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キャラかみ【デザイナー/塗 和也さん】デザイン秘話(2015年8月号より)

ゲームに“キャラクター”という形で命を吹き込んでくれる絵描きさんに、込めた思いを訊くコーナー「キャラかみ」。今回は『逆転裁判 蘇る逆転』からメインデザイナーとして参加し、その後『大逆転裁判シリーズのキャラクターデザイン・アートディレクターを担当されている塗さんが登場した回をお見せします。(『大逆転裁判』発売時のものです)

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。
・ネタバレも含んでいる場合があります。


 【今回の神サマ!】塗 和也さん Profile
 カプコン所属のデザイナー。1999年入社。PS『ブレス オブ ファイアⅣ 〜うつろわざるもの〜』でドット絵などを担当後、PS2『ブレス オブ ファイアⅤ ドラゴンクォーター』、PS2『DEMENTO』といった多くのタイトルにデザイン、3Dモデリング等で携わる。DS『逆転裁判 蘇る逆転』からメインデザイナーとしてシリーズに参加。


 

イラストを描くようになったキッカケは?

 絵がとても上手い歳の離れた従兄がいまして、僕が3才くらいの時に年賀状に色鉛筆で「ドカベン」(※注1)や「アラレちゃん」(※注2)を本物そっくりに描いて送ってくれたんです。それを見てすごく感動しまして「本物だ! 自分もこんなふうに描きたい!」と思ったのがキッカケだったと思います。
 小さい頃は、車の絵とか怪獣やロボットを描いていたのですが、小学生の時にクラスで漫画を描くのが流行り、僕も「コミックカズカズ」という雑誌を一人で創刊しまして(笑)。ロボットもの、格闘バトルもの、ひたすら走ってるだけのマラソンものまでいろんなジャンルをそこで連載していました(笑)。格闘モノは小学3年生から描きはじめて6年生の卒業まで続け、全12巻で完結しました。最初は藤子不二雄先生(※注3)風だった主人公が、最終的には「北斗の拳」(※注4)風のバリバリの劇画タッチになって終わりました(笑)。中学生の時、授業で「ひよこが主人公の絵本」を描いたらどこかの幼稚園に勝手に寄贈されてしまい、ご褒美に100円ボールペンをもらったのは悲しい思い出です。
 とはいえ、とくに漫画家や絵を描く仕事を目指していたわけではなく、それを意識したのは就職活動のときでした。最初は銀行員になるつもりで、すでに内定ももらっていたんですが、ゲームは大好きだったので最後にゲーム会社も受けてみたんですね。そうしたら幸運にも内定をもらえて悩みましたが、やはり好きなほうに行きたい! と思い、前職のゲーム会社に就職することにしたんです。その後仕事を通じて絵に対する覚悟がより強固になり、あらためて中途でカプコンに入ったという経緯です。

※注1:水島新司原作の漫画。ドカベンは主人公、山田太郎のあだ名でもある。
※注2:則巻アラレ。鳥山明原作の漫画「Dr.スランプ」に登場する女の子ロボット。
※注3:藤本弘、安孫子素雄のコンビ時代の共同ペンネーム。代表作は「オバケのQ太郎」「ドラえもん」「忍者ハットリくん」など多岐にわたる。
※注4:武論尊原作、原哲夫作画の漫画。北斗神拳の伝承者ケンシロウが主人公。

 

■成歩堂龍ノ介はどうやって生まれた?

 新プロジェクトの主人公ではあるのですが、ナンバリングシリーズの主人公「龍一」の先祖と聞いたので、まずはパッと見てなるほどくんに見えるところから攻めてみようと思いました。体型的にもまず従来のなるほどくんからスタートして、徐々に体型を絞っていった感じです。あまり高身長でガッチリ体型だと明治時代の日本人としては大柄過ぎて違和感があるので、そこは主人公として基準となる標準体型に押さえて、ホームズはじめ外人のキャラクター勢との体格差をリアルに演出する意図を込めました。服装も最初は学生服ではなく、スーツ姿でしたね。巧さん(舟さん。シリーズの生みの親)に「舞台を倫敦にしよう」と言われた際、当時の日本も絵的にはすごく魅力的なので「日本から始めたほうが絶対いいです!」と強く提案して、同時に学生服も提案することにしたんです。理由としては、単純に学生服の主人公を描いてみたかったのと、当時の時代感も出せるし従来の主人公との明確な差別化もできるので、ここぞとばかりに(笑)。
 ただ、髪型は難航しました。最初はシルエットをハッキリ押し出した今までのなるほどくんに近い方向の髪型を描いてみたんですが、当時の髪型はほとんど短髪、角刈り、七三分けなのでツンツン系だと整髪料でセットしているようにも見えてしまって、この時代としては違和感を感じると言われまして…。なので時代感を考慮しつつシルエットも出し、なおかつセットに見えないギリギリのところを探して、50通りぐらい描きました。巧さんに「う〜ん…」と言われ続けて(笑)。最終的には先祖要素と時代マゲ要素をミリ単位で調整しつつ入れ込んで完成しました。
 ちなみに日本刀は僕のダメ元提案です。単純に学生服と日本刀の組み合わせってすごくかっこいいじゃないですか(笑)。でも『逆転』的には難しいかな? とも思っていたんですが、「いっちゃうか!」と言われたので、「やった!」って感じでした(笑)。ほかには手甲も僕が日本刀と同時に入れこんじゃいました。巧さんには何度か「無いほうが良くない?」と言われたんですが、取ると僕的には寂しいというか普通になり過ぎるんですよね…。せっかくの新しい主人公ですし「異議あり!」のときにも、今までと違う時代感というか、新しいポイントを入れたかったんです。
 
●龍ノ介 初期ラフ

これ以前の“なるほどくんの先祖”という設定がまだなかった最初の頃は、自由に描いていました。このラフの帽子をかぶっている絵は“先祖”という設定で一番最初に描いたものですね。髪バリエーションは全体のほんの一部です(笑)(塗さん)


 
●龍ノ介 決定稿

「真っ黒なので主人公として地味」と言われ、学生服にラインを入れたりいろいろ試したんですが、この時代からかけ離れて、どうしても現代学園風になってしまうんです。そこで背中や袖でさりげなく特徴をだしたりして、時代感を失わない範囲でバランスをとりました。腕章も特徴付けのために入れたんですが、これだけシンプルな学生服なので、何かを付けると目立ちますし、意味があるものでないと付けにくいんです。なので、この時代にはまだ弁護士バッジはないんですけど、この腕章を弁護士バッジの代わりにしてもらいました(塗さん)


 

■シャーロック・ホームズのデザインは?

 僕自身のホームズ像は子供の頃見た作品群のおじさんのイメージで止まっていて、正直「今回はホームズを出すよ!」っていう巧さんのテンションとは違い、最初はそれほど魅力を感じていなかったんです。なんというか、小説の挿絵や表紙では大体横向きで鷲鼻気味のオールバックなおじさんという感じじゃないですか(笑)。ただ、あらためて最近の作品を見ていると、ホームズ像も多様性があって面白いなと思ったので、いろんな要素をうまく混ぜればホームズでありながらも新しい魅力を生み出せるかもと感じました。
 そんなときにヴィクトリア朝時代が舞台だと聞いたので、これはスチームパンク要素をホームズを中心に世界観に入れ込みたい! とすぐに思い、巧さんに早めの段階で許可をもらいました。というのも、普通にヴィクトリア朝や明治時代を表現すると、まじめ過ぎるというか絵的な変化に乏しいものになってしまうのでは? という心配があったんです。今作特有の世界観としてのファンタジックな要素も欲しかったので、スチームパンク要素をまず取り込んでおきたかったんですね。そのうえで鹿撃ち帽やパイプをはじめとしたシルエットなど、みんなのイメージするホームズ像のベーシックな部分はアレンジしつつも残して、誰が見てもまずは「ホームズだね」と伝わるようにしています。
 肩などに見えるマークは「歯車」モチーフで、アイリスのマーク“花”を“歯車”で囲ったものです。これは当時の英国の産業革命といった文明の象徴としての“歯車”であり、ホームズとアイリスの関係性「花(アイリス)を守る歯車(ホームズ)」も重ねています。ホームズの事務所のマークでもあります。
 
●ホームズ 初期案

初期段階でシナリオ的に“ちょっと変なホームズ”になることは聞いていたので、まずクセのある方向性のデザインから始めています。ダークなものから病んだ雰囲気のものまで、多く案を出しました。これは初期のちょっとダークな時代のものですね(塗さん)


 
●ホームズ 初期ラフ

スチームパンクっぽさを重視し過ぎて普通の冒険家にも見えるようになってしまった案と、パイプを絡めてどこまでがホームズと認識できるかを引き算で試している案ですね。そこから右上ラフのふだんはやる気がなくダラッとしているという顔の方向で、いったん詰めることになりました。最終的には初見で個性的過ぎるよりは「まずはかっこよく」、というオーダーで軌道修正しつつ“残念なオトコマエ”として決定稿の形になりました。“ちょっと変なホームズ”は、シナリオと動きで見た目とのギャップとして出すことになりました(塗さん)


 
●ホームズ 決定稿

ホームズが持っている銃やホルスターは、龍ノ介の日本刀のように日本と西洋の対比としての意味も込めて付けちゃったパターンです(笑)。またスチームパンクの要素として、この銃も絡めた「超カガク捜査みたいなものもできませんか?」と提案したりしました。『蘇る逆転』の宝月茜のような、デザインとゲーム性の融合を『大逆転裁判』でも実現できればなぁと。この辺りはキャラクターデザインとシナリオの制作が同時進行だからこそ出来る提案だと思います(塗さん)


 
●メインビジュアル

まずは今作の世界観や空気感がパッと見で伝わればいいなと思いました。そしてゲームをプレイした人があらためて見たら、「こういう意味が込められていたのかな」とか色々想像してもらえるキャラクター配置や要素で構成しています。絵的にはタッチの面でも西洋画と日本画の要素を混ぜて、物語の舞台である日本と英国の対比と融合の表現にもチャレンジしました(塗さん)


 

キャラクター作りで一番大事だと思うことは?

 現実にいそうな感じを残したいと思っています。キャラクターを見て、現実にいたらこういう人かな? と連想できるようなバランスといいますか。あまり漫画的にしすぎてマスコットのような印象にならないよう、生っぽい部分も大事にしています。理想と実在感のバランスですね。
 

神サマ教えて! 7つのショートQuestion 

1. 人生で初めて描いたイラストは?
 3歳位の時に描いた家の車とオリジナルのロボットですね。オリジナルロボなんですけど、数字で28って描いてありました(笑)。
2. 好きなイラストレーター・マンガ家さんは?
 「北斗の拳」の原哲夫先生とプラモデルの「ロボダッチ」(※注5)をデザインした小澤さとる先生です。原先生は一見、筋肉ムキムキで濃い感じのタッチなんですが、表情がやわらかくて独特の優しい目を描かれるんです。キャラクターのたたずまいに骨太な格好良さと優しさが同居してる部分にすごく魅力を感じますね。小澤先生は「ロボダッチ」や「青の6号」の、SFだけどあったかいロボットやメカデザインが大好きなんです。最近の復刻版プラモもすべて買っちゃいました。
3. 好きなキャラクターは?
 初代ウルトラマンです。パッと見で神秘性がありつつ、見方によっては怖かったりするじゃないですか。さらに違う見方をすれば仏のような顔に見えたりとか、さらに色気も感じさせる。デザイン自体はすごくシンプルなのに、いろんな要素を包括している懐の深さに憧れます。
4. 今まで遊んだ中で一番好きなゲームは?
 SFC『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』やSFC『スーパーメトロイド』、MD『SUPER忍』ですね。『聖戦の系譜』は序盤でクラスチェンジをひたすらしまくって、そのやりこみ状態を自慢したくて物語を先に進めるのがもったいなくなり苦しんだ思い出も(笑)。あとは、メガドライブのソフトはほとんど持っていた位のヘビーユーザーだったので、「メガドライブFAN」(※注6)をよく読んでいました。投稿もよくしていて2、3回採用されたことがあります。ウル技コーナーで採用されると、賞金がもらえたんです。
5. 今遊んでいるゲームは?
 3DS『妖怪ウォッチ2 真打』です。『元祖/本家』も遊んでいたんですが、面白くてハマっています。いま会社の机の上はジバニャンがイッパイいます。
6. この仕事をしていなかったら?
 銀行…ではなく、おもちゃ屋ですね(笑)。きっと自分の気に入ったおもちゃしか仕入れないような、お客さんも通な人だけが来るような変な感じのお店です。
7. 最近感動したことを教えてください。
 598円のお弁当を購入したとき、ポイントカードのポイントが598ピッタリ溜まっていて、「ポイントで払います!」と気持ちよく言えたことです。「今日はいい一日になりそうだ。」と本当に感動したので、会社で後輩にレシートを見せたんです。でも、無表情で「良かったですね」と言われて一日が終わりました。

※注5:1970年代からプラモデルを軸に展開したロボットシリーズ。
※注6:ニンドリを発行しているアンビットの前身、徳間書店インターメディアが発行していたメガドライブの専門誌。ウル技はウルトラテクニックの略。


★ご要望募集中!
ニンテンドードリームでは、当コーナー「キャラかみ」での皆さんの要望を募集中! 登場してほしいイラストレーターさんや、聞いてみたい質問を随時お待ちしています。本誌のアンケートハガキに記入してお送りくださいね。

 


関連リンク
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險- 公式サイト
大逆転裁判2-成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式サイト
逆転裁判シリーズ 公式サイト


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