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ゼルダの伝説 コンサート 2018 開催記念 指揮者・竹本泰蔵さんインタビュー(ニンテンドードリーム1月号より)


2年ぶりとなるゼルダの伝説コンサートがいよいよ開催!
ニンテンドードリーム19年1月号では、長年ゲーム音楽コンサートで指揮を務める竹本泰蔵さんに、ゲーム音楽にかかわったきっかけや、その楽しみ方をうかがいました。
そこで当NDWでは、前半部分+最後のメッセージを抜粋してお届け。コンサートをより楽しんでいただければと思います!(全文はニンドリ1月号を御覧ください)

ゼルダの伝説 コンサート 2018 とは

フルオーケストラとゲーム映像で楽しむゼルダコンサート。今回はオカリナ、ハープ、アコーディオンにスポットを当てた演目や、最新作『ブレス オブ ザ ワイルド』の曲が聴きどころのひとつ。 ※現在、チケットは全公演完売しています

ゼルダの伝説 コンサート 2018 公式サイト

12/14(金)最終公演・ニコニコ生放送にて配信決定!!

 


 

指揮者・竹本泰蔵さんインタビュー 〜ゲーム映像とオーケストラの融合へ


指揮者 竹本泰蔵さん
1977年に開催されたカラヤン・コンクール・ジャパンで、ベルリン・フィルを指揮し、第2位に入賞。カラヤン氏に招かれ翌年よりベルリン・フィルの演奏に参加するなど、ベルリンを中心に研鑚を積む。 クラシックはもとより、舞台作品や映画音楽のコンサートも数多く、ロックやポップス等ジャンルを越えたアーティストとも多数共演。さらにはゲーム音楽のコンサートや、演奏と映像をシンクロさせる映像付コンサートを手がけるなど幅広く活躍中。

 

▼『スマブラDX』での出会いが現在につながる

—- まずはゲーム音楽コンサートで指揮を務めることになったきっかけから教えてください。
竹本 ゲーム音楽に携わることになったのは、『スマブラDX』※1内の曲のレコーディングからなんです。そのときに桜井政博さんや酒井省吾さんとお会いしました。で、その後に別件でちょうど『ファイナルファンタジー』のコンサート※2のお話があって、その後には『スマブラDX』のコンサート※3の指揮をすることになったんです。
※1:2001年11月21日発売のゲームキューブソフト『大乱闘スマッシュブラザーズDX』
※2:2002年2月に開催された「ファイナルファンタジー・オーケストラコンサート」
※3:2002年8月27日、東京文化会館で開催された「大乱闘スマッシュブラザーズDX オーケストラコンサート」

スマブラDXコンサートにて、ゲームデザイナーの桜井政博さんと竹本さん

—- そこから「PRESS START※4」や、さまざまなゲーム音楽のコンサートに広がっていくことになるんですね。
※4:指揮者・竹本泰蔵さん、ゲームデザイナー・桜井政博さん、作曲家・植松伸夫さん、酒井省吾さん、シナリオライター・野島一成さんの5人の企画で開催されたゲーム音楽コンサート
竹本 そうですね。今思うと、ゲーム音楽に携わることになったのも不思議な話で。当時はゲーム音楽のオーケストラコンサートって盛んではなかったでしょう。しかも指揮者はもちろんクラシック畑ですから、「ゲーム音楽ぅ?」的な風潮があって、ゲーム音楽を少し下に見ていた時代だったんですよ。そんな中で、酒井さんが「映像に合わせてテンポが変わる、そんな細かいことをやってくれるゲームが好きな指揮者はいないか?」って、新日本フィルハーモニー交響楽団のビオラの知り合いの方に聞いたらしいんです。そうしたら…
—- 「竹本さんがいいんじゃない」と?
竹本 そう。きっと「そんな変なことをするヤツは竹本しかいない」って呼んでくださったんだと思います(笑)。僕は世界で初めて映画「ファンタジア」の映像と音楽を合わせた指揮者であったりするので。もちろんゲームも好きでしたが、もともとそういった映像と音楽を合わせるということが大好きだったのが大きいんでしょうね。

2017年4月に開催された、星のカービィ25周年記念コンサートの指揮を担当したのも竹本さん。長い付き合いとなる酒井省吾さんとのトークも

—- 後程、その映像と音楽のシンクロの原点なんかも聞かせていただきたいなと思います。さて、そして今回は『ゼルダの伝説』コンサートになります。単独コンサートは25周年、ムジュラ、30周年に続いて4回目の公演になりますね。
竹本 そうですね。ほかの作品ももちろん素晴らしいんですが、ゼルダの音楽というのはやはり特別ですね。音楽的にも誇張ではなく芸術作品だと思っていますし、なにしろこれまでのゼルダコンサートはすべて本当に「楽しかったなぁ」という思い出しかないんです。だから、前回の30周年コンサートが終わったときはすごくさみしくて。今回のお話をいただいたときは本当にうれしかったんですよ。

2016年に大々的に開催された、ゼルダの伝説 30周年記念コンサート。フルオーケストラと映像で感動が蘇る!

 

▼ゼルダの伝説 コンサートの思い出

—- そういった意味では、『ゼルダ』の音楽はほかのゲームよりもオーケストラに向いているんでしょうか?
竹本 しやすいでしょうね。空気感がそのまま伝わるイメージがありますから。世界観からしてオーケストラにふさわしいものだと思います。
—- とはいえ原曲のテンポが速かったりと、オーケストラで奏でるには難しいものもありますよね。
竹本 まぁ原曲によっては物理的に弾けないのでアレンジが必要というものはありますが、それより以前に普通にオーケストラにするだけでもゲーム音楽は難しい部分があるんです。なぜなら、クラシックの文法でやるとゲーム音楽って重厚な感じになっちゃうんですよ。当然のことですがクラシックには歴史がありますので、そのクラシックの文法をもっている人たちに、いきなりロックの文法のノリや音の取り方をやれといっても難しいわけです。だから音符は同じでも、感じ方、表現の仕方でだいぶ変わってくるんですね。そういった部分を変換して口で伝えていくことが必要になってきます。
—- なるほど。ゼルダ30周年コンサートのときリハーサルに立ち会わせていただいたのですが、竹本さんが奏者さんたちに「『風のタクト』をやったことがある人、手を挙げてみてください」と質問されていて。「『風のタクト』というゲームは海があって、雄大で、妹がさらわれて…」とまずゲームの説明から入り、「だからこう演奏してください」という伝え方をしていることがとても印象的だったんです。
竹本 奏者にもイメージが湧かないと、緊張感があるところでデレッと弾かれたら嫌でしょ(笑)。
—- 竹本さん自身がゲームの中身をかなり理解されたうえで指揮をされているんだと驚きました。
竹本 いやいや、ニンドリ読者さんに「僕ゲーム触ってます」なんて大きな声で言えるほどではないですから(笑)。
—- でも、「原曲はもっと速いので『ゲルドの谷』のテンポを変えます」ってその場で変更の指示をされていたのは驚きました。
竹本 だって遅いんだもん(笑)。やっぱり来ていただいた方が想像するものに、できるだけ近づけたいじゃないですか。
—- 嬉しい調整でした(笑)。竹本さんご自身は、原曲に近づけようという気持ちがあったりするんでしょうか?
竹本 いや、オーケストラだからこその表現も狙いますから、一概にはいえないですね。もちろん、ユーザーの方が当たり前としてほしいものを狙っていくこともありますし、皆さんが知っている固有のテンポがあるのでそれを大きく外さないようにはしています。…と言いつつ、あとで聞いてみたら会場の雰囲気を重視して「オリジナルと違うじゃん」ってこともあって、そこはすみませんって思ったりもします(笑)。なので、そのバランスを取るのが難しいところだし、聴かせどころなんじゃないかとも思います。
—- ゼルダコンサートの「ハイラル平原」では、客席とのコミュニケーションによって1曲の中で曲調を変えていくというインタラクティブな演奏もありましたね。
竹本 会場の皆さんが出す紙の色で途中で変えていきましたね。あれ、楽しかったですよねー。

ハイラル平原の演目。客席と指揮者に合図を伝える役は、作曲担当の近藤浩治さん

—- ああいった仕掛けって、ほかのコンサートでもあるんですか?
竹本 僕は経験ないです。そういう意味でも『ゼルダ』は特別ですね。
—- 合間に指示をみて奏者に変更を伝えていくのは、やはり難しいんですか?
竹本 そんなには難しくないですよ。僕はもっと曲が変わってもいいかなって思っているぐらい、もっと幅広くやってみたいです。というのも、「ハイラル平原」はテンポがそんなに変わらなかったので、もっとテンポが変わったり、雰囲気が変わる曲があってもいいなって思うんです。だから、また機会があればもっとハイレベルなものにも挑戦してみたいなって思います。
—- それは面白そうですね。
竹本 もちろん、そうなるとすごく難しいんですけど、そっちの方が面白いよなっていう気持ちが勝ってます。実現するためには、奏者への伝え方にまたひと工夫が必要になるはずですが、そうすることでそれを踏まえて進化していくことになりますから、ワクワクしますよね。
—- たしかに、ゲームがインタラクティブに変わっていくものなので、それをリアルに表現するということはオーケストラコンサートの進化にもなりますね。
竹本 まさにそうです。だから大変だけど、もっと変わった方が絶対いいと思う(笑)。
—- ちなみにTwitterで思い出のマリオのゲームは『スーパーマリオランド』と書かれていましたが、『ゼルダの伝説』では何になるんでしょうか?
竹本 『時のオカリナ』ですね。息子と一緒に遊んでいて、「あー昼になったねー。夜になったねー」とか言いながら走り回ったりしていたので、思い出深いですね。

▼テレビで見て「指揮者になりたい!」

—- 竹本さんご自身のお話も聞かせてください。指揮者を目指された理由やきっかけは何だったのでしょうか?
竹本 僕、めっちゃミーハーなんです。4歳からバイオリンは習っていたんですけど、小学校のときに将来僕の先生になるカラヤン※5がテレビ番組で指揮をしているのを観て、「かっこいい!」って思って目指しただけなんです(笑)。
※5:オーストリアの指揮者。ベルリン・フィルハーモニーなどヨーロッパ各国の主要管弦楽団を指揮した世界的に有名な人物(1908~1989年)
—- そこから指揮者になりたいと。
竹本 ええ。かっこいいなぁ、なりたいなぁって。本当にそんな理由なんです。小学校くらいだから、何も考えてないので適当ですね(笑)。
—- 小学生で指揮者になりたいと思って、すぐ何かをされたんですか?
竹本 小学校の音楽の先生がすごくいい方だったんです。例えば僕が遊びで作曲した曲を「みんなで歌いましょう」みたいに、全校で取り上げてくださったりとかしたんですね。それで僕は「才能があるのかも」とか勘違いをしちゃって(笑)。
—- 小学生の時点で作曲を…
竹本 大したものではないですよ。遊びですので(笑)。で、僕が中学に上がったときに、その先生が「指揮者になりたいなら」って神戸大学教育学部の音楽の教授を紹介してくださったんです。
—- 先生は竹本さんの才能を見抜いていたんですね。
竹本 いやいや、たまたま先生がその大学の出身だったという。そんな流れで、中学生が「指揮者になりたいです!」って、教授の自宅に行くわけですよ。「あ、そう。じゃ和声学の勉強をしなきゃね」とか言われて、中学に通いながら個人レッスンを受けていきました。なんでこんな難しいのを覚えなきゃいけないんだ! とか思いながら(笑)。
—- す、すごいです。
竹本 たまたまです(笑)。全然わからないんだから。
—- そういった勉強されている時代に、印象深かったことはありますか?
竹本 中学から高校に進学するときに、音楽学校か普通の高校かでまず道が分かれますよね。そのときに教授が「普通の高校に入ってちゃんと勉強をしておきなさい」と言ってくださったことですかね。「将来、指揮者になったときにわかるから」って。
—- で、普通高校に進学されたと。
竹本 ええ。これはあくまで僕にとって良かったという話ですので音楽学校を否定するものではないのですが、だからこそその先生の言葉が今も印象に残っています。
—- 視野を広げておけ、みたいなことなんでしょうか。
竹本 どうでしょうね。でも物理とか数学とか知っておいて良かったとか、いろいろなところで実感はしています。
—- 音楽についてはクラシック一筋だったんですか?
竹本 いや全然。僕はもともとロックバンドのTOTO※6が好きなので、ロックもジャズも何でも聞いていました。勉強していたのはもちろんクラシックですけどね。
※6:今年デビュー40周年を迎えた、アメリカ合衆国出身のロック・バンド
—- だから竹本さんは、公演中にギターパフォーマンスをされたりもしていたんですね!
竹本 それは、完全なエアギターじゃないですか! もちろん家にはギターもベースもドラムセットもありますけど…弾けない(笑)。バイオリンはやりますから、手の雰囲気とかでなんとなくはわかりますけども。
—- それだけ楽器があると、息子さんは生まれたときから音楽に囲まれて育った感じなんですね。
竹本 そうですね。でもね、クラシックは全然聴かなかった(笑)。ベートーベン※7なんてデカい犬だと思ってましたから。
—- (思わず)それは嘘だ(笑)!
竹本 いや、ほんとなの! 映画の「ベートーベン」だと思ってたんだから(笑)。だから、音楽も好きなものを楽しめばいいんですよ。
※7:交響曲「運命」などで有名なドイツの作曲家/映画「ベートーベン」は、セント・バーナード犬が主人公

このあとも、オーケストラと映像とのシンクロの模索、忘れられない「ファンタジア」について、ゲームプレイと音楽、ゲーム音楽コンサートのこれから、スコア・リーディングのヒミツなど、さまざまなことをうかがっています。

[おわりに] ゲーム音楽ファンへ向けてメッセージ

竹本 皆さん、本当に幸せだと思います。なぜなら、僕が始めた頃は本当に「え? ゲーム音楽なんて」っていう時代だったんです。それが今はゲーム音楽がオーケストラにとっても大事なレパートリーに、そしてきちっと演奏できることが大事なステータスになりました。これはすごく重要なことで、みなさんが真剣に聴いていただくのにふさわしい状況にようやくなったんですね。だから、まさにこれから聴く側と演奏する側が一緒になってゲーム音楽を楽しむ、いちばんいい時代が始まったと思いますので、みんなで盛り上がっていきましょう!
—- ゲーム音楽ファンには、竹本さんの指揮のファンの方も多いですし。ゲーム映像じゃなくて指揮の動きに注目するべきだ、という人もいますよね。
竹本 本当ですか。そんな恥ずかしいです(笑)。もちろん僕を見てよかったと言ってくださる人がいるのなら、ありがたいですけどね。でも僕の口からは「俺を見ろ!」なんて言わないし、とんでもないです。僕らはあくまで演奏者ですけど裏方ですから、映像と音楽、そして会場の雰囲気をトータルで楽しんでもらいたいです。
—- でも実際、映像を見るか竹本さんの指揮を見るかで悩む声も聞きますよ。
竹本 じゃあ、背中にスクリーンを背負いますか!(笑)

ゲーム音楽とオーケストラコンサートの魅力や、これまでの思い出などを、たっぷり語ってくださった竹本さん。そんな思いで指揮される「ゼルダの伝説 コンサート 2018」に行かれる方、配信を見る方、ぜひとも存分に楽しみましょう!
インタビュー全文は、ニンテンドードリーム1月号(18年11月21日発売)をご覧ください。

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