今だから話せる!『モンスターハンターライズ』1周年総振り返りインタビュー
『モンスターハンターライズ:サンブレイク』(以下『MHR:SB』)発売直前スペシャル!
と題して、『モンスターハンターライズ』(以下『MHR』)のディレクターである一瀬さんにうかがった、『MHR』の軌跡を振り返るインタビューを掲載します。
『MHR:SB』をもっと楽しむために、あのハンティングアクション体験の衝撃を振り返ろう!
モンスターハンターライズ
ハンター同士で協力してモンスターを狩猟するハンティングアクション『モンスターハンター』シリーズの最新作(2021年3月26日発売)。
メインモンスター「マガイマガド」の襲来からカムラの里を守るために狩猟に出向くハンターの物語です。
翔蟲や百竜夜行、オトモガルクといった新要素に加え、他のハンターに助けを求める参加要請による快適な多人数プレイなどシステム面も大幅にパワーアップしています。
モンスターハンターライズ(公式サイト)
モンスターハンターライズ:サンブレイク
『MHR』をさらに楽しめる超大型拡張コンテンツ。
新たな物語は、氷狼竜「ルナガロン」が『MHR』に登場するフィールド「大社跡」に出現したことから始まります。
その時に出会った王国騎士フィオレーネから要請を受けたハンターは、「モンスターの異変」を調査するため、観測拠点「エルガド」へと旅立ちます。
かつて災厄から里を救ったハンターが、古龍「メル・ゼナ」から王国の危機を救うため、新天地で新たな狩りに挑みます!
■カプコン
■2022年6月30日配信
■ハンティングアクション
■ダウンロード版:4,990円(税込)
■モンスターハンターライズ + サンブレイク セット:
パッケージ版:8,789円 (税込)、ダウンロード版:7,990円(税込)
■モンスターハンターライズ:サンブレイク デラックスエディション(ダウンロード版のみ):5,990円(税込)
■モンスターハンターライズ + サンブレイク ダブルデラックスセット(ダウンロード版のみ):8,990円(税込)
■CERO15歳以上
モンスターハンターライズ:サンブレイク(公式サイト)
一瀬泰範さん
株式会社カプコン所属のディレクター。
『MHR』のほか、『モンスターハンターポータブル』(PSP)シリーズや『モンスターハンタークロス』(3DS)でもディレクターを務めています。
※本インタビューは、ニンテンドードリーム2022年5月号に掲載された内容を一部修正して再掲載したものです。
始まりから振り返る 『MHR』1年間の軌跡
2021年3月26日に発売された『MHR』。
2度の大型アップデートも実施され、発売後も進化を続けています。
そんな今作を、始まりから振り返ってみましょう。
今振り返る 『MHR』の始まり
—— 『MHR』の開発はどのくらいから始まったのでしょうか?
一瀬 インタビューなどでは4年前と言ってたんですけど、そこからだいぶ経ったので6年ぐらいになったかと思います。
—— もう6年も前になりますか。
一瀬 『MHR』の前に僕がメインで担当していたのは『モンスターハンタークロス』なのですが、そのバージョンアップ版である『モンスターハンターダブルクロス』(以下『MHXX』)は別のディレクターが担当するということで引継ぎをしたんです。その時ぐらいに辻本(※1)から「Nintendo Switchで携帯機の『モンハン』を作りたい」という話をもらい、そこに向けて開発を進めていった感じです。がっつり『MHXX』が動いていてサブ的に手伝いに入ることも多かったので、『MHR』の開発が本格的に始まったと言うよりは、少人数で小さく始まったという感じでした。
※1. 辻本良三:株式会社カプコンのゲームクリエイター。『モンスターハンター』シリーズ全般のプロデューサーを務める。
—— Nintendo Switchの出始めのころから企画されていたのでしょうか?
一瀬 当時はまだ開発機がない状態でしたが、任天堂の担当者さんとも打ち合わせをしていましたね。『MHXX』も本格的に動いていた時期なので、最初はメンバーも僕とメインのプランナーとプログラマーの3人でした。開発機もないので3DSを使って、『MHXX』を改造しながら、企画の立ち上げ当初からあった翔蟲などのアクション部分の遊びを検証していました。
—— あらためて『MHR』自体のコンセプトを教えてください。
一瀬 プロデューサー的なところだと「携帯機(Nintendo Switch)で遊べる『モンスターハンター』」です。その時はまだ今のご時世とは違って、人と会う機会はたくさんあったというのと、『MHXX』や『モンスターハンター:ワールド』(以下『MHW』)の開発とかも進んでいたので、うちのチームとしてはオンラインよりも携帯機を持ち寄って遊ぶようなゲームを目指していました。もちろんオンラインも主流になりつつあったので機能としては取り入れつつも、やっぱりみんなで集まって遊ぶというのを突き詰めたいな、と。また、Switchの強みとして持ち運べるというところもあるので、昼間はTVモードの大画面でプレイして、夜には自室のベッドの上や布団の中で携帯モードを使って遊ぶ、みたいな家の中でのサイクルを活かせるように、ゲーム内のテンポ感を調整していました。
—— ゲーム開発は翔蟲の手触り感から始まったというお話もありました。
一瀬 先ほどのはプロデューサー視点でのコンセプトですが、ゲームとしては今までの『モンスターハンター』で培ってきたものを一新したいと思っていました。「ゲーム内クエストを繰り返す」という遊びに何かひとつ要素を加えて一新できるようなもの、あとは基本的に各カテゴリに売りになるような要素というのを最初に考えてアイデアを出していましたね。各カテゴリというのは、プレイヤーには翔蟲、武器アクションには鉄蟲糸技、オトモにはガルクといった感じです。コンセプトとしては、翔蟲で実現したワイヤーアクションのような「3軸で遊べて、アクションとして絵になり、モンスターとの立ち回りが変わるような要素」を加えるというのがひとつ。モンスターたちを妖怪風に見立てたように「和の世界観」にするというのがひとつ。あとは、オトモガルクという新マスコットを登場させて「ライズといえばガルクだよね」って言ってもらえるような新しいゲームのアイコンとなるキャラクターを登場させる、というものでした。
—— 開発は3人から始まったとのことですが、開発規模はどのくらいになったのでしょうか?
一瀬 社内の開発だけで、一番多くて200人くらいです。当然ゲーム開発以外にも、プロモーションやSNSなどの宣伝部隊もいますし、外部会社に委託しているようなものもありますので、そういったものを含めたら人数はもっと増えます。ゲームの企画、モンスターの絵や動き、音楽などなど、ゲーム内でユーザーが遊べる要素を作っているのが社内だけで200人くらいという感じです。
—— 開発期間は6年というお話でしたが、ご時世的な影響はありましたか?
一瀬 開発最後の、発売の年度にコロナの影響を受けたのが大きなインパクトでした。実際2か月くらいは会社での作業はできなくなり、急遽自宅でどういったことができるのかという検証を始める必要がありました。ミーティングや収録などもビデオチャットを通じて行うようになり、そういった意味でも仕事の仕方はだいぶ変わりましたね。声優さんのボイス収録もその辺りの時期だったので、「いったん延ばしましょうか」と雲行きが怪しかったので延期したらその次の週に緊急事態宣言が出ちゃうとか。スケジュールもかなり変わっちゃいましたがなんとか組みなおして、当初の予定通り3月に発売できました。本当にスタッフがいろいろとがんばってくれたので何とか間に合わせることができました。本当にギリッギリでしたけど。
ゲームエンジンもハードもすべて一新
—— Switchでのシリーズ最新作ですが、ハードの違いという部分で工夫されたポイントはありますか?
一瀬 タッチスクリーンを始めとするSwitch独自の操作っていろいろあると思うので、そこを使った遊びみたいなのはいろいろ考えていました。ただ、よくよく考えたらテレビモードと携帯モードの2種類を作らなくてはいけなくて。例えばタッチスクリーンの操作はTVモードでは使えないじゃないですか。なので、それがないと遊べないといったことはしないように開発していました。その名残みたいなところで、実はモンスターのターゲット選択はタッチ操作できたりするんです。
—— えっ、そうなんですね!
一瀬 実は使えるんです。「携帯モードの時に親指のばして使えるとこだけ」みたいな形で実験的に取り入れてます。ただまあ、基本的にはそういった操作がなくても遊べるようにはしなくちゃいけなかったので、ハードの機能を活用するという部分に関して意識的に抑えて作っています。
—— 例えば前作『MHW』はPS4でしたが、性能的な部分ではどのくらい影響があったんでしょうか?
一瀬 ハードが違えば当然、性能も違います。実はハードだけではなくゲームエンジン(※2)も『MHW』とは異なっているんです。なので一概に比較はできないんですけど、ハードとゲームエンジンを両方とも新規で開発したというのは、主要タイトルでは『MHR』が最初だったんです。なので、どこまでの処理速度を出せるのかというのをいろいろと検証していました。とくに、今作の売りのひとつとして採用した「百竜夜行」というモンスターがたくさん出てくるモードでは、どれだけモンスターを出せるのか検証を重ねました。また絵作りの部分でも、Switchというハードでどれだけきれいに見せられるのかというのはすごく時間をかけたところで、独自のシェーダー(※3)をいろいろ作ってもらって検証していました。
※2. ゲーム開発において、核となる共通の処理をまとめて効率化するソフトウェアのこと。『MHR』には「RE ENGINE」と呼ばれるカプコン製の社内エンジンが使用されている。
※3. CGに陰影をつけたりするプログラムのこと。
—— ハードだけでなく、ゲームエンジンも初というのは衝撃です。
一瀬 検証もできていないころはフレームレート(※4)が10fpsも出ておらず、ものすごく重たい動きだったんです。そこから30fpsを出せるようになるまで、最後の最後まで検証し続けて作っていたという感じです。社内でゲームエンジンを作っている技術班のメンバーからも何人かサポートに入ってもらって、いろいろアイデアを出してもらったり対処してもらったり、というのもありました。
※4. 1秒間に何コマを画面に表示できるかという数値(fps)。一般的なテレビの映像は30fpsで、fpsが高いほど画面はなめらかに動く。
開発が心からおもしろいと思える進化を
—— いろいろと経た後、2021年3月26日に無事発売されました。発売直後のユーザーの反応を受けてどのように感じられましたか?
一瀬 本当にギリギリまで作っていたので、何よりも発売できて一安心というのが一番でした。細かいバグとかはアップデートとかで修正しましたが、問題となるような大きなバグもなかったのでそこは本当に良かったと思っています。1月に出した体験版でゲームの中身については反応をいただいていたんですが、やっぱり発売後には実際のクエストまわりの遊びだったり、序盤のクエストとかも良い反応をいただけて。発売日はネットをずっと見ながら「こんな反応あるよ」と、スタッフみんなで喜びを共有していました。
—— 体験版のマガイマガドのクエストはかなり高難易度だったので製品版についていけるか不安だったのですが、製品版では順序立てて丁寧に操作を覚えていけるようになっていたのでとても楽しめました。
一瀬 ありがとうございます。体験版で今作のメインモンスターであるマガイマガドの狩猟を遊んでもらおうとなった時に、そこで簡単に倒せてしまうとゲームの一番おいしいところが終わってしまうのではないか、という懸念がありました。体験版で満足してしまわないように、チャレンジャブルな難易度に調整しています。このクエストで「絶対倒してやる!」みたいな目標を持ってもらいたいと思っていたので、逆に製品版で操作に慣れてからもう1回体験版に挑戦してもらうのも楽しいと思います。
—— 今作にはたくさんの新要素が登場しましたが、これらがユーザーに受け入れられるかどうかという部分で配慮されたことはありますか?
一瀬 『MHXX』や『MHW』を遊んでから『MHR』に触れるユーザーさんもいるので、それぞれのゲームの特性は違うという前提の元、過去作から『MHR』に適合して取り入れたほうが良い要素は組み込むように意識しています。新要素に関しては実際に遊んでもらわないことにはわからなかったのですが、開発内で話し合って「ちゃんと自分たちが面白いと思えるか」という部分を意識して調整を重ねました。
—— 発売1か月後に「Ver.2.0」アップデートが登場してたくさんの古龍が追加されましたが、『MHR』用に調整したという部分でとくに印象に残っている古龍はいますか?
一瀬 「オオナズチは久しぶりに出したい」と話していたのを覚えています。「Ver.2.0」での目玉として、クシャルダオラやテオ・テスカトルとあわせて過去の3大古龍みたいなのを同時に出せたというのは良かったです。オオナズチは毎回制作に苦労するモンスターですね。「消える」というのはアクションゲームとしてはなかなかやっかいなので、そこをどう落とし込むかっていうのは時間をかけたところです。
—— ヌシモンスターに単体で挑戦できるクエストというのが追加されましたが、もともとこのアップデートで追加する予定だったのでしょうか?
一瀬 もともと追加する予定でした。ヌシモンスターは百竜夜行でしか登場しなかったのですが、普通のクエストを繰り返したいというプレイヤーさんもたくさんいると思うので、ヌシ単体を狩猟したいという声が上がるのは想定していました。アップデートに際して、ユーザーさんの選択肢を増やすために新モンスター以外にチャレンジ枠みたいなものも提供した感じです。
—— 発売2か月後には「Ver.3.0」アップデートがありました。追加されたバルファルクは収集要素である手記の中で何となくほのめかされていましたが、もともと登場は決まっていたのでしょうか?
一瀬 いろいろと伏線みたいなものをちりばめていましたね。無事にバルファルクが実装できてよかったです。
—— 過去作との繋がりは、ファンにとっては嬉しいですよね。
一瀬 世界観が続いて新しい遊びを取り入れられるかもしれないということは常に考えています。バルファルクの登場もある程度は決まっていたので、手記とも自然に繋がりそうだったので仕込んでおいたという感じですかね。
—— バルファルクと和のイメージはあまり繋がらなかったのですが、このあたりについては?
一瀬 モチーフは彗星ですね。昔は流れ星みたいなものには、凶兆を知らせる不吉なイメージがあったので、そういった考えが元になっています。妖怪ではなく、カテゴリとしてもう1つ上の自然の事象とか神業みたいなものとして落とし込みました。とはいえ、バルファルクはストーリーが終わってから登場する大型のボスというポジションですね。イブシマキヒコとかナルハタタヒメみたいなイベント系のボスじゃない大型モンスターを出したい、と思いながら歴代のモンスターを見ていたところバルファルクが目に入りまして。『MHW』にも登場してなかったので、久しぶりの再登場になればいいな、という思いもありました。