『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』インタビュー 制作秘話からキャラクター深掘りまで
リアリティを留めるキャラ付けの妙
ここでは、本作の根本の部分から、キャラクター作りについてまで、制作秘話をお届けします。
アドベンチャー×昭和ブーム
―― あらたまった質問になりますが、本作の土台はどういったものから始まったのでしょうか。
石山 ADVでホラーをやろうという方針は、最初からプロジェクトとして決まっていました。それから自分の得意技がミステリーなので、これは入れたいなと。
―― ホラーにミステリー要素を、と。
石山 あとは、大人たちが中心のお話にしたかったということと、ビジュアル的な意味でもいろいろなタイプのキャラクターを立たせたいという狙いがあったので、全体的に登場人物の年代は少し高めに設定しました。
―― 若い世代を含めた幅広い層の支持を得たことを、どのように感じていますか?
石山 あ、はい。これはたまたまですけど、なんとなく世間的に「昭和ブーム」って来てませんか。最近流行った映画も「ゴジラ-1.0」とか「ゲゲゲの鬼太郎」とかですし。昭和の空気感をはらんだコンテンツのヒットが、ちょうど同じタイミングで続いているという流れに乗れたのも運がよかったと思います。
小林 昭和感というのも、本作の特徴付けのひとつとして意識していましたよね。
石山 舞台設定として、昭和の雰囲気は演出しやすいんです。映像にちょっとレトロっぽいフィルターをかけたりして古い雰囲気にすることで、独自の空気感が出せるんじゃないかなと。
それと、本作は海外でも売るということを最初から計画していたので、「昔の日本」という昭和の世界観が、海外の人から見ると時代劇ほどじゃないにせよファンタジーとして受け入れられやすくなるかも、という考えもありました。
―― 若い世代は、ブラウン管のテレビを実際に見たことがないかも。
石山 そういう世代の人も実際に遊んでくれているみたいです。むしろ、それだと最初のひっかけに気づきにくいかもしれませんが(笑)。
小林 我々が予想しないことも聞きましたね。“公衆電話”を探す、が通じないとか。
石山 そうそう。「電話しろ」ってゲームで言われて“携帯電話”を探しちゃうとか。
―― あらら(笑)。
小林 そこはリアルなジェネレーションギャップがありますよね。
石山 「電話する」という行動ひとつも、昭和のカルチャーとしておもしろく受け止めてもらえたならよかったと思います。
―― キャラクターの服装や髪型もレトロな感じですね。
小林 そうですね。キャラクターデザインの視点から見ると、最初「地味かも?」と思っていましたが。
石山 舞台当時の昭和らしいキャラデザにこだわると、みんな髪の毛も黒いし、どうしても地味になりがちなんですよね。ただ、髪型なんかは時代が反映されやすいので、舞台設定が伝わりやすかったと思います。
小林 我々も昭和の人間なので、比較的研究しやすかったですね。その当時流行った髪型を意識しています。80年代となると、どうしても聖子ちゃん風カットは押さえておきたいですよね。特に奥田さんは、スケバンのイメージそのものです。当時のドラマで「セーラー服反逆同盟」っていうのがあって、出演されていた仙道敦子さんが個人的にすごくかわいい人だなと思っていたので、奥田さんのモデルに取り入れています。
画力で魅せるキャラクターデザイン
―― 『パラノマ』は大人の女性やおじさんキャラまでとても魅力的ですよね。
石山 ありがとうございます。魅力的な大人のキャラクターをたくさん出すということも『パラノマ』でやりたかったことのひとつです。おじさんキャラが多いのは、ぶっちゃけてしまうと『スクールガールストライカーズ』の反動もあると思います(笑)。若い女の子は『スクスト』でいっぱい出したんで、今度はもっとおじさんも描いてほしいなと。僕はコバゲンさんが描くおじさんが大好きなので。
小林 それが魅力的に映るのは、キャラ付けの妙だと思いますね。僕がおじさんに特別な思いを込めて描いているわけではありません(笑)。
石山 女子高校生も多く登場してますが、そちらもせっかくなので『スクスト』では表現できなかった体格の子にしてみたり。コバゲンさんのキャラはとても造形がいいので、画面に映しとくだけで画がキマるというのがほんと強いですよねえ。
―― 『スクスト』の華やかさとは、あえて真逆のキャラ造形にしているんですね。
石山 キャラクター付けを外見に持ってくると、どうしても「びっくり人間大集合」みたいな感じになってしまうんですよね。もちろんそういう作品もわかりやすくていいし、むしろ正しいとすら思いますが、『パラノマ』については、見た目で大きなキャラ付けをしないようにしました。そういうデザインのほうが自分の好みなのもあるのですが、ホラーミステリーとしてのリアリティを出すという意味でも、ちゃんと日常にいてもおかしくない範疇での服装だったり髪型だったりに留めておきたいと考えたんです。
―― あまり現実離れしないように、と。
石山 ただ、そうすると「キャラクター」としてはどうしても地味になりがちなのですが…、コバゲンさんの絵がとても上手くて魅力的だから大丈夫! ということで踏み切りました。
小林 実は僕自身も、日常にいてもおかしくないキャラデザインが好みなんですよ。ただ、仕事としてやる機会が今までほとんどなかったので、これで本当に大丈夫なんだろうかという心配は、最初ありましたよ(笑)。
石山 デザイン的にはちょっと物足りないところはあるかもしれませんが、逆に画力がなきゃできないことなので。そこはコバゲンさんならできると信じきり、この武器を活かして戦うことにしました。ただの「スーツを着たおじさん」でも、ちゃんとビジュアルとして映えて魅力的なキャラクターになっていますよね。
キャラクター付けの美学
―― 個々のキャラ付けはどのように意識されているのでしょうか。
石山 自分が意識していることは、テンプレっぽくならないようにするところでしょうか。たとえば、女性キャラだからといって、いわゆる女性語や役割語といわれている「〜だわ」「〜かしら」「〜よ」みたいな言葉遣いをなるべくさせないようにしたり。
―― たしかに!
石山 物事へのリアクションも、茶化されたからただ怒る、みたいに決まりきった流れにせず、「おっ。さすがは マティーニ興家」「む。アルコール度数が上がった……」みたいに、普通なら「なんだそれ」と返しがちになるところを、ちょっとズラした反応をさせたりしています。あとは、意外性というかギャップはどこかに意識的に入れるようにしていますね。見た目、年齢、性別…ギャップの切り口もいろいろとあるのですが、どれかひとつは尖った部分を入れたいなと。
―― ギャップという美学があると。
石山 そこまで大げさなものじゃないんですけれども、キャラクターの魅力としてすべてに取り入れるべきだと思っているくらいの基本技だと思っています。
―― デザインをするうえでも、それを意識されるのでしょうか?
小林 デザイン上では、後工程という感じで最後にFIXします。たとえば、津詰さんについては、描いている時点では単に渋いおじさんだと思って描きました。かっこいい中年の男性で茶目っ気がある、という点は聞いているんですけれども、実際にどんな感じに仕上がるかまではわからない状態で描いているんですよ。
―― ところで、1周年記念としてキャラクタープロフィールが公開されましたが、B型女性の割合が妙に多いですね。なにかキャラ付けから影響が…?
石山 いやいや、そんなそんな。結果的に、たまたまそういう人が集まっただけの話でございます。他意なんてなにも。
―― そういう人(笑)。
石山 世間の分布とはちょっと比率が違う(※)としても、まあ、別にない話ではないかと。あ、でも誕生日は意識的に散らしました。それは『スクスト』で誕生日はちゃんとバラけさせないとダメだということを学んだので。学びは大切ですね。
※一般的には日本人の血液型の比率はA型が40%、O型が30%、B型が20%、AB型が10%ほどと言われている。ウワサによるとニンドリ関係の女性スタッフはB型比率が高いらしい…?
デザインとキャラ付けの妙が生んだマダムの魅力
―― 小林さんはマダムがお気に入りのキャラクターとのことですが、マダムの魅力ってどんなところでしょう?
小林 最初にキャラ設定を見た時点で、「子供を失ってちょっと精神が危うい感じの主婦」というのは、ゲームのキャラとしてはあまりない設定だなと思いました。自分も前から陰のある女性を描いてみたいなと思ったんですけど、今までに機会がなかったんです。なので、ようやくこういうキャラクターをデザインをする機会が巡ってきたという感じでちょっと気合を入れて描きました。このキャラクターに今までにやってみたかった部分を全部集約した感じです。
―― 新境地だったんですね!
小林 あと、やっぱり一番は表情でしょうか。シリアスな、ちょっと疲れている感じで描いたんですが、そのあとにキャラクターがしゃべり出して動き出したときに、こんな一面があるんだというのが、またよかったです。なので自分が絵を描いてこれが一番絵として好きというだけじゃなくて、キャラクターになったときさらに魅力が増してお気に入りですね。
石山 ちなみに「マダム」という彼女の愛称も、絵を見ながら、利飛太は彼女をなんと呼ぶかな? って想像しながら考えました。で、本人も多分それを少し気に入っているんでしょうね。だから呼び方を聞かれたときにも「マダムでいいわ」が出てきんだろうなと。そうしたらプレイヤーのみなさんからもマダムって呼んでもらえて…。正直こんな愛されるキャラになるとは思っていなかったです。彼女の魅力は人気を出そうと思って出せるものではないと思うので、いろいろな相乗効果でよかったキャラだと思います。
小林 たしかに、デザインとキャラクター設定付けがいい塩梅にできた感触があります。
シナリオ作りのアプローチ
―― 石山さんのシナリオ作りは、どのように組み立てていくのでしょうか?
石山 基本的には逆算で考えています。まず今回はどんなことで驚かそうかなどを最初に考えて、そこからどういうキャラクターが必要になるかを組み立てて、驚いたり感動できるポイントに向かってアプローチをしていく感じです。だいたいは、物語の最初と最後を決め、その間を埋めていきながら、どういうネタや出来事が必要か、…という手順で考えています。
―― 走りながら考えているところもあるんですね。
石山 そうですね。よくないクセなんですけど、多少曖昧なところがあっても、多分なんとかなるんだろうなと思いながら組み立てています。「あれ、なんか無茶な死に方をしているけれど、まぁたぶん大丈夫だろう」…とか。
―― アイデアはふだんどういったところから得ているのでしょうか?
石山 自分が接して驚いたり感心した要素については、「別のアプローチでこの驚きを伝えられる方法はないか」とか考えたりしますね。それは、なにかしらの作品のこともありますけど、実際にあったニュースや、歴史などから得ることもあります。心を揺さぶる方法というのは常に考えているので、いろいろな自分の体験が物語に落とし込まれているんじゃないかと思いますね。
―― 石山さんに探偵の知人がいるわけではないんですね?(笑)
石山 え、いないです(笑)。ほしいです。でも、作品上に出てくる探偵って、いわゆる「ファンタジー探偵」ですから、実在する探偵とはちょっと違いますよね。
ちなみにですが「探偵」って、すごくキャッチーな肩書きだと思っていて、探偵がいればミステリーだとわかりますし、プレイヤーから見ても、探偵を追っかけていけば事件の全貌を見せてもらえるという指針にもなって便利だなと。あと、率先して謎を解こうとする人がいると物語を動かしやすいということもあるので、自分が作る物語ではだいたい探偵が出てきます。
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