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『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』インタビュー 制作秘話からキャラクター深掘りまで

『パラノマ』キャラにもっとくびったけ!

キャラクターたちについて、その印象などを深く聞いていきます!

現実に寄せたデザインの描き分け

石山 そうですね。そこはせめてもの抵抗として、制服のスカートの長さや胸当ての有無などの着こなしで差を出しましたけども。

小林 個性付けについては、リアル寄りなほうがやりやすい面もありますね。現実の人間を見たときに、目の位置や大きさなどに変化があるだけで別人のように感じるように、リアルになるほど小さな差を感じやすくなるんです。そういう面では差別化しやすいのですが、その分、差分をていねいに描かないと同じ人に見えなくなってしまうので、そこはキャラごとに記号的な要素を用意して見分けられるように意識しました。

小林 あとは、どこまで整った形のキャラクターを出すかにもよりますね。全員美形になってくると完成形が似てくるんです。『パラノマ』では少し気合が入りすぎて顔がいい人を多めに出してしまったかなとは思いました。もし今後『パラノマ』シリーズが続く可能性があるなら、長い目で見て、キャラクターデザインについても幅を広げたほうがいい面もあるのかな、と考えています。

石山 もっと三枚目っぽいキャラも必要か…とか。

小林 利飛太は沢田研二さんだったり、松田優作さんとか、西城秀樹さんとかの要素も足したりしている感じです。城之内先生は「高校教師」というドラマで出てきた京本政樹さんのイメージと、自分の中で猫背気味を意識していて、髪型つながりで田村正和さんも入っていていますね。

石山 あ、なるほど! ホントだ!(笑)

小林 「古畑任三郎」みたいな感じなんですよ。自分の中ではパロディ要素もほんのり程度に混ぜてみました。

石山 ゲーム的なビジュアルとしてキャッチーかと言われると厳しいかもしれませんが、僕はコバゲンさんの絵柄は嫌われない絵柄だと思っていて、その魅力を信じていました。キャッチーさを狙わなくても存在感がある魅力的なキャラクターたちになったと思います。

小林 逆張りじゃないですけど、あえてキャッチーさを狙わなかったところはひとつフックになったのかもしれません。

並垣くんとあやめちゃん

石山 並垣は、プレイヤーのみなさんには愛されてるようですけれども、多分あやめにはそんな相手にされていなかったんだろうなーって感じですよね。

小林 想像できますね。

一同 (笑)

石山 あやめには「興味なかった」とか「尊敬できない」とか、人物リストにいろいろと書かれちゃうような性格の人物ですからね、並垣は。

並垣のことは“お友達”と言い切るあやめ。…意外と相性は悪くない気がする?

石山 あれ、いいですよね! 『スクスト』のときも手伝ってくれた外部のシナリオライターさんが書いてくれた部分で、並垣の設定だけ伝えて彼の過去を考えてもらったのですが、「そんな彼に 唯一優しく接してくれたのは 実家のお手伝いさんで 昔いっしょに食べた 賄いのバターご飯の味が 忘れられないらしい。」というこの最後の1文が本当にすばらしくて、一気に並垣に血肉が通ったなと思いましたね。
バターご飯っていうのがまた絶妙で。並垣はいいところのボンボンなので、ふだんはいいものを食べているはずなんですよ。それがたぶん時間がなかったときにお手伝いさんにワガママ言って食事を作らせたとき、ありあわせしかなくて「ごめんなさい、こんなものしか作れなくて…」って出されて、どうせあいつのことだから最初は「なんだ、こんなもん」みたいに思うんだけど、優しく接してくれてるお手伝いさんの手前、無下にもできなくて、仕方なく食べてみたら意外とおいしくて、その姿を見てお手伝いさんがすごく喜んでくれたんだろうな…とか、そんなシチュエーションも込みで忘れられないんだろうな、あいつ…。というところまであの1文で浮かんでくるので、本当にすばらしい紹介文です。

石山 でも残念ながら人間的にはクズなんですよね…。しかも、誕生日を決めたら早生まれになったので、浪人してるということになっちゃって。挫折を味わいつつも、あれだけ自信過剰でいられるのはある意味すごい。
とはいえ、あやめのほうも大概なので、どっちもどっちなんですけれども。あやめと付き合う人も大変だろうな…。むしろちょっと並垣に同情するところもあるかもしれない。いや、でも、あの事故さえなければ、意外とあやめが並垣をうまく乗せつつ尻に敷いて、だらだらうまくいってた可能性もあるのかも…?

大人なキャラの過去は?

石山 マダムは、ちょっとかわいそうなくらい「自分」がない人ですからね…。これまでずっと親のため、夫のため、子供のためにすべてを捧げてきて、我を出すことを許されない人生だったんだろうなと思います。それが当然で、それこそが女の幸せなんだと価値観も進路も決めつけられてるところに時代を感じますね。志岐間邸の天井の照明を調べると、その片鱗がちょっとうかがえるので、あの短いテキストはわりと気に入ってます。

石山 津詰の過去は…あの人は仕事一筋の人ですからね。心霊対策室時代はわけわからん任務ばかり任されていたと思いますが、右往左往しつつもしっかり立ち向かってたと思います。本人は否定すると思いますが、振り回される人生が似合う人だなと思います。だからこその、ああやって飄々と受け流す性格になったところはあると思います。

蝶澤姐さん

石山 蝶澤姐さんは思っていたよりおしゃれでしたね。だから、美容師にしようと思いました。

石山 元はアパレルやファッション系をイメージしていました。でも美容師にしたほうが、興家くんの働く石鹸会社ともつながりが持てたので、よかったなと。そんなふうに、見た目から設定やバックボーンを変えることはよくあります。

小林 僕はかっこいい女性が好きなので、ちょっと趣味も入れ込んだ感じです。

蝶澤姐さんは見た目どおり頼もしい姉御肌。出番はけして多くないが印象的な人

石山 最初はたしか「謎の美女」とだけ注文していたと思います。過去にやんちゃしていた感じで、粋な言葉をしゃべらせても似合いそうな感じだったので、見た目に引っ張られてどんどん強くなっていきました。彼女のような姐さんに睨まれたら、そりゃ弓岡じゃなくても「むぐぅ…」ってなりますよね(笑)。

石山 蝶澤さんは、最初は新字の「蝶沢」も考えてましたが、見た目が力強かったのにあわせて、名前も負けないように「澤」にしました。

墨田区に住んでいる人物は?

石山 墨田区出身なのはマダムとか約子ちゃんとか、あと山森会長など家がそこにある人だけじゃないかな…。あとはみんな都内近郊だとは思います。あ、並垣は地方ですけど。

石山 違うところから来てますが、ミヲちゃんの素性はまだヒミツで。

石山 吉見は、足立区の北千住って出てましたっけ。墨田区と並ぶ下町イメージの町ということで。あと利飛太と雨森少年は、大田区の蒲田在住ですね。

石山 いや、自分が大田区出身なので(笑)。ただ、今回墨田区をいろいろ取材して、大きな川があって、工場地帯があって…というあたり、当時の大田区と似た空気を感じたというのはあります。

名付けにまつわるお話

石山 名付けのこだわりは……そりゃもう、こだわればこだわるほど決められなくなっていく作業なので。実は自分はネーミングがシナリオの作業で一番苦手でして、できればやりたくないとすら思ってます(笑) 。

石山 はい。名前のイメージって、キャラクターを表すものとしてかなり重要だと思ってます。そうでありながら、検索したときにちゃんとそのキャラクターが引っかかるという独自性もありつつ、ちゃんと読める名前にしつつ、ちゃんと由来や意味もありつつ、ちゃんと有名なほかのキャラクターと被っていない…という点まで考えると、これが全然決まらないわけですよ。

石山 ありがとうございます。そういう苦労があるので、印象に残ってて安心しました。
もちろん奇抜な名前にすればいくらでも特徴を出せますが、名前についても見た目と同様に、現実にいてもおかしくないレベルは守りたいという思いはあります。「興家」「襟尾」「並垣」あたりは、読めるし、響きもいいし、ありそうでなかったところを攻められてるんじゃないかと。
人物一覧などに名前が並んでも覚えやすいように、字面の印象にも気をつけています。「襟尾 純」に至っては今作のネーミングでも会心の出来じゃないですかね。名字が珍しいから名前はシンプルにしていますが、字面のバランスも響きもイメージもばっちりハマってるかと!

石山 名字と名前が漢字2文字ずつ、というのがずらっと並んでいると、それはリアルなんですけど、パッと見て区別しにくいとか、読み分けにくいとかあるんですよね。なので文字数もあえて変えて、2文字の名字が多くなったから3文字も入れようと「志岐間」を入れたり、じゃあ逆に1文字の名字も入れておこうと「櫂」を並べたりしてバランスをとってます。

石山 先に名前を決めることもあれば、キャラクターの顔を見てから名前を付けることもあります。『パラノマ』では、だいたい名前がない状態で描いてもらって、あとから決めたものが多かったかな?

小林 名前がだんだん変わっていったキャラクターもいましたね。

石山 そうですね。登場人物同士の中で字面が被らないようにとか、並べたときに紛らわしくならないようにとかにも気を遣ってるため、あとから被りに気付いて変えることもありました。相棒の名前が平仮名だったら片方は漢字にするとか、文字数を変えるとか、すごく面倒くさいところでいろいろ悩むから、やりたくないわけです(笑)。
本当にしんどいので、聞きなじみのない響きとか読み方はもう許容しよう…とすると、結果「読めない」とか言われ続けるわけですが! だってそうでもしないと決められないんだもの! 許して!

石山 利飛太は探偵だし、見た目にあわせてちょっと胡散臭い名前にしたいなと思って、ドイツ人の名前がたくさん載ったリストから、日本語の漢字に置き換えられそうな響きの名前はないかなと探していたところ、「リヒター」なら「太」という漢字を当てて日本名っぽくなるじゃないかと思い至って即決しました。

石山 それ以上の意味を持たせようと思うと多分決められなかったので…。優先したのは、海外名っぽい響きなのに日本名の漢字を当てた胡散臭い名前、ということで、その条件をクリアできただけでも褒めて…。そのかわり「櫂」には意味がありますから…。

石山 あ、なので利飛太は完全に当て字です。ちなみにさっき言った、現実にいてもおかしくない名前のぎりぎりのラインが、こいつかなと。自分の中では。

石山 はい。そこもユニーク性を出すためにひとひねり入れた所ですね。ちょっと古めかしさも出たかな、と思います。

「呪詛行使」のヤベー奴!?

石山 あー…。実は、最初のパートでやろうとしたのがデスゲームみたいな展開だったんで、そんなに罪悪感を与えたいという想定ではなかったんです。

石山 そうです、一般人に人殺しをさせるには、閉鎖環境に閉じ込め、よっぽど極限まで追い詰めないと駄目で。やむを得ない事情がないと、やっぱり罪悪感を感じてしまうのだなと。そりゃそうだって感じですけども。

石山 あれは、みんな呪いの影響で精神を蝕まれているんです。とはいえ、多少はプレイヤーに感情移入してもらえるように、葉子さんに愛着を持ってもらって、興家くんといっしょに「人殺しをしなくてはいけないのか」と感じてもらいたかった部分でした。

石山 それについては自分の力の至らなかったところではあるんですが、興家くんに“置いてけ堀”にされたって印象の人が多かったようです。そりゃいきなり躊躇なく人を殺し始める一般人って、ちょっとヤベーですよね。最終的には興家くんはヤベー奴なので、まぁいいか…と割り切りました。

一同 (笑)

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