよね、と話していたんです。
鈴木 それでも、絶対に外せない要素だろう、というのは開発当時から思っていました。「それなら、本作の戦乱中心の世界観・ストーリーにも合う形はなんだろう」と模索した結果、中世ヨーロッパにおける「乗馬」はスポーツライクな嗜みとしての側面もあったので、そこから一緒に馬に乗って外に出て散策する、というような形で会話が生まれないかな、と思ったんです。『FE 風花雪月』のお茶会は大修道院の中で行われていましたが、今回は前哨基地から出発するという設定もありますので、より開放感のあるアクティビティーに仕上げたい、という意図もあり、最終的に「遠乗り」という形にたどり着きました。
── そんな理由があって、シチュエーションが置き換えられたんですね。
鈴木 遠乗りは、私もいろいろと試行錯誤し、熟考して作り出した部分です。結果、本作のなかでも一番キャラクターと密接に交流できる要素になってくれたんじゃないかなと思っています。制作陣にもかなり力を入れてもらいました。
早矢仕 鈴木は、会議の際も熱くプレゼンしてました。任天堂さんやISさんにも、「遠乗りが最高です」って(笑)。前哨基地から偵察に行くという風にも、ピクニックに行く風にも、両方に捉えられるので、とてもいい落としどころですよね、という話になりました。
── たしかに、話がうまく盛り上がった際の表記が「パーフェクトピクニックタイム」だったので、思わず笑ってしまいました。「これ、ピクニックだったんだ!」と思って(笑)。
鈴木 当初、開発スタッフの中ではあの要素を「遠乗り」ではなく「ピクニック」と呼んでいたんです。途中で「さすがにこの戦乱の最中で“ピクニック”はないでしょう」となって、「遠乗り」という名称になったのですが、最後のあの部分はアルファベット表記ですし、「Picnicでいいか」となりました(笑)。
早矢仕 さきほど話題に出た会議の際、私から鈴木に「遠乗りのために馬に乗って出かけるシーンを新しく作るのは大変でしょ?」と投げかけたんですが、「それはもう、なんとかしてやります」という答えが返ってきて(笑)。
鈴木 遠乗りなので、馬に乗らないわけにはいきませんから(笑)。ローディング中も、馬に乗っている絵が出ますし。
── あのドット絵ですね! すごくかわいいなって思って見ていました。
鈴木 あれは現場のスタッフのアイデアですね。「こういうことをやりたいよね」って私が言っていたのを聞いて、スタッフたちがいろいろとアイデアを出してくれた結果が、いい感じにまとまっています。前作『FE無双』同様、『FE』シリーズらしいドット絵の表現は入れたいと思っていたので、遠乗りで採用できてよかったです(笑)。
── 選択肢を選ぶ時の制限時間もなくなっていたり、キャラクターを見つめる際のアングルも増えていますよね。
鈴木 せっかくなので、いろいろとパワーアップさせたいなという想いがあって(笑)。あの空間を長く、濃く楽しんでいただきたかったんです。
岩田 相互にコミュニケーションを取っているような感覚になってほしかったので、会話の内容もプレイヤーから話題を振ったり、相手の問いかけに答えたり、というような構成にしています。仕草に関してもお茶を飲むだけでなく注いでくれたり、少しこっちに体を寄せて喋ってくれたり、プレイヤー側を意識するようなモーションや会話の構成を狙って入れています。
鈴木 あと、遠乗りの行き先もいくつか選べるようになっているんですが、場所によって会話も異なる部分があるんです。せっかく複数の行き先があるので、その場所ごとに違った会話が発生してほしいし、キャラクターの背後に広がる景色も変わったほうが楽しいしうれしいだろうなと思ったので、行き先にバリエーションを持たせました。
岩田 会話中の背景にはかなり力を入れていて、実は1回作り直しているんです。
鈴木 ちょっと背景に納得がいかなくて(笑)。「この景色で楽しいかな?」「もうちょっとこういう景色のほうが、一緒に会話していて楽しくならない?」といろいろ突っ込んだりしました。
── どういった基準であの4種類の行き先を選んだのでしょうか?
鈴木 綺麗な風景の画像を探して「ここは気持ちよさそうな場所だな」というロケーションを見つけ、そこをモチーフに「こんな感じに似せて作ってね」とお願いして決めていったかと思います。
── なんというか、遠乗りの時ってキャラクターも、空気感も合わせて世界がすごくキラキラして見えますよね。
鈴木 そうですね、遠乗りのキラキラ感はかなり意識して制作しました。ここだけ違うゲームを遊んでいるのかと錯覚するくらい雰囲気が違うので、ぜひたっぷり見て楽しんでほしいです。
早矢仕 肝入りなだけあって、遠乗りに関してはすごい勢いで語ってますね(笑)。
一同 (笑)
もはや『FE 風花雪月』超え!? スタッフも驚く驚異のボイス量
── 本作用に新たにボイスが収録され、声優さんたちは数年ぶりに各キャラクターを演じたと思います。収録の際のエピソードや、どんな演技指導をされたのかをお聞かせください。
岩田 収録現場へは、原作にも関わった弊社のシナリオライター陣に立ち会ってもらいました。皆さんブランクはありつつも、自分の演じていた役ですので、しっかりキャラクターを覚えてくださっていて、大きな苦労はなかったと聞いています。芸歴の長いベテランの方々に関してはさすがの安定感がありますし、当時まだ若手だった方たちに関しては、この2年でさらに際立つ存在になって、逆に当時より声が格好良くなりすぎてしまうことすらあったそうです(笑)。
── 本作では原作に比べて、“灰色の悪魔”のセリフ量がかなり増えていますが、べレト役の小林裕介さんやべレス役の伊藤静さんはどんな様子だったのでしょうか?
岩田 ベレト・ベレスに関しては原作と設定が大きく異なっていますので、本作におけるべレト・べレスの背景をしっかり説明したりして、気を配っていました。このあたりのすり合わせについては少し苦労した、という話を聞いています。ただ実際演じていただくと、今回のベレト・ベレスの立ち位置である「敵対する脅威」である部分ですとか、原作と違って士官学校に来なかったことによって「感情が育ちきっていない状態」である、という部分を深く理解していただいて、結果としてすごくいい形に仕上げることができたと思います。実際プレイしていても、セリフからその背景がすごく伝わってくるんですよね。
── 原作を遊んだプレイヤーの立場からしますと、ベレト・ベレスがけっこう喋るので、新鮮だなと感じました。
鈴木 あんなに喋るんだ!? ってなりますよね(笑)。
── べレト・ベレスに限らず、ゲーム全体で見てもかなりセリフ量・ボイス量が膨大だと感じたのですが…今までの『無双』シリーズと比べて、どうでしょうか。
鈴木 そうですね。ボイス数だけでいいますと、結果的には原作である『FE 風花雪月』に匹敵するか、むしろ超えたか、ぐらいのボリュームになっています。弊社内の全タイトルで見ても、異次元のボイス量だったと思います。
岩田 ほかの『無双』シリーズチームにワード数を共有すると、「これ、桁が間違ってますよね?」と言われるレベルではあります(笑)。
── 『FE 風花雪月』でも差分をふくめものすごいボイス量だったと思うのですが、それを超えるほどの数が…!? それであれば、収録も大変だったのでは?
鈴木 たしかに、収録期間がかなり長かったですね。何日かに分けて何回も収録させていただきました。キャストの皆様にはかなりご尽力いただきました。