『マリオテニス エース』任天堂×キャメロット 開発者インタビュー(ニンドリ18年8月号より)
世界大会をやりたいと言われるようなテニスにしたい
シリーズの路線をリセット
—— 本作はエナジーを使った“駆け引き”が肝となっていますが、どのように開発を進めていったんでしょうか?
宏之 今回は、これまでの『マリオテニス』シリーズの流れをリセットしたんです。最近は「eスポーツ」というか、プレイする人もそれを観ている人も楽しめるような、競技性のあるゲームが注目を浴びているじゃないですか。スポーツゲームとしては、そういったゲームと並ぶようなタイトルにしないといけないんじゃないかなと思ったんです。
—— eスポーツですか。
宏之 僕自身はゲームは進化させたいという思いが強いので、好きなようにやろうとすると変化を加えちゃうんですけど、ガラッと変えると今までのお客様に受け入れていただけないのではないかという懸念がありました。けれど発売前のNintendo Switchを見せてもらってそのコンセプトをうかがったときに、新しいお客さまにも広がっていきそうだと感じられましたし、それとうまく連動するタイミングでもあったんです。
伊豆野 弊社が「Nintendo Switch プレゼンテーション 2017」を開催して、これまでとは違う雰囲気のラインナップの見せ方をしたことがすごく刺激になったからとおっしゃっていましたよね。
宏之 まあ、伊豆野さんにハッパかけられたところもありますけれど(笑)。今回は一歩前に踏み出すというか、ブレーキをかけずにどこまでできるのかをとにかく見せてくれと言われました。
秀五 それまで作っていたものもあったんですが、一昨年12月に伊豆野さんからそういう話があって、去年1月にチーム編成も含めて方向性をガラッと変えることにしました。
—— では、それまで作っていたものをリセットしたと?
宏之 しました。
秀五 とはいえ常に研究開発はしているので、それまでやっていたことがまるで生きなかったというわけではないですが。
—— ではリセットする前は、これまでの『マリオテニス』を踏襲した作りになっていたということでしょうか?
宏之 これについては、毎回ついて回る課題でもあったんです。据え置き機の場合、1作目の『マリオテニス64』のようにストイックにテニスを楽しむ流れと、ニンテンドーゲームキューブの『マリオテニスGC』のようにスペシャルショットなどが使える流れがあって。日欧では『64』の路線が、アメリカでは『GC』の路線がご好評をいただいているんですね。で、これまではどちらかというと『64』の路線に寄せていくことが多かったんです。
伊豆野 それでWii Uでは『64』の流れで『マリオテニス ウルトラスマッシュ』を作ったのですが、特にアメリカでは『GC』の路線を期待する声が大きくて。
宏之 今回、どういうものが評価されているのかなど、任天堂さんにもたくさんヒアリングをさせていただきました。そのうえで最高のものを作りましょうと。だから、ブレーキを外してアクセルいっぱいに踏んで自分ができる限りのゲームデザインをしていったものが、『マリオテニス エース』なんです。…だからもう、とんでもなく型破りなゲームでしょう(笑)。
伊豆野 Switchならではのプレイスタイルとテニスのルール、もちろん2人や4人でも遊べるし、スイング操作もできる…。そういうものを仕上げてもらうことになりました。
—— 本作の新しい技は確かにこれまでの遊びから変化した印象を受けましたが、まさにSwitchがこれまでの流れを変えるスイッチになったということなんですね。
© 2000 Nintendo / CAMELOT © 2004 Nintendo / CAMELOT
魅せるプレイで高まるエナジー
—— 「ねらいうち」や「ラケット破壊」はどのように生まれたんでしょうか?
宏之 「ねらいうち」のアイデアがまずありました。本当のテニスって、チャンスボールが来たらコーナーを狙うので、それを実現しようということですよね。
伊豆野 今まででも「右か左か」は振り分けられたんですけど。プロのテニスってちゃんとボールの着地点を狙って、もっと正確に攻めるじゃないですか。
宏之 さらに今回は、実際のスポーツ競技みたいに全国大会、世界大会をやりたいと言われるような本格的なテニスにしたいという希望がありました。だったら、その狙うことができることこそ、プロのテニスじゃないか、と思ったんですね。
秀五 でもこの要素って『64』の頃からずっとジレンマがあったんです。だってテニスをやっている人間にとっては、コーナーを狙うのは当たり前のことですから。
—— と言いますと?
秀五 つまり、コーナーを正確に狙い打ちできるゲームにしてしまうと、ある意味無敵になってしまうんですよ。だからこれまでは「これは入れるわけにいかないよね」って、自分たちに制限をかけていたんです。でもゲーム開発者としてもテニスプレイヤーとしても、ずっと実現してみたい気持ちがあって、毎回新作を作るたびに出てくる話ではあったんです。
—— 「コーナーを狙う」要素は必然だった、と。
伊豆野 はい。で、まずは「ねらいうち」が入ったんですが、端を狙われると打ち返せないじゃないですか。
—— 今までのお話からするとそうですよね(笑)。
伊豆野 ええ。でもそれではゲームとして成立しませんので、それをどうするか話し合った結果、スローモーションにして追いつけるようにしようと「加速」が生まれました。それで「ねらいうち」が返せるようになったんですが、「コーナーばかり狙うんじゃなくて、キャラを狙ってみませんか」と。さらに「キャラを狙ってラケットを吹っ飛ばしてみませんか」と発展していきました。
秀五 (宏之さんを指しながら)そうしたら、ある日「ラケットをスペシャルショットでどうにかしたいんだよ」って言い出して(笑)。
伊豆野 「ラケット破壊」が生まれたんです。
秀五 「え、壊しちゃうのはマズイんじゃない!?」って最初は思いましたけどね。
—— そうですよね。先ほどからリアルなテニス部分のこだわりをお話しされているのに、突然の「ラケット破壊」はアリだったのかな、と思いました。
秀五 まぁリアルなテニスでは怪我をしたり、手首や膝を痛めたりもするわけですから。それをゲームの中で考えるとして、別途パラメータを作って怪我をしたとしても、それは誰も求めてないじゃないですか。そういう部分をデフォルメして取り入れると、「ダメージによってラケットが壊れる」という表現でもおかしくないかなと。…そんな理由でどう?
一同 (笑)
宏之 僕らは「破壊したい」と言ってましたけど、やっぱり反対派もあったんですよ。
伊豆野 テニスを実際にやっていらっしゃる方は、ラケットにも愛着を持っているかと思うんですよね。それを破壊するのはどうなの、という議論はもちろんあったわけです。でも、実際に遊んでみると違う手応えがあって。相手のラケットを壊したときが嬉しかったり、映像で見てみてもバーンという派手な感じが、開発スタッフの間で反応も良かったんです。
宏之 ルールとしてはむちゃくちゃなので、K.O.負けは禁断だと思ったんですけど。
伊豆野 通常のテニスのルールの中では、派手に破壊しても「1ポイント」という処理になるじゃないですか。せっかく破壊するならもっとインパクトが必要だと思って、それだったら試合を終わらせるくらいのダメージを与えちゃっていいと思ったんです。
宏之 K.O.負けっていうルールを採用したことで、ずいぶんゲームの全容が変わった気がしますね。
伊豆野 そういうボールを打ちたい、という気持ちにもなりますし。
秀五 気持ちいいですよね。逆にブロックもしたいですし。
宏之 実際、「ブロックエース」もありますからね。
魅せるショットで世界へ!
—— 「ねらいうち」や「スペシャルショット」をエナジーで調整していくようになったのは、どの段階なんですか?
伊豆野 「エナジー」のコンセプトというのは、プレイヤーのアドレナリンなんです。ラリーを続けているうちにアドレナリンが出てスーパープレーができる。それで観客が盛り上がると、声援を力に変えてさらに良いプレーができる。すると、さらにアドレナリンが出て最高のプレーができる…というイメージのものなんです。
秀五 実際のテニスでは「ゾーンに入る」という言い方もされますね。ゾーンに入ったら、どんな場所でも狙うことができると。だからアメリカ版では、「ねらいうち」のことを「ゾーンショット」って呼んでいます。スポーツ的にはそれが合ってると思うんですけれども。
—— 「ねらいうち」は何で日本語なのかな、とは思っていました。
秀五 単にわかりやすいからですね。他にもアメリカでは「テクニカルショット」のことを「トリックショット」って言うんですよ。まさにトリックショットを出せた! と。
—— 「テクニカルショット」はエナジーの活用に重要な役割にもなっていますね。
宏之 『GC』の頃からずっと突きつけられていた課題があったんです。キメ技を打ったのに決められないのはおかしいって。けれど出したら勝負が決まっちゃうのはつまらない。だから「技を出すことで楽しめるようにすることができないか」ということを考えたんです。そこで、キメ技があった上で、決めたと思ったものが「テクニカルショット」で取られちゃう。そういうバランスで使えるものとして生まれました。けれど最初は「テクニカルショット」で相手の球を全部拾えてしまったんで、そればっかり使うようになっちゃったんです。
伊豆野 「やればエナジーが溜まる」から、そればっかりになってしまう。それでは成り立たないから、失敗もするようになりました。
秀五 魅せるテクニカルショットというのは、余裕があってこそできるものですよね。だから「テクニカルショット」を早く出せばエナジーが溜まるし、身を助けるために出したものであればエナジーが減ると。
—— どうりで、最初のころはCPの方がエナジーが溜まるなと思っていました。
伊豆野 そういう細かい調整がものすごく入っているんです。
秀五 だから「俺はこんなにすごいことができるぞ」ということを魅せるような試合をすれば、溜まりやすいというわけです。
宏之 それに見応えのあるスポーツとして考えたら、魅せるプレーも必要でしょう。だからリスクを持って技を出す、技術を見せ合うというようなこともできると思って。「テクニカルショット」は、そういう良い落としどころになったと思います。「スペシャルショット」については、自分で制御して出したかったからああいう形にしたんです。
秀五 なのでアイデアとしては、それぞれ独立してあったんですね。「ねらいうち」も「テクニカルショット」も。それから「いいプレーをしたら観客のボルテージが上がっていく」というアイデアもあった。
—— それらが「エナジー」によってひとつにまとまったと。
宏之 エナジーの使い方によって、いろんなプレーが生まれてくると思います。もちろんキャラクターとの相性もあるし、駆け引きもあるし。
伊豆野 だから、最適解がないゲームなんです。
宏之 発売後に上手くなったプレイヤーの方がどんなプレーをするのか、まだ予測がつかないですね。発売前の「先行オンライン大会」も3日目には相当な猛者が現れたと思いますが、ゆくゆくは世界大会が開けるほど盛り上がっていったらいいねと話していて、そういうふうになってくるといろんな戦略のあり方が見えてくると思います。