『星のカービィ Wii デラックス』Return to Dream インタビュー【前編】
30周年に新作が3本発売された背景
—— 2022年から2023年にかけては『星のカービィ ディスカバリー』が発売され、「星のカービィ」30周年が始まり、夏には『カービィのグルメフェス』が配信、そして30周年の締めくくりとして『星のカービィ Wii デラックス』が発売されました。1年間に新作ゲームが3本も発売されるなんて…カービィファンにはうれしい悲鳴が続いた1年でしたね。
熊崎 「星のカービィ」の30周年は、お客様に新作ソフトを受け入れられやすい、喜んでいただけるタイミングだとはずっと思っていました。そこに新作ソフトが揃ったら理想的だなとは思ってはいましたが、ただ、基本的には「良い作品がそのときに仕上がらない限り世に出さない」というスタンスは、実は11年前に難産だったWii版の頃からなにも変わってないんです。
—— それでも新作ソフトが3本も揃ったんですよね!?
熊崎 はい。30周年に完成を間に合わせようという考えはなかったですが、そうなれば理想的ですし、その理想を目指してかなり早い時期から仕込みをしています。『星のカービィ Wii』のパワーアップ版は、30周年のタイミングでお客様に楽しんでいただきたいという目標は持っていました。それを実現する意図もあり、本作の企画が動き始めたとき、渡辺と谷藤はまだ『星のカービィ ディスカバリー』の開発にも携わっていたんですよ。
—— えー!?
渡辺 まさかの同時開発でした(笑)。
熊崎 『ディスカバリー』の完成のメドが立った段階で、『星のカービィ Wii デラックス』の企画が動き始めたんですけど、そこで合流してもらいました。古い話になりますが、私がニンテンドーDSで『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』(※2)を作っていた頃は企画者が自分1人でした。あの頃と比べるといっしょに仕事ができる仲間も増えましたし、現在は開発体制がしっかりできたこともあるので、計画を立てやすくなりました。このメンバーに任せられ、そして良いゲームが完成してこそ成立する計画になります。そのラインナップが揃ったタイミングが、ちょっとドラマチックすぎですが30周年に実現でたのです。
シリーズ初の3Dアクションが仕上がり、同じく3Dで遊べる対戦ゲームの『カービィのグルメフェス』が、そして『スターアライズ』の開発経験を活かし、より遊びやすくした『星のカービィ Wii デラックス』の発売と繋がる、理想的なラインナップになりました。
(※2)2008年11月2日発売。名作スーパーファミコンソフト『星のカービィ スーパーデラックス』のパワーアップ版。
—— 3Dアクション、オンライン対戦ゲーム、2Dアクション。ジャンルもバラエティ豊富なラインナップでしたね。
熊崎 その中のひとつ『カービィのグルメフェス』は、オンラインでみんなで気軽に楽しんでいただけるゲームとして開発したのですが、『星のカービィ ディスカバリー』の開発経験がとても活かされています。それが可能な開発チームの成長が30周年という時期にリンクしたことに、奇跡的なものを感じますね。
二宮 『星のカービィ ディスカバリー』で久しぶりにカービィのゲームに触れたという方も多かったと思います。『星のカービィ ディスカバリー』はシリーズ初の3Dアクションで、1人もしくは2人で遊べるというものでした。『星のカービィ Wii デラックス』はオーソドックスな2Dアクションで最大4人で遊べるので、新しくカービィのファンになってくださった方も、ずっとファンでいてくださっている方も、みんなで遊べるカービィに仕上がったと思います。
特徴となったグラフィックのフチ
—— 『星のカービィ Wii デラックス』では、キャラクターの輪郭にフチが付いていますが、これはどうしてなのでしょうか?『星のカービィ スターアライズ』との差別化を目指したため?
渡辺 フチどりはすごく検討を重ねた要素のひとつでした。
熊崎 過去にないものを追加するということで、本当にお客様に歓迎されるのかどうかは慎重に検討しました。『スターアライズ』も「4人でわいわい遊べるゲーム」で、シリーズ初のHDグラフィックに対応した王道『カービィ』でした。そのときは3DSで作った『星のカービィ トリプルデラックス』『星のカービィ ロボボプラネット』との差別化を目指しました。
—— 携帯ゲーム機の小さな画面から、据置ゲーム機の大画面になったカービィは、それだけでも魅力的に見えた記憶が残っています。
熊崎 基本的に「星のカービィ」シリーズは、タイトルごとに個性を持たせ、長所を伸ばしていくことを考えて作っています。3DSの2作と比べ、『スターアライズ』はハイエンドでリッチに見える美しいグラフィックを目指しました。その結果、あのグラフィックになったのですが、テレビの1画面で4人で遊ぶという長所をより伸ばそうと考えた場合、もうちょっと視認性をなんとかしたいなと思っていました。それを反省点とし「4人で遊んでもキャラクターを見失わないようにする」をテーマにしました。
—— フチのお陰もあって、画面のどこに自分が操作しているキャラクターがいるか、見失わなくなりましたね。
熊崎 フチ取りはかなり検証を繰り返し、完成したグラフィックは自然で美しいものに仕上がったと思います。アウトラインに黒い線をモデリングに単純な二重描きしているだけじゃなくて、中にめり込んでもグラデーションで綺麗に溶け込んでいるんですよ。
—— これはよーく見ないと気が付かないポイントですね。
熊崎 少し昔のゲーム機でのトゥーンレンダリングだと、ちょっとずれたりするんですけれど、本作のフチはよーく見ていただいても美しく、アートワークを描くようなグラフィックツールで1枚1枚アウトライン化したかのような綺麗さが出ています。
渡辺 少し技術的な話になりますが、アウトラインを表示する一般的な手法に、「背面法」というものがあります。ただ、それだけだと、たとえばカービィの足と体が重なった部分に、ジャギーのようなアウトラインが表示される問題が出てしまうんです。
熊崎 足の付け根がモデルの中に入ってもグラデーションで薄く表現し、同一の線では覆わないようにしています。
渡辺 ここはアートディレクターに頑張ってもらったところですね。
中西 フチどりは視認性の話だけではなく、差別化の点でも大きな意味があったと思っています。カービィは草原のマップから始まることが多いので、同じようなグラフィック表現をしていると、店頭でパッケージなどを見たときにお客様が、どっちがどの作品だっけ? みたいな感じで迷ったりわからなくなってしまうことが結構あると思うんです。これが完全新作の開発だったら、最初から雰囲気を全然違うものにしようと方向性を立てることができるんですけど、Wii版が基となる本作ではそういうわけにもいかず(苦笑)。
▼『星のカービィ Wii』と『星のカービィ スターアライズ』の草原ステージ
—— 同じグラフィックの2Dアクションで4人で遊ぶゲームだと、そういう問題も起こりえる、と。
中西 どうにかして、これが『星のカービィ Wii デラックス』の画面だとわかる、『スターアライズ』との違いがわかるものを作りたかったんです。『星のカービィ Wii』は、『スターアライズ』と比べると背景の木が特徴的な形になっていて、よりファンタジー寄りの表現になっているんですよね。これらも本作で目指したフチが強調されたトゥーン調に近い表現と相性が良かったと思っています。
熊崎 『トリプルデラックス』は雲の上のファンタジー世界、『ロボボプラネット』はテクノロジー世界を描きました。Switchで最初に出た『スターアライズ』は当時のシリーズの集大成ということでザ・王道を目指しました。そのあと、本編シリーズ初の3Dアクション『ディスカバリー』を挟み、さあ11年前の『星のカービィ Wii』を蘇らせるとなったとき、どうしてもザ・王道同士で、『スターアライズ』と並べて見た瞬間のイメージの距離が思ったより近くて…(苦笑)。
—— 同じポップスター全体を舞台にしていますし、ロケーションも近いところが多数ありますね。
熊崎 『星のカービィ Wii』をそのままHD化したら、『スターアライズ』と似たようなグラフィックに見えてしまったんです。そこで、今回採用したアウトライン処理を施すフチを付けることで、カービィたちがよりよく見えるようになり独自の作風と4人プレイの強みが出せるようになりました。「差別化と視認性」という2つのテーマを意識し、『星のカービィ Wii』らしさを残しながらも視認性を上げるというチャレンジをしました。
二宮 視認性に関しては、プレイしている方がより遊びやすくなるというのはもちろんですけど、それ以外にもゲームをプレイしていない人が見たときになにをしているかをわかりやすくなり、興味を持ってもらうことも狙っていました。
どうするか悩んだデデデ大王のデザイン
—— デデデ大王のデザインがWii版準拠ではなく、『ディスカバリー』でリニューアルされた姿のほうに近い点についてはどうでしょうか?
熊崎 これもアウトラインと同様、すごく悩みました。実はデデデ大王のフォルムって、作品ごとの個性を際立たせるために、都度変わっているんですよ。たとえば、『トリプルデラックス』はデデデ大王が活躍するシーンが多く、プレイアブルで戦う場面もありながら、敵としても活躍するのが特徴でした。ですので、ちょっとかっこいい顔つきをしています。
一方、『スターアライズ』では「ドリームフレンズ」として登場するので、ほかと比べて少しコミカルでおとぼけ担当みたいな立ち位置にしました。デデデ大王が本来持っているユニークな部分を、さらにコミカルに強調したデザインです。『ディスカバリー』ではビースト軍団のイメージに合わせつつ新しいデデデ大王のフォルムを模索しました。そして『星のカービィ Wii』のデデデ大王ですが、素直にWii版をそのまま再現するとだいぶ昔の姿に戻ってしまいます。それぞれの作品を見比べ、1作前の『ディスカバリー』の姿にするか、その前の『スターアライズ』の姿にするか、どちらがお客様に受け入れられやすいかすごく悩みました。
—— それで採用したのは…?
熊崎 1年前に発売された『ディスカバリー』のデデデ大王のデザインが多くのお客様に浸透しているように感じたので、そのデザインに寄せつつ、『スターアライズ』のコミカルさと『ディスカバリー』の直近の作品のイメージと、双方の要素を取り入れたデザインを目指しました。
毎回、作品ごとの特徴に合わせて考えています。今回は小柄なバンダナワドルディとクールなメタナイトがいて、そしてずんぐりしたちょっと大柄でパワータイプのデデデ大王がいるというそれぞれの特徴を、一目でわかるようにしました。『ディスカバリー』のビースト軍団に属していたデデデ大王の恰幅の良さを活かせるなと思ったので、それに近づけたというところもあります。
—— デデデ大王だけでも深くて濃いお話ですね…!(笑)
熊崎 あと、『星のカービィ Wii』のデデデ大王は、顔は大きいのですがゲームの都合で本来の設定より体がちょっと小さいんですよね。
渡辺 それはアクションゲームとしての「当たり判定」の都合ですね。
谷藤 プレイヤー全員がなるべく同じ仕様になるようにしたかったので、デデデ大王の見た目を調整しました。いまぐらいのバランスがギリギリですね。
熊崎 カービィ1人分のサイズを「1カービィ」と表現しているのですが、操作するときのデデデ大王って本当は当たり判定も含めて「2カービィ」以上の大きさなんですよ。当初、Wii版では当たり判定の処理を、カービィと同じように計算していました。だから最初はデデデ大王が天井の低いところに入ると、顔が地形から想定以上にはみ出してしまっていたんです。そこでWii版のデデデ大王はやむなくボディを少し小さくしたんです。顔のインパクトを大きくした分体を小さくしたのですが、本来表現したかったデデデ大王のフォルム「大柄で巨漢でパワータイプ」というのが成し遂げられませんでした。
時が経ち、Switch版を作るにあたっては当時の当たり判定の問題が解決したので、本来やりたかったパワータイプというイメージが伝わりやすい、一回り大きく感じるデザインにしました。ただ、お客様の思い入れもありますし、認知も年月の経過で変わったと思います。果たして、新旧どちらのデデデ大王がお客様に歓迎されるのかは、もう私の考えも含めて、開発チームでは甲乙つけ難いところまで来ていました。最終的にはバランスを取って、今できる技術で開発チームの思い描くデデデ大王のデザインを尊重した形になりました。
—— よく聴くとキャラクターボイスも新録ですよね?
熊崎 デデデ大王の声は、昔の声と新録を混ぜてもそんなに気付かないかなぁ~と思うんですが…、前作の『ディスカバリー』のデデデ大王の声に合わせて本作も私の声を新録しました。メタナイトなどほかのキャラクターの声も、デザイナーなど開発スタッフがボイスを担うことがあるんですが、そちらも新録です!
カービィの声を担当している大本眞基子さんには、すべてのボイスを新たに演じていただきました。あと今回は「おめん」にもボイスが付くので、「クィン・セクトニア」など大本さんの担う過去作のキャラクターの声は、今の時代に合うように録り直しました。
—— 大本さんの新録したカービィの叫び声が、Wii版より強くなって迫力あるなと感じました。
熊崎 最近はキュートな姿をしたグッズも多いカービィですが、ゲームでは戦う姿が多いですからね。カービィは基本的にニュートラルな存在なんですけど、今回「スーパー能力」を使って全力で戦う場面が多いので、ちょっとだけ力強いイメージの声にしています。
オープニングデモで表現したかったこと
—— オープニングデモで、ワープスターに乗ったカービィは3人の仲間たちと次々に合流していく様子が描かれていますが、バックグラウンドなどはあるのでしょうか?
熊崎 彼らがなにかをしていたという設定は特にないです(笑)。けれど、キャラクターが全員揃うまで15秒ほどに収まるようなデモにしようと思って作ったんです。ものすごい急展開で、4人の仲間たちが個性を見せながら集合するという表現をしようとしました。流れているBGMが「4人の仲間と:クッキーカントリー」という曲なんですけど、あの曲の音にぴったり合わせて、1フレーズごとに1人ずつ仲間が集まっていき、最後に曲全体が盛り上がったとこでロゴがバーンって出るデモを考えました。
—— バンダナワドルディはなぜ吹っ飛びながら登場するのでしょう?
熊崎 ワドルディって、当時(2011年)はまだザコ敵の一員ぐらいの認知度だったので、「あ~れ~!」って吹っ飛んじゃった姿でもいいんじゃないかと思い、ああなったんです(笑)。まるでメタナイトに斬られて吹っ飛んできたようなタイミングに見えてしまうんですけど、実はザコ敵らしく登場させようとしたものでした。それをカービィが助けてあげるというようなシーンにしました。
とにかくテンポを意識したので、そこになにか意味があるかというより、15秒程度の間に4人の個性が表れたモーションで全員集合して、勢いよくロゴが出るということを重要視して作らられたデモなんです。
▼Wii版からおなじみのオープニング。ワープスターに乗って移動するカービィが、次々に仲間たちと合流していきます。表情もよーく見るとコロコロ変わっていきます