『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』インタビュー 制作秘話からキャラクター深掘りまで
80年代当時の空気感を
ここでは、雰囲気を醸し出す独特のエフェクトや、昭和にまつわるお2人のエピソードなどを聞いていきます!
墨文字のヒミツ
―― 墨汁で描いたようなアートや雰囲気も魅力ですね。
小林 これはまず最初に『パラノマ』ならではの絵作りである“昭和感”をどうしようと話をしたときに考えました。筆で輪郭線を描くのは表現としては珍しくないのですが、呪いの表現とも相性がよさそうに思ったので試してみました。いったん乗せてみたら意外とプロジェクト内での評判がよく、正式採用となりました。
筆タッチに関しては今まで使用していたツールでも疑似的にそれっぽくはできたのですが、表現的に多用することになるので、ちゃんと流体とか計算できる筆タッチ用のソフトを新たに導入しました。
石山 え、そうだったんだ。ちゃんとシミュレーションされた筆タッチなんですね!
小林 実はそうなんです。呪影とかで、ちょっとぼやーっとなっているところは水で溶かしたような感じにしたりとか、一応そこはこだわってやっています。
―― グッズやコラボのフードにもよくあの筆感が取り入れられていますし。
小林 フードもちょっとおどろおどろしい感じですよね(笑)。 モチーフにしやすさでいえば、やっぱり「呪詛行使」は取り入れやすいみたいです。
石山 コラボカフェなんかを当初から考えていたら、もう少し美味しそうになるエフェクトにしたかった気持ちはありますけども(笑) 。でも特徴になったならよかったかなと思います。ファンアートでもあのタッチをマネして描いている方もいらっしゃいましたよね。筆で輪郭をなぞって色収差をかけると『パラノマ』っぽくなるので。
小林 あれを見て『パラノマ』っぽい、といってもらえるだけでも効果はあったのかなと思いますね。
1980年代をどう過ごしたか
―― おふたりの1980年代ってどういう感じで過ごしていたのでしょうか?
石山 ファミコン・ジャンプ・コロコロが金字塔で、みんながそれを嗜んでいた時期でした。「週刊少年ジャンプ」が黄金時代で、ちょうど小学校高学年〜中学生だったドンピシャ世代です。あのころはみんな読んでいましたね。
小林 僕は「ビックリマン」にどっぷりの小学生でした。うちの家庭は漫画に厳しかったんです。でもなぜかゲームはさせてもらえてました(笑) 。
―― 駄菓子屋にも行かれたり?
石山 ありましたね。でも、ちょうど減りつつあるような時代でした。
小林 だんだん減っていきはしましたが、僕の地元である大阪には結構ありましたよ。大阪のベッドタウンでしたが、下町ともいえる空気感だったんじゃないかな。
石山 ガラは悪い感じでした?
小林 不良はいましたね。でも僕が学生のころは、もうツッパリやスケバンとかはそういう時代じゃなかったので、小学生のころに見ていたドラマを通して見た大人の世界という印象のほうが強いです。
石山 僕の地元はガラ悪かったです。あちこちで不良がたむろしていました(笑)。でも、今にして思えば、当時は昔ながらのいわゆる「昭和」の空気感がどんどん消えていってる時期だったように思います。その辺の空気感をゲーム中でも意識しています。たとえば、当時の駅前や道路はすごく汚くて、吸い殻やガムなんかはあちこちに捨てられていましたし。
小林 そうですね。当時はまだ電車にも灰皿が残っていましたね。
石山 そんな当時を懐かしく思い出しながら制作をしていました。こういう部分も空気感としてゲーム中に出せていればいいなとは思います。
―― 当時好きだったもので『パラノマ』に影響を与えたと思うものはありますか?
石山 そりゃもうファミコン全盛期ですから『ポートピア連続殺人事件』ですね。すごく夢中になって遊んでました。あれがなければ、たぶん『パラノマ』の誕生にはつながらなかったでしょう。
小林 僕は当時見ていたドラマかな。80年代の歌番組とか刑事ドラマとか、キャラクターを作るうえでの知識というか、影響が大きかったと思いますね。制作時は懐メロを聴きながらやりましたね。
石山 あ、自分も。開発中に当時の歌謡曲はめっちゃ聴いていました。サブスクで「80年代」のプレイリストを延々再生して。ヒット曲がずらっと入っているので、いい時代ですね。
小林 ここは現代的に(笑)。便利な世の中ですよね。
昭和の喫茶店「黒桔梗」のモデル
―― 作中、昭和な喫茶店が出てきますが、モデルになったお店があるのですよね。
石山 「黒桔梗」として使わせていただいたお店ですね。舞台として当時らしさを感じられる喫茶店を出したいと思って、墨田区内でよさげなお店を探していたところ、いくつか趣のあるお店がありましたが、撮影の許可をいただけたのが喫茶「フローラ」さんでした。これまでにテレビのロケでも何度か使われているお店で、撮影に行った日も、店主の方はテレビのときと同様に何時間もかけて収録するものだと思っていたらしく、店内の写真を360°カメラで数枚撮るだけで終わったので「え、本当にそれだけでいいの!?」と戸惑ってるようすでした。
石山 ちなみに「黒桔梗」という名前は、過去にお蔵入りになった企画で拠点として登場する喫茶店の名前を流用しました。これもリサイクルです。エコですね。