革命の、その先の冒険。『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』 開発者インタビュー
発見と探索の連続こそが『ゼルダ』
生きた設定が芽吹いた「ゾナウ族」
―― 「ゾナウ文明」や「ゾナウ族」は今回の新しい要素として印象的だったのですが、どのようにイメージを膨らませていったのでしょうか。
藤林 前作のころからの話になりますが、あのハイラルの世界を「生きたもの」にする方法のひとつとして、ゲームの大筋に関係するかしないかにかかわらず、いろいろな設定や想像を膨らませて、あの世界に何があるのかを考えていったんです。ゲーム制作を進めていくうえで相性がよいものや使えそうなものをどんどん伸ばしていく作業をしました。その中で使われないものもいろいろあったのですが、それをそのままフィールドに残しておけば謎が深まり考察していただくことができるのではないかと思ったんです。その中にはゾナウの遺跡も含まれており、当時から結構深くまで設定を考えていました。
―― 本作のゾナウ族も前作のころから蒔いていた設定を伸ばしていったということでしょうか。
藤林 そうですね。当時から続編のことを考えて計算をしていたというわけではないのですが、生きている世界のために作っておいた設定が、本作での遊びと合わさってさらに繋がっていった感じです。ゾナウ族をはじめローメイ島、シーカー族など複数の設定を、ある程度スタッフと練ったうえで地形やデザイン、ゲームの遊びを構成していきました。
青沼 前作では表現してないことの中でも、設定を考えたものは山ほどあります。続編を作るに当たりピックアップしながら膨らませていけたのは、前作でいろいろな要素を詰め込んだからなんですよね。
―― ゾナウ族のビジュアルイメージについてはいかがでしょうか。
藤林 ハイリア人とは一線を画す存在であることを表現するのに、獣人というインパクトのあるビジュアルがよいだろうというポイントを初期段階で考えていました。ゾナウの意匠に龍をモチーフにしたものが多かったこともあり、龍のイメージを持ったデザインとして確立していき、今のものに至っています。ゾナウ族に関しては、『ブレス』と『ティアーズ』とではイメージが違うと思いますが、長い歴史の中でどのような変遷があったのかも想像してもらえたらおもしろいと思います。
―― ちなみにゾナウ族の新しいキャラクターに「ラウル」(※5)という馴染みのある名前が出てきたのも驚きでした。意図した部分はあるのでしょうか?
※5 NINTENDO 64『時のオカリナ』に同名の人物が登場する。また風貌は『ティアーズ』とは異なり、年老いたハイリア人の姿で登場している。
藤林 彼の名前は役割的な部分からきています。『ゼルダ』シリーズにとってラウルって「導く存在」という立ち位置なんですね。本作でゼルダ姫のさらなる成長を描くうえで、過去の世界で国の創世時代の王と王妃に導かれていきます。そういう役柄の人はいったいどんな人物であればふさわしいかといったときに、やはり「ラウル」という名の者が来るのではないか、ということから抜擢しました。
青沼 最初に彼を「ラウルって名前にします」って聞いたときはとても自然な流れだと思いました。でも今『ティアーズ』を遊んでいる人の中で、果たしてどれぐらいラウルというキャラクターを知っているのだろうか……(笑)。
―― 少なくともニンドリの読者は結構知っていると思いますよ(笑)。
藤林 ちなみにソニアは叡智を授ける女神にあやかっています。常に主人公を導いてきた「ラウル」の名を王には冠し、王妃には叡智を授ける女神的な存在を意識して名前を与えました。
ハイラル城と祠の光についての逸話
―― ラウルといえば、「龍の泪」のムービーでもガノンドロフを封印していた「手」から出ているグルグルした光が印象的でした。祠の上にもあって探しやすいなと思いましたが、あれはどういうものなのでしょうか?
藤林 あのムービーの中で、ラウルは自身の封印技を使ってガノンドロフの心臓から魔力を吸い出して浄化しています。浄化され放出されたものがあの螺旋の光になっているんです。
また、これはハイラル城の設定の話なのですが、初代のハイラル城はあの場所にあったわけではありません。リンクたちがいる時代で我々が見ているハイラル城の真下はガノンドロフを封印した場所で、封印をするのにもっともよい場所だったんです。いわば「龍脈」みたいなところですね。そしてラウルが浄化した魔力の放出を助ける結界の機能の一部がハイラル城なんです。
―― ハイラル城に空気清浄機のような役割があったとは! ゼルダ姫も驚いたでしょうね。
藤林 「龍の泪」のムービーでもゼルダ姫が「やはりここは私の知るハイラルと違う」と言っていますが、景色に本来あるハイラル城がないですよね。これは封印戦争のあとの世に封印の更なる強化として城が建築されたためです。
―― でも『ティアーズ』でのハイラル城は大変なことになっちゃってますよね……。
藤林 『ブレス』でハイラル城が厄災によって崩壊し、機能不全に陥りました。そのため地下の封印空間では徐々に封印をしていたラウルの身体自体が蝕まれていく結果となったんです。なので発見時は腕だけだったんですね。ラウルの浄化効率は落ちていき、封印が弱まってガノンドロフの復活に繋がった、というわけです。
―― それで祠が地上に出てきた?
藤林 いえ、祠自体はラウルがハイラルを建国する前、魔王ガノンドロフが登場する前にも悪しきものはたくさん存在していたので、それらをラウルとソニアがふたりで各地を鎮静化して回っていたんです。魔を滅した上に封印として浄化の力を残した祠を置いて、再び現れないようにしている。だからあの螺旋の光が出ているわけです。なので、地上の祠でリンクも残置された破魔の力を浴びることで、身に浴びた瘴気が少しだけ払われている描写があります。
青沼 地底にも「破魔の根」が張っています。地上にも地底にも空気清浄機のようなものが置いてある感じですね。魔除けになるというか、破魔のお地蔵さんのようなものでしょうかね。
―― 「破魔の根」の名前が地上の「破魔の祠」の名前と連動していたり、アナグラム(※6)になっていますね。
※6 言葉の中の文字を入れ替えて、まったく別の意味にさせる言葉遊びのひとつ。
藤林 『ブレス』では私がフィールドの広さについて最適かどうかを確認するため、自分の地元で距離感がわかっている京都と重ねて検証していました。その名残で、今回『ティアーズ』では祠の名前を京都の地名から取りました。でも例えば、「西大路」を「ニシオオジ」だと、さすがにそのまま過ぎるので、文字の並びを入れ替えて「ジオシニオ」にしたという感じですね。
そしてその「祠」に上下で連動している地底の「破魔の根」の名前を「オニシオジ」と、反対から読んだ名前にしました。『ゼルダ』は発見と探索の連続だと思っているので、京都の地名だと気付いたら現実世界とも関連した発見で楽しいんじゃないかと思ったんです。
―― なんとなく日本語っぽくない雰囲気も感じますよね。
藤林 独特のイントネーションを考える人にお願いして作ってもらいました。単純なアナグラムというよりはなにかちょっとずれている感覚というか、担当してくれたスタッフのセンスかなと思います。
『ティアーズ』は「できるかなができる」ゲーム
―― 『ブレス』では「アタリマエを見直す」をテーマとされていましたが、本作ではどういったテーマがありましたか?
青沼 「アタリマエ」を見直すってずーっと昔からやってたことなんですけど、どうしても「ゼルダってこういう遊びだよね」と言われちゃってなかなか壊せない感覚がありました。『スカイウォードソード』も「アタリマエ」を見直しながら作ったんですけど、発売後に「隣のエリアとの間がどうなっているか知りたいのになんで行けないの?」という話をされたんですよ。『ゼルダ』は行けそうで行けないところの領域を知りたいと思えるゲームなのだと実感しました。それが『ブレス』に繋がっていくわけです。なのでメーターを振り切ってやってみよう、というのが本作の開発のテーマでした。
―― それでも『ゼルダ』をまだ手に取っていないプレイヤーもいますよね。どう勧めたらよいでしょうかね……?
青沼 私の知り合いの中には、前作を経験していなくて、本作から興味を持ったという人も多くて、そういう人は、ありがたいことに、前作から遊んでくれているという話を聞いたりしました。「今はちょっと手に取れないけど…」というタイミングもあると思うので、そのときに感じた興味を、次の新作でまた呼び起こしてもらえるように、我々は全力を尽くして新しい遊びを作って、みなさんに「そうきたか!」と驚いてもらえるようにしたいですね。
藤林 『ブレス』では「アタリマエ」を見直し、『ティアーズ』は「できるかなと思ったことができる」ゲームになっています。「できるのかなと思ったことが簡単にできるらしいよ! 実際に手に取ってやってみてよ」という感じを伝えてみていただけるとうれしいなと思います。
すでにクリアした人、これからプレイする人へ
―― 最後に、読者にメッセージをいただけますか?
藤林 『ティアーズ オブ ザ キングダム』を遊んでいただき、ありがとうございます。
この記事が出るころにはクリアされている方も多いと思うんですけれども、ぜひ冒頭だけでも最初からまた遊んでいただきたいなと思っています。バックボーンを全部知ったあとに「始まりの空島」でラウルのセリフをもう一度見ると、また違った感情が湧くと思います。
例えばラウルが始まりの空島でリンクに「あの娘をよろしく頼むよ」と言うのも、最初は意味がわからないですよね。でも物語を全部知ったあとなら、どんな思いでラウルがその言葉を言ったのかがわかるんじゃないかと思います。まだプレイしていない方も、そういう作りになっていることを踏まえてプレイしていただけると、楽しい体験になるのではと思います。
青沼 『ゼルダ』シリーズってなんとなく、敵と剣で戦うみたいなゲームという認識があると思うんですよね。でも『ブレス』からは、強い敵と戦うのが楽しいだけのゲームというイメージではなくなっていると感じています。ある意味敵と直接戦わなくても、思わぬ方法で回避したり、簡単に倒せるテクニックがたくさんあるんです。そういうものを見つけたときって、「自分だけがわかった感覚」になって、それもまたうれしいのではないかな……と。『ティアーズ』にもそれがいっぱい詰め込まれています。
とはいえ、「そういう発見が難しいんじゃないの?」って思われている方には、単純な話、板を「ウルトラハンド」で全部繋げて、渡ったら先に行けちゃうなんてこともできる(笑)。 本当に単純な遊びの集合体なんですとお伝えしたいですね。
とにかく触ってみてほしい! 友達にもそう伝えていただいて、遊んでくださる方が増えるとありがたいなと思います。それで、いろいろな体験を共有し合ってさらにお楽しみいただけたら、こんなにうれしいことはありません。
―― ありがとうございました。
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