マンガ「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」完結記念 姫川明インタビュー前編
自然なドラマを描くためのマンガとしてのクリエイト
ゲームの中にはない大きな設定を描く
—— ゲームにはない部分を描くにあたって、開発側とのすり合わせの中で、一番鋭い指摘があった場面はどこでしたか?
本田 砂漠近くにあるリンクの故郷、国境都市に関してですね。マンガとしてクリエイトした部分が強いところです。9巻でこの都市について深く描いた時には、この話がこの先どこに行くのかと心配されました。
長野 リンクの故郷や幼なじみの仲間たちのことは、当初から考えていた設定ですので1巻にも登場します。ゲームにない過去の話はマンガのストーリーのバランスを考えて、あくまで物語として必要だと考えて登場させています。
—— リンクの故郷の設定はゲームとは大きく違いますね。
長野 そうですね。ゲームではトアル村で生まれ育った牧童で、イリアの幼なじみという設定でした。でも現実的に、牧童だけをやっていた青年が、キングブルブリンのような敵と急に戦うことに、マンガとして読むには少し無理があるかなと思ったんです。騎士としての下地もないのに突然対等な戦いはできないよね、と。
—— ふつうの青年がいきなり立ち向かうには強敵すぎますね。
長野 それに、過去に影があって村に流れついた負い目を持つリンクの方が、生活をしていた村のみんなを救ったり、ハイラルを救うという大きな目的への推進力として自然じゃないかと考えました。でもゲームの設定にないリンクの過去や生い立ち、故郷を描くというのは、最初は結構悩んだ部分です。
—— この故郷での描写は古の勇者の設定も深めていますね。
長野 はい。古の勇者は、リンクの故郷が闇の世界に吸い込まれていくところを目撃しているんです。そこで救い出したリンクを後継者として見出しまして、それからずっと(リンクを)見守り続けていたということなんです。
本田 リンクが故郷にたどり着くエピソードに到達するまでに、9巻かかりました。
—— 9巻にもなるとリンクは大きく成長していますね。
長野 数年間同じ時間の流れを過ごしてきたのに、故郷の幼なじみたちと境遇や成長に距離ができてしまった。そんな彼らがリンクと再会します。同窓会じゃないですけど、現実でも体験するようなことですよね。
—— そんな彼らの存在が意味する事とは…?
本田 リンクの幼なじみ3人は、影の世界と光の世界(ハイラル)を繋ぐ架け橋的な存在として置いてます。
長野 ハイラルと影の世界の関係って考えると複雑で奥深いので、さらりと描くことは難しいです。そこをわかりやすく描写するために、あの3人に登場してもらった感じです。
本田 そうそう。
長野 ザントは光の世界への憎悪が明確にあって、ミドナもそうではあったんですけど、リンクと旅をしたり光の世界の人々を見て心が変化しますよね。でもハイラル(光)側の人々が影の世界に対してどう思うのか、というのは新しく描く部分だったので、光の側の人物で影の世界を代弁する者が、リンクの他にも必要だと思いました。光の世界と影の世界の人々は同じ人間で、協力できる、思いを合わせてミドナのためにも戦うことができる、ということを導く役割です。現実の社会では簡単に解決が出来ない争いがいつも起きていますが、その縮図をあまり持ち込みすぎてもいけないし、しかし触れざるをえない部分もあって、バランス取りに苦心しましたが。
本田 ゲームにないキャラクターや設定部分は、任天堂の「ゼルダ」チームにも明確な理由と必要性を念入りに説明し、納得して頂けたので描いています。
序盤から描かれたリンクの過去。宿命により、人には理解され難い苦悩を抱えていたリンク。物語の中でさらなる成長を余儀なくされた彼には、同年代の青年たちには敵わぬ強さがある
インタビュー後編(後日公開)では最終戦へ込めた深いメッセージや、リンクを描く時のポイントなどなど、他にもたくさん伺っています。
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