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拡張コンテンツの域を超えた楽曲群! 『モンスターハンターライズ:サンブレイク』作曲者インタビュー

『モンスターハンターライズ:サンブレイク』作曲者インタビューのサムネイル

『モンスターハンターライズ:サンブレイク』(以下『MHR:SB』)発売直前スペシャル!
と題し、『MHR:SB』の新たな音楽について紐解くインタビューを実施しました。

モンスターハンターライズ:サンブレイク
『モンスターハンターライズ』(以下『MHR』)をさらに楽しめる超大型拡張コンテンツ。
新たな物語は、氷狼竜「ルナガロン」が『MHR』に登場するフィールド「大社跡」に出現したことから始まります。
その時に出会った王国騎士フィオレーネから要請を受けたハンターは、「モンスターの異変」を調査するため、観測拠点「エルガド」へと旅立ちます。
かつて災厄から里を救ったハンターが、古龍「メル・ゼナ」から王国の危機を救うため、新天地で新たな狩りに挑みます!
『モンスターハンターライズ:サンブレイク』の新拠点「エルガド」 『モンスターハンターライズ:サンブレイク』のメインモンスター「メル・ゼナ」
■カプコン
■2022年6月30日配信
■ハンティングアクション
■ダウンロード版:4,990円(税込)
■モンスターハンターライズ + サンブレイク セット:
パッケージ版:8,789円 (税込)、ダウンロード版:7,990円(税込)
■モンスターハンターライズ:サンブレイク デラックスエディション(ダウンロード版のみ):5,990円(税込)
■モンスターハンターライズ + サンブレイク ダブルデラックスセット(ダウンロード版のみ):8,990円(税込)
■CERO15歳以上

モンスターハンターライズ:サンブレイク(公式サイト)

本インタビューでは、ニンテンドードリーム本誌で連載を持つ作曲・編曲家の岩垂徳行さんがインタビュアーとなり、『MHR:SB』の楽曲を担当したコンポーザーさんに、普通では聞けない深い内容に切り込んでもらいました。

岩垂徳行さんのイメージアイコン
岩垂徳行
さん
1964年生まれで長野県出身の作曲・編曲家。
『スマブラ』シリーズや『新・光神話 パルテナの鏡』、『逆転裁判』シリーズといったゲーム音楽だけでなく、東京ディズニーリゾートのショー音楽や舞浜駅の発着音など、手掛ける楽曲は多岐にわたっています。

※本インタビューは、ニンテンドードリーム2022年7月号に掲載された内容に加え、誌面ではカットした内容を加筆した完全版です。

モチーフ変更で180°変わった楽曲制作

―― 『MHR:SB』の音楽に迫る! ということで、今回はコンポーザー(作曲者)のお2人にインタビューさせていただきます。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

 『MHR:SB』でリードコンポーザーを担当しました、カプコンの堀諭史です。

小倉 同じくコンポーザーで楽曲制作を担当させていただいた、カプコンの小倉真奈です。よろしくお願いします。

堀諭史さんの顔写真 小倉真奈さんの顔写真
堀諭史
さん(写真左)
カプコン所属のコンポーザー。『MHR:SB』ではリードコンポーザーを担当。
小倉真奈さん(写真右)
カプコン所属のコンポーザー。『MHR:SB』では楽曲制作を担当。

―― はい、よろしくお願いします。2人共若いね。

 僕は30代で、小倉は20代です。

―― すばらしい! やっぱり若手がどんどん出ないとね。曲もとっても良かったし、ちょっと感動してました。

 ありがとうございます。

―― さて、今回は超大型拡張コンテンツということですが、音楽に関しては拡張しすぎというか全然別物じゃないですか。

 そうですね、今回はジャンルが180度変わりまして。前回は和風だったんですが、今回は西洋モチーフになっています。まったく違うゲームの音楽をもう一つ作るみたいなイメージでした。

―― 映像的にも大きく変わっているし、西洋っぽい感じも強いし。これ、すごい大変だよね…(笑)。

 めちゃくちゃ大変でした…(笑)。

新拠点「エルガド」の雰囲気

―― 今回のインタビューのために、『モンハン』のテーマ曲はイチから全部通して聴いてみたんです。そしたら、いっときは和調になったりしながら、いろいろな変化を経て音楽的には原点に戻ったという感じがしまして。もちろん原点に戻りつつも新しい世界が作られていて感激しました。

 ありがとうございます。

―― 編曲者は毎回違うの?

 編曲者はシリーズ毎に違いますね。毎回違う人が担当することで音楽的にも新しい雰囲気にしよう、っていうのがあります。

―― 一人じゃ、なかなかバリエーションを出すのが難しいですよね。

小倉 私はちょうど『MHR』で堀さんが担当された後の担当だったんですけど、けっこう辛かったです(笑)。

―― 辛いよね。今回はお2人で担当されたんですか?

 メインの担当は僕たち2人ですが、もう1人作曲家がいて3人で作りました。楽器を決める工程に関しては、ディレクターとがっつり話して、こういうストーリーだから、ここでこういう楽器を使おうっていうのを細かく決めていきました。その方が、ユーザーさんが感じ取れるゲームの深みみたいなものが出るので良いと思います。

―― 世界観も統一されるし、とっても良い作り方だね。楽器編成は先に決めるの?

 先です。この曲とか、このシーンとか、このカテゴリーはこの楽器を使おうっていうのもすべて最初に決めています。

『モンスターハンター』の世界における西洋の空気感

―― 西洋モチーフということだけど、どこの地方を中心としたの?

 実は、西洋をモチーフにしているというのは、外に発信していることではないんです。最初にディレクターと話した時に、「今作の音楽は西洋でいこう」と言われまして。

新フィールド「城塞高地」のイメージ画像メインモンスター「メル・ゼナ」との戦闘イメージ

―― 幅広いね。

 そうなんです。西洋と言っても、ヨーロッパってかなり広いですから。大体ヨーロッパのこの辺かな、というイメージはあるんですけど、そこの地域の音楽を作ってしまうと、『モンハン』というよりはそこの地域の音楽になってしまいます。なので、僕らが西洋っぽいと感じる“らしさ”を出すために、クラシックの音楽っぽくしたり、使用する楽器を工夫したりして、「これは確かに西洋だな」と感じられるような雰囲気を目指して作りました。例えば、和音(※1)やコード進行(※2)、録り方ひとつとっても日本とは全然違います。「この要素で西洋っぽくしています」という決め打ちではなく、これらの要素をちょっとずつ取り入れて細かい部分で雰囲気を構築していきました。

※1. 高さの違う2つ以上の音が同時に鳴った時の音。
※2. コードは和音のことで、曲においてコードがどのような順番で進んでいくのかという、コードの構成のこと。

―― そういう意味では、スコアがすごく純粋なるオーケストラというか、あんまり奇をてらっていないよね。ヨーロッパの音楽っていう基本を忠実に守りつつ、新たな音楽にしてるっていう感じ。

 はい。

―― パイプオルガンが入っているのにはビックリしたけど、あれは録音したの?

 けっこう大きいコンサートホールを貸し切って、国内で録音しました。

―― それは素敵だね。なかなかオルガンを録る機会はないよ。テーマ曲(英雄の証)とかに関しては、特殊な楽器は使ってない?

小倉 古楽器(※3)みたいな特殊な楽器は入れず、パイプオルガンやコーラスなど、基本的な西洋の楽器を主軸にしています。

※3. 現在ではほとんど使われなくなったり改良される前の、西洋の古い時代の楽器。

―― ちなみに「英雄の証:Sunbreak ver.」はどちらが作られました?

小倉 私です。

―― やっぱり。あの曲には若さを感じたよ。スコア書くのも大変だったと思う。

 今回は社内でオーケストラの雰囲気とか方向性をしっかり決めて打ち込みである程度作った後に、他の企業さんにオーケストレーションをお願いしています。打ち込みの雰囲気は忠実に守ってもらいつつ、オーケストラに磨きをかけてもらう、みたいな作り方ですね。

―― 自分たちで譜面を書いて持っていったわけじゃないんだね。

 基本的に弊社で制作する音楽は、あまり社内でオーケストレーションまですることはないです。現地の独特なフォーマットに適応したりとか、よりリリカル(叙情的)な書き方があったりもするので、そこはプロにお任せしています。

―― 現地という言葉が出てきましたが、噂では海外でレコーディングをしたという話ですが。

 はい。海外レコーディングしています。

―― おお! このコロナ禍に行けた?

 現地には行っておらず、リモートレコーディングです。実は『MHR』の方でもリモートレコーディングをしていたので、その経験をもとに再び挑戦しました。

―― どこで録音したんですか?

 アビー・ロード・スタジオ(※4)です。オーケストラはストリングス、ブラス、コーラスをそこで録っていて、それ以外の特殊楽器は日本国内で収録しています。

※4. ロンドンの録音スタジオ。ビートルズが録音を行ったスタジオとして有名で、スタジオ前の横断歩道はアルバムのジャケット写真にもなっている。

―― おっ、アビー・ロードで! それは行きたかったね。

小倉 行きたかったです!

―― 今回、全部で何曲作ったの?

 曲数自体はカウントしていないんでわからないんですけど、収録した分数だけで言えばアビー・ロード・スタジオで収録したものが46分ほどあります。超大型拡張コンテンツと言いますが、『MHR』と同じかそれ以上くらい録音しています。

―― やりすぎでしょ!

一同 (笑)。

―― でもやりすぎてるからこそ、それに見合った音がしていると思います。では、次のページからは曲を個別に深堀りしてみましょう。

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