革命の、その先の冒険。『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』 開発者インタビュー
さまざまな国の在り方、王の姿を描くうえの決意
王族としての成長を描くゼルダ姫
―― ゼルダ姫はリンクとはまた違う視点のお話が展開されますが、どのようなことを意識したのでしょうか。
藤林 『ティアーズ』は、主人公リンクの視点からみた物語や、ヒロインであるゼルダ姫の視点からみた物語など、複数のお話が折り重なってストーリーを楽しめる構造にしています。前作『ブレス』では、ゼルダ姫が周囲の期待に応えられない不甲斐なさに苦悩しつつも、最後には己の在り方に気づき成長する姿を描きました。 続編である本作では、その苦悩を乗り越え、己の在り方を見出したゼルダ姫が、厄災により王国が滅んでしまっている現代のハイラルの地と、そこに住む人々のために自分はなにができるのか? と悩んでいる時期から始まる物語なんですね。そこでゼルダ姫に関しては『ブレス』の物語以降、どのような生活をしていたんだろうとリアルに想像していきました。
―― 初めて姿が公開されたとき、髪の毛が短くなっていることがとても印象的でした。
藤林 髪型が変化しているのは、続編としてハイラルの世界を生き続けているゼルダ姫をリアルに感じてもらえるポイントなのではないでしょうか。ゼルダ姫は厄災との戦いのあと、民の生活の復興や、人々への貢献的な活動を活発に行っているので、動きやすさを考えてのことだと思います。ゲーム中にはゼルダ姫の変化がわかる要素があちこちにちりばめられているので、探していただくと楽しいと思います。
―― 「龍の泪」のムービーではソニアより強い光を放つシーンがありますが、あれもゼルダ姫が成長している部分のひとつなのでしょうか。
藤林 たぶん歴代のゼルダ姫と比較しても、結構強い力を持っているのではないでしょうかね。 『ブレス』でのゼルダ姫はひとつの山を越えて成長するお話だったんですけれど、『ティアーズ』では国がなくなった世界で自分はどうすべきかを考えていて、彼女の中ではハイラル王国自体も復興すべきかを迷っているんです。そんなときに今回の事件があって過去の世界へと戻り、自分の祖先のいる建国の時代を見ることになるわけですね。
ゼルダ姫の父親は厳しい人でしたし、母親は早いうちに亡くなってしまったので何かを教わる体験ができなかったわけです。でも過去の世界ですごく優しい父のような存在と、経験が豊かな母のような存在に出会います。「龍の泪」の映像を見ていただくとゼルダ姫が彼らからいろんなことを教えられて成長していく様子がわかるのではないでしょうか。それからだいぶ時間が経ってガノンドロフと対峙する場面になり、ゼルダ姫が自分の力をコントロールしている姿が描かれるというわけです。クリアしたあとにもう一度「龍の泪」のムービーを順番通りに見ていただくと、だんだんと成長していく様子がうかがえると思います。
―― 民の生活が復興していく様子や時の流れは、ハイラルの人々の会話からも見えてきますね。
藤林 『ティアーズ』は『ブレス』の後日譚で繋がっているので、当然そこに生きている人たちについても時間の流れを表現したいなと思いました。ゼルダ姫に限らずなんですが、できるだけキャラクターたちが「生きている」感覚を作りたかったんです。主人公のリンクをみんなが待っている状態じゃなくて、リンクがいなくても世界が回っているみたいな感じですね。だからまわりのキャラクターたちも、環境に合わせて台詞が変わるように作りました。
悪の矜持と美学が光るガノンドロフ
―― そういえば藤林さんが携わる『ゼルダ』でガノンドロフが描かれるのは初めてではないでしょうか。(※4)
※4 藤林さんが『ゼルダ』シリーズに深く携わっていたタイトルは主に『ふしぎの木の実』、『ふしぎのぼうし』、『夢幻の砂時計』や『スカイウォードソード』、『ブレス オブ ザ ワイルド』など。
藤林 ガノンドロフは自分の中ではアンタッチャブルといいますか、触れがたい存在でした。
『ゼルダ』シリーズの長い歴史の中でも、とても重要なキャラクターですよね。ガノンドロフはもうひとりの主人公のような存在だとも考えていました。なので扱うにはそれなりの覚悟とスキルが必要で、どこかで回避している部分があったのかなと思います。
今回、ゼルダ姫が王国の在り方について考えていることがテーマにあったので、さまざまな国の在り方や、王の姿というものを描きたいと思ったんです。ガノンドロフはハイラルの民からみれば悪そのものですが、彼も独自の矜持と考え方を持つひとりの「王」で、魔王であったりゲルドの王であったりしますよね。だからゼルダ姫に対立する相手として一番説得力があるというか、登場してもらいたいキャラクターだなと思いました。しかし歴代のガノンドロフのファンの方もたくさんおられますから、その方々にも納得していただけるよう、登場にはかなりの決意が必要ではありました。
―― これまでたくさんのガノンドロフを描いてきた青沼さんはなにか言われたりしたのですか?
青沼 いや、なにも(笑)。
一同 (笑)
青沼 今回ガノンドロフが『ゼルダ』シリーズでも初めて人を殺めるシーンが描かれていますが、あれには驚きましたね。ただ、やっぱり敵は悪いやつであるべきで、そうじゃないと「こいつめ〜」と思えないじゃないですか。今までガノンドロフは悪いやつだよ、ということをやんわりと描いてきましたが、やっぱりあの世界では、あれぐらいの悪役としての描写がなければこの物語は成立しないというのもあったのかなと思います。ずっと彼を描いてきてはいますけど、本作でまたガノンドロフがしっかりキャラクターとして確立されたなと感じています。
―― 見た目も本当にカッコいいです。
藤林 ありがとうございます。しっかりビジュアルで表現できたと思っています。担当デザイナーも、単に暴力的なだけでなく、圧倒的な悪でありつつ、男性も女性も惚れるイイ男にしたいという思いを体現したと言ってます。
服装やアクセサリーの選びかたも大事にしていて、ガノンドロフ本人が美的意識が高くセンスがよいという設定を意識しています。身だしなみにもちゃんと気を配れる、王としての気品や知性が出ているキャラクターだろうということを考えてデザインしていて、顔、体、指の先まですべてのパーツにこだわって、屈強さとセクシーさを併せ持つイメージに仕上げています。
青沼 ガノンドロフには和のテイストがあるよね。
藤林 日本の武将のカッコよさみたいなところも、エッセンスとして入っています。刀の構え方や抜き方などの動きにも注目してください。
―― 一方で、表情から見えてくる救いのない残忍さも印象的でした。
藤林 ガノンドロフにもまた「人間くささ」を表現したかったんです。人を殺めるシーンの表情は劇中でもかなりこだわったところです。じつは、あれを表現するべきなのかということ自体も悩みましたが、このカットを入れることには意味があると思い採用しました。
遊びに合わせて選ばれ、生まれた魔物たち
―― 新しい魔物の中には久々にシリーズで登場したものもいますね。どのように生み出していったのでしょうか。
藤林 魔物に関しても遊び重視で生み出していきました。空や洞窟や地底といった新しいフィールドに合わせて、まずはそこで活躍できる魔物はどんなものだろうか、ということを考えます。
例えば、前作『ブレス』のライネルと双璧をなすような強い魔物が新しいフィールドの空にほしいよねとなった場合、空を飛ぶんだから羽は必要で、その上強そうで大きくて……と考えたときに、そういえばグリオークっていたよねと。遊びを考えたうえで、当てはまりそうな魔物を過去シリーズの中から探し、親和性の高い敵がいれば『ティアーズ』用に調整していきました。
洞窟においても、地形に合わせて考えて、天井に張り付く魔物がほしいよねとなったのですが、今までのシリーズの中にはない特徴だったので、ホラブリンという魔物が新しく生み出されました。遊びの部分からいうと「スクラビルド」でリーチの長い武器が作れるということに対して、ホラブリンのような存在が生きてくるわけです。
―― 見慣れた魔物にも変化がありますよね。ボスボコブリンが群れで襲ってきたりとか。
青沼 ボスボコブリンは多人数戦闘向きの魔物ですね。最初はリンクひとりだけで立ち向かうから手ごわく感じるけれども、仲間が増えると勢いよく突っ込んで戦えるようになります。それを味わってもらいたくてボスボコブリンの後ろに仲間をいっぱい置いたんです。
―― 敵も連携して襲ってきますよね。
藤林 敵も本作でのテーマである「仲間との共闘」にふさわしい集団戦を行います。
青沼 それから新しいアイテムを使った攻略の楽しみも実感できるかと思います。「コンラン花」を投げ込むと、敵の仲間同士で叩き合うので、それを遠くから眺めてることもできますしね。遊びに対してどういう魔物を置くべきか、いろいろと考えて生み出していきました。