マンガ「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」完結記念 姫川明インタビュー前編
どのキャラクターも皆に「愛」を込めて、豊かな ドラマ性を
ひとときの調和 ゼルダ姫とガノンドロフ
—— リンクのみならず、「トワプリ」では他のキャラクターたちも生き生きとしていましたね。
長野 ゼルダ姫やガノンドロフもですが、メイン以外の、様々なキャラクターをリンクと交流させたりストーリーに絡めたりする事は以前からずっとやりたかったのですが短期連載だったりでなかなか出来なくて、 今回「トワプリ」でようやく実現できました。
—— ゼルダ姫とガノンドロフのお茶会は本当にステキな場面でした!
本田 2018年イギリスのコミックイベントへゲストで行った時に、初めて本場のアフタヌーンティーに触れる機会があったんです。その本格的な文化に触れたとき、ふとゼルダ姫の姿が頭に浮かびました。お茶をする時だけ、そのひと時は平和協定が結ばれるような…そんなしゃれた演出をしたかったんです。結果ちょっとギャグのようになった感もありますが…(笑)。アフタヌーンティーという自身の新鮮な体験をマンガの中でも入れてみたかったというのはありました。
—— ゼルダ姫とガノンドロフの交流は、新鮮に思いつつも最後まで印象的でした。
長野 実は一番最後にガノンドロフがゼルダ姫に目配せするコマがあるのですが…。あの場面には「もう一度貴女と、あの時のような時間を過ごし
たかった」的なセリフを入れることも検討していました(笑)。
—— ガノンドロフにとっても、よっぽど素敵な時間だったんでしょうか(笑)。
本田 ガノンドロフにとって本音を言い合うことのできる場だったのかもしれませんね。
長野 でも最期に「またお茶したい」なんて言い出すのもちょっと笑っちゃうので…結局そのセリフは入れなかったのですが(笑)。
どんなキャラクターにも光を当ててあげたい
—— イリアとキングブルブリンの交流も印象的でした。
長野 ダークサイドのキャラクターにも光を当てるということをしたかったんです。ゲームをやっている時から、イリアのようなキャラクターを膨らませたり、物語の1つのエッセンスになるだろうと思っていました。
本田 登場させたキャラクターみんなに華を持たせてあげたい、光を当てたいという気持ちはあります。どんなキャラクターも、より魅力的に描いてあげたい、というキャラクターへの「愛」ですよね。
—— シャッドもすごく好きになっちゃいました(笑)。
長野 シャッドは、使えるキャラだなと思っていたので。イリアとの交流を巡る場面などで、リンクのいろいろな面を引き出せるし、人間模様を描けておもしろかったですよ。
本田 リンクはいつも嫉妬される側なのに…シャッドのおかげで珍しいものを描けたよね(笑)。
長野 「ルウ・ガル」というオリジナル作品で、シャッドと少し共通するキャラクターが登場しているんです。天空都市の辺りは描くのが大変でしたが、シャッドのおかげで楽しめた部分でもあります。
※「ルウ・ガル」:1993〜1996年に連載された、全3巻のオリジナルコミック。主人公は考古学を学ぶ青年で、縄文時代の遺跡をテーマとした、摩訶不思議なファンタジー作品
—— アッシュも生き生きしていました。
長野 アッシュがハイラル騎士団に入っているというのもマンガで入れた設定ですが、ぴったりだろうと思って。
本田 そういう設定は違和感のないよう、物語やキャラクターの下地を丁寧に描いています。
時を超えた想い 古の勇者とゼルダ姫
—— 「オカリナ」からの読者さんは、古の勇者とゼルダ姫のドラマがとても嬉しかったと思います。
長野 『トワイライトプリンセス』ではゼルダ姫とリンクの関係性が少し薄めですよね。ですが、ゼルダ姫はストーリーの中でやはり重要人物なのですからね。ゼルダ姫の子供時代を描いたのも、彼女のドラマを膨らませるためです。
—— 「トワプリ」はやっぱりミドナの存在が大きいですね。
本田 ゲームをやっている時にも、エンディングでリンクとミドナの深い絆が語られる横で、あの場に居るゼルダ姫としては、正直どう描けばいいかなと思っていまして。
長野 長年「ゼルダの伝説」を描いてきた身としても、物語の中でゼルダ姫を軽い存在にはしたくはないなと…。ゼルダ姫をどのように描くかは本当に悩みどころでした。
—— そこで「古の勇者」として登場した「時の勇者」とのドラマを描いたのですね。
長野 はい。ゼルダ姫の中には「オカリナ」のゼルダ姫がいて、古の勇者と繋がりができるよう膨らませました。これも任天堂さんとよく打ち合わせした上でですけど。
本田 「オカリナ」のリンクとゼルダ姫も同時に報われてほしかったんです。「あの2人」は、この世界軸で別れたままなんですよ。
長野 一緒に側には居られないのですが、ゼルダ姫もかつての愛する人と再会を果たして幸せを感じることができて、最後が寂しくないように帰結させることができました。
本田 キャラクターの関係性や物語の整合性を考えると、ゲームのそのままの設定だけではドラマを描くのが難しい部分も多々ありました。私たちがマンガで描く上では誰も不幸にしたくなかったんです。
相棒ミドナとの世界線を超えたロマンス
—— 「トワプリ」ではミドナとのロマンスもステキでした。
本田 ゲームでもリンクとミドナとの深い絆を描いていますよね。この2人のロマンスは最初から想定していました。
—— ゲーム開発側とのすり合わせは、この辺りについてはいかがでしたか?
本田 最後は大事ですから、何度も開発スタッフさん側と確認を取りながら、どう描こうかすごく考えましたよ。ミドナとのロマンスは、開発スタッフさん側にも大いに歓迎してもらえた感じでしたね。やっぱり、なにもないわけないんじゃないかな〜って。
長野 そうそう。むしろロマンスの提案については寛容だったかも。私たちも驚くくらいに(笑)。
—— ミドナとの最後のセリフも印象的でした。
本田 リンクを最後に称えるのは、ずっと冒険で苦難を共にしたミドナがするべきですよね。
—— ゲームでは最後の去り際のセリフはないですが…。
長野 ミドナが、リンクに対して最後になにを言うか、というのは非常に重要なことですから。きっとリンクはミドナのことを一生忘れられないんじゃないかな…。
—— ある意味でゼルダ姫と「古の勇者」にも繋がるようなところはあるかもしれないですね。
長野 冒険のあとのことは、読者さんのご想像にお任せします!
単行本の表紙にまつわるお話
—— 話はガラリと変わりますが、全11巻の中で姫川先生お気に入りの表紙はどの巻でしょうか?
長野 7巻ですね。
長野 リンクの素が出ている、一番人柄が出ている感じですよね。戦いに行くとか、誰かが目の前に浮かぶ顔ではなく、自分に向き合い、ふと浮かんだ表情です。これから立ち上がって、旅の再出発に向けて支度をしているところですね。
本田 旅支度をしているところを描くのは好きですね。
—— 最新の11巻の表紙についてもぜひお聞かせください。
長野 なにか思いを言いたげに名残惜しく、ふとリンクが見返りしているところですね。リンク目線の先にはミドナを思い浮かべています。別れのシーンなので、7巻とは正反対ですね。最後の処刑場で見た、夕焼けの黄昏時を表現しています。
本田 うちの近所に海があるのですが、実はその夕焼けの実際の写真を少し重ねています。
長野 私たちはふだんの息抜きにも、よく海辺を散歩しているんですよ。