『マリオテニス エース』任天堂×キャメロット 開発者インタビュー(ニンドリ18年8月号より)
動きで魅せることにこだわったキャラクターたち
時間を制して試合を制す
—— トーナメントモードに実況が入ったのは、やっぱり魅せることを意識したものなんですか?
宏之 プロレス中継をイメージしていました。開発中、とくに去年の2月や3月は本当にプロレスを目指していたんですよ。
秀五 古舘伊知郎さんのような解説でここを見てほしい、という部分をちゃんと伝えられたらいいなと思って、タイムリミットのギリギリまで詰め込みました。
—— なるほど。
秀五 競技性を高めていくと、ゲームによっては難しくなりがちというか、見ている方がついていきづらいところもあると思うんですが、テニスならわかりやすいと思うんです。見ていて整理できるスピードと展開なので、駆け引きも面白くなってくれるといいなと。
宏之 テニスの部分は最後の最後まで、社内もさることながら任天堂さんもこだわって調整に付き合ってくれています。自分で「ねらいうち」をしようとしているときは、けっこう時間を使っている感覚があるじゃないですか。でも相手が出そうとしているときは、わりとあっという間に返しているような気になる。そういう時間の経過が、本当のスポーツっぽいなと思いました。
秀五 ほんとにテニスをやっているときって、ああいう瞬間があるじゃないですか。錦織選手が、サイドに振ろうとしているのをダウンザラインにいってわざと体を開いて打つとか。一瞬、間があく感じで。
—— ねらいうちを狙いすぎてアウトになったりとか。
宏之 あるあるですね。
秀五 今までの『マリオテニス』は間口を広げる目的で、基本的にアウトってなかったんですが、今回はあえて設定しています。実際にあるわけですから。他にも、サイドに振られるのかよと思ったらボディショットを食らったりとか。そういうことがほんとにできるのが面白いのではないかなと。あとは、狙っていると見せかけてすぐ打っちゃう、ということもできるし。そういう時間の使い方をコントロールしていくと、より奥深くなると思います。
動きにこだわったキャラクター作り
—— 各キャラクターの「スペシャルショット」は、すべて新しくなったんですね。
宏之 今回の「スペシャルショット」は、エフェクトで済ますのではなく、とにかく動きで魅せることにこだわりました。だから1体1体どうするのか、スタッフでとことん話し合いました。
秀五 「スペシャルショット」や「テクニカルショット」をキャラごとにテーマ付けして、ラフを描いて。それを任天堂さん含めて2、3か月くらい方向性を話し合いましたね。
伊豆野 今回、マリオたちのモーションも全部変えてくれというくらい、キャメロットさんにはいろいろとお願いしたんです。とにかくマンネリ感を払拭したい。だからマリオも今までのオーバーオールが当たり前ではなくて、テニスウェアを着せてかっこよくしてくださいと。となると、スーパープレーをするモーションというのは特別になってきますよね。
宏之 動きで全部のキャラクターを表現するのってけっこう大変でした。厳しいものに挑戦したなと思います。
—— 最初に決まったスペシャルショットはどれなんですか?
宏之 マリオですね。それはまず「こういう形にしたいんだ」と示すものとして作ったので。
—— では、制作において印象的だったスペシャルショットはありますか?
秀五 ここ(キャメロット)に聞いたらそりゃ、ワルイージになっちゃいますよ(笑)。バラを持って、かっこつけてね。
—— やっぱり、ワルイージを生み出したのがキャメロットさんだからですよね(笑)。
秀五 うちのワルイージは奔放でしょ。だからといって、自由なわけではないんだけど、キャメロットにとってはワルイージならいろんなことができる気がするキャラなんです(笑)。
宏之 あと、うちが作ったキャラじゃないですが、ワリオにも思い入れがあるんで頑張っちゃいましたね(笑)。ワルイージとワリオは、1作目のときに僕が勝手にコンビにさせちゃったんで。反対に優等生なキャラクターのスペシャルショットを作るのは悩みますね。
秀五 でもピーチのスペシャルショットとか好きです。新体操になっちゃってますからね!
—— ルイージも、りりしく見えます。
秀五 人間キャラクターについては、「修行をしてこの技を覚えた」というような設定があって。だからりりしくなっちゃう要素が僕らの中にはあるんです。
宏之 各キャラクターの動きもいいでしょ。それぞれいろんな候補を出して、絞り込んで作っていきました。企画もグラフィックもみんな一丸となって作りましたね。
新キャラは鉄球のガボン、感情のない(?)ワンワン
—— 新キャラクターにガボンとワンワンが選ばれたことについて教えてください。
伊豆野 毎回新キャラについて検討するんですが、その候補にガボンは大体いつも入っていました。
—— ガボンは大体いつも入っていた…?
宏之 ガボン好きがいた…ってことかもしれないですね(笑)。
—— ワンワンが登場したのは?
秀五 ワンワンは任天堂さんからのリクエストなんですが、「どうやってラケットを構えるのよ」と思いましたね。クイにつながれているか、オリの中に入ってるかなんだから、さすがにテニスはしないでしょうよ! って(笑)。
伊豆野 だから、絶対にテニスをしなさそうなキャラクター、という意外性で選んでいるキャラクターですね。
—— てっきり、キャメロットさんが希望したと思ってました。
秀五 いつも変な提案するからって?
一同 (笑)
秀五 ちがいます(笑)。で、任天堂さんから人気があるキャラだということで入れることになったんですけど、実際に作るにあたって「ワンワンは感情を表現しません」って言われて。え、声を付けるのに喜怒哀楽がないの!? って。
伊豆野 もともとワンワンのボイスは1つしかないんです。
秀五 だからこれまでキャラは喜怒哀楽を大げさに表現して声を付けていたんですが、ワンワンはそれを抑えめにしてもらいました。
伊豆野 キャラクター作りに関しては、本当に細かいところまで調整していただきました。他のキャラクターは打ち返したら前を向くんですけど、ワンワンは勝敗に興味がないので横を向いていたりするんですよ。
—— たしかに! ちなみにガボンがサーブを打つときって、口の中にボールを入れているんですか?
秀五 ガボン好きによると、「鉄球を口から出す」と。だからコレなんだ、と。
伊豆野 正しいです。「口に入れてください」と言いました(笑)。
ストーリーの舞台はハワイがモチーフ!?
—— ストーリーモードはお話の他にも、テニスとは思えないさまざまなステージが楽しめるものになっていますね。
宏之 ボス戦があったり、テニスゲームとしてはむちゃくちゃですよね。
伊豆野 ストーリーができる前から、さまざまな実験をしながらギミックステージがいろいろと作られていました。
秀五 作った素材としては、すごく数がありましたね。
宏之 うん。例えば駅でいろんなキャラクターが歩いてくるシーンがあるじゃないですか。そういった絵はあるけど、ゲームとしてのギミックは何もない…とか。そこに「ボールをキャラが返してきたら楽しいよね」という味付けを後からしていったりとか。いろいろな要素をバラバラに作っていた感じです。
伊豆野 ただマリオの世界観として「この場所はいったいどこなのか」という疑問もありました。ですので「テニス島」みたいなものがあって、その中で物語が展開するようなつながりになりませんか、とお願いしたんです。
—— では、素材があるものをつないでストーリーを紡いでいったんですか?
宏之 いえ、ストーリー自体はちゃんと作っておかないと、成立しなくなってしまうので。全体の世界観や絵面は把握したうえでストーリーをいちから作って、既存の素材を当てはめていきました。その中で合うものと合わないものがありましたから、使えたのは6割くらいだと思います。もちろん、そのあとに新しい素材も作ったりもしてますからね。
伊豆野 そこから島も作っていますし。
秀五 ええ。とはいえ島自体の構想は随分前からあったんです。いろんなことが起きても不思議じゃない、そういう楽しい世界が舞台として必要だよね、と。それで任天堂さんに「こんなイメージになります」ということを実際に見せて伝えるために、グラフィック担当に「島を作って」と言ってたんですが、ストーリーができていないので「どんな場所が必要なのかわからないので作れません」と返され、でも「必要だから作って」…という押し問答みたいな状態が続いて。
伊豆野 しかも「砂漠」とか「火山」とかいろいろなステージがあるので、それをうまくまとめる必要がありました。そういう中でビビっときたのは、ハワイ島のようなイメージになったときですね。
宏之 最初に描いてもらったラフは、細かい島がたくさんある「諸島」のようなものだったんです。でもそうじゃないよね、と。気候としてもつじつまが合わないですし。
伊豆野 でもハワイ島であれば実際に、火山もあれば雪が積もる高山もありますから。それを聞いて「なるほど!」と思って、いっしょにホワイトボードに「ここにこれを置いて、こう回って…」というものを描いて、これでいこう! と進んでいきました。それが昨年の夏くらいだと記憶していますね。
秀五 スペシャルショットもテクニカルショットもどんどん豪華になっていくし、期日は決まっているし…。グラフィック担当は大変だったと思います。
宏之 それに、翻訳が間に合わないからここまでにストーリーを書き終えてくれ、と言われるし。
—— そんななか、マップ中を移動する船が出てきたりとか細かいですよね。移動中の音も良かったですし。
宏之 そのあたりは、彼が苦労しているはずです。
(キャメロットの名物広報にしてサウンド担当の宇野正明さん登場)
宇野 『テニス』を作ってるはずなのに、効果音の発注が「鉄の扉の開く音」とか「宝箱オープン」とか。あれ、僕何のゲーム作ってんだっけ? と。
一同 (笑)
宏之 あと足音とかね。
宇野 そう。テニスコートってバリエーションが決まっているはずじゃないですか。なのに砂があって、深い芝、土、木の板…って何でこんなにいっぱい作らなきゃいけないの!? ってびっくりしました。