『星のカービィ Wii デラックス』Return to Dream インタビュー【前編】

「おたすけマホロア」に込めた思い

—— 本作では新要素「おたすけマホロア」も特徴ですが、これを搭載した経緯を聞かせてください。

熊崎 実は、渡辺と谷藤が今まさに「子育て世代」なんですよ。

渡辺 長男が3歳、次男が0歳です。

谷藤 うちは上の子が6歳で、下の子が2歳です。

熊崎 彼らの、お父さんという立場から見て、自分の子供でもクリアできて、いっしょになって楽しめるようなものにしてほしいと思いました。ただしベテランゲーマーの方にも歯ごたえがある、間口は広く奥深いリメイクを実現してほしいともオーダーしました。

渡辺 もともと「星のカービィ」というのは「誰でも遊べる間口の広いゲーム」を目指してます。今回はさらに間口を広げるために、アクションゲームが苦手な方でもストーリーモードをクリアできるようにすることを目指しました。

—— それで、アクションゲームだけども穴に落ちてもミスにならないようになったと。

渡辺 ただ、一般的なおたすけ機能として使えるだけではなく、マホロアに助けてもらうようにしたいなと思ったんです。それで、穴に落ちたらマホロアが助けてくれたり、ボス戦で苦戦しているとコピー能力を持ってきてくれたり、ピンチになると回復アイテムを持ってきてくれたりするようにしました。

—— マホロア…超いいやつ! って株が上がりました(笑)。

渡辺 マホロアは物語のキーキャラクターでもあるので、彼もいっしょに冒険しているという感覚を大事にしました。彼も船のパーツを集めてほしいという願いがあるので、そのお礼としてお手伝いしているというイメージです。

二宮 渡辺さんもおっしゃっていたように、「星のカービィ」シリーズは、誰でも遊べるアクションを目指して作っていますが、それでも小さいお子さんだったり、アクション初心者の方は難しく感じるところもあり、もっと幅広く遊んでいただける余地があるんじゃないかと思いました。そこで『ディスカバリー』では「はるかぜモード」と「ワイルドモード」という難易度を設けたのですが、その手ごたえが良かったので、『星のカービィ Wii デラックス』でも初心者の方を救済するようなものを取り入れたいなと思っていました。

中西 前作『ディスカバリー』は3Dアクションだったこともあって、小さなお子さんだと少し難しく感じたかもしれません。実際、小さなお子さんがゲームをプレイすると、我々も気付かないところでつまずいたりするんですよね。そういう様子を見ると、もっと親切に設計すべき部分があると考えました。

—— 「オートのみこみ」とかですね。

中西 そうですね。カービィが敵をすいこんだら十字ボタンを下に押してコピー能力をゲットする流れは当たり前のことなんですけど、初心者の方や小さなお子さんはそのやり方を忘れてしまっていたりすることがあるので、敵をすいこんだら自動的にコピー能力を得られるようにしています。

—— 過去作でも、確かに小さなお子さんがプレイする際、「すってはく」はできても十字ボタンを下に押さないことがあったように思います。

中西 あと、ボス戦では、ダメージを受けてコピー能力が剥がれてしまい、コピー能力を追いかけている途中にまたダメージを食らってしまって…ということを繰り返すケースがよくありますよね。今回はボス戦ですっぴんになってしまったら、マホロアがやってきてコピー能力を投げてサポートしてくれたりするので、ボス戦も遊びやすくなりました。
また、逆に言えば、今回この救済設計を「おたすけマホロア」という形で実現したことにより、もともとWii版で遊んでいた方には簡単になりすぎてしまうということにはならないため、遊んでいただく人にあわせて難易度が調整できるようになった点もメリットだと感じています。

熊崎 より幅広いお客様に楽しんでいただけるようになったと思っています。歯ごたえのある「エクストラモード」ではマホロアが助けに来てくれないので、ゲームに慣れてきたらご家族やお友達に協力してもらいながら、そちらを楽しんでいただけたらと思います。

2つの新コピー能力と復活の「フェスティバル」

—— 本作では新コピー能力が2つ追加されましたね。

渡辺 基本的に『星のカービィ Wii』をベースにしているのですが、デラックスにするために新しい要素を入れたいと考えました。その代表的なものが新コピー能力です。実はこの2つを選ぶまでに60種類ぐらいアイデアを出して、その中からどれがいいかを選びました。

—— 60種類もですか!

渡辺 決め手としてはもともとの『星のカービィ Wii』の世界にあってもおかしくなくて、なおかつ新コピー能力に相応しい魅力があるものとして「アーマー」と「サンド」を選びました。
ただ、レベルデザインの観点で言うと、Wii版で完成されているステージに新しいコピー能力を追加するのって、ものすごく難しいことなんです。ですが、Wii版開発時にレベルデザインを担当した遠藤(裕貴さん。ハル研究所のレベルデザインディレクター)がSwitch版でもレベルデザインを担当しているので、作った本人ならうまく調整や配置ができるだろうと思い、対応してもらいました。

熊崎 レベルデザインは変えず、新たなコピー能力を追加するということは、結構苦労した部分ではありました。実際に両方プレイしていただくと、ゲームバランスは変わらずに多様性が広がったと感じていただける内容になったのではないかと思います。

アーマー
サンド

—— Wii版とSwitch版を同時にプレイしてみたのですが、砂漠ステージにサンドラン、機械ステージにアーマロイドが自然に配置されていますね。

谷藤 そうですね。新コピー能力を考える際、既存ステージに置くということで、配置しやすいようにある程度は汎用力のあるコピー能力になるように設計しています。

中西 渡辺さんがおっしゃってたように、Wii版を遊ばれたお客様にもちょっと新鮮な気持ちで変わったところを感じていただきたいので、新しい能力を入れてもらいました。また、新能力だけではなく、実はほかにも細かな調整がちょこちょこ入っています。たとえば、カービィたちの動きが少し速くなったりするのですが、普通に遊んでいても気が付かないレベルで、Wii版より遊びやすくなるよう調整を行っています。

熊崎 敵キャラの配置は細かく調整していますね。ポイントスターの位置も変わっていたりして。より良くなって完全版になりました!

—— 新能力ではありませんが、『スターアライズ』で初登場した「フェスティバル」も再登場しましたね。

熊崎 カービィ30周年ということで、ゲームでもお祭り騒ぎがしたいなと思ったんです(笑)。使うとプレイヤーが全員で踊り出す能力ですが、25周年のときに初登場だった『スターアライズ』ではドリームフレンズたちがいましたから、彼らを活かし、クラッシュみたいな一発系の能力でいっしょに踊って戦えたらいいなと考えて採用されたのが「フェスティバル」です。
『星のカービィ Wii デラックス』が発売された今も30周年というタイミングですので! …ただ、理由は周年だからというだけではなくて、本作も4人でわいわい遊べるゲームであるのと、能力を使ったときにマホロアが絡んできたら、より本作らしさが出るんじゃないかと思って、フェスティバルを続投させました。「おたすけマホロア」にしていると、マホロアもいっしょに盛り上げてくれるんですよ。

フェスティバル

—— 「おたすけマホロア」をONにしていないと気が付かない演出ですね。

熊崎 マホロアは船の修理をしていると言いながら、ちょいちょいカービィの所にワープして近づいてきてくれます(笑)。マホロアの存在感をより感じられる能力がなにかないかと考え、今回「フェスティバル」の能力も採用し、アレンジしたという訳です。Wii版を遊ばれた方にとっては、新たな発見になると思いますし。

—— 「フェスティバル」の配置はどういう感じにしたのでしょう?

熊崎 ゲームがより楽しくなる部分に、ドンパフルという敵を配置しています。「フェスティバル」は画面全体にダメージを与えるコピー能力ですが、1回しか使えないので、クラッシュと同様の場所に配置しています。

新しく書いたテキストは曲名を含めてたっぷり

—— ポーズ画面にあるコピー能力解説テキストは熊崎さんが担当されていますけど、よーく見比べるとWii版とちょっと違いますよね?

熊崎 この1年間で新作ソフトを3本発売したのですが、ゲーム内のテキスト関係は3本とも私が書いています。『星のカービィ Wii デラックス』では、全部リライトました。リメイクではなくデラックスになったものを目指していますので、原作のシンプルな表現は尊重しつつ、全体的に1行前後のボリュームを増やしたんです。当時遊んだ方が見ても新しい発見があったり、読みごたえがあるように書き直しました。

—— 「星のカービィ」と言えば、この解説テキストを見たいというファンの方は多いと思います。

熊崎 テキスト関連で、ひとつ迷ったことがあります。それは『ディスカバリー』でなくした、ポーズ画面の「スペシャルページ」と呼ばれる解説テキストの存在です。ポーズ画面を開いて、コピー能力やボスの説明文を読む、昔のスタイルに戻したんです。
別の場所であとから読める大百科的な物を新たに作ってもいいのかなぁとか、ボスを倒したあとに手に入れたフィギュアから、ボスがどういう存在だったのかを知る『ディスカバリー』みたいなやり方も良かったのですが、原作の手法を尊重しました。ボスと戦っている最中に、そのボスの真実となる情報を得られるというのは、Wii版の風合いを壊さず、心を揺さぶる部分でもあると考えたので、今回はこの形に落ち着きました。Wii版で語られなかった部分を、テキストで補完して説明しています。

—— テキスト関連では「サウンドルーム」の曲名も全部命名したのでしょうか?

熊崎 はい。Wii版開発時、実は発表しなかったけれど考えていた曲名があったんです。今回はそれをもう一度見直して曲名を与えました。Wii版にあった曲はほぼ同じ名称ですが、新たに追加された曲に関しては、追加シナリオのムードに合わせたり、最近の『ディスカバリー』などの風合いに合わせて命名しました。200曲以上の曲名をサウンドルームで見ることができますので、全曲たっぷり楽しんでいただけるかなと思います。

—— あの膨大な曲数を全部命名したと思うと…めちゃくちゃスゴイですね。

渡辺 熊崎は早いですよ(笑)。私が自分でやったら1日かかるようなテキスト量を、1時間以内に出してくるんです。『星のカービィ Wii』では一部のボスに説明テキストがあっただけだったのですが、今回は全部のボスの分を入れることにしました。そのことを熊崎に相談したら「書くよ」って言ってくれて。お言葉に甘えて、全部のボスの解説テキストを書いてもらいました。

谷藤 配信中の体験版でも、ちょこちょこ書いてもらいましたね。ぜひ製品版と見比べてみてください。

渡辺 想定よりだいぶ早く書いてくれます。1時間以内って言いましたが、実際はもっと早いかもしれません(笑)。

熊崎 なるべく彼らをお待たせしない早さで書いています(笑)。

全部集めたくなる収集要素「おめん」

—— 本作の新要素「なりきりおめん」について、86種類作ったお話も聞かせください。

熊崎 最初はもっと少なかったんです。

渡辺 そうですね。途中でたくさん盛りました(笑)。

熊崎 「わいわいマホロアランド」をただのサブゲーム集にしたくなかったのと、メインモードにもなにか影響する要素が欲しくなったんですね。本編とリンクして、サブゲームを遊ぶことでゲーム全体にもなにか起きるようにしたかったんです。おめんの数は…86個はぜひ作ってとお願いしました(笑)。

渡辺 最初は40個ぐらいでした。しかし、おめんはこのゲームを構成する大切な要素ですので、お客様にもっと喜んでいただけると思い、86種類用意しようと決めて作っていきました。

熊崎 デザイン的に採用しやすいものとか、おめんにしやすいもので改めて選び直しました。既に3Dモデルがあって、いまお客様が欲しそうなものとリンクしてるもので選んでいったら、割と制作コストも抑えつつたくさん作れたので、楽しんでいただけるラインナップができたんじゃないかなと思います。「わいわいマホロアランド」をたくさん遊ぶほど、本編が賑やかになっていくのも、本作の特徴になったと思っています。

渡辺 もともと本編のストーリーモードからいつでも10種類のサブゲームが遊べる「わいわいマホロアランド」に行き来できるようにしていたんですけど、ただサブゲームを遊べるだけだと、ちょっと遊びに行く動機としては弱かったので、「わいわいマホロアランド」を遊ぶことでストーリーモード側にも影響が出るものとして、おめんを使ったなりきり要素や、ステージ攻略に役立つおみやげアイテムを入れました。

—— キャラクターの登場ではなく「おめん」にした理由はなんでしょう?

渡辺 さまざまな歴代シリーズのキャラクターを、世界観を崩さずに入れることができるからです。あと、テーマパークといえば、やっぱり「おめん」かなぁって思ったので(笑)。

サブゲームモードではなく「わいわいマホロアランド」にした背景

—— マホロアはなぜプププランドにマホロアランドを建設したんですか?

熊崎 そもそもマホロアがどういう立ち位置のキャラクターなのかというところから考えなきゃいけません。もともとマホロアは、物作りが好きで人を驚かせたりすることが好きなキャラクターなんです。Wii版の頃から本編では船を修理したりチャレンジステージを作ったり、船の中に小さなアトラクションとして「一撃!手裏剣道場」と「ガンガンバスターズ」を作ったりしていました。

—— 魔術師だったり、別のゲームでは商売をやったりしていますが、マホロアは物作りが得意なんですか!

熊崎 本作においてサブゲームをアトラクションとして作るとして、『カービィ』シリーズの中で誰が作るのかを考えると、メタナイトでもないし…ワドルディが頑張って支配人になる感じでもないし。やっぱりマホロアの出番かと思いました。なので、よりWiiを「デラックス」にするために、彼がアトラクションとしてサブゲーム10種類を作ったということにしました。

—— マホロアって『星のカービィ Wii』以降もちょいちょいいろんなゲームに登場していましたよね。

熊崎 いろいろなことをさせやすいキャラクターだと思っています。例えばSwitchダウンロードソフト『スーパーカービィハンターズ』の世界ではよろず屋、3DSダウンロードソフト『デデデ大王のデデデでデンZ』でも出てきましたが、最近の『カービィ』シリーズにおいてエンターテインメント性の高い物を作るならマホロアの出番かな、と思えるほど彼の個性が伸びていきました。マホロアは魔法と共に科学の技術力もあるので、それらの力を使って作ったとしています。

—— 物語の歴史的な視点で見ると、マホロアランドがある世界線とない世界線ができてしまいましたね(笑)。

熊崎 はい。ただ、本作を最後まで遊ぶとちょっとイメージが湧いてくるところがあります。ぜんぜん細かい設定が気にならない方は「マホロアがいつの間にか遊園地みたいな場所を作ってたんだ!」とシンプルに思っていただいていいと思います。

—— 捉え方次第でいろいろ見え方が変わりそうです。

熊崎 ストーリーモードでマホロアがカービィとの触れ合いを経て、なぜああいったものを作ったのか。本当のところはわからないようにしています。もしかしたらカービィたちに楽しんでもらいたいという思いから作ったのかも…? と捉えられるようになっています。

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