カービィ30thフェス 熊崎Dインタビュー+大原さん&小笠原さん対談
「星のカービィ 30周年記念ミュージックフェス」レポート記事の最後は、ハル研究所の『星のカービィ』シリーズのゼネラルディレクターの熊崎信也さんと、サウンドスタッフの大原萌さん、小笠原雄太さんにご登場いただき、お話をうかがいました。
公式パンフレットでもたっぷり裏話をお話されていますので、そちらもチェックしてみてくださいね!
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熊崎ゼネラルディレクターに訊く、ミュージックフェス
熊崎信也さん
ハル研究所 取締役 開発本部エグゼクティブディレクター。金沢美術工芸大学視覚デザインを卒業し、2002年にデザイナーとしてハル研究所に入社。「星のカービィ」シリーズに携わり21年になる。入社してからの初仕事は『星のカービィ 夢の泉デラックス』の通信デバッグと『カービィのエアライド』のラフコース制作。『タッチ!カービィ』の制作時にシナリオやラスボスのディレクション担当を経てデザイナーからディレクターに転向。現在は「星のカービィ」シリーズのゼネラルディレクターとしてさまざまな監修なども務める。
―― 25周年コンサートと30周年フェスの違いはどんなところでしょうか?
熊崎 ゲーム音楽って、昔は音楽ジャンルとしては軽くみられていた部分もあり、若い頃は悔しい思いをしたこともありました。さらにオーケストラは音楽の中でも格式も高く長い歴史を持つ世界ですので、25周年の時にはそのイメージに負けないよう真剣に向き合いました。結果、ゲーム音楽のメロディーやフレーズの良さを、「カービィ」サウンドを通してアピールできたと思ってます。今回はフェスをテーマに、「カービィ」サウンドが持っているフレーズの良さだけでなく、はっちゃけたところや自由なところも表現できたらいいなと思いました。その一つとして「歌」のスペシャルライブを、新たな試みとしてお届けすることにしました。
―― 演奏は素晴らしかったの一言です。ミュージックビデオもカッコいい映像でした!
熊崎 ゲーム開発者全般もそうですが、サウンドクリエイターたちは何年も裏側で仕込み続ける黒子として曲を作り、ゲームソフトが発売されて、やっと評価をいただきますよね? ただ今回はフェスということで、「ハル研ドリームバンドによるデデデ大王フェス」ではスタッフからお客様への感謝の気持ちを届けたく、加えて心から音楽を楽しんでいる様子を全面に出させていただくという、珍しいイベントになりました。
―― インタビューでプロデューサーやディレクターは顔を出すことはありますが、サウンドスタッフはあまり表に出て来ませんよね。
熊崎 ハル研のサウンドスタッフはもともとはインドアであったり、引っ込み思案の方が多く脚光を浴びるのも苦手意識があり、それよりはお客様のためにと丁寧なものを作りお届けするのがハル研のクリエイターのスタイルでもあります。ただ、今回は30周年ですしテーマもフェスということで、エンターテインメントとしてお客さまに楽しんでもらえるならば、こんなイベントがあってもいいのかなと思いました。
―― 熊崎さんはデデデ大王役として登場しましたね!
熊崎 (デデデ大王ボイスを披露しながら)デデデ大王の声ってボイスチェンジャーを使っているように聞こえますが、割とそのままなんです。元々はディレクターを引き継ぐ形で、ニンテンドーDSのタイトルの頃からの出演でもう10年以上演じ続けていますが、ボスキャラのデデデ大王の声として、少しは馴染んだものに感じてもらえているならありがたいです。
↑フェス本番の直前、熊崎さんやサウンドスタッフの皆さん、プロデューサーの岡田さんからのメッセージが動画で公開されました
―― 今回のセットリストでは、サブゲームやレースゲームメドレーがあったのが印象的でした。
熊崎 前回のコンサートで感じたのですが、期待されている曲だけでメドレー曲を固めますと、代表的なステージ曲とラスボス曲でまとまってしまい、偏りがちになってしまいます。それもよいかもしれませんが「カービィ」の音楽は多様性がありますし、「カービィ」シリーズの魅力の一つにはサブゲームと呼ばれるメインモードと異なる遊びのゲームもありますので、前回のオーケストラとの違いとして少しフランクに聴ける、愉快なパートとして考えました。みんなで楽しく遊んだ思い出が蘇るような、もしかしたらきょうだいで遊んでケンカした思い出とかもあるかもしれませんが「カービィ」の多様さとプレイヤーの思い出が混ざるメドレーとしてとして、「わいわい!サブゲームフェス」があります。ちょっと肩の力を抜いて、楽しい思い出とともに聴いていただければと思います。
―― 「激突!カービィのレースメドレー」も、前回には無かった切り口でしたね。
熊崎 レースゲームという明確なジャンルでいうと、あの『カービィのエアライド』一択になると思い、その要素は絶対に外せない考えました。また本編でもカービィが食べ物競争をしたり、ホイールにも変形します。普段はそんなにスピードが出ないカービィにおいて、「ここはタイムアタックがあるよ」という場面が作れ、マイペースで遊べるゲームバランスの中にピリっとした瞬間を加えることができます。『カービィのエアライド』も含めて、友達や家族と声を上げながら楽しんだ思い出があるかなと思い、その思い出を振り返られるようなメドレーにしました。「カービィ」シリーズには欠かせない、マルチプレイの楽しさ全般を思い出すような編曲で、タイムアタックでコンマ1秒に挑戦する場面まである、「カービィ」の遊びのレンジの広さを感じられる曲となっています。そこで鳴るサウンドはスピード感もあり、時にコミカルでもあるので、ぜひ多様性を感じながら聴いてほしいです。
―― 「組曲:星羅征く旅人」では『星のカービィ スターアライズ』の最終決戦丸ごとの演奏でしたね。
熊崎 「星羅征く旅人」は、「カービィ」シリーズの楽曲の中でもかなりの大作になります。長さを測定してはいませんが、全作品中でも1、2を争う長さなのではないでしょうか。今回のフェスの編曲は主に大原と小笠原のコンビが担当していますが、この曲は大原にアレンジをお願いしました。最後の敵の曲として選曲もすごく悩んだのですが、『星のカービィ スターアライズ』の楽曲を取り上げたのは、『星のカービィ ディスカバリー』の最終決戦をまるっと公開するにはまだ時期が早いなと考えたからです。もちろん『ディスカバリー』の曲も大事な部分を隠してでも入れようと考えたのですが、この夏はまだ、これから遊ぶお客さまもいる時期なので、ラストバトルだけはご自身のプレイで体感していただくのが、ゲーム音楽として良いのではと考えました。そこで前回の25周年コンサートではやれなかったこと、30周年に繋がるまでの一つのクライマックスとして、「星羅征く旅人」を全楽章丸ごと聴ける組曲を、一つの演目として選ばせていただきました。フェスのバラエティ豊かな音色の中で、この曲だけは破壊の神のイメージにふさわしいオーケストラ調にしてありますので、フェスの音色の幅の広さも感じていただけるかなと思います。聴きどころは、あの3Dバトルの迫力を思わせる威圧感なのですが、最後にノスタルジックなゲームボーイ音源に繋がる場面もしっかり再現しています。そして希望に繋がる終わり方にしたかったので、きらめきの中で何かに生まれ変わるはずのニルを見た後、エンディングで現れるワープスターに出会う「ラストフレンズ」という曲につなげました。ゲームの組曲バージョンとは違う構成も含めて、ニルとの物語の流れを感じる組曲として完成されたものになりました。
指揮も行ったサウンドスタッフに裏話を訊く!
大原萌さん
『カービィ バトルデラックス!』『はたらくUFO』などのサウンド制作を担当。「星のカービィ25周年記念オーケストラコンサート」や『サウンド・オブ・カービィカフェ』CDでは編曲を手がけた。本フェスでも多くの演奏楽曲の編曲を担当している。
小笠原雄太さん
『星のカービィ スターアライズ』『星のカービィ ディスカバリー』のサウンド制作を担当したほか、『サウンド・オブ・カービィカフェ2』CDの編曲経験もある。本フェスでは大原をサポートしつつ、演奏楽曲の編曲を担当している。
離れた場所での共同制作
大原 フェス楽曲の制作にあたり、まずは自分が担当する曲のサンプル音源を制作し、その段階で一度熊崎に聴いてもらい、編曲の方向性に問題ないかどうかの監修を受けていました。やり取りはチャットがメインでしたが、文章で伝えるのが難しい部分は、ビデオ通話でやりとりして進めていきました。
小笠原 私は山梨勤務なので、熊崎にブースに来てもらって、出来たデモ音源を一緒に聴きながら修正する形で進めていきました。これはこぼれ話なのですが、実は盛り込む曲数が多すぎて入れ忘れた曲がありまして(苦笑)。
大原 どの曲だったんですか?
小笠原 「メモリアルカービィフェス:1993~2004」の「ゼロ・ツーめざして」のアレンジが抜けていたんです。その後、抜けている部分を入れたら、しっかりとメドレーが盛り上がりました(笑)。
大原 メドレーは制作の過程でどんどん変化しますよね。私が担当した楽曲にも、アレンジした部分がなかなか熊崎のイメージ通りの形にならなくて、苦労したものもありました。最終的にアレンジしていく中で、一部の曲を削除して、代わりの曲をプラスしたのですが、さらにもう1曲追加することになったんですよ(笑)。その時、画面越しで熊崎が「意外と大原さんが元気そうだったので、曲を追加してみました!」…って(笑)。
小笠原 熊﨑らしいブラッシュアップですね(笑)。
思い入れのある部分について
大原 私は「グリーングリーンズ~新世界をかけぬけて」ですね。演奏1曲目の曲なので、25周年との違いを出さなければなりませんでした。最初はピアノのみで徐々に楽器が増えていき、ドラムのフィルをきっかけにブラスが入るという理想像が先に決まっていたので、この感情の起伏をお客様が聴いてどう感じるかを想像しながら肉付けしていきました。あと、フェスの編曲はこれでいけるという判断材料となる曲だったので、この曲は思い入れが強いです。
小笠原 オーケストラじゃないことが徐々にわかるような演出ですね。最初は演出込みで、徐々に音が入って行く話もありましたよね?
大原 最初に考えていたのは、舞台上が真っ暗で、ピアノだけにスポットライトが当たっていて、「今回はどんな編成なんだろう?」と、お客様には本番になるまで編成が分からない、というような演出も考えていました。楽器が増えるごとに舞台が段々明るくなっていくイメージです。進行上の理由で、最終的にはその演出は無しになりましたが、そのイメージを思い浮かべながら編曲を行っていました。
小笠原 私は一番最初に作った「メモリアルカービィフェス:1993~2004」の思い入れが強いです。初めてこういう編成の曲をアレンジしたので、限られた編成の音を使ってデモを作ることが大変でした。ゲームの音楽はいろんな音をいくらでも使えるので、フェス用の音楽は限られた編成で、しかも多くの曲をアレンジするのが大変だなと思いました。実際に演奏できるかどうかを酒井に見てもらったんですけど、「ここはやっぱり奏者が吹きづらいんじゃないか」といったアドバイスを受けて直し、を繰り返して、一通りスコアを作っていくところまでやった曲だったので、印象に残っていますね。
大原 また、今回はアドリブソロを入れる部分をかなり絞っています。アドリブソロはビッグバンドだからこその魅力だとは思うのですが、アドリブだとお客さまが分からない部分ができてしまいますよね。そこは熊崎とすりあわせながらバランスを整えていきました。酒井が編曲と指揮をつとめた「星のカービィ メモリアルエンディング」の中のソロパートにもぜひご注目ください。
ゲームの音作りとメドレーアレンジの違い
小笠原 ゲームのアレンジは、曲によっては、ほんのり分かるくらいまでに大胆に変えてしまうことがあります。新しいメロディを足したり、全然違う拍子にするとかです。今回は自由が利く編成だからこそ、なるべく再現できるものはしたいと思いました。編成の縛りがあることが一番大きいと思いますので、生演奏に寄せるけど大枠は変えなかったところが、ゲームの音作りと違うところだと思います。私が担当した「メモリアルカービィフェス:1993~2004」では、原曲はピコピコ音が多いので、原曲でやろうとしたら全部作り直すことになってしまうんです(笑)。私も当時遊んでたタイトルばかりだったので、「これはこういう音色で鳴ることを想定している」というイメージを頼りに編曲していきましたね。
ハル研ドリームバンド誕生秘話
小笠原 「ハル研ドリームバンドによるデデデ大王フェス」の編曲は私が担当しました。サウンドのメンバーが演奏できる楽器だけでなく、デデデ大王にもシャウトで出演してもらっています。
大原 30年間の感謝の気持ちを、サウンドスタッフからお客様へ、演奏に乗せて届けられたらいいよね。というのがキッカケで誕生したバンドでした。
実は、その前にも、社内の忘年会でサウンドチームで演奏を披露したことがあって。
小笠原 あのときは各自で録音して編集していたんですけど、そのときのノウハウも生かせると思い、せっかく演奏するならミュージックビデオ仕立てにしましょうと提案したんです。まさか、そこからカービィカフェでの撮影が叶うとは思いませんでした。
大原 練習も収録も大変でしたけど、無事に形になって良かったです。
担当曲の制作エピソード
大原 5曲目の「騎士達の逆襲フェス」なのですが、ブラスはトランペット1以外はお休みなんです。この曲はガツン! と、ロックの雰囲気にしたくて。フェス楽曲の中でもアクセント的な立ち位置にする狙いがあったので、ほかの曲との差を出したくて特別な編成にしています。原曲がほぼ全てロックサウンドなので、「騎士達の逆襲」はそのままの感じを出すのがよいのではないかと思いました。メインはギターでソロもありますよ。ただ、私はギターが弾けないので、酒井にギターの演奏が出来るかをチェックしてもらったのですが、初見で弾いて「難しすぎて弾けない」って言われて(苦笑)。
小笠原 原曲に近いメロディだと演奏が難しいですからね。
大原 そうなんです。「ギターの人が恐る恐る弾かなければいけないようなキーになっているから、もっと弾きやすいキーに変えて、フレーズも細い部分はカットして、ピアノとかに持たせた方がいいよ」というアドバイスをもらいました。ギターの人が気持ちよく弾けるかどうかを考え直し、そこから調整を重ねていったので完成には時間がかかりました。メドレー内の楽曲「バルフレイナイト」も、最初はギターが弾きやすいキーに変更していたのですが、熊崎に監修してもらった段階で「これは原曲キーを変えてしまうとイメージが変わってしまうので、原曲キーを優先させてほしい」とアドバイスをもらい、キー自体は原曲のままにし、細かいフレーズを削って調整を行いました。
小笠原 オブザーバーの立ち位置である酒井は、本当にいろいろバックアップしてくれましたね。
大原 それで、この曲の熱量が高くなったことで、私が担当している「カービィのクライマックスフェス」も、もっと熱量を上げていかなくちゃってなりましたね(笑)。「回歴する追憶の数え唄」部分についてですが、最初はわりとムーディーな雰囲気にアレンジしていたのですが、熊崎から「やっぱり原曲の雰囲気に近い感じにしてほしい」というリクエストがあり、実は完成後に再調整しました。編曲がFIXしたら大体もう動かないことが多いんですが、この曲だけはFIX後の調整でした。生演奏されるのが初めての曲だったこともあり、結果的に調整後の編曲で正解だったと改めて感じます。
小笠原 私の担当した楽曲の中で特に印象に残っているのは「メモリアルカービィ:2005~2022」ですね。あれは、酒井さんがアレンジして、私がデモを起こした曲なんです。酒井の技術を学びながら作るのがテーマだったんですけれど、その中の曲の1つに私が『星のカービィ ディスカバリー』で作曲した「北のホワイトストリート」があったんです。そこを、自分では思いつかなかったアレンジをされて。
大原 小笠原が作った曲を、酒井がアレンジしていたんですよね。
小笠原 そういうことになりますね。このメドレーの編成もいろいろな縛りがあるんですけど、アレンジするとこんな風になるんだって新たな発見があって楽しかったです。他の方が作った曲をアレンジすることはとても勉強になりますが、自分で作った曲が他者の手でアレンジするとこうなるんだ!とわかったのは、とても大きかったです。
大原 酒井さんも編曲は曲順にやっていったと思うんですけど、「すごくいい曲だから早くこの曲をやりたい」ってスピードを上げて作業していましたよ(笑)。
小笠原 ありがたい話ですね(笑)。酒井からは「ここはソプラノサックスにいかせたらいいんじゃない?」って言われたのを受けて、私の方でまとめてみました。このアドバイスのおかげで、サックスの部分がとてもよくなりました!
↑YouTubeで見ることが出来る本フェスの制作映像です。
9月21日発売のニンテンドードリーム11月号では、ミュージックフェスのレポートや熊崎さんのフェス準備中のエピソードをお届けします。お楽しみに!
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